【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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ちょっとずつくめゆ組も出していきたいのでまず二人です。 滅茶苦茶難産だった…………三回くらい色んな話を書き直しました。


分かりやすく言うとシズクルート、この紅葉はひなたに襲われてません。




番外 山伏シズクは裏人格である

 

 

 

「今日もお疲れさまでした。」

「あ゛ーーー…………疲れた。」

 

部室に集まった勇者と防人達。 何時ものように樹海の中でバーテックスと戦い、楽勝で終えたのだった。 歌野が机に突っ伏し、その肩を水都が甲斐甲斐しく揉んでいる。

 

 

「お疲れさま、うたのん。」

「ん゛ーーー、ベネ。」

「何語よ。」

 

対して強くないとはいえ、大量のバーテックスに襲われて疲労困憊の歌野にツッコむ夏凜。

 

 

「…………紅葉、は?」

 

そんななか、ふと防人の面子からひょこりと顔を出した少女が、ひなたに聞いてくる。

 

犬の耳のような癖毛が特徴的な、髪で片目を隠した大人しい少女、山伏しずく。 クリーム色の髪が、エアコンの風に揺れた。

 

 

「ああ……紅葉さんなら、日用品を買い足すからと一足先に帰ってしまいましたよ。 今ならちょうど寄宿舎に戻っているのでは?」

「…………わかった、ありがと。」

 

 

ワンテンポ遅れて会話をするしずくは、さっさと会話を断ち切ると、そそくさと部室から出ていった。 神託によれば戦いはしばらく来ないため構わないのだが、普段の大人しさに反した素早さがどうにも気になる。

 

「しずくさん、紅葉さんに何か用があったのでしょうか。」

「さあねぇ。」

 

首を傾げる夏凜。 基本紅葉のあれこれには我関せずだが、なんとなく用があるのは()()()ではないと…………そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寄宿舎の廊下を歩き、しずくは紅葉の部屋へと向かう。 無表情の顔色からは何を考えているかが窺えないが、気持ち嬉しそうに歩みが早い。

 

廊下の一番奥から一つ手前、歌野の部屋の隣にある紅葉の部屋の前に立つと、しずくは唐突に立ち止まり、がくりと頭を下げた。

 

 

突然の異質な行動に驚愕する相手は誰もいないが、不意に顔を上げたしずくは、荒々しく髪を掻き上げて普段よりも高い声色を発する。

 

「あっ!? 急に変わんなよしずく……ビックリしたぜ、ったく。」

 

 

ふぅ、とため息をついたしずくは文字通りに目の色が代わり、野性的な荒々しさが表に出る。 その少女の名は、山伏()()()

 

いわゆる『解離性同一性障害』によって生まれた、しずくの性格とは真逆の人格である。 シズクはガリガリと頭を掻くと、諦めたように紅葉の部屋のドアノブに手を置いた。

 

ガチャリ、と。 呆気なく開いた扉を見て、シズクの目が見開く。

 

「えー……鍵掛けろよ、不用心だな。」

 

 

わざわざ紅葉の部屋の前に来てから入れ替わった体の持ち主と、部屋の主の二人に対して、シズクのため息は尽きなかった。

 

そのまま何度も出入りしている紅葉の部屋に繋がる扉を無遠慮に開け放つと、中に入る。

 

 

適当に靴を脱ぎ散らかして、居間に出ると、テーブルを挟んで両側にテレビとベッドが置かれた部屋があった。 ベッドの上に、見慣れた顔の男が寝ている。

 

 

「紅葉……寝てんのかよ。」

 

口が僅かに開き、穏やかな寝息が漏れている。 居間にはビニール袋に包まれた洗剤やティッシュの箱が積まれていた。

 

勇者部の相手に疲れているのも祟ってか、玄関を開けた音にもシズクが入ってきた気配にも気付かない。 普段ならとっくに起きているのを、シズクは知っている。

 

 

「頑張ってんもんなぁ、お前。」

 

ベッド脇に座り、紅葉の頬をつつく。 むにむにと弾力があり、突いた指が押し返される。

 

眠ったまま眉を潜めるが、悪意を感じないのか紅葉は目を覚ます事はなかった。

 

 

「しかし、しずくの奴……毎度毎度紅葉の目の前やら部屋の前やらで急に入れ替わりやがって、頑なに戻ろうとしねえんだからなぁ。」

 

しずくがシズクに切り替わる条件は、しずくが自分の意思で入れ替わる時を除いて、基本的に戦いの時などのしずくの身に危険が及ぶ場合のみだ。 それが本来の解離性同一性障害で生まれた裏人格の役目なのだが。

 

故に、シズクからしずくに戻る事への主導権はしずくが握っている。 シズクがどれだけしずくに語り掛けてもなんの反応も示さないのであれば、諦めるしかない。

 

 

「俺に何をさせたいんだよ…………。」

 

意味不明な行動のしずくに対して、腹いせに紅葉の頬をつつくシズク。 なんだかこう、段々と変な気分になってくるのを感じる。

 

 

「……なんか、不味いことしてる気がしてくるな、これ。」

 

眠っている異性のベッドに座って頬を指で触れる行為。 どうにも、いかがわしい感覚に陥る。 しかしやめられない。

 

クセになってきているのを自覚しながらもつつき続けていると、ふと紅葉の顔が動いた。

 

 

「んー。」

「……あ。」

 

その拍子に、シズクの指が紅葉の口に入ってしまう。 寝入りながらの無意識な行動で、異物を押し出そうとして舌が人差し指の腹をなぞる。

 

 

「ひゃあっ」

 

―――――と言う、男勝りな性格なのを自覚していながらの小さい悲鳴に自分が驚き、咄嗟に空いた手で口を押さえる。

 

