【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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タイトル通りのアレ
CP要素有り


番外 白鳥歌野(先人紅葉)先人紅葉(白鳥歌野)である

 

 

 

藤森水都(ふじもりみと)の朝は早い。自分の敬愛している友人であり親友の、白鳥歌野が日課としている畑作業を見に行く為だ。

 

力も知識も無くて手伝えない事が初めは歯痒かったが、神樹内部に召喚されるより前の時から『ただそこに居てくれるだけで良い』と言われて以降は、汗をかく歌野の為にタオルやスポーツドリンクの入った水筒を持って見守る事に決めている。

 

 

寄宿舎から10分と掛からない場所に出来た畑に居るであろう最愛の友人の姿を拝むことで、水都の1日が始まると言っても過言ではなかった。

 

歌野が耕し弄っている畑に到着し、歌野を探す水都は―――ある者を見付けた。

 

 

「―――え゛っ」

 

それは、歌野とやたらに仲の良い憎き男である先人紅葉(ライバル)であった。

手慣れたフォームでクワを振るその動きを見て、何故か水都は歌野を幻視する。

 

何故こいつが、何故畑に、歌野は何処へ。思考がグルグルとループしている水都の視線に気付いた紅葉は、違和感を覚える程の朗らかな笑みを浮かべて言った。

 

 

「グッドモーニング、みーちゃん!」

「――――――――!!!??」

 

 

 

 

水都は卒倒するように気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『入れ替わったァ!?』

 

部室に響く声。複数の声音が混ざり、不協和音を放つ。

 

 

「……言ったろ、こうなるって。」

「紅葉は相変わらず予想が上手いのねぇ……」

「俺ならこうなる。誰でもこうなる。」

 

騒ぐ勇者と巫女を余所に、普段と変わらないトーンで会話をする紅葉と歌野。

強いて違うところを挙げるとすれば、普段と違って歌野が不機嫌そうに腕を組んでいる事と、普段と違って紅葉の雰囲気が柔らかい事だろうか。

 

 

―――本来紅葉から出ていたであろう台詞が歌野から出て、その逆を紅葉が言う。有り体に言えば、二人の精神が入れ替わっていたのだ。

 

 

 

「まさかみーちゃんが気絶するとは思わなかったのよ、ビックリしちゃった。」

「あいつ俺の事毛嫌いっつーか敵対視してたんだぞ、そんな俺にそんな事言われたらそりゃ気絶の一つでもするだろ。」

 

「毛嫌い?敵対視?」

「モテる女は辛いな農業王」

 

純粋な疑問符を浮かべる歌野。紅葉は自分の顔にそんな表情をされる事に若干イラッとしつつ、全員が二人の事態を受け入れるのを待っていた。

 

混乱から回復した者達の中から、代表で若葉が二人に話し掛ける。

 

 

「……つまり歌野の中には紅葉が、紅葉の中には歌野が入っているという事でいいんだな?」

「イグザクトリーよ」

「そう言うことだ。」

 

「入れ替わりはいったい何時から……」

「恐らく今日の朝。少なくとも昨日の夜までは、俺は俺の体にちゃんと居た。」

「私も同じよ、朝起きて普段着に着替えようと思ったらこうなってたの。」

 

 

休日だった事が僥倖(ぎょうこう)だな、と呟く紅葉。

 

「ひなた、何か神託でも来てないのか?」

「はい、来てますよ?」

 

紅葉の問いにあっけらかんと答えるひなた。こいつ……と呟いたのを、歌野は聞かなかったことにした。

 

「どうやら何かしらの手違いが起こってしまったらしく、明日の朝までには元に戻せるらしいです。」

「やっぱ神樹ってクソだわ」

 

 

紅葉の神樹嫌いは、より強まったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歌野の体に入っている紅葉は、部室で大人しくしていた。依頼に参加しようとしたら全員から誤解を生むと断られてしまったのだ。

 

 

「解せん。」

「いやぁ、だって歌野さんの中に居るのに口調変えようとしてないんですもん。俺口調の歌野さんとか周りにギョっとされますよ?」

 

監視役として同じく部室に残った小学生組と談笑しながら小道具の点検をしていると、銀にごもっともな事を言われた。

 

「なら聞くが中身が俺とわかったうえで、俺が自分の事を『私』と呼び女口調で話し出したらどうだ?」

「ぶっちゃけ気持ち悪いっす」

「だろ?」

 

