【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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のわゆ編と誕生日回終わって書くもの無くなったら刀使ノ巫女の二次創作でも書こうかと思ってます。 Blu-ray1~6巻全部揃ったので。

まあ更新頻度は今より下がるでしょうし予定は未定ですがね。




肆・盈盈一水

 

 

 

「――――どうして着いてきたの。」

 

「単独行動は避けるべきだからだ。」

 

 

バスの一番後ろの席。

 

空いてるそこの右端と左端に座る二人は、視線を合わせる事もなく淡々と会話を交わす。

 

 

初の戦いが終わり、テレビやネット、新聞や雑誌に引っ張りだこな若葉と、切り札の使用で腕が炎症を引き起こしている友奈の短期間の入院が重なり、皆が散り散りに行動しているなかで。

 

 

勇者の一人・郡千景は、故郷への一時帰宅を許されて『しまって』いた。

 

勇者や巫女を一人にするべきではないとして、紅葉の付き添いが条件に加えられたのだが。

 

 

千景が紅葉の付き添いを嫌がっているのは、紅葉が嫌いだからではない。

 

寧ろ友奈がなついている事で悪人ではないと分かっているからこそ――――自分の村での扱いがバレたくないのだ。

 

 

ふわりと髪を掻き上げ普段は隠している左耳を露にすると、そこには刃物で切り裂かれたような――――――実際に刃物で切られて残った傷痕が剥き出しになった。

 

ざらつく瘡蓋(かさぶた)のような感触に、紅葉が窓の外の風景を眺めている横で顔をしかめてギリ、と歯を噛み合わせる。

 

 

前の背凭れの上部に額を押し当て、だらりと力を抜いてため息をつく。

 

耳に触れる度に、故郷の事を思い出す度に、シャリンシャリンと言う髪を切り落とす音が――――それに混じった、耳元から発せられた肉を切り裂く音が、焼けるような痛みが。

 

 

グツグツと、千景の胸の奥にどす黒いモノを煮え滾らせる。 そんな千景の顔色を窓ガラスの反射越しの景色から覗く紅葉に、千景が気付くことは当然だが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寂れた雰囲気の村。 視界の端に田畑が広がる田舎の細道を歩いていた紅葉に、千景は苛立たしげに言ってきた。

 

「良い? 村に居るときは私に着いてこないで。 どうせ日帰りなんだから、村の出入口にでも居てじっとしてて。」

「…………まあ、その辺を観光しておく。 勝手に帰るなよ、俺が近くに居なかったら帰る前に連絡しろ。」

「貴方は私の親かなにか?」

「その親に会いに行くんだろうが。」

 

 

ぐっ、と口を閉ざし、一睨みしてから千景は紅葉に背を向けてずかずかと足を踏み鳴らしながら歩いて行く。

 

それを見送った紅葉は、腰に吊るした拳銃――――H&KP30のグリップに手を添える。

 

即座に抜けることを確認してから、道を逸れて歩き出す。

 

「……長物も用意するべきか。」

 

 

それには先ず大社に申請中の許可証の発行待ちだが、もう暫くすれば拳銃以外も持てるだろうし、それまでは拳銃でどうにかするしかない。

 

気休め程度にホルスターを触りながら歩いていたら、紅葉は店主なのだろうエプロンを身に付けた男性に出くわした。

 

「……誰だい、あんた。」

「――――ああ、此方に一時帰省している勇者・郡千景様を含めた勇者等のボディーガードをやらせていただいている者です。」

 

「なに―――あの小娘、帰ってきてたのか……!?」

「…………はい?」

「っ、いや、なんでもない。 そうか、それは…………めでたい事……だな。」

 

 

普段の仏頂面とは打って変わり、まるで好青年かのような微笑を浮かべる紅葉。

 

明らかな営業スマイルの裏には気付かず、男は紅葉に適当に誤魔化すと、そそくさと自営業らしい店の中へと消えていった。

 

一転、能面のように表情を削ぎ落とした紅葉は軽蔑すら浮かべた瞳で店主の背中を見送る。

 

「(()()()は疲れるからな、しなくていい相手だと分かったのは幸運か。)」

 

 

千景を見付ける方が良いな、と悟り、意識を切り替えつつ踵を返した。

 

「(三好が言っていた通りだな。 千景の過剰なまでの人見知りと、村の千景へのあの態度――――まあ、田舎なんてそんなものか。)」

 

 

田舎の村という閉鎖的な空間。 娯楽も碌に無く、代わり映えの無い人間関係。 そこに現れた千景―――ではなく郡家の問題。

 

