【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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こどもの日なので。

紅葉ってゆゆゆいの銀タマお洒落イベントのあの格好見たらショックで心停止しそう。



番外 小学生勇者は子供である

 

 

 

弓道部の使う弓道場。完全に誰もいないそこを貸し切った俺と須美は、仲良く……仲良いかな……?

 

まあ、とにかく。 俺は須美と並んで的目掛けて矢を射っていた。

 

 

「うーん、この下手くそ。」

「そうでしょうか?」

 

集中力なんて乱れて当然の戦いの中でバーテックスやら星屑に矢を当てるのが得意ということもあって、お喋りしながらでも矢をスコンスコン当てている須美。

 

俺? ……うん。

 

 

「まったくやらなかった人がここまで当てられるなら十分だと思いますが……」

「そうかねぇ。」

 

俺が射った矢は的の中心からずれてはいるが、一応当たってはいる。一応ね。

 

須美に至っては、的の真ん中に刺さった矢の矢筈にまた矢が刺さって薪割りみたいになってる。

 

これ大赦の経費で弁償できるよな……?

 

 

「しっかし、なんかこう、遠距離武器でまともなやつ見るのは須美が初めてだな。」

「そうなんですか?」

「そうなんです。 俺が知ってる奴は『飛ぶ盾』か『連射できるボウガン』だからね、美森は銃らしいけど見たこと無い。雪花は投げ槍だっけ。」

 

飛ぶ盾……飛ぶ盾ってなんだ。

 

しかも仕込んだ刃が飛び出してチェーンソーみたいに削り斬るってマジでなんだよ。

 

 

武器とは。盾とは。

 

 

俺が球子の武器についての哲学を脳内で説いていると、須美がまたもど真ん中に矢を射ち込んでから質問してきた。

 

 

「ところで……」

「はい?」

「……どうして紅葉さんは私の鍛練に付き合っているのかな、と思いまして。」

「邪魔だった?」

「いえ、そうではなくて……」

 

要領を得ないなぁ。 須美は弓を置いてタオルで汗を拭くと、改めて向き直る。

 

 

「私はよく頑固とか真面目とか堅物とか言われてて……紅葉さんも、私なんかより銀やそのっちと居る方が楽しいと思います。」

「はぁ。」

 

須美が真面目なのは分かるけど、言うほど頑固じゃないし堅物でもないと思うけどね。

若葉を見てみろ、あいつこそ頑固とか堅物の体現者だし、一時期のアダ名なんて『妖怪マジメカタブツ(広めたのは俺)』だぞ。

 

バレたときなんて生大刀構えた若葉がターミネーター走りで追い掛けてくるもんだからな、流石に死を覚悟したぜ。

あの歳で居合の腕が一切衰えてない辺りがやべーよ首狙ったの避けたら前髪斬られたもん。

 

 

「いーんじゃないの、俺嫌なこととかは自分からしない主義だし。」

「……はい?」

「好きで須美と居るだけだから気にしなくて良いってこと。」

「―――!?」

 

スコン、と、俺が射った矢が中心を捉える。

 

 

「おっ、ラッキー。」

「す、す……好き!?」

「須美だけに?」

 

……あ、無反応ですか。でもそこまで過剰反応することないと思う。

園子なんて『私も好きだよ~サンチョサンチョ~』とかわけわからん言語で返してくるし。あと烏天狗に頭つつかれる。

 

 

銀? いやそんな……安易に女の子に好きなんて言っちゃ駄目でしょ。

 

「……って、それ他の人にも簡単に言いますよね。」

「まあ~……言うねぇ。」

「…………むぅ」

 

膨れっ面をしながら、じとっとした目付きで見てくる。女心は秋の空って言うけど、今は春と夏の間くらいでしかもこの後梅雨が控えているんだよなぁ……気が滅入るぜ。

 

「わかってるからって言わないよりは良いじゃん。」

「な゛っ……!」

「俺は皆が好きだぜ? でも、言わなきゃちゃんと伝わらんでしょーが。」

 

