【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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『さもい』どころか『ゆゆゆシリーズ』屈指の地獄の釜が開かれましたが、私は元気です。




乃木若葉の章
壱・合縁奇縁


 

 

 

幼い頃、仮面ライダーシリーズを見漁っていた俺は、警備員の母親の強さを知っていた事もあって、ぼんやりと『いつかは正義の味方になって女の子を守るんだ』という考えを持っていた。

 

でも『仮面ライダー龍騎』を見て、主人公という特別な存在だろうと容易くその命を散らしてしまうのだと学んだ。 ちなみに当時一番好きだったのはゾルダこと北岡先生。 銃で遠距離から、という合理的な戦い方が好きだったのだ。

 

 

特撮という勧善懲悪に見せかけた悪にも悪なりの矜持があるシリーズを見ていても尚、俺の心には正しくあろうとする考えが残っていた。

 

そう思える程度には、まだ正義感があって。 そう思い続けられる要因として、近所の優しくも穏やかな性格の、気弱な友人がいて。

 

だからきっと――――――死に物狂いで()()()()()()()()()()()()()()()を抱えて逃げている俺は、地獄の底のような惨状を目の当たりにしても、『こんなところで死んでやれない』と思えたのかもしれない。

 

『せめてこの女の子だけは』と思っていた事が、己の心から沸き立つ使命感等ではなく、俺自身の生き方を決めつけ縛り付ける神との契約であると、愚かにも気付けないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

広い体育館の真ん中に、二人の男が立っていた。

 

刃引きされているが重さと固さは本物のナイフを逆手に、一人の男が相手に近寄って、拳を突き出しつつ頸動脈を掻き切るようにナイフを振るう。

 

 

相手はそれを半歩後退り避け、手首と肘を即座に押さえて引き倒す。 仰向けに倒れた男は、わざとナイフを落として空いた片手に掴ませると、相手の足首目掛けて力任せに薙ぐ。

 

思わず後退りした相手から距離を取りながら立ち上がる男は、ナイフを構え直して再度肉薄する。 右から左に、左から右に、持ち方を変えて胸にと数回振るうが、相手は冷静に避け男の手をからナイフを弾き飛ばす。

 

 

そして顎を揺するような右フックを叩き込み、がら空きの胸部にソバットを打ち込んだ。

 

「が――――。」

 

 

磨かれて照明を反射する床を滑り、ミシッと軋み痛みを訴える肋骨を押さえて、男――――先人紅葉はむせながら立ち上がる。

 

「…………25点。 倒された時点で俺ならとっくに殺せてるんだぞ、学べバカタレが。」

 

「あのねぇ三好くん、教える側の態度じゃないよそれ。 少しは手加減してあげたら?」

 

「うるせぇぞ安芸、それとあんまり甘えさせんな。 自衛手段とあいつらを守る技術が欲しいとか言って駄々捏ねてきたのはこいつだからな。」

 

 

三好と呼ばれた男は紅葉を見ながらそう言い、安芸と呼ばれた少女――――安芸真鈴はそれを聞いて複雑そうに表情を歪めた。

 

二人だけにするとヒートアップし過ぎて紅葉の身体が人目に出せないくらいに腫れと内出血で酷いことになるため、体育館を貸し切った訓練の際は、真鈴が救急箱を片手に隅で観察を行っている。 幸いなのは、真鈴のドクターストップに三好がきちんと反応することだろう。

 

 

懐から縮めた警棒を取り出して引き伸ばすと、構えながら紅葉は三好に言った。

 

「もう一本。」

「ほらな。」

「……やりすぎたら止めるからね。」

 

 

摺り足で近付き、警棒としての一足一刀の間合い――――約60センチ以内に入ると、紅葉は最短で三好の肩に振り抜く。

 

身体の軸をずらして避け、三好は紅葉の手首や肘に再度手を伸ばす。 紅葉の訓練相手としては度の過ぎた実力故に素手でやることをハンデとしている三好は、兎に角相手から武器を奪うことを優先している。

 

