『なんの特殊能力も無いけど常人ではない人達に食らい付く凡人枠』と言う意味で、紅葉に限り無く近いのは恐らくSPECの瀬文さん。
今回はR17.5くらい。 だと思う。
「そう言えば、貴方って銀君が好きなのよね?」
「ぶっ――――ぅあ゛っつう゛い!?」
鍵が開けっぱの俺の部屋に入ってきた歌野が、リビングで寛いでいた俺の対面に座ると、突然そんな事を言ってきた。
湯呑みを口に当てた時に緑茶を吹き出したせいで、顔面にそれが掛かる。
「うご、うごごごごごご…………」
「なんでこんなクソ暑い時期に熱いお茶なんて飲んでるわけ。」
「まず謝罪だろこの野郎……!」
タオルで熱々のお茶を拭い、話をやり直す。
「で、なんで貴方熱いお茶なんて飲んでるの。」
「あ、そこから? あのなぁ、暑いからって冷たいもんばっか飲み食いしてたら胃が駄目になるんだぞ? お前も健康には気を使えよ。」
「やってる事が完全に爺のそれなんだけど。」
そろそろ合計年数が三十路の人には言われたくないんだよなぁ…………。
適当に作った野菜スティックを出すと、歌野はそれを齧りながら続けた。
「話を少し巻き戻すけど、貴方って銀君が好きなのよね?」
「…………そんなこと聞いてどうすんだよ。」
「見ててモヤモヤするからとっととくっついて欲しい。」
「あら直球。」
歌野曰く、俺の事は部員全員が知っているらしい。 俺って分かりやすいのかねぇ。
「あんまり声に出すのは恥ずかしいから好きだのなんだのは言わんが、俺にどうしろと?」
「押し倒せば?」
「殺されるわ。」
美森辺りに蜂の巣にされるわ、しかも相手は小学生だぞ。
「なに、死ねって?」
「臆病ねぇ、どうせ銀君も貴方に悪い感情は持ってないんだから押せば堕ちるでしょ。」
「こんな言動する奴が勇者ってマジ……?」
いつの間にか手首から首に移動している首輪をチャリチャリと弄る歌野を見て、俺は複雑な心境になる。 お前に人としてのプライドは無いのか…………?
そろそろリードとか付けられそう。
犬耳のカチューシャでもあげようかな、とか考えながら俺はお茶を入れ直す。
「ちなみに聞いておくが、お前ら過激派は俺と銀になにをしようと企ててたんだ?」
「あー…………銀君と食事でもさせて、貴方の料理にだけ亜鉛大量にぶちこむとか。」
「それ多分俺が銀に襲い掛かる前に血ぃ噴いてぶっ倒れるぞ。」
あとその提案したの絶対夏凜だろ、俺は分かってるんだからな。
遠回しに殺されかけてた事はさておき、時計を見て時間を確認。 んーそろそろ出るか。
「俺今日デートの予定だからそろそろ愛の巣に帰れ。」
「えー……暑い日のみーちゃんスタミナが三倍近くに膨れ上がって大変なんだけど。」
「知らん、俺はともかく銀にまで何かしようとした因果応報だろ。」
暑い日にスタミナ三倍ってなんだよあいつフィジカルモンスターか。
駄々をこねる歌野の首根っこを掴んで玄関から外に叩き出して閉めようとすると、足を差し込んで妨害してくる。 往生際が悪いぞこいつ…………!