弓を置いて俺も汗を拭い、お返しに須美の目を見る。 エメラルドグリーンの瞳と視線が交わり、耐えきれなくなったのか、須美は頬を染めて顔を背けた。

 

 

「―――言わないで、なにもしなくて、後回しにして、後悔しそうになったことがある。」

「……えっ?」

 

背けた顔を、須美は再び俺に向ける。

 

無意識に左腕を掴む。左腕と言うか、厳密には左腕に刻まれた傷痕。

 

 

 

 

 

『誰か私を―――――愛して……っ!』

 

 

 

 

 

「いや、後悔()()()……か? うん。だからもう『あの時ああしてれば』とか、『あれを言えてたら』で嫌な思いはしたくねーのよ。」

「―――紅葉……さん……?」

 

須美の前に立って、そっと抱き締める。 須美は雰囲気で何かを察したのか、されるがままに体を預けた。

 

 

いつ(西暦組)らがこの世界に来た時系列が諏訪遠征前だから……あの一件はあいつらがここから帰った後の話か。

 

頑張れ昔の俺、選択肢ミスったら死ぬけど。

 

 

「一個だけお願い。」

「……はい。」

「頼ってくれ。 抱え込まないで、悩んだら言ってほしい。 俺を―――俺達(年上)を頼ってくれ。」

 

本音半分、保険半分。

ここでこう言っとけば、後のアレも防げるかなーって言う小賢しい考え。

 

「……ふふっ」

「須美?」

 

えぇ……何処に笑う要素があった。

俺の胸に顔を埋める形を取りつつ、何かが可笑しかったのか、小さく笑いながらぐりぐりと顔を擦り付ける。

 

犬か。

 

……須美はよく犬っぽいねって銀とかに言われてるけどさ。

 

 

「紅葉さんはこういう時に周りも頼る、と言うのは美点ですが……そこは『俺を頼れ』とビシッと決める所ですよ。」

「えー、俺だけで背負いきれるとか自惚れちゃいないし。」

「……はっきり言えば今よりカッコいいのに……」

「ははぁ、ご冗談を。」

 

俺がカッコいいとか嘘でしょ。射手(しゃしゅ)として視力の低下は致命的だし後で眼科行こう?

 

 

って言ったら強めに腹を叩かれた。やめろ朝飯が出てくるだろ

 

 

 

 

 

使った道具を片付け、大赦に矢の弁償を頼んで、さて帰ろうかというときに須美が呟く。

 

 

「……あの……」

「んー。」

「き、今日の……お夕飯……」

「晩飯がなに?」

 

指をもじもじ弄ると、意を決した様子で言った。

 

 

「今日のお夕飯、私の部屋で食べませんか?」

「……あー…………まあいいけど。」

「! ……そ、そうですか……!」

 

大丈夫かな、主に俺が。

 

女の子の、それも小学生の部屋に行ったのがバレたら確実に学校の屋上から垂れ幕みたいに吊るされるだろう。 そんな未来を懸念しながら、俺は須美と一緒に弓道場を後にした。

 

 

 

尚、このあと普通にバレて吊るされた模様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大赦に特設させた訓練場。そこで夏凜と銀は、各々の得物を手に睨み合っていた。

 

 

「はあああああ!!」

「―――甘い。」

 

 

銀が赤い装束を身に纏い、身の丈程ある大斧を叩き付ける。

 

その軌道上に立っている夏凜はあと数センチで接触する―――という所で刀を召喚し、器用に受け流した。

 

水平に斬る一撃を避け、叩き付けを受け流し、斧の腹を蹴って軌道を逸らす。

 

 

十分以上ぶっ通しで斧を振り回せるスタミナ持ってる銀も銀だが、色々とハンデがあるのに一切集中力を切らさない夏凜も大概だな。

 

夏凜の勇者システムが銀のおさがりと言うこともあって、最近はよく二人でこうして訓練しているらしい。

 

