【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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これを見ている人にとっては5月1日の投稿なのだろうが、書き始めたのは25日で終わったのが26日である。予約投稿って素晴らしい。

誕生日記念回は本編投稿よりも優先されるぜ(鉄球使い)



祝福 犬吠埼風は部長である

 

 

 

何時もの光景を見せる勇者部部室。

 

眠りこけている園子の髪の毛を、紅葉がわざわざワックスを使って栗のように尖らせていると―――

 

 

 

「紅葉居る!?」

「……んー、どうした? 風。」

 

 

「丁度良かった、付き合って!」

 

「…………は?」

 

 

―――慌ただしく現れてそう言うや否や、風は紅葉の腕を掴んで部室から出ていってしまった。

 

 

 

部室に残されたのは、文字通り(かぜ)のように現れそして去った(ふう)を見て呆然とする者。

 

『付き合って』に過剰反応してお茶を対面の勇者にぶちまける者。

 

状況を理解して面白がる者。

 

長い髪がイガグリのように尖っている者。

 

 

 

「これは面白い事になりそうな気がするんよ~!」

「うわあ……」

「ご、ごめん銀!」

 

尾行しようとして若葉に止められる小さい園子、須美が吹き出した緑茶を顔面で受け止めた銀、タオルを引き出しから出そうとする須美。

 

ここに一つ、混沌が出来ていた。

 

 

「これは戦争の狼煙を上げなきゃにゃあ。」

「物騒な物言いだな、雪花……」

 

あと、静かに勇者アプリを構える者もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの言い方じゃ語弊があるだろ。明日が怖い。」

「し、仕方ないでしょ! 時間がないのよ!」

 

鞄を背負って歩道を走る風と俺は、スーパーに向かって走っていた。要するに特売日である。

 

 

「だって一人1個限定の卵のパックが格安なんだもん」

「『もん』じゃねえよこの野郎」

「ごめんなさい紅葉さん、お姉ちゃんが言葉足らずで……」

 

「……樹に免じて明日は風を盾に事情説明だな。」

「ちょっとお!?」

 

校門で待ち合わせてたは良いが樹に合わせて歩いていたら遅れるからと、俺が小脇に抱えていた樹がフォローする。風はいい妹を持ったものじゃな……妹を見習いタマえ。

 

果たして風と並走しながら樹を脇に抱えて走っている俺たちは何に見えているのだろうか。

 

仲の良い兄妹?誘拐現場?

 

親子は流石に無いだろう。

 

 

「つーか、なんで俺だけ誘ったんだよ。小学生組でも連れてけば大家族とか装えただろ」

「ばっかアンタ特売日は戦争なの。小さいの連れてったってすぐ弾き飛ばされておしまいよ?」

 

「えぇ……そんなか?」

「……だいたい合ってます。」

 

遠い目をして瞳を濁らせる樹、相当なトラウマになっているらしい。戦争ってのが比喩でないことを物語っているが特売日とかわざわざ狙う必要ないから知らんかったわ。

 

 

「……さて、気を付けなさい紅葉、最悪死ぬわよ。」

 

たかが特売で物騒すぎはしないか、それ以上の事散々してきただろお前。

 

「いやぁ腕切断しかけたり床ぶち抜いて落下したり首撥ねられそうになったことはあるけど、『スーパーで特売狙ったら圧死』とか笑い話にもならんな。前者の方がよっぽど面白いわ。」

「全然笑えないんだけど。」

 

目を細めて俺を睨む風。

当事者がなんか言ってるぜ?

