先人紅葉の章執筆時の私「これ夏凜死ぬ方がストーリー的に違和感無いな。」
勇者の章執筆時の私「歌野と夏凜だけでも確実に死んでおくべきでは?」
のわゆ編執筆中の私「因果応報だし紅葉は惨たらしく死なないと駄目では……?」
寮に存在する食堂に、七人が集まり食器を囲む。 窓際の端に紅葉が座り、向かいに友奈、友奈から見て左隣に千景、その更に左にひなた。
紅葉の右隣に球子、その横に杏、そしていわゆる誕生日席に若葉が座っていた。
最初の数回、度々あった『なぜうどんを食べないんだ』とでも言いたげな勇者たちの視線を向けられることも無くなり、紅葉は悠々自適に豚カツ定食を頼んで食べている。
「紅葉くん良く味噌汁の音立てないで飲めるね、私どうしてもずずーって音出ちゃうんだけど。」
「うどんみたいに勢い良く食うからだ。」
「タマとしては、頑なにうどんを食べようとしないのが気になるんだけどな。」
うどんに七味唐辛子を振り掛けていた球子が赤いうどんを啜る。
豚カツの一切れにえげつない量のレモン汁とソースを掛ける紅葉は、眼前の友奈にとんでもないモノを見る顔を向けられながら答えた。
「俺からすればお前たち四国人が毎日のようにうどんしか食わない方がおかしいと思うが、良く飽きないもんだと感心はする。」
誰が四国人だコラ。 という球子の声と共に向けられる睨みを鼻で笑い、紅葉は豚カツ定食を食べ進める。 球子は真っ赤な出汁にくぐらせた竹輪を半分まで齧ると、横で余所見をしながらうどんを食べている少女を見た。
「って、あんず! 本読みながら食べるな!」
「あぁ…………良いところだったのに……。」
その少女が持っていた本――――小説を奪い取り、せめてもの情けから栞を挟んで自身の膝に閉じて乗せた。 本を読んでいた少女、伊予島杏のそんな様子を見ていた紅葉が呟く。
「何時かうどん見ながら本食いそうだな。」
「そ、そんなことは…………しませんよ?」
下手くそな口笛で誤魔化そうとする杏だが、自分でもそのうちやりそうだなとは思っていたらしい。 四人がそうしてざわざわと騒ぎながら食事をしているのを観察していた若葉達だったが、ふと、球子がポツリと言葉を漏らした。
「――――それにしても、タマたちは何時までこうやって訓練してれば良いんだろうなぁ。」
竹輪の残りを食べ終えて一息ついた球子の言葉に、食堂の中が静寂に包まれる。
「普通、中学生って言ったらさぁ…………なんだろ、もっと普通の事して騒いだりしてるもんじゃん。 あとは……恋愛、とか?」
「お前みたいなチンチクリンを好きになる奴なんて居るのかよ。」
「は……!?」
紅葉にバッサリと返され、軽くキレながら殴りかかる球子だが、頭を押さえられて手が届かない。
「そう言うな土居、今は有事なんだ。」
「…………若葉」
歯軋りしながら紅葉を睨む球子を窘める若葉。 箸をうどんの皿が乗せられたトレーに置き、二人を見ながら続けた。
「授業でも散々言われているだろう、あの化物――――バーテックスを倒せるのは私たち勇者のみ。 近代兵器の通用しないアレは、勇者が使う武器でしか傷を付けられないのだ。
言わんとしている事は理解できるが、それでも我慢して貰わねば―――。」
「そんなの分かって―――!」
ガタン、と。 机から音がして、若葉の声が遮られる。 友奈の目の前にあったうどん皿の置いてあるトレーを手に取り、紅葉は半分以上豚カツが残された皿を友奈の前に出す。
「やる。」
「うひょーい。」
棒読みで喜びながら、友奈は豚カツにソースを垂らす。 一足先に席を立った紅葉は、すれ違い様に若葉の頭を殴るように叩いた。
「っ―――。」