 

「(い、今の俺の声か!? いや、それより早く指抜かないと……抜か、ないと…………。)」

 

引き抜こうとして、犬歯に引っ掛かる。 カリッと指の腹に刺激が来て、シズクの喉が音を立てて唾液を飲み込んだ。

 

 

不味いことをしている自覚は、ある。

 

だが、止められない。

 

 

 

「起きねえお前が悪いんだからな……。」

 

シズクは引き抜こうとした指を、再度奥に潜り込ませる。 腹で奥歯をなぞり、上顎に触れた。

 

流れで舌に指を置くと、生暖かく湿った物体が指の近くでうねるのが分かる。

 

 

「っ――――これ、やばっ……!」

 

ゾクゾクとした感覚が背筋を走り、ぴちゃぴちゃと指が舌に舐められる。 胸の奥に熱いものが込み上げてくるのがわかり、戻ってこれなくなるような危機感を覚えて慌てて指を抜く。

 

 

「はーっ、はぁーーーっ……。」

 

気付けば、不思議と息が荒くなっていた。

 

指を見るとぬらぬらと鈍く光を反射する液体が付着していて、目が離せない。 蠱惑的な雰囲気と紅葉の唾液に包まれている指を、シズクは、極自然な動きで自身の口許に持って行き―――。

 

 

 

「…………って、変態みたいじゃねえかッ!」

 

直前で冷静さを取り戻したシズク。 ゴシゴシとテーブルに置かれたティッシュで指の湿りを拭い、深く重くため息をついた。

 

大声を上げられ、そこでようやく、紅葉が目を覚ました。

 

 

「……んにゃ、シズク……?」

「……起きやがったか。」

 

安堵半分、落胆半分。 どこか残念だと思っている自分に疑問を覚えるが、寝起きの紅葉の何が起こったのかも理解していないマヌケ面を見ていたら、どうでもよくなった。

 

 

「おはようさん、爆睡してたぞお前。」

「あー、マジ? 起こしてくれれば良かったのに…………なんかした?」

「――――してねーよ。」

 

あっけらかんと、シズクはとぼけた。

 

まさか指が口に入ったのを良いことにイタズラしていたなんて、言える筈が無いのだから仕方ないのだろうが。

 

 

紅葉が喋る度に動く口許を見て先の行為を思い出し、目を逸らして頬を染めるシズク。 それを見て首を傾げた紅葉は、体を伸ばして関節を鳴らすとベッドから降りた。

 

「折角だし晩飯食ってくか? 実は徳島ラーメンの材料買ったんだけど、どうよ。」

「……ライスは?」

「付けるよ。」

「じゃあ食べる。」

 

苦笑いを溢して、はいはいと適当に返した紅葉は、台所と居間を隔てるのれんをくぐって台所に消えた。 深呼吸をして高鳴る心臓を落ち着かせたシズクの脳裏に、聞き慣れた声が響く。

 

 

『――――シズク。』

「(しずくか、さっきからずっと(だんま)り決め込んでた癖に急になんだよ。)」

『…………あれだけやってて、まだ自覚してないの?』

「(は? 何がだよ。)」

『………………ばか。』

「(はぁ!?)」

 

 

心の奥に隠れて会話に応じなかったしずくが、唐突に罵倒をしてくる事に驚きを隠せないシズク。 なんなんだよ……と髪を掻くシズクだが、次の言葉に、脳裏に納めていた言葉を口から吐き出す事となった。

 

『…………紅葉に指ぺろぺろされて興奮してた。 シズクって、案外えっち?』

「な゛っ……!! はぁっ!?」

「うおっ、シズク? どうした?」

「なんでもねえよ! 戻ってろ!」

 

 

端から見れば激しい独り言にしか見えないそれに反応して戻ってきた紅葉に怒鳴るシズク。 しずくからの問題発言に、ベッドに勢い良く座り直してから答えた。

 

「(誰がえっちだコラ! 俺はお前の別人格だぞ!? つまり元になったお前もそうだって事になるんじゃねえか!?)」

『…………さあ? 私は紅葉に変なことをしたいと思ったことはないし、シズクだけだよ。』

 

 

突き放すような言い方にふと違和感を覚えるシズク。 だが答えが見付からず、やがて紅葉の寝ていた枕に顔をうずめた。

 

「飯が出来たら起こしてくれ。」

『…………そんな、私アラームじゃないんだけど…………えー、寝るの早いね、シズク。』

 

ふて寝したシズクと台所に立つ紅葉の、中々進展しない間柄を思い返しながら、呆れたようにしずくは呟いた。

 

『…………少しずつ、で、いっか。』

 

 






私自身が『一話更新を一週間以内にやる』と制約しているのは、それを過ぎたら間違いなく飽きて書くの辞めるから。



紅葉
・なんで二回も眠○されてんだこいつ。 寝込みを襲われる様はまごう事なきヒロインのそれ。 この時空では基本シズクの相手担当で、多重人格者という時点でなんとなく家庭環境を察している。 しずくよりシズクと会話する頻度の方が高いが、しずくは他の連中と会話してるしまあいっかーとしか考えてない。

シズク
・口内フェチに目覚め掛けた。 自分の顔じゃないし、自分の声じゃない、全てが借り物なのに他人を好きになる権利なんてあるのか? なんて考えてるけど、相手が紅葉な時点でシリアスは無理だと思った方がいい。 良い薬が有りますよ……(巫女特有の笑顔)


しずく
・ラーメン食べたかった。 シズクの無自覚な想いを知ってるからこそわざと紅葉の前や部屋の前で入れ替わったりしていた。 嫌がらせではない。

……いや嘘。 嫌がらせ度は精々2割くらい。

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