 

 

「はぁ……とにかく頑張りなさい。アンタ次第で今日のメニューが決まるわ。」

「じゃあ帰りまーす」

「その前に私を降ろしてくださーーーい!」

 

 

……忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは地獄だった。

 

 

メダルの怪人もドン引きするレベルの欲望が渦巻き、果敢にも飛び込んだ樹がピンボールみたく飛んで行く。

なんとか取れたのは俺と風で2個だけ。

 

主婦達が消えたときその場に居たのは、辛うじてパックを死守したボロボロの俺と風と床に倒れ伏す樹の3人だった。

店員は哀れむように俺達を見ている。汚いからそろそろ起きなさい樹。

 

 

「―――次からは金払われてもこんなことやらねえからなお前、明日覚えとけよコラ」

「……悪かったわよ、まさかここまでとはネ」

「死ぬかと思いました……」

 

風が押してるカートのカゴに卵を入れてから樹を立たせてやり、制服に付いた埃を払う。

 

「あーあー、後でコロコロしとけよ」

「あ、ありがとうございます」

 

……コロコロ、正式名称なんだっけ。

ラバーカップ(トイレのスッポン)くらいどうでもいいけど。

 

 

「あ、そうだ。アンタ今日来るでしょ?」

「なんで決定事項みたいに言うかな。」

「お礼も兼ねて料理振る舞ってあげるワ」

「んーーー……じゃあ行く。樹は大丈夫か?」

 

「…………へ?」

 

へ?じゃないよ。ぼーっとしながら後ろを歩いていた樹は、俺と風を交互に見る。こいつ聞いてなかったな?

 

「今日俺そっちに行っても大丈夫かって聞いたんだけど。聞いてなかったのか?」

「あー、あー。はい、大丈夫…………です?」

「いや、聞かないでよ」

 

 

さっきのが大分ダメージになってるな、後で肩でも揉んでやるか。

 

友奈? 色々と酷い絵面になるからNG。

 

 

「ところで、歌野とか夏凜とかって料理できるの?」

「歌野は蕎麦茹でるのは俺より上手いが他は駄目だ、レシピ見るのもめんどくさがるが夏凜はまあ、焼いたり煮たりは出来る。」

「ふぅん」

 

口を尖らせ、ちょっと得意気な顔をする。俺みたく料理洗濯掃除が出来る事に優越感でもあるのだろう。うーんちょっとむかつく。

 

 

……こういうタイプって褒めちぎるのに弱いんだよな。

 

「その点お前は凄いよな、家事一通り完璧なんだから。」

「なっ……なによ急に……」

「いやぁ? このご時世にその年でここまで出来るやつなんてそう居ないもんだからな、お前なら相手には困らんだろ。」

「な゛っ―――」

 

実際困らないと思う。女子力女子力うるさくて大食らいなのを除けば、かなりの優良物件だ。

 

 

「紅葉さん紅葉さん。」

「はい。」

 

固まって動かなくなった風を尻目に、後ろから裾を引っ張ってきた樹に振り返る。呆れた様子で言ってきた。

 

 

「そこは『俺の家に来てほしい位だ』って言うところですよ!」

「お前どっちの味方なの」

 

樹の言葉がとどめになって完全に硬直した風。 ……こいつ置いてって会計済まそう。

 

風から買い物用の財布を取って、代わりにカートを押してレジに向かう。樹は何度も風を揺さぶって元に戻そうとしてたけど、それは俺が材料を袋に詰めるまで続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食後。相も変わらずアホみたいに大量に作られた料理に四苦八苦しながらも、俺は前のようにソファに体を沈めていた。

 

 

「……帰ったら胃腸薬飲も……」

 

軽く膨れてる気がする腹を擦り、頭の上で跳ねる木霊を鉢植えに乗せておく。

こいつも好きだな、俺の頭。

 

 

「あ゛~~~疲れた。」

「お疲れさん。」

「もーみじー、あたしを癒してちょうだ~い」

 

ソファに座った俺の横に勢いよく座ると、その勢いのまま俺の膝に体を預けてくる。

邪魔くせえな。

 

「だから洗い物は俺がやるっつったろーが」

「その言葉に甘えとけば良かったワ」

 

だからって今甘えんなコラ

 

 

料理から洗い物まで一人でやって、流石に疲れているのだろう。俺がやるって言ったのに『客なら大人し(要約)くしてろ』と一蹴してきたこいつが悪いのだが。

 

 

「なーでーてー」

「ちっ…………はいはい。」

 

どうせこの後風呂だろうしぐしゃぐしゃに掻き回してやろうか…………いや、やめとこ。

何時もやるように、梳すように髪を撫でる。

 

