【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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※今更だけどこれはゆゆゆ二次創作です。




拾・蛟竜毒蛇

 

 

 

妊婦を連れた血まみれの男二人が大社本部に訪れた、と聞けば、100人中100人が意味不明だと断じるだろう。

 

大社神官に扮した警備員が懐から拳銃を抜く寸前だったという程に、二人は全身を深紅に染め上げている。 そして足を引きずり、受付の横にあるソファに腰かけた。

 

「……眠い。」

「今寝たら確実に死ぬぞ、傷口に指でも突っ込んどけ。」

 

「あのぉ……私はどうすれば……。」

 

 

立ち往生をしている女性に、あぁ、とぼやいて男の片割れ――――三好が手近で警戒する神官に言葉を飛ばす。

 

「この人と身内の身辺警護を暫く任せる。 俺たちと関わった以上、また人質に取られたら敵わない。」

「かしこまりました。 ご婦人、こちらへ。」

「……ありがとうございました、お二人も身体を労ってくださいね。」

 

 

神官の一人に連れられてその場を後にする妊婦の女性と入れ替わるように、少女が二人駆け寄ってきた。

 

「紅葉さん!」「三好くん!」

 

 

巫女服に身を包んだ二人―――ひなたと真鈴が、キャスターの付いた救急担架を持ってきた救護班と共に、少なくない出血が続く紅葉たちを見て息を呑む。

 

「っ、なんで、こんな……。」

「三好くーん、しっかりして!」

「ぶべぇ」

「…………ひなた、か。」

 

 

べちべちと三好の頬を叩いている真鈴を他所に、閉じかけたまぶたを開いて目線だけを右往左往させてひなたをピントに収めた。

 

「……俺が正しかっただろ、朝早くに出たから、巻き込まれなかった。」

「そう言うことじゃありません! どうして私と一緒に行動しようとしなかったんですか!」

 

 

三好が神官に抱えられて担架に乗せられる横で、紅葉はひなたの肩を借りながら担架へと腰掛ける。

 

「お前と一緒の時に襲われたら、守りきれるかわからない。 勇者の手を借りる訳にもいかないからな。 俺とそいつだけで済んで()()()()()。」

 

 

ひなたが目を見開いて硬直したのを、紅葉が見ることは無かった。

 

担架に横たわり酸素マスクを被せられ運ばれる二人を見送って、ようやく動き出したひなたは、血まみれの床に蹲り嗚咽を漏らす。

 

「――――幸運だなんて、そんな事を聞きたいわけじゃ無いのに……。」

「……ひなた。」

 

 

会う度にボロボロになって、会う度に遠くへ行ってしまう。 そんな男への感情が渦を巻き、混乱を作ってひなたを苦しめる。

 

いっそのこと『あんたら両想いだよ』とでも言ってしまおうか。 なんて考えて頭を振る真鈴は、ひなたの横で膝を突いて座り、肩を抱いてやることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『馬鹿は死なないと治らない』って良く言うだろ、お前はそれだ。 しかも厄介なことに不治の病と来たもんだから困る。」

「それが患者に対して言う医者の言葉か。」

 

 

大社本部の一室、医務室としても使われているそこで、紅葉は銃創とめくれた右腕の肉を縫合した痕を確かめていた。

 

おおよそ医者のする態度ではない顔をされながら、白衣を着た女医にそんな事を言われる。 暗い髪色の女医は、その髪を乱雑に一纏めにして背中に垂らしていた。

 

「…………三好は?」

「あいつは爆発の衝撃波で内臓にちょいダメージがあった程度で、頬やらに刺さってた窓ガラスの破片も深くはなかったから、消毒して終わりだ。 お前が起きる十分前に出てったよ。」

「さいで。」

 

 

ベッド脇に置かれている私物と替えの私服に着替えながら、ふと気になったことを女医に問う。

 

「……この服は?」

「お前の彼女の巫女が神官に持ってこさせたモノだ、お前ごときの為に泣くような奴なんだからちゃんと謝っとけな。」

「ひなたは彼女じゃない。」

 

「誰が『ひなたが持ってきた』なんて言ったよ、お前の知り合いの巫女は二人居るだろ。」

 

 

墓穴掘ったな、と鼻で笑われる。

 

無機質な瞳を細めて睨む紅葉は、強烈な既視感を女医に対して覚えた。

 