「貴方誰とデートするのよ。」
「散々話題に出てただろ、銀だよ。」
はい? と言う歌野の足を退かして、扉を閉める。 懐から出した動物園のペアチケットを取り出して、俺は着替えと準備を始めた。
歌野も水都とどっか出掛けたらいい発散になるのに、そんなことしないで室内デートで留めてるから生気を絞られるって何故学ばないのか。
まあ見てて面白いから指摘しないけど。
恐らく人はこれを目クソ鼻クソと呼ぶ。 ドングリの背比べともな。
◆
『それで? 銀君とのデートはどうだったの?』
「惨敗だよ馬鹿。」
『酷い八つ当たりねぇ。』
デートからしばらく経った夜、俺は枕に顔を埋めながらうつ伏せにベッドに寝転がっていた。
スカイプ的な通話アプリをスピーカーにして、隣の部屋の歌野と連絡を取っている。
『だろうな、とは思ったわ。』
「ああ。 俺は銀の不幸体質を甘く見ていた、なんだよあれマイルドで人が死なないファイナルデッドシリーズじゃん。」
私はデッドサーキットが好きねぇとか言うくっそどうでもいい情報をガン無視して、動物園で起きた銀の不幸事案を思い返す。 あと一番面白いのはデスティネーションだからな。
この好みの違い……やはり俺とお前は戦うことでしか分かり合えないのか……。 俺が一方的にボコボコにされちゃうのは目に見えてるけど。
……で、食べ歩きしようとしたソフトクリームは一歩で地面に落ち、肉食動物は脱走しかけ、鳥の餌やりコーナーでは大量のオウムやらインコに群がられ全身羽毛だらけにさせられたり。
しかもヤギに服の端を噛み千切られるわ猿にビンタされるわで散々だったんだからな。
結局最後には大雨警報が出た事で、中断して帰ることになってしまったのである。
「もーさーーー、銀の申し訳なさそうな顔が脳裏に残っててさーーー。」
『酔ったオッサンじゃないんだからダル絡みしてこないでよ。』
「全くとんだお出かけだったぜ。」
『そういう意味では、貴方結構銀君のこと好きね……?』
「嫌いなやつと一緒に出かける人間に見えるか?」
そも嫌いなら話さないし視界に入れないし、必要ならそいつの事自分で処理するし。
ざあざあとうるさい外の雨音をBGMに、俺はベッドの上でワニのデスロールよろしく回って悶える。 音が絶妙にウザイからやめろと歌野に言われて、わざと数分続けてからやめた。
「――――はあ。」
『なぁにため息なんかついちゃって、次は部屋で一緒になんかすれば良いじゃない。』
「謎の力で部屋が爆発したらお前の責任だからな。 まあそれはそれとして、付き合ってもいないのに部屋に入れるのは…………なんか違うと思うんだが。」
『堅物か。 発想が一々古いのよおじいちゃんは。』
誰がおじいちゃんだコラ。
本格的に犬耳…………それも神経に反応してめっちゃリアルに動かせるやつ頭にぶっ刺してやろうか、と思案している俺の耳に、スマホの奥からの声が聞こえる。
『うたの~ん? 私が居ながら……誰と話してるの……?』
『ヒッ』
「お前水都が居ながら俺と話してたのか。」
歌野の小さい悲鳴。 後にベッドのスプリングが軋む音がして、水都の声が近くなる。
「いや、あれよ、ちょっとデートの話をね。」
『紅葉ィ!! 貴方わざとでしょ!?』
『デート? ふぅん。 うたのん、私が居るのにデートなんてしたんだぁ。』
『誤解! それは誤解! ちょっ、みーちゃん変なところ触らないで…………』
『あ゛ーーーーーーーー!!?』
ゴリラ特有の低い叫び声がスピーカー越しに木霊した所で、俺は静かにスマホの画面を消した。 あれは尻を狙われたな……間違いない。
………………寝るか。
大雨でうるさいが念のため耳栓付けよう。 歌野が一階の一番端で俺がその隣だからか、俺と歌野の部屋の間にある壁薄いんだよね。
何処に入れといたか忘れた俺が棚を漁っていると、不意にインターホンが鳴る。
すいませんもう10時くらいなんですけど。
