【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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CARシステム

ンタ(C)ー・アクシ(A)ス・リロッ(R)クの略称で、胸元で合掌させたような手の間に銃を保持させる独特の構えが特徴。

CARシステムの主な利点は

・狭い場所でも銃を構えることができる。
・待機姿勢から射撃姿勢へ素早く移れる。
・目標が近くても無理が無い構えができる。
・照準を合わせやすい。
反動(リコイル)を抑えることが容易で、連射でも命中率が上がり、誤作動からの復帰や弾倉交換(マグチェンジ)が素早く行える等。


構え方にも早撃ちに重点を置いた『High』や、『High』よりも狙うことをメインとした『Extended』等がある。 詳しくは各自で調べてほしい。





弐・意気消沈

 

 

 

据え置きの家具以外に何も置かれていない質素な部屋。 その居間の真ん中で、紅葉は淡々とした反復練習を行っていた。

 

ベルトに繋いだホルスターから拳銃を抜き、胸元で構え、反動を想定した動きで銃身を何度か跳ねさせ、それを数回行うと顔の前に持ってきて同じ事を繰り返す。

 

 

弾が入っていないマガジンを納めた拳銃――――H&K P30を抜いて、撃つ真似をし、ホルスターに納め直す。

 

それを繰り返してから、紅葉はワイシャツの下に目立たせないように生地が薄くなっている防弾チョッキと防刃ベストを重ね着する。

 

 

生地が薄くともナイフ程度なら止められるし、防弾チョッキの方も、警察の使う拳銃の弾丸までなら辛うじて止められる。

 

もっともそれ以上の大きさの弾丸を受け止めた事がまだ無いため、過信は出来ないが。

 

 

ウォーミングアップを終わらせた紅葉は拳銃に弾薬が詰まっているマガジンを装填してホルスターに納めると、テーブルの上に無造作に置かれた、金属製で肘と手首の間を守る籠手を着けた。

 

チョッキにベストに拳銃に籠手、と、いささか重装備が過ぎるとは思うが、正直な所紅葉にとってはこれでもまだ足りない。

 

 

だが長物の銃をこれ見よがしに吊り下げて携帯すると威圧しすぎてしまうし、紅葉は大社に認められたボディーガードというだけで、民間人からすれば紅葉の装備は十分に過剰である。

 

()()()()()()()()()許可証の発行を待っている段階である以上は、これが限界なのだ。

 

 

――――そうしていると、不意に扉をノックする音が聞こえた。

 

反射的に拳銃を抜いて扉に向けながら、扉の横に移動して慎重にドアスコープを覗く。

 

 

扉の奥には、制服に着替えた少女――――上里ひなたの姿があった。

 

『紅葉さん、そろそろ学校のお時間ですよ。』

「…………ああ、少し待て。」

 

 

もうとっくに外に出る準備は終えている筈の紅葉だが、わざわざ待たせる。

 

その真偽は単純に、ひなたが囮に使われていないかの確認のためだ。

 

 

ドアスコープ越しに見える目線には緊張は見られないし、不自然な汗も無く、周りには他の人影が見当たる事もない。

 

「……おはよう。」

「はい、おはようございます。」

 

 

チェーンと鍵を解いて扉を開けると、そこには何時もと変わらないひなたの姿。

 

無意識にバクバクと高鳴っている心臓は、なにもひなたとの登校に緊張しているのではない、腰に吊るした得物を使うことにならなくて安心しているからだ。

 

「……まだそれを持ち歩いているのですね。」

「お前達を守るためだ。 それに、もう癖なんだよ。 自分を守る手段でもあるから持ってないとどうにも落ち着かない。」

 

 

諏訪から四国へと数日掛けて訪れて、こんな事態に巻き込まれて、身内は居らず、周りには赤の他人しかいない。

 

そんな状況で自己防衛手段と他人を守る手段を同時に手に入れれば、それが心の拠り所になるのも仕方が無かった。

 

「それで、他の奴等はどうした。」

「若葉ちゃんは早くに向かってしまいました、杏さんと球子さんは普段から一緒で、千景さんは……まだ部屋ですね。」

「あの馬鹿は。」

「友奈さんもまだです。」

 

 

この返答に、紅葉は額を押さえながらため息をついた。 大方戦いの参考にしようとしてアクション映画を夜通し見ていたのだろうと結論付け、呆れながら言う。

 

「千景は大丈夫だろう、友奈はほっとけ。」

「……それで良いんですか。」

「勇者の防衛に遅刻の対処は含まれていない。」

 

 

苦笑を溢して紅葉の隣を歩くひなたと、ひなたの歩調に合わせて歩く紅葉。 無言が続くも、二人の間には決して嫌ではない空気が漂っている。

 

 

――――だが、しかし。

 

ひなたも、紅葉本人も気付けていなかった。

 

 

『身体が鈍るからを言い訳に射撃の反復練習をする』のも、『扉のノックに過剰反応する』のも、『扉の奥にいる知り合いの他に敵が居ないかの確認をする』のも、『毎日十分すぎる装備で全身を固めている』のも、その全てが常軌を逸しているという事に。

 

 

着実に、確実に、紅葉が壊れている事に。

 

 

 

 

 

 

 

「うがーーー!! ちくしょう! この悪魔のブツめ、もいでやるぞコラァ!!」

「えっ、ちょっ……やぁん!?」

 

 

二人が丸亀城の一部に作られた勇者と巫女の勉強室に入ると、既に金髪を揺らす少女、乃木若葉が机に自身の武器である『生大刀』を立て掛けて黒板の前に居た。

 

後から来たのだろう小柄な二人の少女が若葉に絡んでいて、入ってきた紅葉とひなたの存在に気付くと、そちらに振り返る。

 

