【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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本編が完結した直後にこれだよ。




祝福 犬吠埼樹の料理教室である

 

 

 

部室に到着した俺が最初に見たのは、机を取り囲む勇者部部員達の姿だった。

 

 

何事かと思って近付くと、机の上には何かが置かれているのが分かる。

 

「……なにこれ。」

「あー紅葉くん、やっほ」

「やっほー。 で、雪花よ、これなに。」

 

 

机に置かれていたのは、紫色の小さな物体の集合体。 うわちょっとなんか蠢いてるんですけど。

 

「……え、なにこれ。」

「えーっと、うん。 樹ちゃんのクッキー。」

 

 

気まずそうに目を逸らしながら、雪花は謎の物質を指差してそう言った。

 

……あいつとうとう錬金術覚えたの?

 

「クッキーは普通蠢かないんですけど。」

「私もさっきまでそう思ってたにゃあ。」

 

 

机を取り囲んで立っている雪花達は、神妙な顔でクッキー(?)を見ていた。 どうやら扱いに困っているらしいが…………。

 

直後、歌野が棗の後ろから顔を覗かせて言う。

 

「もう食べたことにして捨てたら?」

「ば、馬鹿野郎! うちの樹のクッキーよ!?」

「じゃあ姉として貴女が全部食べてよ、私まだ死にたくないし。」

「…………ば、馬鹿野郎……っ!」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔で、風は歌野に噛みつく。 あまり迫力が無いが、妹の作ったものを無下には出来ないのはまあ仕方がないのだろう。

 

だが、それはクッキーではない。 直感が囁くのだ、『これ食ったら流石に死ぬぞ』と。

 

「ぶっちゃけ捨てても独りでに動き出しそうだし増殖しそうではある。 というかこれを錬金術で創り出した張本人はどこ行った。」

 

「……弥勒さんと紅茶を淹れに家庭科室よ。」

 

 

そう言ってゲームの画面から目を逸らさない千景は、我関せずな態度で部室の隅っこに座っていた。 その横には高嶋の友奈が座って画面を覗いている。

 

千景はともかく友奈は人間じゃないんだからあれ食っても死にはしないだろ、手伝えこの野郎。

 

「…………仕方ない、あいつらが戻る前に俺は逃げ――――。」

 

 

―――るぞ、と続けようと振り返ったら、それはもう良い笑顔で樹が夕海子と一緒に紅茶の入ったカップをトレーに乗せて入口に立っていた。

 

 

「お待たせしましたー!」

 

 

まるで死刑宣告みたいだぁ……。

 

樹の後ろに居た夕海子が、俺を見付けると声を掛けてくる。

 

 

「あら紅葉さん、来ていたのですのね。」

「これから帰ろうと思ってるけどね。」

「えーっ、紅葉さんも私の作ったクッキー食べましょうよ~。」

 

 

死ねと申すか。

 

 

 

 

 

…………誰も逃れられないまま、俺たちはクッキーを食べなければならなくなった。 渡された紅茶が普通に旨い事だけが救いなのだが……。

 

互いに視線だけで『先に食え』と牽制し合っている傍らで夕海子がストンと俺の隣に座る。 すいません出口側陣取って塞がないでくれませんかね。

 

「それで、食べませんの?」

「お前正気か。」

「口に入ればなんだって一緒でしょうに。」

「そこまで言うならオメーが食えよ。」

「レディーファーストの時代は古くってよ。」

 

 

しれっとした顔で、夕海子は無駄に優雅に紅茶を飲む。 この野郎……!

 

――――仕方ない。

 

 

「俺も男だ……地球外の物質で出来てるクッキーだろうが関係ねぇ……っ!」

「いえ、普通のクッキーなんですが。」

 

 

樹の目にはこの……核廃棄物が可愛く見える謎の物体が普通のクッキーに見えるらしい。

 

俺が生きてたら眼科行こうな。

 

 

…………ええい、南無三ッ!!

 

 

クッキーを一枚つまんで、口に放り込む。

 

――――奥歯で噛み砕こうとした瞬間感じた歯応えは、文字にすると『ゴリッ』だった。 クッキーのしていい硬度ではない。

 

 

「(えっ、ちょっ、噛み砕けねえ……というか色が紫なのになんで炭っぽい味がする…………あ、エッグチョコみたいに中身が出てき――――――。)」

 

 

舌にドロリとした中身が触れ、味覚がその中身を何味かと判別しようとした刹那、脳に響く鈍痛のような衝撃と共に、俺は口からゲル状のよく分からない液体を噴き出しながら意識を強制的にシャットダウンした。

 

 

「―――――ウヴォロッ」

「紅葉ーーーーーっ!?」

 

 

対面に居た歌野の叫び声を最後に、視界が黒く塗り潰された。 ……これ訴えたら勝てますよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……帰りたい。」

「それは恐らく私の台詞かと。」

 

 

ゲル噴出事件から数日、俺は樹の料理の上達の為に監視兼試食係を任されていた。

 

俺だけだと間違いなく今度こそ死にかねなかったので、行きずりに誰か引っ張っていこうかと検討していたら、目の前を歩く上級生の姿があったのだ。

 

「それで、私は何をすれば良いのですかねぇ?」

「俺と一緒に……地獄に行こうや。」

「えぇ…………嫌ですよ。」

 

 

それがこいつ、小鳥遊ヒビキである。 ぶっちゃけ勇者部以外の知り合いこいつくらいなんだもん仕方ないじゃん。

 

「今回はうちの料理下手の実験台だからな。 分かりやすく言うと、俺たちは生け贄だ。」

「うわぁ、最早オブラートに包む努力を放棄しましたね。 と言うか私よりも頑丈そうな方なんて勇者部に幾らでも…………あっ、ふーん。」

 

 

なんだよ。

 

お前今何を察したんだよ。

 

「誰も……付き合ってくれなかったんですねぇ……。 すいません純粋な同情が。」

「ぶっとばすぞ。」

 

 

糸目の裏でそれはさぞかし可哀想なモノを見る目を向けているのだろうヒビキ。

 

家庭科室の無機質な空間の中で樹を待ちながらの会話は、ストレスを極めていた。

 

基本的に受け身の姿勢で会話を聞くタイプだろうし、そもそも交流が長くないからわからなかったが、こいつ相当煽り力高いぞ…………?

