【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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のわゆ編で生きるか死ぬかの瀬戸際なのに呑気に誕生日回を!?




祝福 弥勒夕海子は猫被りである

 

 

「…………何をしていますの?」

「セイウチ。」

「……ふふっ」

 

 

寄宿舎の談話室に置かれたソファーにうつ伏せで寝転がっている俺に、上から覗き込むように声を掛けてきた夕海子。

 

渾身のボケがややうけして、失笑に近い声が帰ってくる。 防人組が来てから二度目の美森達の誕生日会に夕海子を混ぜてのパーティとなったのだが、まあ、色々とハプニングがあってだな。

 

 

いやあ、準備中に部室に来られた時は流石の俺でも焦りましたねぇ。

 

「――――あぁ、貴方に頚椎を捻られたせいでまだ首が痛いですわ……。」

「大袈裟じゃない?」

「首を横90°にねじ曲げるのが大袈裟……? わたくしの首、ずれてませんわよね?」

 

「ちょっと傾いてる」

「ヴェッ!?」

「嘘だよ。」

 

 

慌てて首の様子を確かめる夕海子だが、そんな俺が相手を気絶させるのにヘマするわけないじゃん。 ちゃんと加減したわ。

 

 

 

 

 

『……あら。』

『あっ。』

『……あー、えーっと。』

『…………えいっ。』

『けぺ』

 

 

 

 

 

「――――まあ……大丈夫でしょ、多分。」

「多分!?」

 

「……きっと?」

「きっと!?」

 

 

こいつ反応がオーバーだから面白いんだよね。 寝転がっていたままの体勢から起き上がり、その横に夕海子が座る。

 

不意に窓を見れば、外は豪雨となっていた。

 

「時に紅葉さんは、何ゆえ談話室に打ち上げられたセイウチのように伏していたのですか?」

「ここ数週間、部屋の掃除が出来てなかったからな。 ひなたと銀が掃除するから暫く出ててっ……てね。 部屋の主になんて言い草なのだ……。」

「尻に敷かれているようで何よりですわ。」

 

 

……いや何よりじゃないが。

 

 

「わたくしも部屋の掃除はあまりしませんが、するならやはり、こうして湿気った空気の中ですると埃が取りやすくて良いですわね。」

「庶民的だな。」

「没落貴族ですので。」

「そも、貴族ですら無いだろ。」

 

 

単に72年のテロを止めた奴等の内の一人がこいつの祖先なんであって、弥勒家は貴族ですらない。 加えて()()()()()()()によって、二階級特進が適用された事で功績を全て奪われたのだ。

 

確か記録に残していないだけで俺の子孫も一緒だった筈だが、俺の血を引いているのなら、功績にはさほど興味は無いだろう。

 

「確かにわたくしは貴族では御座いませんが、再興さえ出来れば、そう名乗ることも許されるとは思いませんこと?」

「ポジティブだなこいつ……。」

「それがわたくしの取り柄ですので。」

 

 

そう言って、にんまりと笑い目尻を緩ませる。

 

普段のお嬢様ムーブが無いと違和感が凄いのだろうが、俺からしてみれば、こっちの大人しい夕海子の方が素なのだと思えた。

 

「紅葉さん。」

「んー?」

 

 

談話室に置かれている小さい冷蔵庫を漁りに立つと、夕海子が声を掛けてきた。 そして背中を向けた俺へと、あっけらかんとした態度で言い放つ。

 

「弥勒家再興の為に、元の世界に戻ったら、わたくしと夫婦(めおと)になる気はありませんか?」

「あぁーーー……すいませんそれ来月からなんですよ。」

「……ガーンですわね、でしたら専属執事になる気はありませんか?」

「それは売り切れですねぇ~。」

「……そうですか。」

 

 

断られる前提なのだろう、そこまで悔しそうではない夕海子は、深く息を吐いてから続ける。

 

「そういえば……以前、72年の一件を調べていた時に先人家も関わっていたという情報を目にしたのですけれど。」

 

「――――その手の情報は俺が全部規制・処分した筈なんですけどねぇ。」

 

「嘘ですよ?」

「は……うぉっ!?」

 

 

談話室の隅に置かれている冷蔵庫を屈んで漁っていた俺に、しれっと嘘をついた夕海子。 振り返ると、その顔が眼前にあった。

 

開いたままの冷蔵庫に背中を預けた俺を覗き込むように、それでいて腰を曲げて目線を合わせてくる夕海子が、愉快なものを見るような顔付きで目尻を下げている。

 

「貴方って存外、間が抜けているのね。」

「……土壇場で鎌を掛けるとはな。」

 

「どうしてか私相手だと貴方の気が抜けるのは……やっぱり私がアホっぽいからかしら? だとしたら、案外この口調も馬鹿に出来ませんわねぇ。」

 

 

くつくつと喉を鳴らして笑い、漏れ出た冷気が背中を冷やす俺の腕を掴んで立たせてくる。 お嬢様の『お』の字も無い気配を見せる夕海子であるが、これが素なのだろう。

 

猫被りに鎌掛けとはまぁ、気疲れしそうだな。

 

「……なんで俺――――の家系が当時の弥勒や赤嶺と関わっていると思った?」

 

「だって貴方、わたくしや赤嶺さんを同情するような、哀れむような顔で見てくるじゃない。 だから『知ってる』か『関わってる』かのどちらかだと思っただけですわ。」

 

「そんな顔してたか?」

「目は口ほどになんとやら、ね。」

「しかも夫婦って……それは、過大評価だろう。」

「そう? 紅葉さんなら、十分な優良物件でしょうに。」

 

 

そうかねぇ。 やったことは主に勇者の防衛、巫女の防衛、敵対者の排除、先人家を乃木と上里と同等の立場に引き上げ、他にも色々としているが…………同じ事をまたやれと言われても、無理としか答えられない。