それは三好なりの教え方であり、『教えるのが苦手だから自分の動きを見て覚えろ』と暗に言っていた。 掴みを何も握っていない左手で払い除け、威嚇のように警棒を左右に振り、足の甲を狙った躊躇いの無い踵での踏みつけを行い三好は一歩下がった。

 

「ナイフよりは警棒の扱いの方が良いな、親が警備員とか言ってたし……習いでもしたか。」

「いや。 だが、憧れはした―――っ」

 

 

下がった三好に合わせて前に一歩踏み込み、紅葉は上段から振り下ろす。

 

警棒ではなくそれを握る右手を手のひらで押さえて押し込めなくする三好は、紅葉の左手が腰の裏に伸びたのを見て、わざと力を抜くことでつんのめる紅葉の背後に回り左手を掴み捻り上げた。

 

「ちっ……!」

()()を使うのは昼からだ、今は格闘戦の訓練だろうが。」

 

 

ゴトリと音を立てて床に滑り落ちたのは、警察の使う銃身が短いオモチャのような回転式拳銃(リボルバー)だった。

 

「意表を突くのに格闘訓練中に銃を抜くのは良いが、手慣れてる方じゃない銃を……それもそんなオモチャじゃ俺は死なねえぞ。」

 

「逆に聞くが、お前はどうやったら死ぬんだよ。」

 

「はっ。」

 

 

鼻で笑われる。 三好はリボルバーを取り上げてポケットにしまうと、淡々とした声色で紅葉に伝えた。

 

「昼飯食ったら城の裏の広場に来い、的の用意をしておく。 安芸、ついでにお前も行ってこい。」

「はいはい、それじゃあ行こうか、もっさん。」

「……そのもっさんと言うのはどうにかならないのか。」

「だってあたし三好くんともっさんより年下だし、なんかこう、愛称ある方が仲良くなれそうじゃん?」

 

 

安芸真鈴、12歳。

 

三好(なにがし)、18歳。

 

先人紅葉、15歳。

 

 

2015年の11月、年齢も趣味嗜好もバラバラの三人の奇妙な関係は、これから最低でも三年は続くことを、まだ誰も予想できていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ん。」

「ありゃ?」

「えっ?」

 

 

近所のレストランに向かっていた二人は、辺りをキョロキョロと見渡す一人の少女を見付ける。

 

紫の混じった髪に赤いリボンを巻き制服に身を包んだ少女と二人は知り合いで、近付いて話し掛けた。

 

「ひなたじゃん、なにしてんの?」

「安芸さん…………と、紅葉さん。」

「迷子か。」

「違います、実は買い物に来たのですが、人混みに紛れて友奈さんが何処かに行ってしまって……。」

「ひなたじゃないにしても、迷子じゃない?」

「……まあ、確かに。」

 

 

言い得て妙な会話に顔をしかめる紅葉はすぐさまスマホを取り出して連絡するが、何故か着信音はひなたが肩に提げた鞄から鳴っていた。

 

「おい、まさかアイツ携帯をひなたに預けてるのか?」

「……はい。」

「…………いや、まて、今の時間なら多分近くの店のサンプルに張り付いてるな。」

「えぇ、そんな子供じゃないんだから……。」

 

 

半信半疑の真鈴と顔を手で覆うひなた。 二人と共に近場の料理店を探すと、行こうと思っていたレストランの扉の横にあるサンプルを並べたショーケースにへばりつく赤毛の少女の後ろ姿を見付けて、ひなたは呆れ、真鈴はうわぁと呟いた。

 

「友奈、なにやってるんだお前。」

「あぇ、紅葉くん。 やっほー。」

「やっほーじゃねえよ馬鹿。」

 

「……マジで居たよ。」

「もう……一人で何処かに行くのはやめてください、友奈さん?」

「だってお腹すいちゃったんだもん。」

 

 

悪びれた様子もなく、ぐーーー……と腹を鳴らしてレストランをちらちらと見ている。 紅葉はそんな友奈の額を軽く叩いてから扉を開けた。

 

「ほら、入るぞ。」

「やったあ! 奢って!」

「……食いすぎたら払わせるからな。」

 

