【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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不思議な事にしぶとく生きてます。

刀使ノ巫女に逃げるな(自戒)。




陸・赫赫之功

 

 

 

ラフなワイシャツにジーンズという格好で、捲った袖の中の腕に包帯を巻いている紅葉。

 

丸亀城内に設けられた教室に訪れると、自身の机に器具を並べて生大刀の刀身に打粉をまぶしている若葉の姿が視界に入った。

 

「……ん、紅葉。 怪我はもう良いのか?」

「あのくらいで騒ぎ過ぎなんだよ。」

 

 

珍しく丸腰の紅葉は、刀身に専用の紙で油を塗る若葉と、椅子を並べて座りイヤホンを片方ずつ分けて曲を聞いている杏と球子を視界に入れる。

 

「お前は……手入れか。 神器にそんなものは必要無さそうなものだが。」

「事実、必要は無い。 まあ気分だな。」

 

 

慣れた手付きで、するすると刀身だけの生大刀を一本の刀に戻す若葉。 カチンと音を立てて鞘に収まった生大刀が竹刀袋に仕舞われる辺りで、球子達が紅葉の姿に気付いて近寄ってきた。

 

「おう紅葉、生きてたか。」

「勝手に殺すな。」

「紅葉さん、撃たれたって聞いたんですが……その、お怪我は?」

「撃たれた所にアザが残ってる程度だ。」

 

 

籠手と仕込み刃も拳銃も無い状態が不安なのか、紅葉は頻りに包帯の巻かれた腕をさする。

 

「……そう言えば、あのアホと千景はどうした。」

「あの時買ったゲームでもやってるんじゃないか? ほら、友奈って確かゲーム機持ってないじゃん?」

 

 

教室内に居ない友奈と千景。 紅葉の問いに、球子があっけらかんと答えた。 加えてふと気になったらしく、返すように球子が紅葉に聞く。

 

「そーいやひなたは? 若葉とか紅葉と居ないなんて珍しいよな。」

「……ああ、あいつは今――――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえぐんちゃーん、これ斧で動物割れないんだけど。」

「高嶋さん、それはそういうゲームではないわ。」

「あ、そうなの。」

 

 

上下に二つの画面が付いた折り畳み式のゲーム機を、千景の部屋に置かれたベッドに寝そべりながらプレイする友奈。

 

動物と共に暮らすスローライフゲーム――――を買い与えたつもりだったのだが、友奈はやたらと斧やスコップや網で住民を叩こうとしていた。

 

「じゃあいいや、落とし穴のタネ埋めよ。」

「(大分遊び方を間違えている気がするけど、まあ、良いかしら。 楽しそうだし…………)……ん。」

 

 

横目で楽し気に遊んでいる友奈を見てから、千景は机の前のパソコンに目を向ける。 そこには、数日前に起きた勇者達を襲った暴漢の事件に対する記事へのコメントが書かれていた。

 

 

特に紅葉の暴漢二人を叩きのめし、一人を撃ち殺した一連の動きは、野次馬に撮影されていた事もあって様々な動画サイトのトップを飾っている。

 

「(――――先人さん……。)」

 

 

 

あの時野次馬の波が引けた事でようやく駆け付けた友奈達が見たのは、顔から血を流して倒れ伏す男二人と、路地裏に上半身を隠すように倒れた男一人――――――そして、拳銃を手に持っていた紅葉と足元の空薬莢だった。

 

紅葉のしたことは間違いではないし、勇者と巫女に怪我をさせなかった時点で、その行動はベストと言っても過言ではない。

 

 

千景とて、ゲームを嗜む以上は戦争を題材にした射撃ゲームだってやる。

 

しかし、だからと言って実際に人が人を撃つシーンを見たわけではない。

 

 

紅葉の行いが、正しくなくとも間違っている訳ではないことだけは分かっているのだ。 故に、まだ心の整理が出来ていない事実が、紅葉を避けて部屋に居るという行動に出ていた。

 

 

―――表情を曇らせながらネットサーフィンを続ける千景を、ゲーム画面で虫取をしながら友奈が見ていた。

 

千景に見られていないのを確認しているその表情は、能面を貼り付けたように『無』である。

 

 

「(さて、紅葉くんの行動は人心を大きく揺らがせた訳で…………どうかなぁ、まだ決めるには早いと思うけどねー。)」

 

 

脳裏にアクセスしてくるナニカと会話しながら、村を駆け巡り穴を堀続ける友奈。

 

「(これからは人まで敵になる時代だからね、今は紅葉くんの存在も必要になると思うよ。 あと今村人を落とし穴に落とすのに忙しいから、はい通信終わり。)」

 

 

ナニカとの接続を切り、ゲームを続ける友奈は、千景に思い出したことを告げた。

 

「あ、そうだった。 ぐんちゃん、紅葉くんとヒナちゃん、外で食べてから帰るって。」

「そう――――あんなことがあったのに、二人で外へ……?」

「ヒナちゃんの帰りに紅葉くんが付き添うんだって。 目的地病院らしいし。」

「……ああ、先人さん、撃たれてたんだったかしら。」

「いやそっちじゃなくて。」

 

「……えっ?」

 

 

パソコンから目を離して友奈を見やる千景は、疑問符を浮かべながら小首を傾げる。

 

