【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

16 / 138


今年最後の更新&100話達成記念&メインヒーロー誕生日祝いを同時に達成したのは単なる偶然ですが、もしかしたら必然だったのかもしれない。




祝福 白鳥歌野は幼馴染である

 

 

 

「何故私が怒っているか、分かるだろう?」

「なんのことだか……。」

 

放課後になって早々、部室で正座をさせられている俺の前で若葉が仁王立ちしていた。

 

その横に椅子に座っているひなたは、膝に赤い蓋の瓶を乗せていた。 その中で琥珀色の液体がちゃぷちゃぷと揺れている。

 

 

あー、見つけちゃったかぁ……。

若葉は瓶を指差してから、額に青筋を浮かべながら俺に聞いてきた。

 

「これは、なんだ。」

「見りゃわかるでしょ、梅をアレするアレよ。」

「堂々と部室で梅酒を作るんじゃない! 馬鹿かお前は!?」

 

 

誰が馬鹿だ。

 

べちべち瓶の蓋を叩きながらウガーと怒る若葉の怒声を適当に聞き流しつつ、ひなたの膝の上にある瓶の中身の色合いを見て熟成具合を確かめる。

 

「というか若馬(わかば)鹿。」

「誰が馬鹿だ!」

「それ梅酒じゃなくて梅シロップだからね。 酒は入れずに梅と氷砂糖だけで作るやつ。」

「……なにぃ?」

「子供が入り浸る所でアルコールなんか使わねえよ。」

「ま、紛らわしい…………。」

 

 

梅シロップはなぁ……夏場に炭酸水で割ると旨いんだよね。 正座を解いて立ち上がると、若葉は質問を変えてきた。

 

「じゃあ、梅酒は作っていないんだな?」

「おう。 そういうのは自室でゆったりやるもんだからな―――――あ、やべっ」

 

 

咄嗟に口を閉じるも時既に遅し。 落ち着きかけていた若葉の額の青筋はさっきよりもビキビキに浮かび上がり、口の端が怒りから痙攣している。

 

「いや待て、自室でやってるだけだし、そもそも半年前からやってることだし。 迷惑は掛けてないんだから良いだろ? なあひなた。」

「え、そこで私に振るんですか?」

「耳を貸すなよひなた。 中身がアレとはいえ、免許もない未成年の酒造は密造と代わらん。」

 

 

まあ、ごもっともです。 大赦の権限でその辺りを見逃してもらってる――――というか造ったやつの幾つかはこっそり渡してるからね。

 

賄賂? なんのことだか……。

 

「この後は居合の打ち込みでもしようかと思ったが予定を変えよう。 お前の部屋の梅酒を全て処分させてもらう…………お前の事だ、梅酒以外の酒も隠してるだろ。」

「強行手段に出たなこの野郎……! ひなた、ヘルプ!」

「うーん……紅葉さんの味方はしたいのですが、こればかりは紅葉さんが悪いと思いますよ?」

 

 

ああん、味方が居ない。

 

……仕方ない、これはやりたくなかったが、半年漬けた梅酒を処分されるのは困るからな。

 

「………………ひなた、俺がさっきまで使ってたネックウォーマーをあげよう。」

「若葉ちゃん、人の趣味にケチを付けるのはいけませんよ!」

「買収されるんじゃない! しっかりしろ!」

 

 

鞄から取り出したメンズのネックウォーマーを取り出してひなたの首に通すと、ひなたはあっさりと若葉からこちらに手の平を返した。

 

悪いな若葉、こいつが変態になってきてるのだけは間違いなく俺のせいだ。

 

ひなたから瓶を取り返して机に置くと、その横でひなたはネックウォーマーに顔を埋めている。

 

頭が痛そうな若葉の顔があまりにも悲痛だったのを、俺はきっと忘れることはないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梅酒密造事件から数日、誕生日を控えていた歌野は若葉たちに何が欲しいか、して貰いたいかを聞かれていた。

 

俺に関しては若葉を見るとなんか物凄い殺意の籠った眼光でメンチ切られるから顔を合わせないようにしている。

 

「誕生日? ああ、そう言えばもう年末ね。 欲しいものは特にないけどして貰いたいことなら一個だけあるわよ。」

「なんだ? 言ってみてくれ。」

「年越しそばを食べろ。」

「…………は?」

 

 

歌野の言葉に、若葉は一泊置いて返した。

 

「いや、『は?』じゃないわよ。 大晦日の年越しと言ったら普通そばでしょ、なによ年越しうどんって。 四国人ってみんなこんなな訳?」

 

 