 

嬉々として店に入った友奈の後ろにいた真鈴は、ひなたの背中を押して二人を追う。

 

「だってさ、好きなの頼もっか。」

「い、良いんでしょうか……。」

「なんだかんだ面倒見良いから大丈夫でしょ。」

 

 

財布の中を見て金額を確認する紅葉を尻目に、二人もまた店へと入る。 紅葉は、最悪近くのコンビニから金を下ろす覚悟をしながら店に入った。

 

 

 

 

 

 

 

「もー、頭痛いぃ。」

「食い過ぎなんだよお前、人の財布空にしやがって。」

 

 

紅葉に拳で殴られた頭をさすりながら、友奈はベニヤ板で囲まれた広場の近くを紅葉と歩く。 その後ろを巫女の二人が追従していた。

 

「もっさんと友奈ちゃんって兄妹なの?」

「もっ……? いえ、あの日四国に逃げてきたときに紅葉さんが友奈さんを抱えていたんです。」

「…………そっか。」

「私と若葉ちゃんに友奈さんを預けて実家に戻ろうとしたら、眠ったままの友奈さんが紅葉さんを離そうとしなくて……そのままこうして四国に残っているんです、あの人。」

 

 

そうして話していると、四人はベニヤ板の裏に椅子やテーブルの置かれた一角に到着する。

 

壁を挟んで向かいには、人の形を模した的が幾つも置かれており、三好がテーブルに色々と物を置いていた。

 

「遅かったな…………増えてるし。」

「あ、三好さんだ。」

「ようクソガキ。」

「えーいっ……ぅぶっ!?」

 

 

抱きつこうと飛び込んだ友奈を避けて、三好の手に持たれていたジュラルミンケースを紅葉が受け取り開ける。 顔から地面に落ちて鼻を擦った友奈は、涙目になりながら戻ってきた。

 

「いっつぅ……ん、なにそれ。」

「訓練道具。」

 

 

ホルスターと弾倉(マガジン)を納めるスペースが設けられたベルトを腰に巻き、ケースから取り出した銃身が長い拳銃に一つのマガジンを装填し、スライドを引いて薬室に弾薬を送る。

 

ホルスターに拳銃を納めて、予備のマガジンを数個ベルトに挟むと的のある訓練所に向かう。

 

「……そんなもの使う機会なんて来るの?」

「さあね。 無いに越したことは無いが、無いとは言いきれないから使えるようにするんだよ。」

 

 

友奈の問いに適当に返し歩みを進めていると、他の銃器をテーブルに並べる三好が、真鈴と一緒に居るひなたと邂逅した。

 

「あ、こんにちは……。」

「お前は……ああ、乃木のオマケ。」

「っ……。」

「三好くん、その言い方は――――。」

 

 

悪気も悪意も無いが無神経な言い方に、さしもの真鈴も三好に怒ろうとし――――言いきる前に、パスッと気の抜けた音がして、三好の足元に小さく穴が開いた。

 

「…………一発無駄にした。」

 

 

瞳孔の開いた眼光を三好に浴びせた紅葉は、銃口から煙が立ち上る拳銃のマガジンを抜きながらテーブルに無造作に置かれた9mm弾を一発手に取り、それをマガジンに込めてから拳銃に填め直して的の前まで歩いていった。

 

そのついでとばかりに、すれ違う際にひなたの顔をじっと見る。 数秒見続けた紅葉は、その瞳に僅かな疑問と怯えが混ざっていることを認識して歩き直して行く。 そんな紅葉の背中を見送ったひなたは、首を傾げてこう言った。

 

「……今のはなんだったんでしょう?」

「あんだけ露骨なのに気付かないって嘘でしょ……!?」

「ははぁん、なるほど。」

 

 

ひなたの鈍感さに驚愕する真鈴と、紅葉の露骨な態度に納得する三好。 三人をぼんやりと眺めていた友奈は、間抜けな表情から一転させ、物を見る無機質な顔を強化ガラスで仕切られた向こう側に立つ紅葉に向ける。