「…………?」

「どうした。」

「……いや、あんたから友奈と似たような気配を感じただけだ。」

「友奈? ああ、勇者の――――それは流石にわからんぞ。」

「そうか。」

 

 

腰に回したワンタッチベルトと、それに吊るしたホルスターと収まった拳銃、最後に両腕の籠手を取り付けた際、右腕の仕込み刃(ブレード)が無いことに気付く。

 

「……あの男に撃ち込んだんだったな。」

 

 

アレの代えはすぐさま用意は出来ない為、左のブレードまで撃ち出すわけにはいかない。 尤もあの行動は緊急事態で仕方の無かったモノなのだが。

 

「(メンテナンスに修理に調達に……暫くは予備で繋ぐしかないな。)」

「おら、とっとと帰りやがれ。 こちとら暇じゃねーんだよ。」

「わかったから尻を蹴るな、それでも女医かお前は。」

 

 

ワイシャツにコートを羽織り、腰にぶら下げた得物を隠して部屋を出る。

 

残った女医は、深くため息をついて椅子に腰かけた。

 

「――――神格だと気づく寸前、か。 そういやあのピンクも神格の一柱だったな。」

 

 

キャスター付きの椅子でグルグルと回りながら、女医の目線は天井を向く。

 

「なんだってあんなイカれた男と契約しないといけないんだ……。 呼んだら来たのがあいつだけだったとは言え、見る度にボロボロなのは……あいつもしかしてマゾなのか?」

 

 

ため息がつきない女医。

 

――――が、一転して受信した言葉に焦りを露にする。

 

 

「―――は!? おいちょっと待て、なんでそいつがここに……馬鹿野郎もっと早く伝えろ!!」

 

 

つい数分前に部屋を出た紅葉を追って、女医もまた部屋から飛び出す。

 

しかし既に紅葉の姿は無く、代わりとばかりに、濃密な自分よりも高い神格の気配を上階から感じ取った。

 

「なんでよりにもよって、今このタイミングで出てきやがった!?」

 

 

不自然な程に人の気配が無い廊下を走る女医の内心は穏やかではない。 何故ならこのまま紅葉を放っておけば、間違いなく死ぬからだ。

 

「くそっ、めんどくせぇ事しやがって……あのエジプト野郎……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い倉庫の中で、紅葉の意識は寝起きのように覚醒する。

 

「……ん?」

 

 

紅葉が覚えているのは、部屋を出た直後に聞こえてきた『声』が、自分を呼んでいたというものだけ。

 

そこで途切れた意識と今の間の記憶が、すっぽりと抜け落ちていた。

 

即座にHKP30を腰から抜くが、散々酷使したそれが暴発でもしては堪ったものではない。

 

大人しくホルスターに仕舞い、左腕のブレードに意識を集中すると、倉庫の奥から足音が聞こえてきた。

 

「誰だ。」

 

 

後ろ手に室内の明かりを点けるスイッチを入れ、蛍光灯を光らせる。

 

箱が置かれた棚の背後から現れたのは、浅黒い肌をして、長すぎる髪が床を擦る外国人だった。

 

「――――お会いしたかったんですよ、初めまして。 ()は君の3年間を見ていました。」

「……熱烈だな、それとそこから動くな。」

 

 

にっこりと貼り付けた笑みを無視して、暴発の可能性を考慮しつつP30を抜き直し()に銃口を向ける。

 

「何者だ。 大社の人間ではないだろ。」

「そう警戒しなさんな、()は中立だからね。」

 

 

()()がそう言い、紅葉は自然と銃口を下ろして拳銃を床に落とした。

 

「……お前、何だ?」

 

「しがない観測者さ。 ()()()()()()()()()()()()()()()先人紅葉さん?」

 

「は――――?」

 

 

紅葉の脳の処理が追い付かない。

 

恐怖とは、すなわち未知を理解できない感情である。 眼前の()()がナニモノなのか、そもそも人なのか、しかしバーテックスではない。 思考が巡り、()()を前に紅葉は一歩後ずさる。

 

「ついでに言うと、君はこのあと、山奥の洋館に地下施設を建設して拠点として構えているイースの偉大なる種族と対面する事になるんだ。 更にその前で今から数日後に、君たちはまた襲われる。 それも複数箇所で同時に。 勇者たちが諏訪に遠征する時期に合わせて、君を潰そうとしてるんだろう。」

