【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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ところで安芸先生わすゆの時点で25ってマジ?

春信はこの世界だと一緒に教師やってるから安芸先生と同年代だけど、あいつの方は公式で歳明かされてましたっけ。




番外 勇者部のハロウィンである・後

 

 

 

10月31日、ハロウィン当日の勇者部は毎度のごとく賑わっていた。 汁気が乾き灯りをぶちこんだジャックオランタンが怪しく光る部室に、勇者部のメンバーが揃い無礼講となっている。

 

 

毎年毎年飽きないもんだな、まあなんだかんだで俺も人の仮装見るのを楽しみにしてるが。

 

窓際に立って適当に写真を撮ったりしていると、腕や顔に縫い跡のシールを貼って頭にネジを突き刺した棗が近付いてきた。 ……なにそれ。

 

「紅葉、とりっくおあとりいと。」

「慣れないからって無理するなよ、はいお菓子。」

「…………そうか。」

 

 

なぜちょっと残念そうにするんだ。 そんなにイタズラしたいのか、なんて考えながらクッキーを包んだ袋を渡す。

 

「ところでその仮装もしかしてフランケンシュタインのつもりなの?」

「おお、良く分かったな。 園子たちに身長が高いから向いてると言われたんだ。 『蘇るのだ、この電撃でー』だったか。」

「違うと思う。」

 

そうなのか? と言い、棗は首を傾げる。 また園子ズに上手いこと騙されたのかね。

 

 

「では他の皆にも聞いて回るから、また後でな。」

「ん、度の過ぎたイタズラはするなよ。」

「わかっている。」

 

棗のするイタズラってなんだろうね。

 

勘違いしてて『一緒に寒中水泳しよう』とか言い出しそうだけど、国によってはイタズラじゃなくて拷問になってしまう。

 

 

ふらふらーっとあっちこっちに『とりっくおあとりいと』と言って回る棗を見届けていたら、横から脇腹をつつかれる。

 

 

「もう、あんまりじろじろと他の女性を見るものではないですよ?」

「次はお前か。」

 

入れ替わり立ち替わりで現れたひなたが、俺の脇腹をつついて遊んでいる。

 

『他の女をじろじろ見るな』とはまあ可愛らしい要求だこと。 これが大人になると問答無用で朝までコースどころか翌日の夜中コースになるんだから恐ろしいわ。

 

 

「じゃあ例に漏れず言わせて貰いますね? トリックorトリート!」

「はいお菓子。」

「…………むう。」

 

だからなんで残念そうにするんだよお前らは。 即答で渡したクッキーを渋々受け取ると、ひなたは渋い顔をしながら一つ口に放り込む。

 

 

「―――!」

 

が、お気に召したらしい。

 

途端にひなたの顔色が明るくなった。 抹茶と蜂蜜とチョコとバニラのクッキーの詰め合わせは好評だな、今度上級生のクラスに売りに行くか。

 

 

――――俺は知らない、俺が上級生に売ったクッキーがそのままあやちゃん神社(のクラス)に奉納されている事を。 まさしく永久機関、遠回しに俺があやちゃんに貢いでるだけである。

 

 

「…………聞いた方がいい?」

「はい!」

「そう……それなんの仮装?」

 

 

クッキーを食べ終えたひなたは、ちらちらと俺を見てくる。 仕方なく聞くと、待ってましたとばかりにドヤ顔で言う。

 

「これですか? これは悪魔です。」

「……あー、そっか。」

 

 

サキュバスかと思った―――とか言ったら確実に翌日の夜中コース入りだからやめておく。

 

天に先端が向いたねじ曲がった角が頭に付けられ、背中にはコウモリの翼が邪魔にならないように小さくちょこんとあり、服装は胸元の開いた派手なドレス。

 

 

胸を強調するようにデザインされているそれは……あのですね、子供の教育に悪いっす。

 

俺は無言でカーディガンを脱いでひなたに羽織らせる。 キョトンとしているひなたには、自分の事にもっと気を遣って欲しいんですがねぇ?