単に銀の攻撃を夏凜が受けるだけなのはそれが夏凜にとってのハンデで、銀は夏凜から攻撃させるくらいに夏凜を追い詰めるのを目標にしているのだとか。

 

 

 

 

たまに弾かれてすっ飛んできた斧が俺を狙って突き刺さりそうになるのはどうにかならんか。

 

 

とか考えていたらさしものスタミナお化けの銀でも疲れてきたのか、斧を振る速度が目に見えて遅くなってきていた。

それを指摘するように峰で手を叩き、落ちる直前の斧を手元から弾き飛ばす。

 

 

―――ブーメランみたく回転したそれが、胡座をかいて座っている俺の頭頂部ギリギリ上の壁に突き刺さった。

 

 

「…………あのさぁ。」

「うおっ!? ごめんなさい紅葉さん!大丈夫ですか!?」

「あと少しで若くしてハゲるところだったよ。」

「ほんとすいません……」

「あ、悪い。」

 

もー夏凜ったらストイックなんだ。

変身を解いて近付いてきた夏凜が、斧を引き抜く。

 

……俺も持ったことあるけどそれ結構重い筈なんだが。

 

斧を銀に手渡した夏凜は、何をどう言うかで迷っているらしく、少し間を空けてから言った。

 

「……疲れて脱力してからは、私を参考に遠心力や相手の力を利用した動きに切り替えなさい。そうすればさっきより良くなるわ。」

「なるほど……なるほど?」

「分かってないわね?」

「……実は。」

 

 

しゃーない。

こいつら感覚派だからなぁ。

 

夏凜はずっと訓練続けてたから良いのだが、どうにも説明が苦手らしい。だからこうして銀が理解してくれるまで根気よく続けているのだとか。

 

 

……いや、勇者って大概が感覚派か。

 

 

「もう一本……と、言いたいけどそろそろ休憩挟まないと体に負担になるわね。」

「そっすねぇ、流石にもう振れません……」

「友奈達にマッサージ頼もうか?」

『ヤメロォ!!』

 

声を揃えて怒鳴られた。 そんなに嫌か、まああれに耐えられるの俺くらいだもんな。

 

 

……夏凜とか千景のふにゃふにゃした声まだ録音残ってるし、今度皆揃ってるときに爆音で流したろ。 前にやったときは本気でぶん殴られて肋骨にヒビ入れられたけど。

 

 

「……はあ。 銀もしっかり体を休めなさい。」

「うっす! 有難うございます、夏凜さん!」

「…………ん。」

 

純粋で真っ直ぐな好意には相変わらず弱いんだな。夏凜は頬を赤くして、そそくさと訓練場から消えた。

 

それを見送ってから、銀にスポーツドリンクを渡す。 一気に呷ると口に垂れたのを拭った。

 

 

「あーーー疲れた。 熱々の風呂に浸かりたいっす。」

「お疲れさん。 そろそろ変身解いたら?」

「そうですねぇ。」

 

勇者端末を弄って変身を解く銀。一瞬光に包まれて、それが弾けると神樹館小学校の体操服を着ている銀に早変わりした。

 

 

「銀の学校の体操服って結構ハイカラなデザインしてるんだな。」

「んー? 紅葉さんの小さい頃はどんな格好だったんですか?」

「ふつーの白い上と黒いズボン。 正直お前のやつが羨まし―――――」

 

「…………紅葉さん?」

 

咄嗟に目を逸らす。

見てない。見てないよー。

 

「……どうしたんで…………!?」

 

銀の声が途切れる。 どうやら変身後に出た汗とかは元の服にも影響を出すらしく、あー、んー、えー。

 

銀の体操服の上が、汗で濡れて肌に張り付き透けていた。 えーっと、スポーツブラですか。

 

もうちょっと色気づいた方が良いのでは? とか考えてる辺り俺今混乱してるな。

 

 

……いかんいかんいかんいかん。

 

 

「ぁぅ……み、見ました?」

「すまん。」

 

胸元を腕で隠した銀が顔を真っ赤にして聞いてくる。

 