 

 

 

うっかり手が出る前に落ち着こうと家庭科室をうろつく。 ふと目に入った包丁をケースから出すと、刀身が新品のように磨かれていた。

 

「あ、それ私が趣味で磨いたものですね。」

「怒られるぞ。」

「バレたことは無いし、どうやら七不思議の妖怪扱いされてるみたいでして。」

「そう…………。」

 

 

マジでなんなんだよこいつ。

 

そうしてブラブラと時間を潰していると、扉をスライドさせて材料を抱えた樹が入ってきた。

 

「お、お待たせしました!」

「中止にしても良いんだぞ。」

「いえいえそう言うわけにもいかないですよ、料理を上手くならないと!」

「上昇志向があるなら十分でしょう、本日はよろしく。」

「はい! …………えっと?」

 

 

樹はハロウィンの時にちらっと見た程度だったヒビキを見て首を傾げる。

 

ほぼ初対面みたいなもんだからな。

 

「ああ……小鳥遊ヒビキです。 おにーさんに頼まれて試食係を一緒にするので、まあ、よろしくお願いします。 期待してますよ。」

 

 

それはどういう意味だコラ。

 

ともあれ始まった料理上達会。 取り敢えず簡単なかけうどんを作らせる事となって、俺とヒビキで適宜観察しながら調理している樹を見ていた。

 

 

 

…………ちゃんと監視していた筈だったのだが。

 

 

「出来ました! 渾身のかけうどんです!」

 

「なんですこれ。」

「普通はそうなるよな。」

 

 

監視していた。 レシピも確認した。 調理行程も見た。 だと言うのに、俺とヒビキの眼前に置かれたかけうどんは、何故か紫色をしている。

 

出汁もうどんも、おまけについでとばかりにネギも変色している。 どういう事なの……?

 

「……帰って良いですか。」

「駄目に決まってるだろ腹括れ。」

 

 

ニコニコしながらこっちを見てくる樹の純粋オーラが眩しく、逃げようとするヒビキをとっ捕まえて割り箸を持たせる。

 

観念したようにパキッと割り箸を割って皿に突っ込むヒビキに習って俺も入れると、硬いスライムを掴んだような変な感触がした。

 

「え、こわっ」

「死んだら恨みますよ。」

「…………南無三。」

 

 

でゅるっ、とおおよそうどんを啜った時に出る音じゃない音を奏でて、俺たちはうどん(?)を啜る。 ゲルクッキーのような鋼鉄の硬度を持ってるわけではないようで、普通に噛める。 普通に噛めるだけでなんか感動してきた。

 

で、問題の味は――――――普通にうどん。 極々普通にかけうどんだった。

 

 

………………えぇ……?

 

「味覚と視覚の情報が噛み合わなくて脳が混乱してきたのですが、おにーさん?」

「俺としてもこの間クッキー食ってゲル状の液体吐いてぶっ倒れたからなぁ。」

「遠回しに私の事殺そうとしてません?」

 

 

まさかぁ。

 

脳が混乱したままうどん(?)を啜り続け、食べ終わる。 樹の料理はどういう力からこうなるのかが全くわからないし、事実俺一回くたばりそうになったし、放っておくのは危険なのだろうが……こうして普通に食えるなら応相談か。

 

 

「これからに期待だな。」

「もうこういう用事で私を呼ばないでくださいよ。 目がチカチカしてきました。」

「あぁ……今度なんか奢ってやるよ。」

「どうも。」

 

 

互いに体への異常が見られず、特に問題なく解散する。

 

「どうでした? 紅葉さん。」

「んー、そこそこ。」

 

えーっ! といい膨れっ面を見せる樹を横に、俺は廊下を歩いて部室に向かう。

 

 

 

 

――――ちなみに件のクッキーだが、あれはゴミ袋に詰めてセメントで固めて海に沈めておいた。

 

あれは人が食べて良いモノではない。

 

 

だから仕方ないのだ。 そう結論付けて、部室の鞄を取って俺は帰路に着いた。

 

その後突如として意識が途切れ、目が覚めたら翌日の午後で床に倒れていたのは――――恐らくうどんのせいなのだろう。

 

……だってヒビキが体調崩して寝込んでるらしいし。 当然なのだが、実害が出たので樹には料理禁止令が出た。

 

 







ヒビキ
・何かと話の展開に利用するのに都合が良い常連客。 今回ばかりはただの被害者。 生け贄1号。 うどん食ったあと3日寝込んだ。

紅葉
・生け贄2号。
うどんを食ったらぶっ倒れて学校に遅刻した。


・何故かレシピ通りに普通に作っても最後には指パッチン紫芋宇宙ゴリラみたいな色の料理になる。 とうとう実害が発生したので料理禁止令を言い渡された。



謎クッキー
・色は紫で硬度は鉄と同等。 何故か口の熱で表面が溶け中からよくわからない液体が出てくる。 本人曰く『レシピ通りに作った』とのこと。
尚味を認識する前によくわからない衝撃が脳を刺激して食った相手は倒れる模様。
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