【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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前任者は破壊されました。私は新型です


拾捌・追善供養

『今回の騒動における事の発端は、勇者五名及び巫女一名による長野県 諏訪への遠征が発表されたのち、大社の一人が襲撃に遭ったことが切っ掛けであった。犯人である反勇者派──現状に不満を抱く者達を集めた組織を匿名の協力者により銃器を確保した私は撲滅のために行動、少なくとも三十名を超える反勇者派の殺害に成功。

 しかし、黒幕というべき存在は自身をイス人──この世界の人間の体を借りている異星人を名乗っていた。発言の内容は殆ど理解不能だったが、恐らく、この世界には、『人間』と『バーテックス』以外にも、脅威となる生命体が複数存在する可能性を考慮しなくてはならないだろう』

 

 ──タン、とキーボードを指で叩く動作を終わらせた青年は、画面の文章を読み直すと、悩ましげに額を手のひらで覆って呟いた。

 

「……いったいどこの三流小説だ。こんな物を読まれたら、次は頭の病院に入れられる」

 

 ちらりと時計を見て、重くため息をつき──先人紅葉はノートパソコンを畳むと、部屋を出るべく席を立つ。ワイシャツに着替えて裾をスラックスに仕舞い、腰のベルトにホルスターをぶら下げ、そこに拳銃を入れて、ハンガーラックに掛けていた防弾コートを手に取ろうとし──その手を止め、おもむろに下ろした。

 

「──いかんな、癖になっている」

 

 反勇者派の殆どが居なくなった以上、自分や周りを狙おうなどとは考えまい。と、そう考えて、コートは着込まずに外へと出て行く。

 それでも拳銃を手放すことは出来ない程度には、この世界は物騒であった。

 

 

 

 

 

 ──ガラリと教室として使われている丸亀城の一室の扉をスライドさせた紅葉は、中に居た六人の少女らの視線を一身に浴びる。

 

「あっ、紅葉くん。骨が砕けて内臓が負傷して火傷して入院してたんじゃなかったっけ」

「病院なら昨日退院した」

「へぇ~、もう治ったんだ」

 

 とっとっとっ、とステップを踏むように近づいてきた少女──高嶋友奈の問いに答える。

 その後ろから接近してきた小柄な少女──土居球子が呆れた顔を作り友奈に続き口を開く。

 

「あいっ変わらずイカれた回復力だな」

「この程度は寝て飯食って点滴打てば治る」

「ば、バケモノ…………うごごごぉ!?」

 

 ()()()()()()怪我が治りやすい体をしている紅葉に心底引いた顔をする球子に、当の本人がアイアンクローを食らわせつつ、ふと教室での集まりに疑問を覚えて聞き返した。

 

「……それで、これはなんの集まりなんだ」

「あ──……、……。なんだっけ?」

 

 ちらりと、友奈は教壇の前に立つ少女──若葉を見る。視線を受けた彼女は、友奈と紅葉、紅葉のアイアンクローで床から足が離れている球子を視界に納めつつ口を開いた。

 

「さっき話しただろう……ああ、紅葉さんは居なかったのだな。

 我々で丸亀城の敷地内で模擬戦のレクリエーションをしようという話になっていたんだ」

 

 そう言ってルールを話す若葉に相槌を打ちながら、紅葉が言葉を返す。

 

「どの辺りがレクリエーションなのかは知らんが、まあ……それで気分転換になるのなら別にいいんじゃないか」

「…………そうだな」

 

 若葉は紅葉の返しに表情を暗くする。

 紅葉が戦っていた裏で行われた勇者たちの諏訪遠征は、果たして生存者0人。すなわち、神樹の守護下にある四国以外の人類の生存は絶望的であるという結果を生んでいた。

 

 だが、必要以上に──()()反勇者派が現れでもしたら困ると言わんばかりに、大社はその事実を隠蔽。諏訪遠征は成功し、人類には希望がある……()()()()()()()()()()

 

「なら……俺も参加しよう」

「まあ、駄目ではないが……大丈夫なのか?」

「療養生活で体が凝ってるからな。寧ろリハビリがてら動いた方がいい」

「む、そうか」

 

 断る理由もないか、と考える若葉は周りを見回して目配せで友奈たちの了承を得る。

 

「とはいえ拳銃(こいつ)は使えないし……素手で問題ないか。これぐらいの()()()は要るだろ」

「────なんだって?」

 

 ──ふと、何気ない紅葉の一言に、若葉の中で何かがカチンと音を立てた。

 

「俺がゴム弾を持ち出したら誰も勝てないだろ。そもそも、誰が友奈に格闘技教えたと思ってるんだ? 俺と三好(あいつ)だぞ」

 

「──ふ、ふふ。はっはっは、そうかそうか。ハンデか。はっはっは」

 

 ──はっはっは、はっはっはっは。と、渇いた笑い声を上げる若葉を、その場の全員が不気味そうに数歩後退りしながら眺めていた。

 

 

 

 

 

 ──地響きでも鳴っているかのような足音を奏でて、乃木若葉は郡千景を連れて敷地内を走っていた。腰には居合用の木刀が収まっている。

 

「紅葉さんは何処へ行った…………ッ!!」

「(これ以上なく的確に挑発が効いている)」

 

 額に青筋を浮かべ、大股でズンズン進む若葉に、千景は一歩後ろから追従する。

 ──ここまで挑発に乗りやすい人だったかしら、という疑問が脳裏に浮かんだが、その思考は眼前に現れた件の男を前にして霧散した。

 

「……遅かったな。ついさっき球子を向こうの茂みに投げたところだ」

「球子が? ……なんだ、遠くから声が」

 

 紅葉が指差した方に視線を向けた若葉と千景は、木々の揺れる音の奥から聞こえてきた──土居球子の叫び声を耳にする。

 

 ──あっ! タマちゃん見ーっけ! 

