3日と4日で連続で誕生日回書かないといかんとかなんだよこのハードスケジュール……。
ザアザアと降り注ぐ土砂降りの雨。
脇目も振らず、人目も憚らず、汗すら洗い流される雨の中を傘も差さずに、くたびれた様子の男は必死に街の歩道を走っていた。
時折背後に振り返っては、見えない影に怯えたように表情を歪める。 やがて路地裏まで逃げ込んだ男は、壁に手を突いて息を整えていた。
――――が。
「よう。」
「ひ、ぃ」
バチャッと水溜まりに着地した影が一つ、建造物に挟まれた路地の裏側まで逃げ込んでいた男が入ってきた方を陣取った。
「散々逃げ回ってくれたなぁ、名前は…………まあ覚える気も無いからいいか。」
影が一歩前に出て、男が一歩後ずさる。 暗い夜に加えて雨が視界を覆い、しかも地面に叩きつけられる雨音が、互いに届く声を掻き消している。
どんどん路地裏の奥に追い詰められて行く男は、足元に転がった酒瓶を咄嗟に掴み、自身を追い詰めていた影に叩き付けた。
「ぁぁぁあああっ!!」
「――――――。」
当然だが、酒瓶は固い。 撮影用の飴細工でも無い限り、大人が人に叩き付けた程度じゃ割れはしない。 そんな物を容赦なく眼前の驚異に向けた男の頬は痩せこけ、メガネ越しのその目には狂気とも言える殺意が浮かんでいた。
影は三角巾に吊るしていた左腕の手首を掴み、動かない腕を酒瓶の軌道上に無理矢理捩じ込む。 ゴキッと音がして、間違いなく左腕の骨は砕ける。
「…………は?」
「間抜け。」
グニャリと曲がる左腕から手を離し、影は手首をスナップさせ、直後に男の胸へと右手の掌底を叩き込んだ。 そして、手首の辺りから飛び出した鋭い刃が、男の胸に沈む。
「――――か、あ……。」
雨に濡れた服に赤い染みが出来、男は影の足元に膝を突いて座るように項垂れる。
バチバチと頬を叩く豪雨に、男の胸――――一突きで穴を穿たれた心臓から流れ出る赤い液体が、薄められ流され歩道の溝に吸い込まれて消えた。
「…………いてぇ、痛覚鈍いからって盾にするのには流石に向かないか。」
コンビニの光や、電球の切れかかった街灯では届かない闇の中に、なんの躊躇いも無く男を殺した影があった。 青年の姿をした影――――ではなく、夜の背景に溶け込めるような黒いスーツを着込んでいる青年である。
青年はカチンと手首の仕込み刃を収納し、座ったまま絶命している男の襟首を掴んで引きずり、路地裏の奥に纏められたゴミ袋の山に投げ捨てる。
わざと発見を送らせるために他のゴミ袋で身体を隠す動きに、その男への慈悲は欠片も存在していなかった。
◆
「―――ん。 さ―――。」
「……んが。」
「先人さん。」
……夢を見ていた気がする。
どんな夢だったかは覚えていないが、肩を揺すられて起きた俺は、背後の気配に声かけた。
「どうした、千景。」
「あら、よく分かったわね。」
「俺の事を『先人さん』なんて呼ぶ奴お前くらいだからな。」
口の端のよだれを袖で拭い、座ったまま反転。
目の前に現れた幸薄そうというか実際薄い儚げな雰囲気の少女、郡千景が学生鞄を肩に提げて立っていた。
「んでどうした。 愛しの高嶋さんなら、うちの煮干しと
「……その高嶋さんについてよ。」
「ほーん。」
千景はテーブルを挟んで向かいに座り、俺も向き直る。 鞄を置いた千景が重々しく語りだした。
「最近の高嶋さん、なんだか凄くグイグイ来るのよ。」
「ノロケか?」
「違うわよ! 普段の高嶋さんとは思えないくらい引っ付いてきたり…………貴方が口添えでもしないとあんなことするわけ無いでしょう!?」
取り敢えず隙有らば俺を黒幕扱いしてくる勇者部メンバーには参るね。
「単純にお前が好きだからでしょ、受け入れてやれば良いじゃん。」
「っ…………。」
俺の言葉に、千景は顔色を暗くする。
「ねえ、先人さん。」
「あ?」
「貴方は未来を知っているんでしょう?」
「あー……まあねぇ。」
肩から前に垂れている髪をくるくると弄りながら、気まずそうに俺に聞いてきた。
「
「――――――。」
……返答に困るなぁ。
「その聞き方は、ちょっとズルいな。 俺が『ちゃんと生き残るよ』って言ったところで、千景はどうせ納得しないだろう。」
「……そうね、ごめんなさい。 忘れてちょうだい。」