歌野が助けを求めてきたのかと疑いながら、玄関脇に吊るしてある折り畳み式じゃない普通の警棒に手を伸ばす。 慎重にチェーンを外して、不意を突く為に勢い良く開けた。
「うわあ!?」
「誰だコラ…………あれ、銀?」
想定してた身長より大分低い位置から声がして、下を見ると、そこには大雨の中に居たのかびしょ濡れで髪から水を滴らせた銀の姿があった。 …………別れたの6時くらいだったよね。
「……なにやってるんだ、銀。」
「あ、はは……実は部屋の鍵落としちゃって……」
「それで探してたのか? 今の今まで?」
「……はい。」
濡れた髪を掻いて誤魔化す銀。
その様子を見て、俺はイラっとした。 なんで連絡しなかったんだ、とか。 夜道は危ないだろ、とか。 多分今口を開けば、そんな事ばかり出てくるだろう。
色々言いたいことはあるのだが、このままでは風邪を引く事は確実か。 そこで思考を打ち切って、ドアを開けて銀を中に招く。
「入りな、風邪引くぞ。」
「あ、ありがとうございます……」
「すぐに風呂沸かすから待ってな。」
「それとなんか、歌野さんの部屋から叫び声が聞こえてきたんですけど……。」
「何時もの事だ。」
ええ……と言う銀を他所に、そう言って俺はタオルを投げ渡して大急ぎで湯船の残り湯を温める。 体を温める唐辛子系の入浴剤をぶちこんでから銀を呼んだ。
「おーい、さっさと入れー。」
「はーい。 ……あれ、アタシの着替えとかどうすれば?」
「気にするな、どうにかするから。」
服の問題を気にする銀の背中を押して浴室に放り込み、扉を閉める。
俺の普段着を突っ込んでるのとは別の段から適当に服と下着を取り出して、かごに入れて風呂場の手前に置く。
「……鍵、か。 冗談じゃなく危ないな。」
俺はスマホを取り出し、銀が風呂から出てくる前に大赦に連絡を取った。
◆
「いやあ、さっぱりしましたぁ。」
「そりゃ良かった。」
ホカホカと湯気を立てて、あぐらを掻きながら銀は髪をタオルで拭いていた。
「――――それはそうと。」
「なんだ?」
髪を拭き終わり、タオルを首に巻いて垂らした銀。 どういうわけか、じとっとした目を向けられる。 …………な、なんだよ。
「なんで、アタシに合うサイズの下着とかが紅葉さんの部屋にあるんですか。」
「……変な誤解はするなよ、それ全部歌野のだぞ。」
「へぇっ?」
「なんか度々下着が無くなるらしい。 なんでだろうね?」
「ははぁ……なんででしょうかねぇ…………。」
全てを察した銀の遠い目と、Tシャツの『のーぎょーおー』という文字を一瞥。
暇潰しに作った生姜湯を啜りながら、窓を打つ雨粒の音に耳を傾けていた。
「……あと、今日はほんと……すいませんでした。」
「何が?」
「アタシのせいで、紅葉さんの動物園のチケット無駄になっちゃって……。」
「あー、別に。 あれくじ引きで手にいれたやつだし。 お前が気にする必要は無いよ。」
しょげてる様子の銀。
自分の不幸体質の事から負い目があるのか。 気にしてないことをわからせるように、俺は髪がちゃんと乾いてるのかを確かめるついでに銀の頭を撫で回す。
「うわわわっ」
「そんなに気にしてるんなら、その内どっか行こうぜ。 どうせまたチケット手に入るし。」
俺その辺の運だけはやたら良いんだよね。 宝くじ買うとほぼ必ず高い賞金手に入れるから絶対買うなって言われたことあるし。
気にするなとばかりにぐしゃぐしゃと髪を掻き乱すと、銀は目を細めて大人しくなる。
風呂上がりでふわふわの髪を堪能するのは、銀が座ったまま船を漕ぎ始めたところでやめた。 時間を見ればもう0時、良い子は寝る時間だろう。 俺? さあねぇ…………。
「そろそろ寝るか。 鍵の件は、明日にしよう。」
「…………んーー。」
「ほれ、起きなさい。」
頬を軽く叩いてからベッドに向かい、薄い肌掛けを捲って壁際に背中を預ける。
「銀も来い。」
「……もしかしてアタシもベッドですか。」
「当然でしょ。」