そういえば去年の大晦日にそば食べたの俺とお前と水都だけだったな。 あと四国人の誰しもが必ずうどんを食べてる訳じゃないからね、しずくは年越し徳島ラーメンだし夕海子は年越しかつおのたたきだし。

 

徳島ラーメンはまだしも年越しかつおのたたきってなんですか。

 

「しかしだな、我々はうどん派なのだからいくら大晦日だからってそばを食べるわけには――――「誕生日。」

 

 

若葉の言い分を一声で黙らせ、歌野は続けた。

 

「私、誕生日なんだけど……ねぇ?」

「うぐっ……。」

「誕生日のお願いも聞けないなんて…………それでも乃木の人間なのかしら?」

「…………ぐぬぬぬぬ……!!」

 

 

めちゃくちゃ不満そうに歯ぎしりするが、ここで歌野のお願いを拒否するほど若葉はうどん狂いではない。 今回は若葉の敗けだ。

 

「――――仕方ない。 今回の我々はそばを食べよう、歌野の誕生日だからな。 歌野の、誕生日だからな!!」

 

 

なんで二回言った。

 

修羅にでも堕ちそうな殺意をこっちに向けながら言い放つ若葉。 あーこれ間違いなく後で鍛練に付き合わされますね間違いない。

 

ともあれ年越しに食べるのはそばと決まったので、買い物に行かねばならない。 というか俺は若葉から逃げなければならない。

 

「よし、そば買いに行くか。 今なら何処に行っても余ってるだろうし。」

「そこが香川の悲しいところね。」

 

 

特にうどん派と言う訳でもないメンツで買いに行こうと思い、歌野は当然としてしずくと夕海子、あとは雪花と棗でも連れていこうかと思ったのだが。

 

「…………あれ、棗居なくね?」

「あぁ……棗さんならあそこ。」

 

 

雪花が指差した方を見ると、エアコンの暖房を苦手としている奴等の為に設置された灯油ストーブの前を陣取ってピクリとも動かない棗の石像があった。

 

「おおん……あの寒がりめ。 おいこら棗、服にホッカイロ貼って良いから外行くぞ――――――し、死んでる…………!?」

 

 

体育座りでストーブの熱を浴びている棗の肩を叩くと、棗はそのままの体勢で横に倒れた。 それでもストーブから目を離さない。

 

……怖いんですけど。

 

「寒い。」

「でしょうね。」

「どうするのさ、紅葉くん。」

「置いていこう、この戦いには着いてこれそうにない。」

「えぇ……。」

 

 

哀愁すら感じさせる背中を見ながら、俺たちは部室を後にした。 今度水虎のデザインの着ぐるみパジャマでも作ってやるからな。

 

 

 

 

 

俺たちが部室から出たあと、残った若葉は棗に聞いていた。

 

「所で、棗も年越しは沖縄そばなのか?」

「……ああ。 そうだな。」

「そうか……ちなみに沖縄そばは名前は『そば』だが原料的な意味で言えばうどんと変わらないらしいぞ。」

「…………二重スパイのようだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜、丑三つ時。 拷問を受けた女騎士のような怨めしい顔のままそばを食べる若葉の顔を写真に納めたらガチのビンタを食らって首がもげそうになったのも少し前の話。

 

 

両手いっぱいに荷物を抱えて、俺はひたひたとスリッパを履いて廊下を歩いていた。

 

部屋には当然のようにひなたと銀が来ていたが、俺を抱き枕にしていたひなたに銀を捧げておいたからバレることはないだろう。 銀が胸で窒息しかけてたけどまあ、うん、役得だよね。

 

「お待ちどう。」

「遅い。 人に談話室まで来るように言っておきながら十分も待たせるって貴方ねぇ。」

「準備してたのとうるさくすると二人が起きちゃうから急げなかったんだよ。」

 

 

ソファに座って手を擦り合わせている歌野。

 

一人だけの時に暖房を点けるのもアレだろうと考えるのは仕方がない、と考え、テーブルに持ってきた荷物を広げる。

 

「なにその……瓶とケトル。」

「はいコップ。」

「ああはい。」

 

 

グラスを渡して既に水の入った電気ケトルのコードをコンセントにぶっ刺し、沸くのを待つ。

 

「それ梅酒よね、若葉が文句言ってたわよ。」

「ケチと言うか頑固と言うか、良くも悪くもあいつはお堅いからな。」

「…………梅酒、か。」

 

 

机に肘を突いて、歌野は腕を枕にしながら瓶の中で揺れる梅を眺めている。

 

「この梅何時に仕入れたものなの?」

「あー、半年前に山奥の爺さんが薪作りを頼んできただろ。」

「……あったわね、そんなこと。」

「その時のお礼で貰った。」

 