 

「(アレも愛情、ってことなのかな。 単純な好き嫌いで表せられない感情って、ほんと面倒だなぁ…………でもあの人間(もみじ)を見ているのは、飽きないから好き。 これも愛情? なのかな?)」

 

 

ガラスの向こうの紅葉に、三好がマイクと繋げたスピーカーで声を掛ける。 手元のスイッチと連動してガタンと倒れた複数の的を見て、紅葉はホルスターの拳銃のグリップに手を置いた。

 

「それじゃあ、準備は良いな。」

『ああ。』

「的を外すなよ。」

『……ああ。』

 

 

警告のような、ビーーーッという音。 直後、紅葉の眼前に人型の的が起き上がり、紅葉は直ぐ様ホルスターから抜いた拳銃を胸の前に構え、祈るような両手に挟ませ、的の胸部分に一発。

 

横にずれ、その後ろの的に二発目。 そして次々起き上がる的に、斜めに添えた拳銃と独特の構えで、寸分違わず弾丸を叩き込んでいった。

 

「相変わらず、もっさんの射撃スキル異様に高いなぁ。」

「無い無い尽くしの癖に、意外と磨けば光るもんだ。」

 

 

スライドの後退で空薬莢が弾き出された薬室にマガジンに込められていた最後の一発が送られたのを数えていた紅葉は、何も入っていないマガジンを銃本体から振るように捨て、ベルトから一本抜いて流れるような動きで装填する。

 

「…………私たちが戦わないといけないのは仕方がないとして、紅葉くんがあんなものを振り回す必要ってあるの?」

 

「人って生き物は人と争うように出来てるからな。 なにも現状の問題は天から落ちてきた化物だけじゃない、四国に押し込められてイラついている奴だって居るんだ。

 

人同士の揉め事は必ず起きるし、お前たちに牙を向けない人なんて居ないとは言いきれない。 その為にも、紅葉には勇者と巫女の盾であり矛になってもらう必要がある。」

 

「――――酷い話ですね。」

「こんな行いを止められないあたしたちも同罪なのよ、ひなた。」

 

 

的確に弾丸を胸か頭に撃ち込み続ける紅葉。 あの武骨でお手軽に人の命を容易く奪える小型兵器を、仮に誰かに向けたとして――――そんな事をした紅葉を見ても尚、果たしてひなたや友奈は、他の勇者たちは、紅葉を受け入れられるのか。

 

そんな事を考えてしまうと、無意識にひなたの足は身体を後退させる。他人の為と言いながら人を傷付ける訓練を積む紅葉を見て、ひなたは初めて、先人紅葉を恐いと思っていた。

 

 






紅葉のやった動きは分かりやすく言うと『ジョン・ウィック』でキアヌ・リーブスが良く使ってたあの構え。 詳しくはググれ。



三好
・元々は後に大社本庁となる建物の警備員をしていただけ。 真鈴とよく一緒に居るのはあんタマを連れて逃げてきた時に助けた際なつかれたのがきっかけ。
でもあんタマから恐がられてる。


安芸真鈴
・多分安芸先生の祖先。 自分とあんタマを助けてくれた三好になついているが、別に好きだからとかではない。 そんな三好が面倒見てる紅葉のドブみたいな淀んだ瞳が気になって放っておけない事もあってよく一緒に居る。


紅葉
・まだクソ雑魚。 キリングマシーンになるのは3年後から。 消音器(サイレンサー)付き自動拳銃でCARシステムを極めたキチガイだが、3年間死ぬ気でやってそうだとすれば、才能は有るようで無い。
だって民間人として生きるのに必要ない学ばなくて良いことを学んでるんだもん。


友奈
・この状況で人同士で争う余裕なんてあるの? あるんだ、ふーん。
こいつがスーモみたいに『人間って、愚かだ……』っていう判断に行き着いたら即座に世界が終わるので原作よりハードモード。

ひなた
・巫女見習い。 よく紅葉にガン見されるが理由がわからないからちょっと怖い。 いやまあ紅葉も『お前が気になるから』とは言えないよね。

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