良く言うだろう、『他人の不幸は蜜の味』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千景が歩いていった道を辿るように歩いていた紅葉は、騒がしさを耳にして歩みを走行に切り替える。 ホルスターに手を置きながら騒ぎの原因の元へと走って行くと、千景の家なのだろうボロ家の前に人だかりが出来ていた。

 

横に逸れた紅葉が人だかりと家の間に滑り込むと、困惑した様子の千景と再会する。

 

「なんなんだこの状況は。」

「し、知らないわよ……。」

 

 

大方千景の帰宅の噂を耳にして、それが村中に広がったのだろうと言うことは予想できた。 村人達は千景の後ろにあるゴミの散乱した部屋を見て、千景が背負っている折り畳まれた大葉刈を見て、そして千景を見る。

 

 

その目にあるのは、恐怖だった。

 

 

紅葉には、村人が千景からの反抗を恐れているように見えた。 怯えた顔を隠して、震えた声で元同級生の少女は『私達、友達だよね?』と聞く。 店主が、市長が、近所の夫婦が、元担任が。

 

我先にと、千景に媚を売る。 余りにも醜いその姿に気圧され後退りした千景は、横から背中を支える腕の感触に紅葉の事を横目で見た。

 

 

自身を見下ろしながらその双眸で瞳を覗くようにしている紅葉を見て、千景は確認するかのように大葉刈を袋に包んだまま柄頭を地面に叩きつけて音を出す。 ざわざわと騒がしかった村人達が静まり返るのを待ってから――――。

 

 

「皆さん、私は――――価値のある存在ですか?」

 

 

と、そう聞いていた。

 

 

 

 

 

その後、予定を変えて一泊だけしていく事にした千景の部屋に、紅葉もお邪魔する。 部屋の隅に座って体育座りしている千景は、紅葉を睨みながら低い声で威圧するように言ってきた。

 

「変なことしたら叩き斬るから。」

「知らん。」

「……まあ、上里さんにアタックすら出来ない人に襲う勇気なんて無いわね。」

「なにか言ったか。」

「……いいえ。」

 

 

外が真っ暗になった時間、早めに眠り朝イチに村を出ようとして布団に潜り込んだ千景だったが、壁に寄りかかって座ったままの紅葉が気になって声を掛ける。

 

「…………まさかそのまま眠るつもり?」

「俺の分の布団が無いんだから仕方無いだろう。 それに、念のために即座に起きられないといけないからな。」

「少し、過敏なんじゃないの?」

「……睡眠薬でもあれば深く眠れるんだが、そうすると昼まで起きられないんだよ。 夜中に物音がしたら、俺の眠りが浅いんだと思って気にしなくていい。」

 

 

あ、そう。 と言い布団を目元まで持ってきた千景。 そんな千景に、紅葉は不意に言葉を向けてきた。

 

「お前は――――――武器を持ったから勇者なんだと思っているのか。」

「…………どういう意味?」

「……英雄は、名のある武器を振るったから英雄になれたのだと思うか。」

「…………はい?」

 

 

千景が聞き返したものの、紅葉は首を下げて寝息を立て始めた。 モヤモヤとした違和感のような変な感覚を紅葉のすっとんきょうな質問のせいにして、千景もまた眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月明かりだけを頼りにするしかない夜の暗闇の中を歩く三人の男が居た。

 

苛立った様子で、その手にはそれぞれ、金属製のシャベルや鍬が握られている。

 

「…………おぉい、良いのかよ……相手は勇者様とそのボディーガードだぞ?」

「うるせぇ! ったく…………なにが勇者だ、馬鹿馬鹿しい。 間抜けな父親と、不倫して逃げたら死にかけたアバズレの娘の癖に……英雄気取りかよ! クソッタレ。」

 

 

血走った目で、均された地面を頼りに郡家へと向かうリーダー格の男は――――なんて事ない、ただの『家族が星屑に食い殺されて家と自分だけが残された哀れな被害者』なのだ。

 

村八分されていた村の厄介者が、死んだところで悲しむ奴なんて居ない小娘が生き残り、どうして自分の家族が死んでしまったのか。

 

そんなただの逆怨みに付き合わされた二人の男のうち、黙って着いてきていた方がふと横の草むらに視線を向ける。

 

「…………なん」

 

 

突如としてぬっと伸びた手が、男の首に伸びる。 カシュンッという金属音と共に弾かれたように飛び出した細い両刃の刃が、男の喉仏を貫いて声帯をも破壊し、再度音を鳴らして手首――――服の袖の中へと戻っていった。

 

