【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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この作品には残酷な描写とグロテスクな表現が含まれています(事後承諾)。 今回は準備フェーズで、行動開始は次回からです。




拾参・水天一碧

 

 

 

「じゃーん。 M60! 破壊力抜群だぜ?」

「重すぎる、要らん。」

「ちぇ、つまんねーの。」

 

 

長く重厚な銃に箱形の弾薬入れを取り付けた、名前だけは聞いたことがある人間も多いだろう機関銃を押し付けられる。

 

払いのけてゴトリと机に置いた紅葉は、結城正義との取引後に、廃墟と化した小さな鉄工所に訪れていた。

 

「それで、修理は終わったのか。」

「おー、終わってるぞい。 コートにちょいと防弾加工を施してたから渡すのが遅れちまったんだけど、その間になんか問題はあったか?」

 

「死にかけただけだ。」

「んー、いつもの事じゃん。 つーかみよっしーは? あいつから連絡来ないんだけど。」

 

「死にかけてるだけだ。」

「あー、いつもの事じゃん。 んー、マジか。 じゃあそのうち見舞いにでも行くわ。」

 

 

死ぬような男とは露程も思われてないようで、紅葉の眼前で不健康そうな小柄の女性が笑う。

 

「まーいいや、もっさんと同じで殺しても死にそうにない奴だし。 あ、外のポストの新聞どんぐらい溜まってた?」

 

「お前はいい加減、外に定期的に出る事を覚えろ。 3年でこの鉄工所にはもう俺たち以外誰も寄り付かないんだ、俺と三好が来なくなったら数日で孤独死するんじゃないのか?」

 

「だろうね。 だからどっちかがここに永住して私の専属執事とかしてくれっつってんのに、なぁにが嫌なのさ。」

 

 

『お前の相手がだよ』と言う余裕はないが、流石の紅葉でも嫌そうな顔をする。

 

「…………結城警視からの連絡待ちだが、取り敢えず服と武器をくれ、いい加減ゴミはゴミとして処理したいんだ。」

 

 

紅葉の言葉に、女性もまた渋い顔をした。

 

「――――今さらだけど、おめーさん18だったよな。 ほんとは嫌なんだぜ? おめーさんに銃とか渡すのって。 だってそもそも、私が銃を作ってるのは趣味なんだもん。」

 

「だから、悪いのはお前じゃないと言ってるだろうが。 …………いや、海外の銃器の設計図を違法に手に入れて勝手に鉄工所で製作してるお前もお前だが。 なにが『趣味なんだもん』だ。」

 

 

良いことを言った風な女性は、紅葉から目を逸らしつつ茶目っ気があるように舌を出し、紅葉に顔面を鷲掴みにされる。

 

「うごおおおお!?」

「このクソギーク。」

「君もしかしてイラついてがあああ!?」

「見ればわかるだろ……!」

 

 

濁った普段から光のない黒目がいつもよりも暗い気がして、女性は頭蓋骨が指の形にへこむ前に降参する。 渋々、といった様子で紅葉は手を離した。

 

「さっさと用意しろ、いざ俺が捕まる時が来たら道連れにするぞ。」

「…………乱暴な男だぜまったく。 そんなんじゃ彼女ちゃんに捨てられちまうぜ?」

「ひなたは彼女じゃない。」

「誰も上里の娘とは言ってないんだが。」

「――――――ちっ。」

 

 

不意なデジャヴに、紅葉は眉を潜める。 わわわ忘れ物~~~と口ずさみながら鉄工所の奥へと消えた女性を他所に、紅葉はスマホに連絡が来ていない事に苛立ちを覚えていた。

 

「……まだ情報は来ないか。」

 

 

尤も、松葉杖が必要なくなってもまだ派手な行動を慎めと言われている為、今日バイクの所有者を突き止められたとしても、行動するのは最低でも明日からとなるだろう。

 

――――ならば、今は準備を整えるだけに留めておけばいい。

 

「お待たせぇ~い。 燕尾服しか無かったけど、どうかな!?」

「本気でぶん殴るぞ。」

 

 

冗談じゃい。 そう言いながら、女性は紅葉が使っていたコートを投げ渡す。

 

以前よりも重く生地が固くなっているそれに、紅葉は疑問符を浮かべた。

 

「……防弾加工がどうこうと言っていたな、鉄板でも仕込んでいるのか?」

 