壁に背中をぴったり合わせ、左手で空いたスペースを叩く。
銀は、気まずそうに頬を指でなぞった。
「俺はお前を床で寝かせたくないけど、俺も床で寝たくないんだよ。 さあ、
「……………………はい。」
長い思考の末、銀はもぞもぞとベッドに転がり込んだ。 パチンと電気を消すと部屋の中は真っ暗になり、深夜唯一の外からの光は、大雨の雨雲で隠れている。
故に、俺は気付けなかった。
銀の瞳の奥にある、暗く小さく揺れていた炎に。
◆
ぱち、と。
眠ってからほんの二時間で、銀は目を覚ました。
その二時間で雨が止んだらしく、月明かりが部屋の中を照らしている。 ゴーゴーと言うエアコンの音と、紅葉の死んでいるのではと勘違いするほどに小さい呼吸。
普段の人を煽りおおよそ
「……腕枕。」
どうやらだらりと伸ばされた紅葉の右腕を枕に使っていたらしい。 左腕は銀の腹に回され、ガッシリとホールドされている。
男に捕まっている状況なのだが、不思議と不快感はない。
「…………紅葉さん、起きてます?」
なんとか体勢を反転させ、紅葉と向き合うと銀は小声で呟く。 返事はなく、ただ呼吸の音が返ってくるだけだった。
顔―――と言うよりは首元、そこが月明かりに照らされ、寝汗が光に反射する。
ふと、心臓が高鳴るのを自覚した。
「紅葉さん……寝てるんですよね……。」
もぞっと動いて、体を紅葉の方に寄せる。 自分の呼吸が荒くなっているのが良く分かるが――――もう、銀は止まれない
「――――起きないのが、悪いんですからね……っ」
言い訳するようにそう言うと、銀は顔を首元に近付け、鎖骨を犬歯で削るように噛み付いた。 コリコリとした感触と鼻に刺さる男の臭いが、銀の理性を狂わせる。
思考回路が焼き切れてゆく感覚を無視して、貪るような動きで食らい付く。
それだけの事をされながら起きない紅葉が悪いのだ、と免罪符をかざしている銀だが――――その目線はとうとう、首筋に向く。
「――――フゥーー……フゥーーー……ッ!!」
獣のような荒い呼吸で、銀は紅葉の首筋に狙いを定める。 口を近付けて、そのまま――――首の肉を食い千切る勢いで歯を立てた。 ガリ、と音がして一筋血が垂れる。
熱い息を傷口に送り込むような呼吸をしながら、服を掴み体を紅葉に擦り付ける。
力を込めて歯を立てていた口を離すと、紅葉の首にはくっきりと歯形が残っていた。
歯が深く埋まって血が滲んだその痕を見て、奇妙な満足感に包まれる。 慈しむように、愛しいように、歯形を一度ペロリと舐めると、銀は胸元に顔を埋めて眠りについた。
先程とは打って変わって穏やかな寝息を立てる銀と、痛みからか眠りながら顔をしかめるもすぐに顔色を元に戻した紅葉。 決して真っ直ぐではない愛情を、向けて、向けられる二人。
この二人の行く末を、ただ窓の外の月明かりだけが見届けていた。
紅葉の中身がジジイだとわかってるのはゆゆゆ勢(神樹内に来る前に話してる)とのわゆ勢(西暦との見た目、性格の違いを考えて話さざるを得なかった)だけで、小学生組には話が複雑だからと説明してないし誰も話してません。
紅葉
・精神年齢的には孫とジジイ。 本心から好きなんだけどひなたとの思い出が残ってるのもあって、そんな自分が銀を幸せにできるかわからない思考回路堅物マン。 小学生だからって油断する方が悪いんだよ分かったらもっと攻めろやヘタレ野郎(ヤジ) 噛み傷くっそ染みるんですけど。
銀
・愛しさ余って独占欲100倍。 紅葉の体をガジガジすると幸福感で凄い事になるのに気付いた。 最近は紅葉が歌野とかと仲良さげなの見てるとモヤっとする。 あと水都辺りからアドバイス貰ったらやべーことになるからやめろよ、絶対だぞ。
歌野
・とうとう首輪を首に着けるようになった。 犬耳が見える見える……モフいぜ(幻覚)
水都
・銀ちゃんには可能性を感じる。 鍛えたら伸びるね(巫女特有の観察眼)
良い子は『愛咬』で調べちゃ駄目だZOY