 

「なにを、言っている。」

 

「ああそうだ、君の両親の母親、先人椛だっけ。 襲名制なんて随分と古くさい文化に拘っているけど……いい名前ではある。 それとさぁ、君の記憶を見ていて思ったけど、君は自殺願望があるんだね。 それでいて自分だけが諏訪出身で生き延びたことへの罪悪感があって死ぬに死ねない。」

 

「――――おい。」

 

 

気付けば、紅葉は()の胸ぐらを掴み上げていた。

 

「お前、何だ。 なんで()()()()()()()()()。」

 

 

まばたきをする毎に、紅葉の眼前の何かは、顔の形が、声が、性別が、骨格が変わっていた。 しかしそれを異常だと認識できないでいたが、内心を見透かされている怒りからか、それを違和感だと認識できた。

 

ようやく、紅葉は掴みかかったソレが肌の浅黒い外国人の男だと視認できていた。

 

()には顔が無いからね。 『顔』が『無』い――――すなわち無貌。 エジプトで崇拝されてた時は『無貌の神』って呼ばれてたから、そう呼んでくれたまえ。 以後よろしく。」

 

 

神を自称する男は、いつの間にか紅葉の手からすり抜けて背後に立っている。

 

「サバイバーズ・ギルト。 災害や事故で唯一生き残った者が陥る罪悪感。 それに加えて自殺願望と、勇者と巫女を守らないといけないという思い込み(パラノイア)。 難儀だねぇ、苦しくないの?」

 

「―――黙れ。」

 

「やっぱり家族は偉大なのかな? でもそれはそれとして、さ。」

 

 

ニヤニヤと笑いながら、無貌の神は顔を手で覆った。 そして、すっと顔から手を離す。

 

 

 

「この子、誰?」

 

 

 

無貌の神の顔は、男から少女へ。

 

気弱な雰囲気のある顔を、絶対にしないだろう厭らしい歪んだ笑みに。 ()()()()の顔でそうやって煽る行為は、紅葉の心情を沸騰させるのに、あまりにも充分すぎた。

 

 

 

 

 

 

―――話は変わるが、『竜の逆鱗』というモノを知っているだろうか。

 

例え普段は温厚で、寛大な竜でも、顎の下に生えた逆向きの鱗に触れられると、相手が誰であれ怒り狂い殺してしまうという逸話である。

 

そこから転じて、『触れられたくないモノに触れて相手を激怒させる』事を、『逆鱗に触れる』と表現するようになったのだが。

 

 

 

 

 

 

とどのつまり、果たして、刹那の内に無貌の神の喉が潰された。

 

左腕がゆらりと動いたかと思えば、紅葉の手首から伸ばされた仕込み刃が喉仏を貫いたのだ。

 

「カッ、ァ」

 

「死ね」

 

 

続けざまに喉から刃を抜いて収納した紅葉は、流れる動きで顎と頭頂部を両手で抑え、それぞれを反対方向に捻る。

 

それだけで、ゴキリと音を立て頸椎が折れた。

 

 

後ろに仰向けで倒れた無貌の神の、藤森水都の顔のままのそれを踏み潰そうと一歩踏み出した瞬間、背中から回された手が紅葉の目線を遮る。

 

「しー……しー……いい子だ。」

 

 

手の正体が女医のものだと気付くが、不思議なことに突如として湧いてきた眠気が、紅葉の思考をも遮り、意識を黒く塗りつぶした。

 

「…………記憶を()()()()私の身にもなれ、それを見越したうえで『未来』の出来事言いふらしやがって。」

 

「――――あ、月読命じゃん。 まだ女医のフリしてたんだ、気配が薄すぎて気づかなかった。」

 

「てめぇいい加減ぶっ殺すぞ。 地の神の集合体が、代表の一柱に勇者の力を与えてるんだ……外宇宙の理不尽と不条理そのものを一つ消し飛ばすくらいならギリギリ出来るんだからな。」

 

 

おーこわ。 そう言いながら男は、首からドス黒い液体を垂れ流しながら、女医――――月読命がさぞ大事そうに支えている紅葉を愉快なものを見る顔で見ていた。

 

 

 






無貌の神「トラウマ抉って感情爆発させるのたーのしー!(邪神並感)」

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