 

 

「その仮装は派手すぎ、それ羽織っとけ。」

「え~、これじゃ紅葉さんを悩殺できないじゃないですかー。」

「しなくていいから。」

 

俺はそういう露骨なのは好きじゃないし。 当然服は着込んだまま、薄着は場合による。 ただ汗で服が張り付いて気持ち悪くなるのは難点。

 

……何の講座を開いてるんだ。

 

 

「……まあいいですよ、紅葉さんのカーディガンを合法的にゲットできましたし~。」

「こいつ強いな?」

 

ふにゃふにゃと笑って俺のカーディガンの臭いを嗅ぐひなた。 楽しそうならまぁ……良いか。 ほっといたらずっとこうしてそうなひなたを椅子に座らせて、部室の隅に滑らせておく。

 

さあ次の刺客は誰だ。

 

 

「もっみーじさぁーん!」

「……なるほど、真打登場か。」

 

 

駆け寄ってきて飛び込んできた銀を受け止める。 赤ずきんと狼をくっ付けた贅沢な衣装に身を包んだ銀は、狼っぽさを出すのに使っている犬歯の尖ったマウスピースをカポっと外した。

 

「うへへっ、トリックorトリート! お菓子くーださい!」

「トリック!!」

「即答してきた!?」

 

 

肩をがっちり掴んで提案したら驚かれた。

なんでや。

 

俺としては Treat and Trick(お菓子あげるからイタズラして)って感じだが、ガチな頼み方だと引かれるからやめておく。

 

「冗談……でもないが、はいお菓子。 子供サービスでちょっと多めにあげよう、分けて食べな。」

「今なんか凄いこと言われたような……いやまあ、ありがとうございます紅葉さん。」

 

クッキーの袋を3つ渡された銀は、腕に引っ掻けていた小さい籠に入れた。 他にも何個かお菓子が入っていることから、もう既に複数人に言って回ったのだろう。

 

 

「それにしてもその格好は……なに、少し前の俺のパクり?」

「いやあ、あれ凄かったっすね。 ってそうじゃなくて、アタシは普通に赤ずきんにしようとしたんですけど、どうせなら2つくっつけちゃえって園子が提案したんですよ。」

「ほーん。」

 

園子はほんと良い趣味してるよ。

 

「あ、後で写真撮って良い?」

「別に良いですけど。」

「よーしおじさん張り切っちゃうぞ。」

 

狙撃銃かよってぐらいカスタムされてるひなたのお古使っちゃうぞ。

 

 

「おじさんって、お兄さんでしょ紅葉さんは。 ……そういえばあの人って紅葉さんの友達なんですか?」

「あの人? あー、刃物フェチ(ヒビキ)妖怪か。 あいつは……なんだろうな、友達で良いのかね。」

「アタシに聞かれても……。」

 

そもそもまだ会って数日だしなぁ……。

まあ、友達で良いのかな、向こうがどう思ってるかは知らんが。

 

そういや若葉の生大刀見せてやる約束してたな……守る必要は別に無いが、ジャックオランタン作り手伝って貰ったし、見せるだけならタダだろう。 後で一言聞いておくか。

 

 

 

――――と、考えていた俺が甘かった。

 

コンコン、というノックの音。 近くにいた高嶋の方の友奈が、扉を無警戒にスライドさせる。

 

 

「こんにちわぁ。」

「うわぁ、デカっ」

 

扉の先に居た長身の学生――――ヒビキを見上げて友奈は呟く。 入ってこようとしたヒビキが頭を上の柱にぶつけて悶えた。

 

 

「う、うごぉ……。」

「うわぁ痛そう。」

 

来訪者に気づいた風がヒビキと友奈に近付き、俺もついでに銀を小脇に抱えて向かう。

 

「背もおっぱいもデカいですねお姉さん。」

「うーん、デジャヴ。」

「あらヒビキじゃない、どしたの?」

「おやぁ風さん、どうもぉ。」

 

相も変わらず園児辺りが見たら悪夢に苛まれそうな笑顔を披露するヒビキ。

 

と言うか風を知って…………いや、勇者部の部長だし同学年で隣のクラスなら知ってても可笑しくないわな。 開口一番に最速で無礼な物言いをした友奈の首根っこを掴んで下がらせて、代わりに前に出る。

 

 

「ようヒビキ。」

「こんにちわぁ、おにーさん。」

「それで、何か用事?」

 

「いえいえ、ハロウィンでやることも無いし、ジャックオランタン製作を手伝ったりもしたので、なんとなくですよぉ。」

 

「そうなの?」

「そうなの。」

 

笑い方のせいでやや警戒されてる部員たちの視線を背中で受け止めつつ、俺が相手すると言い風を友奈と下がらせる。

 

不意にヒビキが屈んで銀と目線を合わせた。

 

「ふひ、いつぞやのお嬢さんも居るのですねぇ。 小学生なのに。 不思議ですねぇ?」

「ど、どうも、銀です。」

「圧を掛けるな馬鹿。」

 