 

「ん……結構いいじゃない」

「チビ共で嫌でも慣れてるからな。」

 

銀とか須美とか園子(小・中)とか球子とか。

あと歌野。要は昔取った杵柄よ。

 

 

「普段はこんなことさせないだろうに、よっぽど疲れてんのかお前。」

「……ちょっと、ね。」

 

樹は風呂だし、女の子は風呂が長い。風もここしかないとか思ったんだろう。

俺は静かに撫でられている風に聞いた。

 

 

「悩んだら相談だろ? 部長さんよ。」

 

 

5秒か、10秒か。

間が空いたことを気にするまでもなく、風は語る。

 

「アンタがあたしの目の事で怒ってくれたり、真っ正面からぶつかってくれたことは、今でも感謝してるわ。」

「それくらいしか出来ないからな。」

「ふふ、なんか、懐かしい感じね。」

 

まあこの世界も元の世界も時間止まってるからな。かれこれ何ヵ月も過ぎてるんだ、懐かしくもなるだろう。

俺の顎を見るように顔の位置を変えると続けた。

 

 

「―――不安なの。勇者部で皆を纏めてると、ふと思う。あたしは部長としてリーダーとして上手くやれてるのか。

あたしなんかより、若葉とかの方が向いてるんじゃないかって考えちゃうのよ。」

「ああ、うん。『リーダー』なら若葉の方が向いてるな、あいつそう言うのが得意な武将みたいな奴だし。」

 

うっ、と息が詰まったような声を出して黙り込む風。こいつも抱え込む(たち)だからなぁ。

お陰で爆発された時は軽く死にかけたもんよ。

 

 

だからこそ愛しく、だからこそ守らなきゃならんのだが。

 

 

「―――でも『勇者部の部長』はお前にしか出来ねえだろ。こうやって悩んで悩んで悩んで、でもあいつらを蔑ろにしたりは絶対にしない所は素直に尊敬してるよ。

けどそれで自分が苦しむのをどうにかする事が後回しになるのは……お前の悪い癖だな。」

 

「……もみじ」

 

()()俺がいくらでも受け止めてやる。だから少しは吐き出せよ。」

 

 

千景と棗が来るまでは唯一の3年生だった。唯一の年長者で、そして部長として皆に背中を見せなければならなかった。

そのプレッシャーだの重圧だのってのは計り知れないモノだろう、色んなもんをいっぺんに抱えられるほど強くねえ癖によくやるよ。

 

 

「頑張りすぎなんだよ、お前。頼れる相手が19人も居てまだ足りないのか?」

「……あたしって、恵まれてるのね。」

「今さら気付いたのか? ばーか。」

 

額をつつくと風は逃げるように顔を背けた。

続けて髪を梳し、頬を撫でて、耳を弄る。

 

あ、赤くなった。やーい照れてやんの。

 

 

 

 

 

「……あれ、おーい、風?」

「―――――ぐーーーー。」

 

 

無反応になり、気になって確認すると風は寝てた。人の膝を枕に良いご身分だぜ? 風呂は……後で樹に起こさせるか。

 

しっかし、大人しい所を見ると相応に可愛いんだがね。普段とのギャップが酷すぎる。頼むからもう少しお淑やかになってくれ、頼むから。

 

 

 

……あ。そういやこいつ今日誕生日だったな。

 

忘れてないよ?ほんとだぜ?

 

 

「あー、どこに仕舞ったっけなぁ……と。」

 

ソファ脇に置いた鞄を引っ張り出して、中から袋を取り出す。数日前に買ったのを入れっぱなしにしてたけどまあ……大丈夫でしょ、そんなこと気にする奴じゃないし。

 

テーブルの上にお……けない。ああん、こいつ邪魔。

 

 

「……ヘルプミー、犬神。」

 

俺が呼ぶと、風のスマホから犬神が飛び出してきた。俺の顔にへばり付いたのをひっぺがして両手で持ち上げると、相変わらず無表情だがその代わりに尻尾が揺れている。

 