「おめー、そんなんじゃ拳銃の弾すら防げないぞ。 だがそのコートにはセラミック基複合材と炭化ケイ素を重ね合わせたボディアーマーを縫い込んであるから、着ていれば弾丸の貫通を防いでくれるだろうさ。」

 

 

…………死ぬほど痛いけど。

 

女性は、そう小声で付け足した。

 

「下に防弾ベストを着込む必要が無くなった訳か…………それで、他はどうした。」

「慌てなさんな~。」

 

 

あ~よっこいしょういち、と言いながら女性は足元のアタッシュケースを長年使われていない作業台に置き、中から手首の内側に添え木のように細長い刃が備わった籠手を取り出す。

 

「安全装置外して射出するとかいうイカれた発想する頭のおかしい誰かさんの為に、いざってときに飛び道具としても使えるよう、威力を上げるのと刺突に特化させてある。 斬ったり受け止めたりはしない方が良いぞ。」

 

「替えの刃は作れないのか。」

 

「昔プレイしたゲームを元に作ってるから加工がめんどくせー。 一本作るのに精密に計算して2日は掛かるんだよ、設計図込みでもな。」

 

 

腕に籠手を取り付け、ベルトの締め具合を確かめる紅葉。 げんなりした様子の女性が忌々しげに紅葉の腕の籠手を睨んでいる。

 

「私は銃を作るのが好きなだけだってのに、そんな機構と構造が複雑なもんばっか作らせやがってこんちくしょう。」

 

「大社は神秘に重きを置いているから、火薬が大層お嫌いらしい。 だから俺に銃を持たせたがらなかったんだ、隠せる刃物が必要だったんだよ。」

 

 

カシュン、と音を立てて手首から飛び出る刃を確認する。 以前より数センチ幅が狭まり、逆に数センチ刃先が長い。 これは確かに、『斬る』より『突く』事に特化しているだろう。

 

「ともあれ、もっさんが一番欲しいのは銃だろ。 ご要望は? M60とかブローニングM2要る?」

「しつこい。 ――――3ガンマッチで使ったモノで良い、手に馴染むからな。」

「りょ。 ちょい待ち。」

 

 

鼻歌を奏でながら再度部屋の奥に消えた女性を見送って、刃を収納した紅葉は呟いた。

 

「…………相変わらず銃の事になるとベラベラ喋り出すな。」

 

 

人は、それを類友と呼ぶ。

 

ここに球子が居たら『お前もひなたの話題になるとベラベラ喋り出すだろ…………。』と冷静な指摘をしてくれた事だろう。

 

「うひひひひ……。」

「通報されるぞ。」

 

 

ニヤニヤと目尻が緩み、口許は笑みを押さえようとしてモゴモゴと動いている。

 

籠手を入れていたのとは別の大小様々なケースを3つ持ってきた女性が、電源の落ちているベルトコンベアの上にそれをドンと乗せた。

 

「いやぁ、ようやく、ようやくデータの発掘と修復が完了してパーツの設計が可能になって、よ・う・や・く! もっさんの装備は完璧となった!」

 

「はあ。」

「んもぅ……てなわけで、はいまず1丁。」

 

 

一番小さな箱から取り出されたのは拳銃だった。 スライドの銃口付近の上部と側面が削り取られ、通常よりも僅かに銃身を長く、マガジンの底が拡張されたモノを紅葉に渡してくる。

 

「イカした拳銃だろ? グロック34のTTIカスタムだ。 スライドの穴が排熱機能も見込めるから連射が効くし、マガジンの底が拡張されてて2発多く入れられるから、最大で20発入る。」

 

「あー、ああ。 そう。」

 

 

適当に聞き流しつつ、渡されたグロック34を握り、構え、明後日の方向に向けてトリガーを引く。 カチン、と撃鉄がスライドの尻を叩く。

 

「……TTIってなんだ。」

 

 

「――――タラン・バトラーっていう3ガンマッチの覇者が居てな、その人のカスタムを他の人でも使えるようにしたパーツを

 

(T)ン・タクティ(T)カル・イノベーシ(I)ョンズ

 

と呼ぶんだ。 おめーが3ガンマッチで使ってる訓練用のグロック34、AR-15、ベネリM4のそれぞれにTTIカスタムを施せるようになってな、お陰で前より撃ちやすく戦いやすい状態になって「わかったもういい。 頭がおかしくなりそうだ。」

 

 

目を輝かせたろくろ回しで手を高速に振りながら語る女性のウンチクを止める。

 