「勇者部は物を貰うのは禁止されてなかったっけ。」

「だからその時は断って、後日改めて俺が個人的に受け取ったんだよ。」

 

 

凄い顔された。

 

だって薪作るのに斧振り回したの俺だけなんだもん。

 

 

そんな事を言っていると、カチンと音がしてケトルが沸騰を知らせてきた。 ケトルのお湯をグラスに注いでから、梅酒の瓶の蓋を開けて中身を注ぐ。

 

トクトクと音がして、湯気に混じって梅の香りが談話室にじんわりと広がった。

 

「はい、半年熟成梅酒。」

「お湯割りとはまた、良いチョイスね。」

 

 

グラスを傾けるように回して、一口。 喉から胃まで、内側から温かくなるのが分かる。

 

「――――はぁ……。」

「チータラか空豆でも持ってくれば良かったな、それかイカ。」

「いいわよ別に、これだけで充分。」

 

 

ほんのりと頬を朱色に染めて、歌野はゆったりとした動きでグラスの梅酒を呷った。

 

「……似てるわ、椛さんの作った時のアレと。」

「――――ああ、母さん、居たんだったな。」

「ええ。 あの時の梅酒と、貴方の梅酒は味が似ている…………気がする。」

 

 

曖昧だな、と言うと、歌野は酔いが回ってきたのかいつもよりも柔らかく表情を崩しながら言う。

 

「だって昔の事だもの。 それで良いのよ、あの人の味も、貴方の味も知れたのだから。」

「……そういうものか。」

 

 

そういうものよ。

 

そう言って、歌野はグラスの残りを飲み干した。

 

「さてもう一杯……といきたいけど、これ以上は明日に障るからもう寝るわ。」

「ああ。」

 

 

ケトルのコードを抜き、俺は二杯目のお湯割りを作る。

 

「貴方はまだ居るの?」

「お湯が無くなるまで、な。」

「……じゃあ、貴方が呑み終わるまではいるわね。」

「帰らないのか?」

「なんか、今の貴方を一人にしたら翌日消えてそう。」

 

 

そんな放浪癖はねえよ。

 

そうなの?

 

そうだよ。

 

 

といった問答を続けていたのは、限界が来た歌野が俺の肩を枕に寝入った頃までだった。

 

四杯は呑んだし、充分だろう。

 

 

ケトルと瓶とグラスは後で片付けるとして、一先ず歌野を部屋に送った方が良いか。

 

横向きに抱き上げた歌野が落ちないようにしつつ、俺は歌野の部屋の扉をどうにか叩く。

 

 

遅れて扉を開いたのは、爛々とした顔つきの水都だった。 目をシイタケにしながら興奮気味に顔を赤くして爆睡している歌野を見てくる。

 

「はーい酔い潰れた歌野一人前お待ちどうさまでーす。 お代は結構なのでお受け取りくださーい。」

「待ってました」

 

 

俺から歌野を受けとると、水都は大事そうに体を預けてくる歌野を抱えて部屋の奥に消えた。

 

…………世は全てこともなし。

 

 

 

 

年明けの寒気を感じつつ、俺は談話室へと戻っていった。 戻ったら部屋で寝ているひなたと銀と三人で川の字になって眠るのだが、中々どうして心地が良い。 クセになってやめられない。

 

やっぱり五杯目を呑もうと思いながら談話室に向かう俺の足取りは、思いの外軽かった。

 

 






我が家の年越しは親の実家の沖縄から届いた沖縄そばなので、うどん派とそば派の両方から袋叩きにされそうです。 あと私は未成年です、リアルでの未成年飲酒は……やめようね!



若馬鹿ちゃん
・馬鹿と言っても城戸真司タイプ。 愛される猪突猛進型。 昔の紅葉の狂暴さを知ってるから警戒してたが、梅酒を密造するアホになってたから警戒度を下げた。 くっころ顔のままそばを嫌々啜る若葉ちゃんはそばが嫌いなんじゃなくてうどんが好きなだけ。

ハイパームテキうたのん
・年越しでのみ最強になる。 飲んだ梅酒のお湯割りは椛さんのと似ていた。 やっぱり親子ねぇ……。 酒に慣れてるのは諏訪でジジイ共の酒盛りに巻き込まれたことが何度もあるから。


紅葉
・ゆゆゆいの若葉(諏訪遠征終了直後)の記憶にある紅葉は狂暴なんて言葉じゃ生ぬるいレベルの切れたナイフだった。 母親のモノと同じような味と言われて心底安心している。




来年もうちの先人紅葉をよろしくお願いします。 あと私にもお年玉(評価と感想)をください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。