「無神経なんだよ、お前。」
軽くも、金槌で殴られたような感覚。 球子が若葉に憤りをぶつけようとした瞬間に割り込んだ紅葉を見送った杏は、内心で行動理由を分析する。
「(今の……タマっち先輩が若葉さんと喧嘩しそうだった所に割り込んだのは明らか…………友奈さんが提案したのかな……?)」
ちらりと友奈を見る杏。
紅葉の真似をしてレモン汁を掛けすぎた友奈が悶え、千景に介抱されている所を見るに、偶然だろうと片付け頭を振った。
◆
「…………はぁ。」
『おや、どうかしましたか乃木さん。』
「ああ、いや、その……な。」
通信機を前にして、若葉は通信相手に相談を持ち掛けた。
「私はリーダーには向いていないのかもしれない。 実はこの間、仲間に自身の意見を押し付けてしまってな…………その内の一人に頭を叩かれてしまったよ、『無神経だ』とも言われた。」
『そうでしたか……。 訓練ばかりではやはりもどかしいでしょうしねぇ……でも大丈夫ですよ、乃木さん。』
「――――え?」
優しい声色で、ノイズの混じった音で、通信機越しに少女はあっけらかんと若葉に言った。
『嫌でも慣れますから。』
「………………それは」
『リーダーに相応しいとか、相応しくないとか、向いてるとか向いてないとか、そんな事を考える余裕なんて来なくなりますよ。
残酷な話になってしまいますが、いずれ乃木さんはリーダーとしての振る舞いを強要されますし、他の皆さんも貴女との連携を学びます。 それくらいに――――この世界は厳しくなった。』
通信機の向こうの少女――――諏訪を守る勇者、白鳥歌野。 単身諏訪を三年守り続けたあの少女が、そこまで言うのだ。
厳しく、重くも、どこか優しさだけは失われていない口調。 まるで遺言であるかのように、歌野は若葉へと説いた。
『それは兎も角として、そろそろ雌雄を決する時が来たのではないですか?』
「ふふ、それもそうですね。 いざ―――。」
「うどんとソバ、どちらが優れているか!』
そうしてふざけている間だけは、歌野も、若葉も、何者にも縛られない少女で居られるのだろう。 故に若葉は聞きそびれてしまっていた。
『先人紅葉という名前に聞き覚えはあるか?』
……と。
◆
換気も兼ねて窓と玄関を開け放っていた紅葉の部屋に、扉の影からひょっこりと顔を覗かせる少女が一人。 床に座ってテーブルの上にバラされた拳銃のパーツを置いている紅葉が、銃身にブラシを押し込みながら視線の主に声を掛けた。
「なにやってるんだ、ひなた。」
「あー…………はは、バレちゃいました?」
「気になるなら入れば良いだろ。」
既にある程度のメンテナンスを終わらせていた紅葉は、拳銃を組み立ててホルスターに納めてベッドに置く。 丁寧に靴を並べて揃えたひなたは、紅葉の向かいに座ってその顔をじっと見る。
「…………なんだ。」
「若葉ちゃんの事で、少し。」
数日前の昼食時の一件を指しているのだろう発言。 ひなたの力無い言葉に、紅葉は普段からマガジンに込めている弾薬を磨きながら答えた。
「飯の時の事なら俺は悪いことをしたとは思っていない。 あの馬鹿は三年前から今まで、変わりもしない復讐一辺倒の直情径行、いつかあいつらを巻き込んで死にかねん。」
「……もしかして、若葉ちゃんの事嫌いだったりしますか?」
「嫌いに決まってるだろ。」
「えぇーーー…………。」
即答は想定していなかったのか、ひなたは口角をひきつらせて苦笑を溢す。
いっそ今のうちに若葉への文句の5つや6つ言ってやろうかと思いながら紅葉が伸ばした右手は、定位置に置かれた水の入ったコップへと伸び――――――一瞬。 ほんの一瞬、歯車の間にモノが挟まったように、思考が止まり動きが止まる。