 

大体の点検を済ませ、箱に入れたそれらを棚の上に仕舞おうと立ち上がる。

 

「あ、紅葉さん。それくらいアタシがやりますよ!」

「……気を付けろよ」

 

横に座っていた銀に任せると、箱を片手に器用に脚立に登る。棚の上に箱を置いた。

だが半端に開いていたせいか脚立のバランスを崩し倒れそうになる。一瞬余所見をしていた紅葉は、須美の声で事態に気付いた。

 

「――銀!!」

「おわっ!」

「っ―――」

 

縮めたバネを弾いたように飛び出した紅葉は、背中から床に落ちそうになった銀を咄嗟に抱き止める。痛みに耐えようと目を閉じて体を強張らせた銀は、恐る恐る目蓋を開けた。

 

「だから気を付けろって言っただろ、馬鹿。」

「も、紅葉さん……」

 

ホッとしたように頬を緩める紅葉の顔を見て、銀は頬を赤くした。

 

「…………ありがとうございます……」

「もう、銀!さっき紅葉さんに気を付けろって言われたばかりでしょう?」

「うっ……悪かったよ須美……」

「それにしても、もーみん凄かったね~」

 

猫のぬいぐるみことサンチョを顎の下に置いて机にだらんと体を預けていた園子が、メモ帳片手に二人を見ていた。

 

「お前はもう少し心配しろ。」

「だってもーみんが助けるって分かってたも~ん、しかもミノさんを颯爽と助けてて王子様みたいだったよ~」

 

そう言われて、銀は状況を確認する。

落ちた自分を助けるために、紅葉は抱き止めてくれた。今の姿勢は首の裏と膝の裏に手が差し込まれている―――俗に言う、お姫様抱っこと言う奴だった。

 

銀の顔が爆発したように真っ赤になる。

 

 

「―――紅葉さん!?」

「なんだよ」

「降ろしてください!」

「えー……どうしよっかなー」

 

もぞもぞと暴れる銀を落とさないようにバランスを取る紅葉。

羨ましそうに見てくる須美と、突風を吹かせてメモ帳にひたすら文字を書き込む園子。

 

銀に味方は居なかった。

 

 

「普段は男勝りなミノさんがイケメンの農業王に強気に攻められる……これは新感覚のうたミノだよ~~~~~!!!」

「そのっちが生き生きとしてるわね……」

「ちょっ、やめろって園子!見た目は歌野さんでも中身は紅葉さんだぞ!?」

 

ガリガリと音がする勢いでメモ帳を弄っていた園子は、その言葉に一度動きを止める。

 

―――が。

 

「あ、そっか~やっぱり入れ替わりモノなら相手に入れ替わりがバレてないシチュエーションも良いよね~~~

 

……中身がもーみんだと言うことに気付いてないミノさんは唐突にイケメン化した農業王に惹かれていくが、それと同時にみーちゃんまでもが農業王に惹かれていた……ミノうたみとで三角関係なんてドロドロだよいけないよふしだらだよ~~~~~!!!!」

「そしたら俺心労でぶっ倒れそうだな。」

 

 

「ちがーーーーーーーう!!!」

 

 

 

 

部室から、銀の心からの叫び声がこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海岸でゴミ拾いをしていた見た目は紅葉の中身歌野は、虫の知らせのように何かを察知していた。

 

「う、うたのん?」

「部室の方で何かが起こってる気がする……けどまあ、紅葉なら大丈夫でしょ。」

 

そう言って、トングで空き缶をつまんでゴミ袋に入れる。

実際大丈夫ではあった。

 

紅葉()

 

 

「さて、みーちゃん、この辺のゴミは片付いたし一旦戻りましょう?」

「……うん……」

 

中身が入れ替わったにも関わらず相変わらずのポジティブさを見せる歌野は、水都の表情が暗いことに気付く。

 

「どうしたの?元気ないじゃない」

「……そんなことないよ」

「そう言うときのみーちゃんは何かを溜め込んでるみーちゃんよ、ちょっと休憩がてらお話しましょう。」

 

 

トングとゴミ袋を纏めて片手に持ち、もう片方で水都の手を引く。当たり前のような動作に、水都は歌野の後ろ姿を幻視した。

 

 

 

「―――さて、みーちゃん。何があったのか話してくれない?」

「………………。」

 

