【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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いわゆるタイムパラドックス的なやつ。

神樹内部の記憶は無くなっても、思い出は心に刻まれる。 ならば人との暖かなふれ合いを経験した小鳥遊ヒビキの身に、どんな変化が訪れるのか。




番外 小鳥遊ヒビキは人斬りである

 

 

 

「辻斬り?」

 

「そ、辻斬り。 人斬りとも言うわね。」

 

 

放課後の部室、園子の編入から少し経ったある日、椅子に腰掛けた風がそんなことを言ってきた。

 

「そんな辻斬りって何百年前の話だよ。」

「つい最近の話よ。 もしかして知らないの?」

「……冗談だ、あれだろ、最近巷を騒がせてる殺人鬼。」

 

 

新聞に記載されているのを見る事が多い事件だ。 簡単に言えば、この二ヶ月で週に一人、必ず成人男性が殺害されている事件である。 犠牲者は9人で、時期を見れば今週の今日か明日にでも10人目の犠牲者が出るだろう。

 

 

「で、それが?」

「件の辻斬りが出た辺りで、あたしの隣のクラスに居た小鳥遊ヒビキって子が不登校になってるのよ。 偶然にしては……ってね。」

 

そのヒビキとかいうのが犯人かも、と言いたいのか。 だが成人男性を9人も殺せるような奴なのだろうか。

 

 

「辻斬り、人斬りと言われている以上使っている得物は生半可な刃物ではないんだろ?」

「ええ、刀傷ね。 バッサリ綺麗に斬られてるらしいわ。」

「そのヒビキとやらは、剣道部だったりするのか?」

「いえ……確か帰宅部ね、ただ―――。」

 

「ただ?」

 

 

言いよどむ風は、意を決したように続ける。

 

「噂じゃ生粋の刃物フェチらしいのよ。」

「なんて?」

「家庭科室の包丁を磨くのが趣味とか聞いたわ。」

「確定じゃん。」

 

なんだよそいつ……確実に犯人じゃん、怖すぎでしょ。 妖怪かなんか?

 

 

「辻斬りが動く時間帯は……確か夕方、この後か。」

「そうね……あたしは樹と帰るけど、あんたはどうする?」

「ははぁ、分かってるくせに。」

「…………直ぐ帰りなさいよ。」

 

はいはい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼けが背中を照らし、影が伸びる帰り道。 紅葉は、一人で帰路を歩いていた。

 

なんの警戒も無いまま車の通りがない道路の真ん中を歩いていると、十字路の曲がり角から、ぬるりと別の影が伸びる。

 

しかし一瞬で引っ込んだそれを、紅葉は追いかける。 曲がった先には誰も居なかったが――――――空気を裂いて殺意が降ってきた。

 

 

「っ――――。」

 

咄嗟に後退した紅葉の胴体があった場所を空振った刀が、線をなぞるように一軒家と道路の間にあったブロック塀を両断する。

 

 

「あっ、ぶねぇ。」

 

「――――おやぁ?」

 

 

どろりとした、粘性のある不思議な声。 やけに耳に絡み付くそれの主は、鼻から首までをマフラーで隠し、着崩した浴衣に半纏を羽織らせていた。

 

焦げ茶のポニーテールと体格から女であると判明したが、瞳孔の開いた、髪と同じ色合いをした焦げ茶の瞳が紅葉を貫く。

 

 

「上から落ちて体重を乗せた一閃――――そりゃ女でもお手軽に男を斬り殺せるよな、良い工夫だ。 お前が件の辻斬りだな。」

 

「――――。 ――、―――。」

 

 

紅葉の言葉に反応こそすれ、瞳孔の開いた瞳を左右に揺らす少女。 紅葉はそれが『あの奇襲で殺せなかったのが自分だけ』であるという所からくるエラーに近い思考停止だと理解し、静かに懐に手を伸ばす。

 

頭を振って紅葉を見直す少女――――ヒビキは、丹念に磨いているのか、人を9人殺したにしては真新しいようにも見える刀を構える。

 

 

「言葉は不要、シンプルで良いねぇ。」

 

そして紅葉もまた、カシュッと小気味良い音を立てて、懐から取り出した金属の棒を振って引き伸ばす。 伸縮式の警棒を持った右手の肘の裏に左手を添えて深く息を吸い、吐き出しながら踏み込むのと、ヒビキが踏み込むのは同時だった。

 

 

警棒で刀の刃を滑らせ、受け流す。 紅葉が左手で浴衣の掛け衿に手を伸ばし掴もうとするが、ヒビキは刀と体で紅葉を押して距離を開く。 刀を構え直すと再度肉薄し、上段の振り下ろし。

 

紅葉は水平に構えた警棒で受け止めつつ、斜めに傾けて警棒の表面を滑らせる。 金属同士が高速でぶつかり火花が散り、ギャリッ、とあまり聞いていたいとは思えない音が響く。

 

 

猫背の姿勢からとは想像できない膂力と速度の剣劇だが、警棒に逸らし、受け流された。 数回火花を散らし、斬れないどころか折れすらしない警棒に、さしものヒビキは違和感を抱き―――。

