【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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人類(ヒト)』は終焉から逃れられない。




拾肆・星火燎原

 

 

 

フルフェイスのヘルメットで顔を隠した男が、香川から南、徳島の山中に違法建築された洋館へとグリーンのオフロードバイクを走らせていた。

 

洋館の扉のすぐ前に立っている3人の男のうち、明らかに腕の散弾銃を持て余している男が、バイクの男に声をかける。

 

「なんだ、随分早く帰ってきたな。 忘れ物か?」

「――――。」

 

 

無言を貫くヘルメットの男。

 

その様子に眉を潜めた散弾銃を持つ男だが、横に居たテンガロンハットを被る―――ガンマンのような出で立ちの壮年の男が腰の回転式拳(リボルバー)銃に手を沿えながら強い語気で言う。

 

「待て、お前さっき出ていったあいつじゃないな。 そもそも服が違うし――――――()()()()()()()()()()()()。」

 

 

遅れて残ったもう一人の男もまた、同じように近寄り、バイクを前に扇状に広がり囲む。 バイクから降りた男は、ギターケースを立て掛け――――即座に腰のグロック34を引き抜き3人の腹部に弾丸を叩き込んだ。

 

唯一反応できたガンマン風の男がリボルバーを引き抜いて撃ち込もうとするも、2発目が眼孔を貫き脳を吹き飛ばす。

 

ギターケースを手繰り寄せ、もう一人の男を跨ぎながら頭に1発撃ち、散弾銃を向けようとした男に銃口を向ける。

 

「……なんなんだよ、お前……」

 

 

バスッ、と火薬が炸裂し、弾丸が頭蓋を貫く。 ホルスターにグロック34を納めた男はヘルメットを脱ぎ捨て、前髪を掻き上げた。

 

特に何を思うでもなく、その瞳に何も写らない先人紅葉は、洋館の扉の奥の騒がしい声を耳にしながら懸念材料を思い返して眉を潜める。

 

「鷲尾の奴……殺してないだろうな。」

 

 

まさかあっさりと捕まえられるとは思っていなかった、三好を殴り逃走した通り魔の男。 その男をバイクから引きずり下ろして適当に殴り気絶させた紅葉は、鷲尾詩織――――厳密には鷲尾鉄工所に一先ず拘束して預けたのだが。

 

『警察に連絡して、俺の名前を出してから結城警視に出てもらえ。 それまではこいつは殺すな、拘束を解くな。』

 

『わかってるわかってる、テリーを信じて~。 流石にうちのプレス機でターミネーターラストのT-800ごっこはしないって。』

 

『……信じるぞ。』

 

 

「―――さっさと終わらせて帰らないと、ひなた達も帰ってくる頃だ。」

 

 

扉の前でAR-15とベネリM4を収納しているギターケースを開き、AR-15だけを取り出す。

 

横並びに弾倉(マガジン)が繋がっているダブルマガジンを取り付け、1つのマガジンを腰のホルダーに差し込み、ベネリM4残してケースを閉じる。

 

 

そして、耳と気配を頼りに、扉を蹴破って入り、眼前の一人、右の一人、階段を降りる途中の一人と銃口を向けて引き金を引く。

 

3ガンマッチで的に当てるように、狙った通りに、的で言う中央――――胸と腹の間辺りを、AR-15の5.56mm弾が穿つ。

 

秒速900mのそれは、急所に当てなくとも十分に致命傷を与えてくれていた。

 

「(―――おかしい。 俺が来ることを想定していたのなら、何故こんなにも相手の銃の扱いが()()()()()()んだ…………?)」

 

 

ダブルマガジンの片側が弾切れを起こしたAR-15からマガジンを引き抜きつつ、前から何故か拳銃を構えながら走ってきた女を前蹴りで床に倒し、落ち着いて交換してから薬室に弾薬を送り、倒れている女に撃ち込む。

 

「(どいつもこいつも明らかな素人。 ボディアーマーすら着けていない…………手練れを手元に置いて防御を固めて、ここでは素人を揃えて数で圧そうとしているのか。)」

 

 

警戒心を強めながら館の中を探索しながら、襲い来る敵を迎え撃つ。 キッチンを通り、廊下に出て、最後の一人らしき男を後ろから撃ち抜いた事で静かになった館内を歩く紅葉。

 

 

ふと、ギギギと木材の軋む音がした。

 

 

「――――ん。」

 

 

真横の部屋から聞こえてきた音の正体を確かめるべく、紅葉は5発程度しか残っていないダブルマガジンを捨て、ホルダーにある残りの1つを装填する。 そして勢いよく開いた扉を盾に、入ってすぐ横から順に室内のクリアリングを済ませた。

 