あからさまにムスっとする女性は、コロコロと表情を変えて別のケースを二つまとめて開け放つ。 『うぇへへぐへ』という気色悪い笑い声は可能な限り耳の外に受け流すが、恐らく夢に出る。

 

「……こっちはAR-15とベネリM4のTTIカスタムだ。 AR-15はフォアグリップ(左手で掴む持ち手)コンペンセイター(跳ね上がり防止)で反動を軽減しつつ、6倍スコープと側面にドットサイトを取り付けて遠近両用にしてある。 マガジンも拡張して更に5発込められるぞ。

 

んでもって、ベネリM4は固定ストックとコンバットリロード(咄嗟に一発込める)用のマッチセイバーズ・シェルホルダー(一発だけシェルを銃身に固定できるパーツ)エジェクションポート(空薬莢が飛び出す出口)の前方に取り付けている。 ほれ、試してみろ。」

 

 

そう言われ、弾丸が入っていない空薬莢を指で弾かれるも辛うじてキャッチした。

 

チャ(薬室)バーを閉じているレバーを下げ、弾薬が切れた事を想定。 即座にエジェクションポート前に固定した一発のショットシェルを滑らせるようにチャンバー内に送り込み、レバーを押し出して装填を終わらせる。

 

カチリ、と引き金の音がした。

 

「……要訓練だな、あとで地下の射撃場を借りられるか。 どうせ今日は暇なんだ。」

「お好きなように~。」

 

 

初めての動きにしては早い方だと思うが、思うだけではいけない。 これから行われる戦いにおいて、練習不足だから失敗しましたなんて言い訳は一切通用しないのだから。

 

「あ、そういやグロック26は? HKP30の内部パーツの破損を直す時に予備として渡したろ。」

「弾切れで投げ捨てた奴が爆発に巻き込まれたときふっ飛んだ。」

 

「えー…………まあいいや、銃なんてのは消耗品だからな。 愛着持たれた結果もっさんに死なれたら世話ないし。 その3丁も弾が切れたら相手に向かって投げるくらいがちょうど良い。」

 

 

違いない。 そう言った紅葉は、懐のスマホが振動している事に気付いた。

 

「ん……。 ――――そうか。」

「どした?」

「訳あって追っている通り魔の住所が割れた。 明日取っ捕まえてここに連れて来たいんだが、問題ないか。」

「嫌に決まってんだろすっとこどっこい。」

 

 

あっけらかんとした態度で提案してくる紅葉に、当然だが女性は嫌そうに表情を歪める。

しかし、次の一言で態度を一変させた。

 

 

「三好を入院させた原因だぞ。」

 

「―――プレス機の電源入れておくから生かして連れてこい、煎餅にしてやる。」

 

「言われるまでもない。」

 

 

女性は――――鷲尾詩織(しおり)は、怒り一色に歪んだ眼光を紅葉に浴びせる。 寂れ、廃れた鷲尾鉄工所が血で染まるのも、時間の問題かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう言うことだ。」

 

 

諏訪に到着し、生存者が居ないことだけがわかった。 ソバの種を植え、ひなたの神託により急いで帰ろうとしたその時、若葉は球子と杏の慌てた声に呼ばれ、友奈たち三人と共に声のした方向へと向かったのだが―――。

 

そこにあったのは一軒の家だった。 なんてことはない、ごく普通の一軒家だ。

 

 

しかし、その表札に書かれていた単語に、その場の六人――――否、友奈を除いた五人が驚愕する。 何故ならば、そこに書かれていた単語は。

 

 

「――――『先人』だと……。」

 

「紅葉さんは、諏訪から四国に来ていた、と言うことですか……?」

 

 

若葉が呟き、杏が驚く。 球子と千景が渋い顔をして、ひなたはただ、紅葉がこの事実を隠していた理由を悟っていた。

 

「紅葉さん、貴方は……。」

 

 

 

 

「(……やっばいこれどうしよ。 それとなく表札割っとけば良かったかもしれない。)」

 

 

紅葉が何処から来て何故無茶な戦いばかりしているのかを全て知っている友奈だけは、ここに五人が来たことを悪い結果だと思い、面倒ごとになることを理解して静かに天を仰ぐ。

 

空は清々しい程に、ムカつく程に快晴だった。

 

 






今更ですが各キャラの年齢は紅葉が18、三好と鷲尾が21、原作の7人は原作通りです。
成人手前で基本仏頂面の男が14歳の現役中学生にぞっこんなのは色々とマズイと思う。

わからないミリタリー単語は……各自で調べて……(適当)

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