【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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祝福 加賀城雀は小心者である

 

 

 

 

 

「炎天下にわざわざ行列を作り、タピオカなるハイカラなものを求めた女子を、俺はかつて馬鹿にしたことがあった。」

 

「…………はい。」

 

「改めて思う。 馬鹿なんじゃないか?」

 

「…………すいやせぇん……。」

 

 

山を作っていた筈のジェラートの半ばがドロドロに溶けてコーンに貯まって行く様子を眺めながら、俺は加賀城雀と共にベンチに腰掛けていた。

 

「イネスのジェラートが屋台で出てるって言うから来てみれば……これだけ暑かったら意味無いって。 店行こうよ、店。」

「おっしゃる通りで……。」

 

 

大橋の方から讃州までとはまあご苦労な出張なわけだが、これならコンビニのアイスをクーラーの効いた自室で食べる方がよっぽど有意義だろう。

 

「愛媛ミカン味なんてのがあったら食べたくなるのが性ってもんでして。」

「芽吹ちゃんでも誘えよ……。」

 

「だってメブとかこういうの興味無いんですもん。 弥勒さんは最近笑顔が怖いし、しずくはラーメン食べに行ったし、シズク様は怖いし、あややは巫女組でお買い物してるし。」

 

 

お前は自分の仲間をなんだと思ってるんだ、と言いたかったが、西暦の時の俺も周りからこう思われてたから何も言えない。

 

基本無趣味―――というよりは趣味を見つける余裕が無かったし、怖がられたし。

 

「そういえば、この間砂浜のゴミ掃除したじゃないですか。 あの海岸で海開きするらしいですよ。 勇者部で集まって行ってみません?」

「良いんじゃないか? ひなたと銀と………………夕海子達で水着を新調してタイミングも良い。」

「なんですか今の間は。」

 

 

だってなぁ。 夕海子は……アレは女として見たら負けな類いだしなぁ。

 

しずシズも似たような感じで俺を見てくるが、元来の性格が大人しいお陰で、ひなたと波風立てることが無いからアレより遥かにマシだ。

 

あと銀との仲が良い。これ重要。

 

 

ともあれ、数日前に水着選びをした甲斐があったな。 と考えながら、完全に溶けたジュース状のジェラートを飲み込みコーンを口に放り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うひょー! 海だあっつぅ!?」

「うるせえ。」

 

 

裸足で砂浜に駆け出し、足の裏が加熱されて跳び跳ねる高嶋の方の友奈を窘めつつ、パーカーのポケットに片手を入れている俺は海の青色が反射する光にまぶたを細めていた。

 

突撃槍のように巨大なパラソルを肩に担ぎ、砂浜の一角を陣取るように突き刺して展開してからシートを広げる。

 

 

今回は予定の問題でひなたや銀は呼べなかったのが残念でならないな。 海岸に来たのは、友奈(こいつ)と夏凜と芽吹ちゃん、あとは雀と夕海子と俺の六人構成となっている。

 

「…………なんで二人がピンポイントで来れないんだ……。 はぁーーー。」

「ため息でっか。 もー、紅葉さーん、今日の保護者枠なんだからシャキッとしてくださいよー。」

 

 

そう、今回の俺は……まあほぼ毎回だが、こういう場での俺は保護者扱いされている事が多い。 勇者部は俺をなんだと思っているのか。

 

何故風はすぐゴーサインを出してしまうのか。 何故誰も止めないのか。 何故ひなたは来ていないのか。 何故銀も来ていないのか。

 

俺とは。 俺とはいったい……。

 

「こいつ、思考が虚無に……。」

「そんなに二人が来れなかったのがショックだったの? 私にはわからないわ。」

 

 

小首を傾げる芽吹ちゃんと、その横で呆れた顔をする夏凜。 夏凜に至っては水着に対して右目の眼帯が劇的に合わない。

 

ふと、俺の背中に夕海子がまとわりついてきた。

 

「でしたら、わたくしが慰めてさしあげても……」

「夏凜。」

「はいはい。」

「えっ、ちょっと三好さ――ぬわーーっ!!」

 

 

芽吹の一声で、夕海子は着ているパーカーの襟を夏凜に掴まれ海にぶん投げられた。

 

「飛んだね~弥勒さん。」

「……少しは空気を読むべきよ。」

「メブにしてはやるじゃん?」

「なんですって?」

 

 

雀はなんでそう余計に一言加えてしまうんだ。 だが些細なコントのお陰で少しだけ元気が出たので、時間的にも昼食を買いに行くことにする。

 