 

ソファに座り直した夕海子の両腕を上に伸ばす柔軟体操のような動きを見届けながら、冷蔵庫から拝借した誰かのプリンを開ける。

 

「それ貴方のではありませんよね?」

「共同の冷蔵庫に物を入れる時は名前を書けって何度も言ってあるし、書いてない方が悪い。」

「以前加賀城さんが貴方と同じ事をして、白鳥さんにプロレス技掛けられてましたが。」

「へー。」

 

 

いや知らんがな……。

 

何故かニヤニヤしながら俺がプリン食ってる様子を横で見ている夕海子の視線に辟易しながら、俺は雨粒が窓を叩く音をBGMに食べ終える。

 

「ちなみに、ですが。」

「おん?」

 

 

空の容器とスプーンを捨てようとした俺に、楽し気な様子のまま不意に言ってきた。

 

「わたくしだったら、カラメルで見えづらい底に名前を書きますわね。 だって、()()()()()()()()()()()を悪く出来るじゃないですか。」

 

「は――――――……やられた。」

 

 

言われた通りに、容器の底にはカラメルのせいで見えなかった名前が堂々と書かれている。 他の奴等が付箋に名前を書いて貼ったりしていることが多いからか、完全に油断していた。

 

「食べてしまいましたのねぇ~~~?」

「その顔むかつくからやめろ。」

 

 

わざわざ午後ティーを私物のカップに移して飲んでいる夕海子が、そのカップを優雅に顔の近くに持ってくる。

 

握り潰しそうになった容器とスプーンを改めてゴミ箱に捨ててから、夕海子の隣に座った。

 

「……それで、何をしろと?」

「では先ず、わたくしの専属執事(アルフレッド)になっていただきましょうか。 いやぁ夢でしたのよ、イマジナリーではない執事を手元に置けるのは。」

 

「同年代の男を執事に仕立て上げて側に置くとか、将来大人になったら恥ずかしすぎて死にたくなるぞ。」

「うぐぅーーーっ!?」

 

 

痛いところを突かれたようで、胸を押さえてテーブルに突っ伏した。 なんでそこまでダメージを受けているのか分からないが、呼吸をゼエゼエと荒くしながら額に汗を滲ませる。

 

「ひ……人がちょっと気にしていることをずけずけと……!」

「じゃあお嬢様っぽい喋り方やめれば良いじゃねえか、結構無茶してるだろ。」

 

「…………弥勒家再興、やろうとしてるのわたくしだけなんです。 こうやって無理にでも明るくしてないと、わたくし自身が潰れそうなのですよ。」

 

 

コロコロと顔色を変えてはそう言い、夕海子はカップの紅茶を啜る。 そりゃ家の再興なんて生半可な覚悟じゃ出来やしないし、一度没落すればもう這い上がるなんて不可能だろう。

 

しかし一度再興させると決めた以上は、もう止まれない。

 

「――――たまにで良いのです。」

「…………ん?」

「たまに、こうしてわたくしが()を出せる相手と……貴方とこうして話が出来れば、それで良いのです。」

「芽吹ちゃんとかじゃ駄目なのか?」

「まぁ白々しい。」

 

 

横からうずくまるように体を丸め、上目遣いで俺の顔を覗いてくる。 そしてニコニコと、何が楽しいのか笑みを崩さない。

 

「わたくし、こう言うことを話す相手は選んでますのよ。 それを鈍感染みた言い方でなあなあにしようなんて…………いけず。」

 

「いやぁ俺にはひなたと銀が居るんで。 いくらなんでも、三人目には興味ねぇよ。」

 

「いえ、いえ。 そうではありません。 三人目だなんて、そんな愛人ポジションなんかに興味はありませんわ。」

 

 

嫌な言い方をするんじゃない。

 

夕海子は俺の対面、テーブルを挟んで向かいのソファに…………一応ちゃんと靴を脱いでから立つと、雨音が防音してくれているのを良いことに声高らかに言う。

 

「わたくしが望むのは弥勒家再興! その為にも、わたくしは貴方のお力添えが欲しいのです!

 

最初は先人家の力を手に入れさえすれば良かったのですが、今では貴方をとても好ましく思っておりますので、是が非でも力に加えて貴方の身も心も欲しい。

 

三人目? とんでもない、上里さんや三ノ輪さんを差し置いて、わたくしが―――わたくし()()が、貴方を独占したいのですよ!」

 

 

そう言って、左手を胸元に添え、右手を俺へと差し出す。 そんな夕海子の顔が、俺には不思議と気高く輝いて見えた。

 

まあ、言ってることは蛮族のそれだけど。

 

 

「俺の気持ちが二人からお前に傾くとでも思ってんのか?」

「傾かせる、の間違いですわね。 尤も奪うなんて事はしません。 わたくしは『強欲』ですが『強引』では無いですもの。」

「さいで。」

「ふふ……いずれ、必ずや貴方を、弥勒家再興の為に我が手元へ引きずり込んで見せますわ。」

「出来るかなぁ? ま、見ものだな。」

 

 

腕を組み、口角を吊り上げニヒルに笑って見下ろす夕海子。 使われるつもりは毛頭無いし、こいつが俺を使いこなせるとも思っていないが…………精々頑張りタマえ。

 

「あ、執事が嫌でしたらメイドはどうかしら。 この間、貴方女装したらしいじゃないですか。」

 

「絶対やだ。」

 

 

……こいつほんと良い性格してるわ。

 






弥勒さん、くめゆ組最年長で戦う理由が家の再興でチームに(自分含めて)問題児ばっかりで、ノベルの時点でメンタルが完成してるんですよね。

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