そして再起動。
動きと思考が止まったことで手の位置とコップまでの目測がずれ、指先がコップを押してしまい、プラスチックのそれが床に落ちた。
「きゃっ……も、紅葉さん……?」
「――――此処に居ろ。」
即座にメンテナンスしたばかりの拳銃を剥き出しのホルスターから抜き、弾薬を入れてあるマガジンを差し込んでスライドを引きつつひなたを置いて玄関から飛び出る。
丸亀城の前まで全力で走りながら、スマホで三好にワンコールだけ電話を繋げた。
今の奇妙な事態と事前に伝えられていた情報を元に『敵襲があった』と纏め、勇者として戦っただろう友奈達が『樹海』から戻る位置に指定されている場所へと急ぐ。
紅葉が到着した頃には、色とりどりの装束を纏った少女達が、城の前の地面にへたり込んでいた。 紅葉の気配に気付くと、頬に汗を垂らして荒く呼吸していた友奈が顔を上げて紅葉を見る。
「ふぅーーーーー…………あれ、紅葉くん。」
「戦ったのか。」
「―――気付けたんだ。」
「一瞬時間が止まった感覚に襲われたからな、多分もうじきひなたも来るぞ。」
「…………うげ、それは不味いんじゃないか?」
友奈と紅葉の会話に入ってきた球子が、変身を解除しながらばつが悪そうな表情で顔を反らす若葉を見てから言ってきた。
「どうしてだ。」
「いやぁ、だって若葉の奴、自分を食おうとしてきた敵を逆に食っちまったんだよ。」
「――――は?」
ガチッ、と歯を鳴らして噛む動作をする球子。 若葉は反らした顔が見えない代わりに、玉のような汗を流している。
「あいつ、バーテックスを食ったのか。」
「おう。 ブチィッて噛み千切ってたゾ」
若葉を見て、球子を見て、再度友奈を見る。 そして、不意にふと頬を緩ませた。
「――――やっぱり、馬鹿だな。」
「…………うぉ……っ!」
球子の感慨深そうな声。 五人の勇者は、出会ってから三年経って、たった今初めて紅葉が笑った顔を見たのだった。
「おい、今紅葉が笑ったぞ! 千景、見たか!?」
「……見たから落ち着きなさい、鬱陶しい。」
「…………なんだよ。」
「あ、いつもの仏頂面。」
「……はぁ?」
笑ったように見えたのも気のせいかと思える瞬間。 普段の固い表情に戻った紅葉は、騒ぐ球子に絡まれている千景からの恨みがましい視線を無視して友奈の顔色を伺う。
「体調が悪そうだな。」
「ん? あー、『
「三好に連絡入れたから、すぐに医療班も来るだろ。 じっとしてろよ。」
友奈の腕がほんのりと熱い事に気付き、筋肉を酷使したのだろうと判断。 念のために動くなと伝え、若葉の元に歩いて行く。
「馬鹿野郎。」
「開口一番にそれか。」
「……実戦を終えて、それでもまだ復讐だなんだと言うつもりか。」
「当然だ。 奴等の犯した罪は、私の剣で償わせる。 全身全霊でな。」
五人の間にある空気が変わり、若葉もまた考えを改めたのかと
「――――そうかよ。」
「……? 何が言いたい。」
別に。 と、そう吐き捨てた紅葉が、千景に絡む球子を引き剥がしに向かう。
復讐心で戦うべきではないという事には若葉自身が自分で気付かなければならないのだ、今の紅葉が伝えたところで、改善はしない。
それはそれとして、若葉の踊り食いに烈火の如く怒りを露にして数十分の説教をひなたが繰り広げることになるのは、また別の話となる。
現在「これ死なせるより生かした方が罰になるな!(小林靖子憑依)」
今の紅葉は若葉が嫌いですが、別にひなたと距離が近いから嫉妬してるとかではない。 ちなみに『勇者の仮面』は諏訪陥落の数日前の話です。