【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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令和になってからの初投稿です。

よろしくおねがいします(SCP-040-JP)




祝福 楠芽吹は苦労人である

 

 

 

城図鑑を図書室から借りて持ってきていた芽吹が、片肘を突いて手のひらに頬を乗せ、片手でページをめくっていた。

 

「…………あら、芽吹さん。」

「――――ん、弥勒さんですか。」

「こちらに紅葉さんが来ておりませんか?」

 

「……すみません私にはちょっと。」

「そうですか、ならわたくしは失礼します。」

 

 

不意に部室へと現れ、そしてシュンとした飼い犬のように、トボトボと重い足取りで部室を出て行く夕海子。 それを見送った芽吹は、背後の棚に隠れている者に向けて声をかける。

 

「紅葉さん、行きましたよ。」

「おーおー、助かったわ。」

「……うわぁ。」

 

 

隙間が無い筈の棚と壁の間からぬるりと現れた紅葉を前に、芽吹はなんとなく、本当になんとなくゴ■ブリ(這い寄る混沌)を想起した。

 

「それどうやってるんですか。」

「ほら、頭が入れば体も入るじゃん?」

「猫じゃないんだから…………いや、そもそも隙間もないのにどうやって―――――やめましょう夢に出そうなので。」

「懸命だな。」

 

 

ふぅ、とため息。

 

後ろから前に回って対面に座る紅葉は、扉を見ながらポツリと呟いた。

 

「まったく……夕海子は暇さえあれば俺のこと追いかけ回して来るんだからなぁ。 芽吹ちゃんの方から躾といてくれないか?」

 

「弥勒さんの制御なんて不可能ですよ。 別に良いのでは? しずくやシズクといい、色々と抱えているモノがある人に頼られて悪い気はしないでしょうに。 加えて見た目も悪くない。」

 

「悪意が無いから困ってるんだが……?」

 

 

城図鑑から目を離さないまま、芽吹はあっけらかんと答える。 呆れた顔をした紅葉は、その真意をそれとなく悟った。

 

「…………まさかとは思うけど、『面倒ごと押し付けられてラッキー』とか考えてないよね? 君そんな子じゃないよね?」

「――――――さあ?」

 

 

しれっとした顔で、芽吹は返す。

 

紅葉の渋い顔を見て喉を鳴らすように笑うと、栞を挟んで図鑑を閉じて呟いた。

 

「一つ、質問良いですか。」

「どーぞ。」

 

「どうして、勇者たちと共に居るんですか?」

 

「俺が夏凜と距離近いからって嫉妬せんでも。」

「わりと強めに張り倒しますよ。」

 

 

咳払いを一つに、仕切り直して二人は向き合う。

 

「共に、か。 それは単純に先人紅(おれ)葉が、そういう生き方しか出来ないから…………じゃ、納得しないよねぇ。」

「哲学を聞いているんじゃ無いんですよ。」

 

「ですよねー。 で、君はなんでそんな事を聞きたいわけ? ちょっと今さら過ぎる気がするんだけど。」

「今さらだから、ですよ。 誰もそう言うこと聞かないじゃないですか。」

「ごもっともだ……が、あんまり面白くないと思うぜ?」

「気にしませんよ。」

 

 

じゃあ、と言い、紅葉は据え置きのティーポットに茶葉とお湯を淹れる。

 

「それ弥勒さんのでは?」

「後で謝ればセーフセーフ。」

「無茶振り言われても知りませんよ……。」

「そんなわけないじゃん。」

 

 

――――後日、一日執事体験コースに付き合わされたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、そもそもの話になるが…………俺と芽吹ちゃんの共通点はなーんだ?」

 

「頭でっかち、融通が効かない、頑固。」

 

「oh…………自覚はあるのね。」

 

 

特に表情を変える事もなく、芽吹は言ってのける。 紅葉は紅茶を一口含み、少ししてから続けた。

 

「芽吹ちゃんと俺の共通点は、分かりやすく言うと()()()()()()けど()()()()()部分だな。」

「――――は?」

 

「でも、それは違った。 君にはちゃんと才能がある。 分かるか? 才能ってのは原石なんだよ、それを努力で磨くから、才能は光るんだ。」

 

 

ぎし、と背もたれに体を預け、ポットから紅茶をカップに移す。 芽吹の無言の催促に答え、ついでに向こうのカップにも注ぐ。

 

「死に物狂いで努力した。 努力して努力して努力して、努力した先に何もなくなって、そうして引き返してからようやく気付いたわけよ。」

 

「……何に、ですか?」

 

「努力して磨くべき才能なんて、欠片も無かった。 それなのに必死になって努力して――――結局、残ったのは人を傷付けるだけの技術。」

 

 

カシュッ、と音を立てて、紅葉の手首の器具から細身の刺突に特化した刃が飛び出す。

 