「海の家に昼飯買いにいくけど着いてくるやつ居るか? なんなら奢るぞ。」

「おいちょっとコラ引っ付くなってあ゛ーーやめろ! 眼帯取れたら義眼が落ちる!」

「夏凜は……なにしてんのアレ。」

 

 

振り返った先で、夏凜は何故か複数の子供に絡まれていた。 夕海子は浅瀬にうつ伏せで沈んでるが、大丈夫だろう。 夕海子だし。

 

「……どうやら弥勒さんを投げた部分を見られたらしく、子供に自分達も投げてくれとせがまれているようです。」

「夏凜さん、幼稚園で意外と人気なんですよねぇ……。 厳つい顔のわりに。」

「あぁ、そういうことね。 じゃあ芽吹ちゃんは夏凜と荷物を見といて、雀は俺と来い。 夕海子は放置、友奈は――――。」

 

 

さっきまで砂浜でフライパンの上の材料みたいに跳ねていた筈の友奈は、子供に混じって夏凜にキレられながら投げられていた。

 

「うっひょーい!」

「このクソガキィィィ!!」

 

「……精神年齢3歳児め。」

 

 

俺と雀は見なかったことにして砂浜を歩き、芽吹ちゃんはアレを見張るのかと考えどこかゲッソリとやつれていた。 正直、悪いと思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海の家に到着し、はしゃぐ二人とそれを見張る芽吹ちゃんには申し訳ないが、ひとまず休憩させてもらう。 雀が目当てだったらしいミカン味かき氷なるモノを食べていると、いわゆるアイスクリーム頭痛に悩まされている。

 

「ん、この焼きそば悪くないな。」

「あ゛ー! キーンと来てる!!」

「……あー、あのエプロンひなたに合いそう。 ……なんで二人とも居ないんだ……。」

「貴方は躁鬱の患者ですか。」

 

 

どことなく塩辛い焼きそばを食べ進める俺にそう言ってくる雀。 俺がこんな日をどれだけ楽しみにしながらあいつらの水着選びに付き合ったと思ってるんだ、俺も男なんだよ単純で悪いか。

 

「そういえば、今日ってお前の誕生日だったんだな。 あんまり興味なくて記憶から完全に抜け落ちてた。」

「でしょうね。 ……いや寧ろひなたさんと銀ちゃん以外に興味あるんです?」

「……………………あるよ。」

 

 

無い訳じゃなくて、夕海子としずシズの対処に疲れ始めてるだけでね。 そろそろ本格的にアイアンクローでもしておくべきか。

 

「はぁ~、かき氷美味しい。 防人としての訓練なんかしたくないよ~~~。」

「そんなに嫌なら辞められるタイミングもあっただろうに、なんで続けたんだ?」

「……その話題触れちゃうんですか。」

「だって気になるじゃん?」

 

 

ですよねぇ。 と言いながら、雀はミカンジュースを注文する。 ついでに生ビール…………は流石に自重して、炭酸水を頼む。

 

西暦だったら頼んでたんですけどね。

 

「いやぁ、ほら、私って昔から弱虫だったんですよ。 だから良く学校のヒエラルキー上部に取り入ったりしてたんですけど、防人じゃこれが通じないんですよね。 実力順で番号を割り振られてるだけで全員平等の兵士みたいなもんなんで。」

 

「そりゃ芽吹ちゃ(リーダー)んが君だけ贔屓するわけにはいかないし、そんな事したら死者出ちゃうからね。 昔似たような連中相手にしたけど、大半の実力が半端だったから楽だったな。」

 

 

尤も、メイド服着た切り札にボコボコにされたのは言わぬが花だろう。 あの一件のせいでメイド服見ると胸が痛むんだよ。

 

「私は確かに弱虫だし、ビビりでネガティブ思考でいつも死ぬことに怯えては居ますが――――メブたちを見てたら思ったんですよ。」

 

 

運ばれてきたミカンジュースを一気に半分呷ると、コップを置いて雀は呟く。

 

「あそこで逃げたら、きっと何も残らないって。 だから、ちょっとだけ、頑張ってみようかなーって。 それだけです。」

 

「ふーん……。」

 

 

立派だな、というありきたりな言葉を続けようとは思わなかった。

 

視界の端で宙を舞う友奈とその下で子供に引っ付かれている夏凜を見なかったことにしながら、俺は雀と海の家でしばらく涼んでから四人分の焼きそばを注文するのだった。

 

 

 

 

 

――――後日改めてひなたと銀を海に誘おうとしたら季節外れのどしゃ降りに見舞われ、静かに部屋で泣いたのは内緒である。

 

 






Tips:紅葉はひなたと銀が居ない時間が長いと躁鬱患者みたいなテンションになる。

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