そんな千景の顔を見て小さく笑いながら、ゲーム機を畳んで答えた。

 

「ヒナちゃんが病院に行ってるの。

 

――――精神科にね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の自動ドアが横にスライドし、夕焼けのオレンジ色が差す外を歩く二人が居た。 一定の距離を保ち、付かず離れず間を空けている。

 

「それで、どうだった。」

「特に問題は。 しっかり身体を休めないと、心も休まらないと言われました。」

「そうか。」

 

 

再度無言が続き、人通りの少ない歩道を並んで歩く。 紅葉は横目でひなたを見るが、どう声を掛ければ良いかで考えあぐねていた。

 

「……しっかり処方剤を飲んで眠れば、あの光景をフラッシュバックする事も無いそうです。 大社の方々も温泉旅館の手配をしているみたいですし、ある種の休暇ですね。」

 

 

何でもないように笑うひなた。

 

しかしその口角は、歪んで震えている。 目は紅葉を捉えないように、それとなく顔を逸らして表情を読まれないようにしていた。

 

 

「ひなた。」

「……はい?」

 

 

紅葉はひなたの前を塞ぐように回ると、ひなたは顔を上げてようやく紅葉と目を合わせる。

 

「お前、俺が恐いんだろ。」

「――いえ、そんな……。」

「誤魔化さなくて良い。 俺は『お前達の為に』と言いながら、平気で人を傷付けるような人間なんだからな。」

 

 

その証拠、とばかりに紅葉の腕の包帯がほどかれる。 右腕には撃たれて出来た点の青アザ、左腕には全体に青アザがあった。

 

「俺はこれからも、お前達の為に人を傷付ける。 こんなものを見せる羽目になる。 次は俺の血を見せることになるかもしれない。」

「――――あ」

 

 

紅葉の濁った瞳はひなたを見る。 ひなたはそれが紅葉なりの気遣いだと、少しして気付いた。

 

「引き返すなら此処だ。 俺に近くに居て欲しくないなら、俺の代わりを用意させる。」

「それ、は……。」

 

「これからも勇者や巫女を狙う奴が増えるだろう、ズルい言い方になるが、ひなたや友奈、若葉達を守れるのは俺と三好くらいだ。

…………だからこそ、俺が恐いのなら俺は本部に戻る。 丸亀城には三好が居れば充分だろう。」

 

 

返答を待つまでの間に、ほどいた包帯を巻き直す。 腹の前で手を組みうつ向くひなたは、ふと、忘れていたことを思い出した。

 

「……言って、ない。」

「なに?」

「――――紅葉さん、私が恐いのは…………貴方じゃないんです。」

 

 

紅葉の手を取り、自身の頬へ当てる。

 

ひなたの震えた声が、手に直接伝わった。

 

 

「あの時、助けてくれたのに――――貴方を恐れそうになった私が、私は嫌いです。」

 

「……そうか。」

 

「――――私と若葉ちゃんと球子さんを守ってくれて、ありがとうございました。 紅葉さん、本部には戻らないでください。」

 

 

むず痒そうに顔を逸らす紅葉。 口許を隠して笑うひなたは、珍しく照れているらしい紅葉を見るのが新鮮だった。

 

「…………俺で良いんだな。」

「はい。」

「なら、これからも、俺はお前達を守ろう。 それが役目なんだからな。」

 

 

それだけ言い終えると、紅葉は帰路を歩こうとする。

 

「役目じゃなかったら、そもそも私たちを守ることは無かった。 ……と?」

「いいや。」

 

 

ひなたの問いに歩き出そうとした足を止めて振り返る。 紅葉は口を開いて何かを言おうとして、一度閉じ、そして開いた。

 

「……お前だったからだ。」

「………………へ?」

 

「―――なんでもない。 帰るぞ」

 

 

ひなたの顔を見て、嘘をつくべきではないと思ったは良いが、完全に失言だった。 呆けているひなたも直ぐに歩き出すだろうと考え、紅葉は足を進める。

 

「え、あっ、紅葉さん!」

「もう遅いし、その辺で食ってから帰るか。 友奈にメール送っておく。」

「いや、そうではなくてですね……。」

 

 

遠回しに『聞くな』と言っている紅葉。

 

仕方がない、とでも言いたげな顔でひなたは後ろ姿を追いかけ、なんとなく、紅葉の左手の小指に自身の右人差し指を絡めた。

 

「…………。」

「――――。」

 

 

振りほどかれる訳でも、強く絡める訳でもない、引っ掻けるだけの繋がり。

 

ただそれだけでも、充分だと思えた。

 

 

「ひなた。」

「……なんでしょう?」

「……なるべく、頑張ろうと思う。」

「ふふ、なるべく、ですか。」

「ああ。」

「そうですか……。」

 

 

なにを? とは、聞けなかった。 『ひなた達を守ることを』なのか、『もっと効率良く人を傷付ける技術を磨くことを』なのか、はたまた。

 

今だけは、そんな事を気にすることなく、紅葉の横を歩いてたかっただけで―――。

 

 

 

その日はずっと、『この人はいつか居なくなる』という確信めいた予感だけが、ひなたの脳裏で警鐘を鳴らしていた。

 

 






原作と原作の間兼メンタルケア回なので短いです。 めんご。

ここまで遅れたのは別に天の聖杯と共に楽園を目指してたからとかではないです。

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