人の気配がしない書斎の壁に埋め込む形で備え付けられている本棚の一つに、紅葉の視線が向く。 まるでスパイ映画のワンシーンかのような、扉のような動きで本棚が動いている。

 

「(…………誘われている。)」

 

 

あからさま過ぎて疑う気すら起きないが、勇者と巫女を害する事を終わらせに来た以上は、乗らないという選択肢は存在しない。

 

紅葉は誘われるがまま、本棚という扉の奥にある、地下への階段を降りていった。

 

 

 

 

 

「――――柏崎、行ってこい。」

Хорошо(了解しました)。」

 

 

セミショートの黒髪に、髪と同色の革手袋。 それを両手に装着して、柏崎は地下施設の一番奥の部屋から出ながら握り具合を確かめる。

 

名も知らぬ男と精神を交換した時間の理解者(イースの偉大なる種族)

 

()()に仕え、人類の行く末に興味を示した事で行われるこのような実験を手伝い、死ぬことを前提とした戦いに身を投じ。

 

どうしてか、柏崎・E・ヴァレンタインは――――その行動に悦びを感じる。

 

「―――む。」

 

 

緩む口角をキツく締め、ギチ、と軋む革手袋の固さを感じ取る。

視界の端の監視カメラの先で暴れている紅葉は、ちょうど弾が切れたAR-15を『消耗品』の頭にフルスイングしていた。

 

「……少し、急ぎますか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅葉が行方不明になってから帰ってきてないだァ!?」

「叫ぶな……頭の傷に響く。」

 

「もがーっ!」

 

 

丸亀城の教室。 バットで殴られ亀裂の入った頭蓋骨の治療の為に、髪の一部を切り落とした三好は、それを隠すキャップを被って遠征から帰ってきた若葉達と話をしていた。

 

球子の吠えるような声が、三好の頭にキンと響く。 杏に口を塞がれる球子を他所に、若葉と千景が質疑応答を交わす。

 

「私たちが諏訪に向かって四国(ここ)を出るまで、紅葉は病院で三好さんと同じように寝ていたはずだ。 三好さんは気付かなかったのか?」

 

「俺はまだ気を失ってたんだよ、安芸なら止められたんだろうが…………いや、寧ろ手がかりを渡しちまったんだろうな。」

 

 

顔をしかめて、三好は腕を組む。 そして、小声を漏らして周囲を見回す。

 

「さっきまで連れが居た筈なんだが……あいつもしかして迷子か?」

「連れ?」

 

 

教室に居た若葉たちの元に三好が訪れたのだが、一緒に来ていた筈の相手が居ないことに、今になって気が付いた。

 

「……そういえば、高嶋さんも居ないわね。 さっきまで居たのだけど―――」

 

「ねーねー若葉ちゃーん」

 

「……噂をすればなんとやらだな。」

 

 

ひょっこりと、話題に出ていた友奈が廊下から教室に戻ってくる。

 

トイレにでも行っていたのか――――と思考した若葉の目線は、友奈が抱えている、球子と同等の背丈の少女に向けられた。

 

「なんか拾った」

「クゥーン……。」

 

「…………元の場所に戻してきなさい。」

「おい待て、そいつだそいつ。 俺の連れ。」

 

「……それが?」

「これが。」

 

 

千景が指を向け、三好が肯定する。 白衣の首根っこと背中を両手で掴んでいる友奈がパッと手を離し、三好の連れ――――鷲尾詩織が床に落ちた。

 

「あ、ごめん。」

「むごぉおお……!」

 

 

顔面を押さえながら立ち上がる鷲尾は、翡翠のような色の瞳に涙を滲ませて、友奈を一睨みしてから咳払いして三好の隣に立つ。

 

「おぉ……酷い目に遭った。」

「……どこに居たの、高嶋さん。」

「ちょっとトイレに教室出たら、この人が倒れてたから持ってきた。」

「……えぇ……。」

「引きこもり歴5年を舐めてもらっちゃ困る、体力なんてそこらの老人より無いからな。」

 

 

自慢するなよ……とは、球子の言葉か。

 

「……それで、この人はいったい何者なの?」

「こいつは鷲尾詩織。 廃れた鉄工所の跡取り娘で、俺の知り合いだ。 ついでに言うと俺や紅葉が持ってる銃器はこいつが造った。」

「まさか趣味で設計してるのを子供に使わせてるとは思わなかったけどね。 あの時は流石にキレたわ。」

 

 

わははは、と愉快そうに笑う鷲尾は一息ついてから続ける。

 

「勇者様方が知りたいのはもっさんの居場所だろうが、残念ながら私も知らん。

明け方に通り魔をふん縛って私の家に転がしたのが最後だから、あんまり遠くには行ってないと思うけど。」

 