座った二人は、水平線の彼方で波に反射している太陽の光を見る。その光を見ていると、全てが浄化されている気になれた。

間を空けてから、深呼吸を挟んで水都は言う。

 

 

「……うたのんが紅葉さんと一緒にいると、モヤモヤするの。」

「うん。」

 

「私に見せてた顔を紅葉さんに見せてるのが嫌なの。」

「…うん。」

 

「でも()()がなんなのかわからなくて、胸が痛いの。」

「……うん?」

 

「うたのんは、()()がなんなのか分かる?」

 

泣きそうな顔をして吐き出した水都は、不安そうに歌野を見る。諏訪の記憶だけを持っていたら、きっと歌野はわからないと言っていただろう。

 

だが今の歌野は神世紀で仲間たちと戦い抜いた記憶も持っている。鈍感だった頃とは違い、大分人の気持ちは理解できるようになっていた。

 

 

だからと言って、『それは焼きもちね、みーちゃんは紅葉に私が取られないか心配なのよ!』とは言える筈がない。

 

言うべきか、誤魔化すか。

 

二択で悩んでいると、突如歌野と水都の間に顔が挟まった。

 

 

「お答えしよう~!」

「ひゃっ!?」

「わっ……て園子か、ビックリした。」

 

ニコニコと笑みを浮かべて立っていたのは、小学生の乃木園子(部室で情熱を燃やしてる方)ではなく、中学生の乃木園子(比較的落ち着いてる方)だった。

 

「園子さんは、わかるんですか?」

「分かるよ~分かるとも~」

「教えて下さい!」

 

今にも飛び掛かりそうな程に、水都は期待の籠った視線を園子に送る。

 

「ふっふっふ~それはね~……焼きもち、だよ。」

 

「焼き……もち……?」

 

 

言われてしまった、と歌野は顔を押さえた。

 

 

「みーちゃんはつまり、うたのんと一緒のもーみんに嫉妬してるんだよ~

『私のうたのんを取らないで』ってね~」

「わっ私の……って訳じゃ……」

「じゃあ~うたのんがもーみんに取られても良いの~?」

「良くない!―――あっ」

「そう言うことだよ~」

 

満足気に笑うと、園子は役目は終わったと言わんばかりに軽い足取りでその場を後にする。

 

一度歌野の近くに止まって、歌野の耳元で囁いた。

 

 

「……もーみんみたいにハッキリ答えないでなあなあで済ませてると、痛い目見ちゃうよ~?」

 

 

そう言うと、歌野の返答を待たずに去ってしまった。残された二人の間には、微妙な空気が流れている。

 

 

 

「相変わらず台風みたいねあの子。」

「―――うたのん」

「んー……なぁに?」

 

「私うたのんが好き」

「―――――え゛?」

 

「農作業に本気な所とか、戦うときの真剣な表情とか、お礼を言うときの柔らかい笑顔とか、全部纏めて、うたのんが好き。」

 

園子のように返答させない勢いで、言いたいことを言いきった水都。耳まで真っ赤な顔を見て、歌野はその言葉がどれだけ本気だったかを悟った。

 

 

「……えっと、その……私は「待って」

 

歌野の口に指を当てて、言葉を遮る。

 

「返事は、体が元に戻ってからにしてほしい。」

「あーそうか、今の体じゃ紅葉に告白してるようなものだものね……わかった、元に戻ったらその日の夜にみーちゃんの部屋に行くから、その時に答えるわ。」

 

「わかった。約束だよ?」

 

そう言い、そそくさと立ち上がって歌野から離れて行く水都。背中を見送ってから、歌野は顔を両手で覆った。

 

 

「……これ、結構恥ずかしいのね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。神託通りに戻れた二人は、少数にガッカリされながらも喜びを分かち合った。

 

 

その日も普通に依頼を終え、家に帰ろうとした紅葉は歌野に呼び止められる。

 

 

「大変だったわね。」

「そうだな。」

「―――ちょっと、笑わないで聞いて欲しいことがあるんだけど。」

「なんだよ」

 

言うか言わないかで悩み、口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私女の子の恋人が出来るかも」

「―――――なんて?」

 

 





諏訪の記憶だけだったら『ライク』で終わりでしたが、神世紀の記憶もある為それが『ラブ』だと気付けてしまったのでした。
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