千景は不安なんだろう、この世界で友奈と元の世界より仲良くなったところで――――いつ死ぬかもわからないあの壮絶な世界に戻ってしまえば、ここでの思い出も無に還るのだから。
――――そしてこの世界から戻ったら、こいつは過去の俺の左腕を切断しかける。
……尤も当時の俺なら普通に避けられたのだが、あの場ではああするのが最適解だったんだから仕方ないわ。 うん。
大社から危険視されてた千景が万が一暴走したら殺せ、と言われていたのを俺の負傷だけで丸く収められたんだからそれで良い。
俺としてはそのあと村の愚図をぶん殴れたから満足である。
そうして、無意識に袖の上から千景の勇者の武器…………とは名ばかりの呪具、大葉刈に刻まれた古傷から手を離す。
「まあ安心しろ、なんだかんだ意外とどうにかなるもんだから。 お前は死なないし、あいつらも死なない。 俺もなんでか生き残っちゃうからな。」
「…………そう、なの?」
「散々あんなことしといて、生き残っちゃうんだよねぇ。」
今でも思い出すのは諏訪遠征前の襲撃。 三好が金属バットでスイカ割りされて病院に担ぎ込まれた時はようやく死んだかと思ったね、なんか普通にピンピンしてたからドン引きしたけど。
そういえば、四国の西暦組が来たのはあの一件と諏訪遠征が終わった直後だったな。
道理でひなた達とこの世界で再会したときやたら怯えられた訳だ。 そりゃビビるわ、自分達の為と言いながら平然と人を殺せる奴と別世界で鉢合わせしちゃったんだから。
「……あー、だから安心しタマえ、お前はちゃんと
「――――っ。」
千景を何かを言おうとして、少し迷ってから口を開き――――それより早く、部室の扉を開いて誰かが中に入ってきた。
「もっみーじくーん、ぐんちゃん知らない?」
「たっ、高嶋さん!?」
「あーいたいた、ほらぐんちゃん誕生日近いじゃん? 良い感じのプレゼントを思い付いたから、ちょっと来てほしいんだぁ。」
鼻に赤色が滲んだティッシュを詰めて左目に青アザを作った友奈が、千景を見つけてふにゃりと笑う。 また夏凜にボコボコにされてきたのか。
「いやそれどころじゃ……先ず怪我の消毒よ!? 私の部屋に救急箱あるから行きましょう?」
「あぇ? このくらいなら直ぐ…………まいっか、じゃあお邪魔しまーす。 ……ふへ。」
慌てた千景に手を引かれ、入って早々に友奈は部室を出ることになる。 あの『自然な理由でぐんちゃんの部屋にお邪魔できるよラッキー』って顔は恐らく狙ったわけではないのだろう。
「それじゃあ、その……という訳で帰るわ。」
「ああ、そいつ懲りないだろうからキツめに消毒しちゃって良いからな。」
「え、酷くない?」
「……今回ばかりは庇護できないわね、高嶋さん。」
「えーっ。」
友奈を引っ張って部室から出る千景…………に、渡しそびれていた物を思い出して追いかける。
出て直ぐの場所にいた二人に追い付いて、懐から一枚の紙を渡した。
「おーい千景、これやる。」
「……なに、これ。」
「眼鏡の割引券。 お前しょっちゅう夜中に電気消してゲームしてるだろ、この世界じゃどうかは分からないが、視力が下がってからじゃ遅いからな。 ブルーライトカットの奴でも買え。」
受け取った千景はまじまじと紙切れを観察し、鞄に入れる。 その後逡巡してから、ふと俺の方に向き直ると、珍しく微笑を湛えて言った。
「――――じゃあ……またね、
「は?」
「ああ、また明日な。」
「……は?」
小さく手を降ってから背を向けて歩き出した千景。 あと友奈はそんな目を向けるんじゃない、見苦しいぞ。 さっさと行け。
「……さて、帰る前に一仕事やるかなぁ。」
「ん、どうしたの?」
「ちょいと頼まれごとをな。」
「ふぅん。」
千景を追おうとして、だが気になったのか、友奈は不意に振り返り聞いてきた。
「何を頼まれてるの? 買い出し?」
「ちげぇよ。」
部屋の隅に積まれた袋を見て、呟く。
「――――単なる、ゴミ掃除だ。」
「わあ意味深。」
紅葉
・ゴミ掃除はゴミ掃除。 基本する方だけどされる覚悟はとっくにキメてた。
ぐんたそ
・メガネ を そうび した! (INT+2)
高嶋神
・怪我なんて直ぐ治るしへーきへーき! とか言いながら良く夏凜とか歌野と殴り合いしてるから稀に良く鼻にティッシュが詰まってる。