掛けてませんがねぇ、と言うヒビキは部室を見渡す。 なんだよもう。

 

 

「ところで以前した話を覚えてますかぁ?」

「……ああ、生大刀見せろって奴か。 もう少し我慢するとか覚えなさいよお前は。」

「27日から今まで我慢した方だと思いますが。」

「んー。」

 

いかん、それもそうだなって思いそうになった。 だが役に立ったことも事実だしなぁ。

 

 

「断られる前提で考えろよ、頼むのは一回きりだ。 それで良いだろ?」

「ええまあ、構いませんよ、んへ。」

 

刃物フェチは構わないからせめてそのキモい笑い方だけどうにかならないものかね。

 

 

「はぁ……めんどくさ。 おーい、若葉、ちょっと来い。」

「ん、どうかしたか。」

 

園子ズにイタズラでもされてたのか、頭にウサ耳、背中に天使の翼、更に巨大なサンチョとかいうよくわからん変なぬいぐるみを抱えている若葉が、机にそれらを置いて近づいてくる。

 

 

「そちらの上級生は……ジャックオランタンの製作を手伝ってくれたのだったな。 ありがとう。」

「いえ、いえ。 ああ……実は一つ頼みがありましてねぇ。」

「なんです? 言ってみてください。」

 

疑い無く質問する若葉に、糸目の裏で眼球を右往左往させるヒビキ。

 

「おにーさんから生大刀なる刀があると聞きまして、良ければ見せていただきたいのです。」

「…………紅葉、我々には守秘義務があるのだが。」

「うっかり口が滑った、めんご。」

 

眉を潜めて俺を睨んでくる若葉に平謝りしておく。 やがて俺より深くため息をついて、若葉はヒビキに向き直る。

 

 

「見せるだけで良いのなら、持ってくるから待っていてください。」

「はぁい、見るだけで構いませんとも。」

 

ギギギ、と錆びた金属を無理やり動かしたような挙動で、口許を三日月に裂いて笑みを作るヒビキ。 怖いからマジでやめろ。

 

 

「うおお……。」

 

数歩後退りした若葉は、ハッとして部室の影に立て掛けている生大刀を取ってくる。

 

 

「刃物フェチなの隠さねえわ笑い方キモいわ、友達出来ない理由がそれなの分かってる?」

「分かっていますが、分かっているからといって改善できるのなら苦労はしませんよ。」

 

糸目を開き、やや暗い、髪と同じ焦げ茶の瞳を俺に向けるヒビキ。

 

 

「異常者は自身が異常者であることを良く理解し、常人と変わり無く振る舞う知恵があると聞きました。 ですがどうやら、私は自分が変な人である自覚はあるのですが、それを隠すには不器用すぎたようです。」

 

「だから、逆にオープンに行動した訳か。」

 

 

ヒビキは瞼を薄めて口角を歪める。

 

ほんと笑い方下手くそだな、と思いながらも、こいつなりに苦労していることは分かってしまう。

 

 

「待たせたな。」

 

ちょうど良く戻ってきた若葉の手には、白い鞘に納められた直刀の太刀――――神器・生大刀が握られていた。 やばい代物だという事を直感で理解したのか、視界に入れた瞬間の体勢でヒビキの動きが硬直する。

 

「先に言っておくが、触れようとは思わないでほしい。 私以外に扱えるようなモノではないんだ。」

「ええ、ええ。 ひしひしと感じていますよ、これが生大刀……ですか――――。」

 

カチ、と鯉口を切り、しゅるると絹が擦れるような滑らかな音を立て、遮るものが無かったかのように抵抗なく生大刀が鞘から抜かれる。 見てるだけで心が浄化されたような気になってくるのだから、神器の名は伊達ではない。

 

 

波打つ波紋、白い鞘と同じ白い柄、アクセントにもなっている鮮やかな赤い紐。

 

美しくもあり、殺傷力も秘められた神秘の武器を見て、刃物フェチのヒビキがこう言うのも、無理のない話であった。

 

 

「――――――綺麗だ。」

 

 

―――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れー、紅葉くん。」

「ああ、全くだよ。」

 

 

完全に夕陽も落ちて夜、部室で一人缶のココアを啜っていると、3人いる友奈の道徳が些か欠けてる方が戻ってきた。

 

「帰らないのか。」

「紅葉くんだけまだ学校から戻ってないって聞いたから探しに来たの。」

「お迎えが必要な歳でもねえよ。」

「それは()()()()よ。」

 

 