昔のように籠手を着けているわけではないものの、最早手元に武器があるという事実こそが、紅葉の精神を落ち着かせる安定剤となっていた。

 

「恥ずかしい話、昔の俺はヒーローになりたかった。 でもやめちゃった。」

「諦めたんですか?」

「いいや? ただ、あー……その、な。」

 

 

刃を収納し、恥ずかし気に頬を指で掻くと、紅葉は咳払いしてから芽吹の目を見て続ける。

 

「もう、なれたからね。」

「――――――。」

「それでもやっぱり、憧れだけは辞められない。」

「あこ、がれ……。」

 

 

すとん、と腑に落ちる。

 

いまだに残り続ける勇者への確執、三好夏凜への好奇心、そういったモノが、何故残っていたのかの理由がようやくわかった。

 

「――――ああ、そうだったのね。」

「はい?」

「……いえ、貴方と私は、確かに似た者同士なのでしょう。 私も勇者に憧れた。 勇者になりたかった。 父のように、芯のある真っ直ぐな勇者に。」

 

 

湯気が立ってない冷めた紅茶を飲み干すと、芽吹は穏やかに笑う。

 

「でもなんだかんだ、防人(こっち)も悪くないですよ。 『やっぱり防人(そっち)が良かった』なんて言われても渡したくない程度には。」

 

「さいですか。」

「それにしても……どうしてでしょうか、紅葉さんと話していると、パ……父と話しているように少し緊張してしまいますね。」

 

「なんでだろうなぁ。」

「うーん……さあ?」

 

 

そりゃ元は二児のパパですし。

 

とは、言えない。

 

 

話し込んで冷めきった紅茶の残りをティーポットから移し、苦味が強くなったそれを一息で飲み終わる。 紅葉の深いため息が、部室に紅茶の香りと共に散った。

 

「『誰かの何か』なんて目指しても、結局は頑張ったけど無理だった事実しか残らない。 『自分だけの何か』を、見つけなさい。」

「見つかりますかね。」

「見つかるさ、一緒に探してくれそうな奴が周りにいっぱい居るんだから。」

 

 

そこまで言い終えた直後、ふと芽吹のスマホが着信を知らせる。 画面には亜耶からのメッセージが届いていた。

 

「あ、買い物の手伝いをするのを忘れていました。」

「早く行きなさいよ、なんなら手伝うぞ?」

「多分弥勒さんかしずくが居ますよ。」

「行ってらっしゃーい。」

 

 

芽吹にまぶたを細めて見られる。

 

さっきまで良いこと言ってたのにこれか、と呆れられているのだろう。 しかし芽吹は、図鑑を脇に着替えて席を立つ。

 

「まあ、良いです。 それにとても有意義でした。」

「あれだけ言っといてなんだけど、あんまり俺の事は参考にしない方が良いぞ。」

「ええ、承知しています。」

 

 

軽く会釈して、芽吹は部室の扉を開き――――出る直前に顔を向けないまま、紅葉に辛うじて聞こえる程度の大きさで呟いた。

 

「―――憧れてしまったものは、しょうがないんですよね。 『もうなれた』なんて言って()()()()()()のだと思いますが、まだ諦めきれていないんでしょう? ヒーローになるのを。」

 

「…………どうだか。」

 

 

どんな答えが帰ってくるのを望んだのだろうか。 芽吹は紅葉の言葉を聞き終えても特に何か言うでもなく、そのまま部室を出て行く。

 

残された紅葉は、机に突っ伏して、再度深くため息をついた。

 

「―――まったくだ。」

 

 

 

 

若葉(おまえ)に憧れたこっちの身にもなれよ。』

 

 

 

 

「……あんなのに憧れるなって言われても、無理に決まってるだろ。」

 

 

精神は、老いていても。

 

身体が、若いだけでも。

 

 

いつだって、男の子は、ヒーローが大好きなものだ。 西暦を生きた強烈な生命の輝きを間近で見続けた紅葉もまた、当然例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廊下を歩く芽吹の前に、再度夕海子が現れた。

 

「あら、芽吹さん。」

「おや、弥勒さん。 私はこれから買い物ですが、どうです?」

「いえいえ。 わたくしは紅葉さんを探しておりますので。」

「まだ探して――――いや、そうですね。」

 

 

顎に指を当てて、少し考えると、夕海子に言う。

 

「あの人なら部室に居ますよ、さっき入れ違いましたね。」

「まあ! そうですの? 情報提供ありがとうございます。」

「ではこれで。」

 

 

すれ違い、階段を下る直前、紅葉の悲鳴と窓が割れる音を聞いたが、我関せずと芽吹は下りていった。 当然のように悪魔(ゆみこ)に紅葉を売り飛ばした芽吹だったが、その内心では紅葉に感謝する。

 

「―――さて、晩御飯、何作ろうかしら。」

 

 

 

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