「よしよし、お前はほんと可愛いな。そんなお前に重要な仕事を与えたいと思う。」

 

それを聞いて、どことなくキリッとした目付きになる犬神。俺もこいつみたいなペットが欲しいよ。

 

 

「こいつをテーブルの上に置いてきてくれ。」

 

俺が手のひら大の紙袋を近づけると、見た目がデフォルメ化されてるせいでどこにあるのかいまいち良く分からない口にくわえてふよふよ飛んだ。

 

テーブルに着地すると、普段風が座る位置に紙袋を置いてこっちに戻ってきた。

 

「良くやった。」

 

 

ひとしきりワシャワシャっと撫でてやってから、俺の膝の代用に風の枕として頭の下に置く。

下手なモノよりはよっぽど頑丈に出来てるお陰で、風の頭が文字通りの重荷になることはないようだ。

 

 

鞄を背負って玄関で靴を履いていると、背後から気配を感じる。振り返るとそこには、風呂上がりで黄緑のパジャマに身を包んで、ホカホカと湯気を放つ樹が立っていた。

目蓋が少し落ちていて眠そうである。

 

 

「帰るんですか?」

「もう遅いしな。()()()()()()()()

「泊まっていけば良いのに……」

「嫌でーす。」

 

寝るとこ無いし。明日も学校だし。

据え膳食ったらぶっ殺されるし。

 

 

「……言わないで帰るつもりなんですね。」

「なにを?」

「私に言わせるつもりですか?」

 

……ほんと強かになりやがって、俺は嬉しいよ。嘘だけど。あーやだやだ、勘の良い奴は嫌いだよ全く。

 

 

「じゃ、明日な。」

「……はーい。お休みなさい、紅葉さん。」

「ん。風起こして布団に投げとけよ。」

 

 

樹に手を振って、玄関を開けて家路を歩いた。

 

 

 

……アレはちょっと大胆だったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、壮観だにゃあ。」

「……そうだな。」

 

雪花と棗が、小学生組や杏や園子に質問攻めを喰らい、部室の角に追い込み漁されている紅葉を見ていた。

娯楽を見る目でそれを眺めている雪花を見て、内心でホッとしている棗の心労は何時か労われる事だろう。

 

 

「ところで風先輩、昨日の慌ただしさはなんだったのですか?」

「あー、スーパーの特売日。」

「紛らわしいのよあんたは……」

 

東郷の問いに答えた風にツッコミを入れる夏凜。

 

 

「―――あれ、あんたのチョーカーって黒じゃなかったかしら。」

「ん、これ? なんか起きたらテーブルに紙袋が置いてあってね、開けたら入ってたから着けてきたのよ。 どうよ?」

「いや知らんわ。 まあ似合うんじゃないの?多分。」

 

曖昧ねぇ、と言う風の首には、白に黄色いオキザリスの花の模様が入ったチョーカーが巻かれていた。

 

「こんなもの置いた犯人なんてそう居ないわよ、ねえ……紅葉?」

 

その言葉に、部屋の角に追い詰められ椅子に座って器用に体育座りしていた紅葉が()()()()

 

 

「知らんが。」

「はい?」

「そもそも俺だったらお前に面と向かって渡すだろ。その辺はお前、良くわかってんじゃないの。」

「うーん? ……確かに、アンタなら貸し作ろうとしてくるわね。」

「そーゆーこと。 季節外れのサンタかなんかじゃない?それか普段頑張ってるご褒美的な。」

 

んー?と首をかしげる風を―――チョーカーを見て満足げな顔を一瞬見せて尚質問攻めされてる紅葉を見て、樹は誰に聞かれるでもない言葉をポツリと溢した。

 

 

 

「………………首輪?」

 

 

 

その言葉は、部室に溶けて消える。

 

残されたのは、何時ものように騒ぐ部員と、全員を纏めて依頼の指示を与える我らが部長の頼もしい後ろ姿だった。

 

 





普段女子力女子力言ってておっさん臭かったりもするけど、本気で恋愛したら一番乙女なの風先輩だと思う。
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