含みのある言い方をする友奈は、俺の視線に気付かないまま椅子に座ってスマホの画面をぼーっと見ていた。 うわっにやにやしてる。

 

後ろに回って中を覗くと、そこには大量の千景の写真が並んでいた。

 

 

「うわ。」

「……なに、私のぐんちゃんが可愛くないって言いたいの?」

「お前に引いてるんだよ。」

 

美森辺りに学んだのか盗撮めいた角度の写真もあるが、真新しい写真はさっきしてた堕天使? のコスプレのやつ。 散々撮られまくったのか、千景の顔は真っ赤になっている。

 

 

「はぁ~ぐんちゃんは可愛いなぁ~。 なんで西暦(むかし)の私はぐんちゃんの魅力に気づけなかったんだろ。」

「絶賛人間らしさを学び中だったからだろ、恋愛感情なんて、神からしたら最も理解に苦しむ感情だからな。」

 

スマホを胸に抱いてくねくねしてる様は流石にウザさが勝る。 回転するタイプの椅子に座ってるのを利用して勢い良くぶん回して、回った目が落ち着くのを待つ。

 

 

「紅葉くん私のこと嫌いでしょ。」

「良くわかったな。 ()()()、嫌いだよ。」

 

知ってた、とでも言いたそうな顔で、友奈は肘を机に突いて手のひらに顎を置く。

 

『この友奈』は、神樹とのアクセスにより自分の結末と西暦の俺たちの未来を知っている。 それ故に、赤嶺友奈に同情し度々俺を哀れむような顔を向けるときがある。 ただただシンプルにそういうのが不愉快なんだよ。

 

 

俺からすれば、神樹世界の高嶋友奈は最早『四人目の友奈』と言っても過言ではない。

 

西暦の高嶋友奈とは完璧に別人となっているこいつには、せいぜい俺の居ないところで千景の尻でも追っ掛けててほしいものだ。

 

 

「紅葉くんはほっといても平気そうだし、私そろそろ帰るね。 ぐんちゃんと打ち上げする約束してるから遅刻できないし。」

「あーあー、わかったからさっさと行け。 もう少ししてから帰る。」

「はーい、じゃあね。」

 

パタパタと上履きを鳴らして走っていった友奈を見送り、すっかり冷めてしまったココアを飲みきる。 まっっっずい。

 

 

「…………あいつもまた被害者みたいなものだろうに、八つ当たりはみっともないな。」

 

椅子に座り直し、ため息をついて顔を覆う。 ああ、くそ、みっともない。

 

 

高嶋友奈。 神樹の作り出した防衛装置。 人間換算でまだ十歳にも満たない、学生の体をしただけの子供。 未熟なのは仕方がないのだ。

 

なんとなく、昔友奈と交わした最後の会話を思い出す。

 

 

 

『なあ友奈、全部が終わったら――――戦う必要が無くなったら、俺と―――。』

 

 

 

この後の言葉は、なんと続いたのだったか。

 

そんなことを考えながら飲み干した缶の底のココアは、ひたすらに苦かった。

 

 






ヒビキの笑顔をわかりやすく説明すると初めて千翼と会った時の仁さん。 あんな顔されたら友達出来ない処か夢に出るわ。




ひなた様
・本人は悪魔の仮装だと思ってるが満場一致でサキュバス扱いされた。 朝までコースは夜からだと8時間くらいで寝落ちして終わるが、翌日の夜中コースは休み無しのぶっ通しで28時間くらい続く。 ………………蛇かな?


妖怪刃物フェチ
・生大刀を見て心が浄化されたとかそんなわけもなく寧ろ悪化した。 少し先の未来で紅葉が苦戦した理由がこれ。 度々扉の上の所に頭をぶつける等で長身アピールを欠かさない。


道徳学んで奈い方
・神世紀300年の神樹にアクセスしてるから自分達が呼ばれた西暦の時間から先の未来を全部知ってる。 『高嶋友奈』が神樹に取り込まれて消えることも知ってる。 人間っぽさを学ぶ基準が近くに居た奴(紅葉)だったから結構口が悪い。 紅葉が人質に取られたら紅葉ごと敵をぶん殴れるタイプ。 ぐんちゃんLOVE勢。


紅葉
・ヒビキを友達って言ったのちょっと後悔してきた。 でもほっといたら不味い方に歪みそうだし今のうちに矯正した方が良いよね、という考えが偶然にも未来を歪めた。



『小鳥遊ヒビキの友好関係・人間関係が改善、小鳥遊ヒビキのifルートが解放されました。』
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