 

その結果一番小柄な少女――――土居球子がひなたの豊満な胸にイチャモンを付けてきて、もごうとしてきたのだが。

 

「……放っておいて良いの?」

「騒がしいのは苦手だ。」

 

 

我関せずと入口側の端にある机に避難していた紅葉は、教師が来るまでの時間をゲームに費やしている少女と会話をする。

 

片耳にイヤホンを挿して、紅葉と顔は合わせないにしても、一応会話だけは成立させる。 壁に寄りかかり腕を組んでいる紅葉とゲームで遊んでいる少女――――郡千景は、それこそもぎ取る勢いでひなたの胸を鷲掴みにしている球子を見ていた。

 

「……ところで、高嶋さんはまた遅刻なの?」

「そんなに言うなら叩き起こして一緒に登校してくれば良いだろ、合鍵ならあるぞ。」

「……そ、それは……っ」

「ふっ。」

 

 

面白いくらいに露骨な反応を見せる千景に、紅葉は鼻で笑う。 千景が友奈になついていると言うのは皆が知っているが、紅葉からすればその実千景に友奈がなついているようにしか思えない。

 

あと数分で授業が始まるといった所で、球子と姉妹のように接している伊予島杏と若葉に羽交い締めにされてひなたから引き剥がされた球子。

 

 

それを見ている二人の横の扉に、何者かが滑り込んできた。

 

「――――ギリギリセーーーフっ!」

「全然セーフじゃないぞ。」

「……あれぇ?」

 

 

件の少女、高嶋友奈が息を切らして入ってくる。 パッと顔色を明るくした千景が、膝に手を置いて前屈みになっている友奈に近付く。

 

「……高嶋さん、おはよう。」

「あっぐんちゃんおはよー! 紅葉くんもおっはー。」

「はいはい。 ……それで、今度はなんで遅刻寸前だったんだ? どうせ映画鑑賞してたんだろ。」

 

 

紅葉の言葉にばつが悪そうな顔をして目を逸らし、下手くそな口笛を吹く友奈。

 

「いやぁ…………えへっ?」

「今日から休日以外での映画鑑賞は禁止だ。」

「あーーーっ! 鬼! 悪魔!」

「どうとでも言えバカタレ、遅刻する方が悪い。」

 

 

邪険に扱われつつも正当な言い分に言い返せず、友奈は千景を頼りすがり付く。

 

「ぐんちゃーん、へるぷみー!」

「ええっ!? ……えっと、その…………少し可哀想よ、先人さん。」

「調子に乗るから甘やかすな…………いや、ああ、なるほど。 おい千景、そこまで言うならお前が明日から友奈を起こせ。」

「……え?」

「これがこいつの部屋の合鍵だ、遅刻の対処は管轄外だから俺はもう知らん。」

 

 

懐から取り出した何も付けられていない鍵単体を投げ渡される千景。 紅葉は自分以外が全員揃ったのを確認して、教室から出ようとする。

 

「じゃ、何かあったら連絡しろ。」

「はいはい、心配性だなぁ紅葉くんは。」

「なら俺がしなくて済むような態度を心掛けろ、馬鹿。」

 

 

そういうシンプルな罵倒はだね……と言いながら、友奈は教室から出た紅葉に手を振って見送る。 若葉に怒られている球子を尻目に、ひなたがぼんやりとその様子を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

丸亀城から出て寮の近くを歩いている紅葉は、大社から雇われた勇者達からも信頼されている警備員から、不審者でも見るような目を向けられながら歩いていた。

 

それでも声を掛けられないのは、紅葉の立場と事情を知っているからであり、紅葉だけは勇者と巫女以外からはあまり良く思われていない。

 

 

今の世の中、現代兵器が一切通用しない星屑(バーテックス)を唯一倒せる存在が勇者であり、勇者がその為の神器を武装するのは仕方がないことだと民衆は理解しているし、神器の携帯も特例措置として国から許可されている。

 

そんななか、()()()()()威嚇するように武器をちらつかせる人間を勇者達の傍に置くと言うのは、遠回しに守るべき人間すらも場合によっては敵として見るという意味になるだろう。

 

 

大社から信用されていないのだと思われた民衆が、紅葉の存在を良く思わないのは当然だった。

 

尤も、紅葉が『武装したボディーガードである』という情報を勇者の顔と同じように公表しているのは、ヘイトを紅葉に向けて勇者と巫女から注意を逸らさせる目的も含まれているため、大社と紅葉からすれば計画通りとしか言えない。

 

 

自分がどうなろうとどうとも思わないだろう三好の顔を脳裏に思い浮かべて、思考する。

 

「(――――それに、そのうち死ぬ人間と仲良くなったら相手が可哀想だしな。)」

 

 

紅葉は、現在若葉が連絡し合っている勇者がかれこれ3年守護している長野―――諏訪出身だが、若葉の顔付きから察するに連絡できる時間もそう長くないと悟る。 つまり、生きているかもわからない親と友人は、きっともうじき死ぬ。

 

「…………ああ、そうか。」

 

 

丸亀城の門をくぐり、街に繰り出すと、腹が立つ程の清々しい快晴が紅葉の視界に広がる。

 

一人のうのうと生き残り四国で生活している現状を理解しながら、紅葉は身体中の装備の重みに心が押し潰されそうになりながら呟いた。

 

 

 

 

 

「もう、先人家は俺だけなのか。」

 






家族を置いてきた+幼馴染みを置いてきた+恐らく死んでいる事を想定している+勇者と巫女を守らないといけない+人を殺せる武器を握っている+3年間四国に押し込められているストレス=?

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