 ──ぎゃああああ来るんじゃねええええ!! 

 

 

「……さて、やるか」

「む、むごい……」

「高嶋さん……」

 

 それはそれとして、紅葉はバンテージで保護した腕から手をカバーするグローブを締め直し、若葉と千景も刀と大鎌の模造品を構える。

 バトルロワイヤル形式とはいえ、紅葉の相手は一人だと手に余る──という判断で共闘することにした二人だが、曲がりなりにも()()高嶋友奈の組手を任されている事の厄介さを、これでもかと知ることになる。

 

 

 

 ──紅葉は刃引きされた殆どオモチャと変わらない刀と大鎌に躊躇いなく肉薄する。

 刃の側面に手刀や拳をぶつけて振りかぶる二人の軌道から逃れながら、相手の負けとなるクリーンヒットを狙い腕を引く──と見せかけて若葉の眼前で指を鳴らす。

 

「──っ」

 

 続けて外から鎌で草を刈るような軌道で足を払い、横合いから二人ごと巻き込む勢いで振るわれた横振りのそれを掬い上げるように肘打ちで斜め上に逸らして、その下をくぐり抜ける。

 

 とっとっ、とステップを踏んで下がる紅葉を前に、立ち上がる若葉と大鎌を構え直す千景はジャージの袖で顔の汗を拭った。

 

「友奈が俺に師事したのは事実だが、俺自身が格闘技に精通しているわけではない。この三年で自分でも学んで覚えて、それを友奈に教えていたわけだが……言っておくと、俺はあいつとは別に対刃物用の護身術も学んでいる」

 

 ──対ナイフ、鉈、斧、果ては刀から大鎌まで。()()()()()()()、という神経質な発想で無力の立場からここまで登り詰めてきた紅葉に、二人はすっ……と思考を冷まして相対する。

 

「……成る程な、これは一筋縄では行かなそうだ。千景、合わせられるか?」

「ええ……仮にも一般人を相手にして負けたりしたら勇者の名折れよ」

「……いや、仮ではないんだが」

「お前のような一般人が居るか──ッ!!」

 

 冷静、一転、噴火。

 突貫した若葉とそれに着いて行く千景は、紅葉と真正面からぶつかり合う。

 

 己の実力の限界を見極め、高め合う、さながら因縁の好敵手が如く────! 

 

 

 

 

 

 

 

 ──それで、結局どうなったんですか? 

 

 眼前で行われている寸劇を眺める紅葉に、その隣で同じように眺めていた少女──上里ひなたがそんな質問を飛ばしていた。

 

「なんとか若葉と千景に勝ったのはいいが、俺が弾き飛ばした若葉の木刀が球子に勝って茂みから出てきた友奈の顔面に直撃。残った俺と杏のうち、最後に杏が勝った」

 

「……ふふ、本当に?」

 

 勝者となった杏主催の、恋愛小説の再現である寸劇。意外にもノリノリで演じる男子役の若葉と友奈の演技に翻弄されているヒロイン役の球子を見ながら紅葉は呟く。

 

「俺が勝ち残って勇者共の尻をスポンジバットでひっぱたいても良かったが、それは別の機会でも出来るからな。……降参しただけだ」

 

「あら、お優しい」

 

 くすくすと上品に笑うひなたの横で、紅葉は渋い顔のまま腰の拳銃のグリップを撫でた。それにしても──と続けて、ひなたは言う。

 

「なんというか、丸くなりましたね。紅葉さん」

「──撃たれて殴られて爆発に巻き込まれて、何ヵ所も骨が砕けて内臓を負傷すれば、人間誰しも、嫌でも丸くなるものだろう」

「……聞けば聞くほど、壮絶ですね」

 

 14歳のひなたと、18歳の紅葉。4歳差の間に生じる、お互いの使命の重さ。()()を口で語るには、あまりにも重苦しかった。

 

「ただ、自分のやったことを後悔するつもりも余裕も無いからな。そんなものは、この戦いが終わってから飽きるほどすればいい」

「──なんの話してるの?」

「あら、友奈さん。いえ、紅葉さんが丸くなったなあ、というお話ですよ」

「あー……角が取れるってやつ? ほら、紅葉くん何回か骨折してるし」

「物理的な意味じゃねえよ」

 

 ひょこりと顔を出した友奈のボケか天然かいまいち判断に苦しむ言葉に指摘をしつつ、紅葉は杏たち制作の卒業証書を手渡されている千景を、眩しいものを見るようにしてまぶたを細める。

 

 それから若葉に視線を移して、数時間前までの行動を思い返して独りごちた。

 

「──嫌な予感は、もう懲り懲りなんだがな」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()ほどに短気だったか、という疑問が、脳裏に過って思考の海に流れて行く。勇者、使命、切り札、神託。──ほんの些細な平和な時間が、終わってしまう。

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