男が叫ぼうにも喉を潰されており、ごぼっ……と赤黒い液体を漏らすことしか出来ないことに、先行する二人は気付かない。

 

 

どさりと音を出して倒れた事で、ようやくリーダー格ではない方の男が振り返った。 倒れている男を見付けて駆け寄るも、既に手遅れである。

 

「う、ぉおおっ!?」

「……あ? おい、どうした。」

 

 

叫んだ男は鍬を投げ捨てながらもう一人の男から離れつつ、リーダー格の男にすがり付き怯えた様子で言う。

 

「し、しっ……し、死んでる!! さっきまで後ろに居たのに死んでるんだよぉ!」

「はぁ? 何言ってんだ……。」

 

 

酔ってんのかお前。 そう言って呆れた顔をしながら、男の指差した方へ歩く。

 

だが、そこには地面に染みを作る液体が落ちているだけで、()()()()()()()()()

 

「…………どうせ帰ったんだろ、臆病者め。 チクられないように後で口止めしておく、か………………あ?」

 

 

振り返って腰を抜かしていた男の方を見たリーダー格の男は、暗がりのなか、黒い塊が何かに乗ってゆさゆさと輪郭を揺らしていたのだ。

 

雲が覆っていた月明かりが村を照らし、その正体が明らかになった。

 

 

「う、ぶっ、おごっ……だ、ずげ、でっ」

「――――――。」

 

「なっ――――!?」

 

 

黒いコートにセットのズボン。 暗闇に完全に同化していた男――――先人紅葉が、袖の中の手首辺りから飛び出している刃で、片手で後頭部を掴んで地面に押し倒していた男の脇腹を何度も突き刺している。

 

うつ伏せの男にのし掛かり、わざと急所を外して、痛みを長く与えるかのように、何度も何度も脇腹をザクザクと突く。

 

「て、めぇ……!」

「これから千景を傷つけようとした癖に、その怒りはお門違いなんじゃないか?」

 

 

男の顔を横に向け、瞳から生気が失われ呼吸も止まっているのを確認した紅葉が、男の服で刃に付いた血液を拭って続ける。

 

「俺を殺人者として通報でもするか? 『千景を痛い目に遭わせようとしたら返り討ちにされたので捕まえてください』と?」

「っ…………! くそっ、なんなんだよ、殺したのか!? 殺したのかよ!?」

「俺もまあ、結構驚いているよ。」

 

 

物言わぬ――――事実、モノになって転がっている男の死体に興味を失なったような動きで、紅葉は最後の標的に近付きながら言った。

 

「お前達のような同族(クズ)が相手だと、罪悪感なんて無いらしい。」

「ひ、ぃ…………。」

 

 

淡々と。

 

それこそ、肩に埃が乗っていたから払った――――なんて言いたげな顔をして左手をスナップさせて刃を仕舞う。

 

自ら丸腰になった紅葉に、今しかないと考えた男は手に持っていたシャベルを振りかぶった。

 

 

目の前の化物に手加減なんて出来ないとばかりに、獣に叩きつけるように、本気で振り下ろされたシャベルに、紅葉は――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰りのバスの中で、千景の視線は紅葉に向いていた。 どこか楽しそうな、明るい雰囲気に違和感を覚えている。

 

「……なにか良いことでもあったの?」

「――――ん、ああ……そうだな。」

 

 

憑き物が晴れたような、些細なズレが直ったような。 鼻歌でも奏で始めそうな紅葉は、口角を歪めて言う。

 

()()()()()なんだから、それはきっと良いことなんじゃないか?」

「っ――――ふぅん。 なら、帰ったら上里さんに言ってあげるわよ。 『先人さんが私を口説いてきた』って。」

「誰がいつ口説いたんだ。」

「…………ふふ。」

 

 

珍しく年相応の無邪気な顔を見せた千景を前に、はぁ……とため息をついて、紅葉は千景の目から逃れるように窓の外を見る。

 

手首を気にしているのか頻りに擦っている事には気付かない千景だったが、その脳裏には友奈と会うことだけが浮かんでいた。 加えて、紅葉への関心も僅かに向いている。

 

「(やっぱり高嶋さんがなついているだけあって、悪人では無いのよね……。)」

 

 

この考えが間違いではないが、正しくもなかったと知るのは――――――今から数日後の話。

 

 






千景の故郷の村人とネットの掲示板とかいうマーベル市民並の劣悪民度。 もっとDCユニバース見習って。(ドングリの背比べ)



のわゆのガチシリアス紅葉と番外とかR-18の軽い紅葉を同時に連載してると温度差で風邪引きそうになりますね(他人事)
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