事情が事情なだけに銀にぞっこんの美森にぶっ殺される覚悟をして、もはや私服と化していたジャージを脱いで投げ渡す。

 

 

「……それの前閉めて隠せ。」

「……はい……」

 

急ぎ目に俺のジャージを着る。 サイズが違うから、ちょっとブカブカしてる。

 

「いや、ほんとすまんかった。」

「あー……仕方ないっすよ、こっちこそすいません……粗末なもん見せちゃって……」

「は?」

 

銀は口を尖らせて、手元が隠れてる袖をぷらぷらと振り回す。

 

「だーって、アタシって園子とか須美みたいに女の子らしくないし。」

「……俺はお前くらいが調度いいけど。」

「世辞っすか?」

「違うわい。 銀くらい家の事とかしっかりしてる相手なら、家の嫁に欲しいくらいだぜ?」

「―――う゛ぇ!?」

「あ、逆が良い? 婿に行こうか?」

 

そうじゃない!と慌てた様子で言ってくる。

 

 

「そ、そうじゃ、なくて……」

「…………とりあえずさ、帰らない?」

「えっ、あー、はい?」

 

話の流れを断ち切って、提案する。

 

ずっとここに居たら余計な事言いそうだし、何より訓練場の中で女の子の甘い匂いと汗の匂いが混ざってて脳みそがぶっ壊れそう。

このままでは俺は翌日死体で発見されてしまう。

 

「そのジャージは今度返してくれれば良いから、部屋帰って風呂入ってきな。汗で冷えて風邪引くぞ。」

「………はぃ…」

 

どこかしおらしくなって、俺の後ろを着いてくる。 良いんだぞセクハラとかで勇者部に密告しても。甘んじて受けるし。

 

 

暫く歩いて、寄宿舎の前に到着する。

 

「んじゃ、また明日な。」

「あの……紅葉さん。」

「んー。」

「アタシのこと……どう思います?」

 

なんだ急に。

そんなことを聞いてきた銀は不安げに俺を見上げる。その瞳は、揺れていた。

 

―――ほんと女心ってのはわからん。

 

 

ので、アホな男らしく、俺は本心を言った。

 

「可愛いよ。 でも、もうちょっとお洒落とかしてほしいかな。絶対似合うと思う。」

 

 

……多分、互いに顔が熱くなってる。

 

返答を聞く前に、俺は走って家に帰った。

 

 

 

後日、特に何か咎められるような事は言われなかった。銀は何もしなかったらしい。

 

……借りが出来ちゃったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寄宿舎の自室に帰った銀は、入浴を終えて寝巻きに着替えて布団に腰掛ける。

 

 

「……はぁー。」

 

水を飲んで、ため息を一つ。

 

 

「紅葉さん……なんであんなこと言うかなぁ……」

 

紅葉に寄宿舎の前で言われた事を思い出して、枕に顔を埋める。

ふと、ベッド脇に脱ぎ散らかされたジャージを手に取り―――

 

 

「ぅ、わ……」

 

なんとなく、匂いを嗅ぐ。

普段一緒にいる須美や園子達から香る花のような匂いは、当然せず、かといって汗臭いと言う訳でもない。

 

紅葉が少女の香りを『女の子独特の』と表現するように、銀もまた、紅葉の匂いを『男の子独特の匂い』だなぁ、と判断していた。

 

 

それを臭いとは思わなかった。 寧ろ―――。

 

 

「―――男の子だなぁ。」

 

ジャージを抱いて、ベッドに横になる。 ジャージを布団の代わりにして、まぶたを閉じた。

 

 

「2年差なら、ギリセーフ……だよな?」

 

 

誰に聞かれるでもない言葉を溢して、銀は眠気に身を委ねた。

 

 

―――胸の熱さを、心地よく思いながら。

 





園子まで入れたら今日の内に投稿できないと判断したので、そのもみ回は別の機会に。

ちなみに紅葉の小学生組への好感度は1~10で言うと、須美→9、園子→8、銀→150 くらい。
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