「…………そいつ今どうしてる。」

 

「ここに来る少し前に、もっさんの知り合いらしい警察を呼んで捕まえさせた。 まあそれが原因でみよっしーと合流しないといけなくなったんだけど。」

 

「それまたどうして?」

 

 

首を傾げながら聞いてくる友奈に、頬を掻きながらも、あっけらかんとした態度で鷲尾は答えた。

 

「その警察に脱税と大量の銃器を違法に製作して所持してるの全部バレた。」

「お前アホだろ。」

 

 

暫く匿って? と提案する鷲尾の言葉をかわしながら罵倒する三好を他所に、友奈は頭に疑問符を浮かべて千景に問う。

 

「『だつぜー』ってなに?」

「……ええ、と……。 分かりやすく言うと、お金を国に定期的に支払わないといけないのに、それをずっとしないでいる事を脱税と言うの。」

「―――悪いことじゃん?」

「……そうよ。」

 

 

呆れた顔で、千景は鷲尾を見やる。

 

その横で苦笑を溢す若葉は、懐のスマホが振動するのに気付いた。 遠征から戻ってすぐ大社本部に向かったひなたからの電話だと分かり、着信に出る。

 

「もしも―――『若葉ちゃん! 紅葉さんの居場所をある程度絞り込めました!』……ひなた、何を慌てて――――。」

 

 

電話口の奥から聞こえてくる喧騒。 若葉の耳に届いてくるのは、女性神官とひなたの怒声混じりの話し声。 声が遠くなる代わりに、安芸真鈴が電話口に出てきた。

 

「ひなた? ……おい、ひなた?」

『あーーーもしもし? ごめんね若葉、ひなたってば、もっさんの居場所を探ろうと勝手に神樹様に神託を迫っててさ。』

「神託を私用で!? な、なんて無茶を……。」

 

 

若葉が声を荒げ、それを見たその場の全員がそちらを見る。 若葉は、耳に当てていたスマホをスピーカーにして机に置いた。

 

『……でも案外どうにかなるんだね、ひなた曰く山中の建物が見えたんだって。 神樹様も協力的で、意外だよね。』

「…………なんでだろうねぇ?」

 

 

真鈴の言葉に、小声でそう言いながら、友奈は頬に汗を垂らした。 目を逸らした先には三好と鷲尾が居たため、目線が上に向く。

 

『とにかく、私はひなたを叱っておくからそっちで調べておいてもらえる? ……なんかさっきから、ひなたがさ、もっさんが危ないってずーっと言っててちょっと怖いんだよね。』

 

「ああ、任せてくれ。」

「……にしても、四国の山なんてそこら中にあるだろ、どうすんだ?」

「もっさんがみよっしーに通り魔した犯人捕まえて私の家の前に転がしたのが明け方だから、そんな遠くの山には行けないだろうよ。」

 

「通り魔する……?」

「動詞にするな。」

 

「あまり遠くには行っていなくて、四国の中で、山中の建物…………。」

「ここから近いところっつったら……徳島の方か?」

 

 

あれやこれやと話をし合う若葉たち。 だが、ぞわりと何かが、友奈の頬を撫でた。

 

「――――あ。」

「……高嶋さん?」

「みんな伏せた方が――――」

 

 

 

言い切る前に、遠くからドンッと巨大な空気砲でも打ち出したような轟音が響く。 数拍遅れて、衝撃が丸亀城を揺さぶった。

 

地震に近い揺れが丸亀城の教室に居る七人を襲い、球子と杏が尻餅を突き、三好が鷲尾を猫のように掴み上げ、若葉と千景は踏みとどまる。

 

 

友奈だけが机に手を置いて倒れないようにしている裏で、密かに神樹から送られる情報に、友奈の脳は混乱を極めていた。

 

「(……徳島の山中で爆発!? しかも爆風と炎が下水道に流れてマンホールがあちこちで吹き飛んでるって…………紅葉くんなにしてんの!?)」

 

 

四国全土を知り尽くした神樹からの、ひなたへの緊急メッセージ。

 

確かに、危ないとは言った。 言ったが、それが直後の出来事だとは言われていない。

 

 

結局、危険だと言うことで紅葉の捜索は後日に回されたのだが――――――ようやく見付けた館の外と中は、木っ端微塵に吹き飛んでいて。

 

 

 

 

 

――――紅葉の指紋がついたマガジンの一部が発見された以外で、紅葉の生存を匂わせる証拠は何一つ見つからなかった。

 

 






どうせ未来編がある以上死ぬことはないでしょ、となるせいで、行方不明的な描写が茶番になるのは不味いですね。 当初の予定通り過去編から先に書くべきだった。

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