 

「随分と頑丈ですねぇ。」

「チェーンソーを受け止めても5秒は保つ特殊合金製だから…………なっ!」

 

 

警棒と刀の鍔迫り合いからヒビキへの腹蹴りで突き放し、腰に吊るした黒い円筒形の物体を取り出す――――――が、目敏く反応したヒビキが尻餅を突きそうになりながら、()()を蹴り飛ばす。

 

「うげっ」

「させません。」

 

 

『昔テレビのドラマで見たことがある物体』に似ていたが故の脊髄反射。 指がピンに引っ掛かり、手元から離れると同時に外れた事で抑えられていたレバーが弾け、凄まじい勢いで上空にすっ飛んだそれは数拍置いてから激しく発光した。

 

 

「もったいな――――っげう」

 

上から降り注ぐ強い光に、僅かに瞼を薄める。 瞬間腹を蹴り返され、ブロック塀に背中を強かに打ち付けた。 横凪ぎの一閃を両腕を揃えて防ぐと、警棒の時のように腕から火花が飛んだ。

 

制服の袖が破け、内側から金属パーツが露出する。 それは辻斬り対策に着けていた籠手だった。

 

「いっ…………づ」

「…………ロボ?」

「アンドロイドだよ。」

 

そもそも、どちらでもない。

 

 

警棒を構え直す隙を与えず、ヒビキは刀を振りつつ、膝や足首への蹴りを交える。

 

「ぐ、がっ、ぎ」

 

 

紅葉は防戦一方になり、衝撃を辛うじて塀に逃がせている事を視野にいれつつ思考する。

 

「(くそ、若葉と散々打ち合ってたからって高を括ったが、居合込みの活人剣と抜きっぱなしの殺人剣じゃ勝手が違うよな……。)」

 

そう考えながら、なんとか刀による突き、薙ぎ、袈裟斬りを防ぐ。 やがて警棒を構え直せたのだが、紅葉は―――――警棒から聞こえた、パキ、と言う音に気づけなかった。

 

 

そして金属音。 籠手を剥がすように切り裂いたヒビキは、刀を握り直して突きの体勢に移行する。 紅葉もまた警棒を突き出すようにして刀にぶつけた。

 

 

 

 

 

――――想定外だったのは、変形や破損が目立たなかったこと。 カン、カン、カンとテンポ良く、警棒が逆再生のように手元に縮んで行った。 度重なる打ち合いで、いつの間にか内部の伸ばしたまま固定させるパーツが破損していたのだ。

 

 

その刹那の隙を見逃さなかったヒビキが、警棒を弾き飛ばし、返す刀で左肩を貫いてブロック塀に紅葉の体を縫い止めた。

 

「…………いてぇ。」

 

 

細長い物体が筋肉と骨を貫き通り抜ける感触に顔をしかめた紅葉は、ヒビキが左手をスナップさせ、袖の中からダートナイフを取り出すのを見る。

 

「やべっ」

「――――しぶといですよ。」

 

言外に『いい加減死ね』と言われた紅葉は、突き出されたダートナイフに合わせて右腕を伸ばし、籠手で刃を防ぐ―――所までは行けず、籠手と腕を貫通してようやく止まる。

 

 

「ぐっ……本当にしぶとい。」

「言っておくがこの手の痛みには慣れてる、捻ろうが深く突き刺そうが悲鳴には期待するな。」

 

二ヶ所に刃物が埋まりながらも淡々と言ってのける紅葉の目を見て、ヒビキの手が止まる。

 

 

「それと、さっきのフラッシュバンは上空で炸裂した訳だが、お前に対して警戒している警察はあちこちに居る。 良いのか? お前も警戒しなくて。」

 

「は――――不味い。」

 

遅れて聞こえてくるサイレンの音。 警察が近付いてきている事を察知したヒビキが乱雑に刀を引き抜き、腰の鞘に納めると、半纏とマフラーを翻して曲がり角の影に消えた。

 

 

血が抜けて倒れそうになった体を支えて、紅葉もまたその場から逃げるように立ち去る。

 

「死産の赤子のDNAと俺の血が一致してることがバレるのは、流石に不味いよな…………。」

 

 

だらだらと右腕に刺さったナイフから血が滴っているが、どういうわけか、刀が貫通したはずの左肩からはほとんど出血が無かった。

 

水分を吸われたように左肩の周囲が軽く乾いている事に気付くのは、もう少し先。

 

 






ゆゆゆの二次創作なのに勇者要素もバーテックス要素も無い話を投稿しては「感想来ないやん!」と嘆くマヌケが居るらしい。 いったい何日本庭園の事なんだ…………?



人斬り
・変わるのは結末だけである。 若葉の生大刀を見た影響で元の時間のヒビキのフェチ度が悪化したせいで紅葉に苦戦を強いらせた。

神樹という神々の集合体が守ってる世界で平然と精霊が形を持っているのに、逸話や都市伝説が形を持たない訳が無いのだ。 ヒビキが持っている刀は『人を斬った』事が引き金となり妖刀化が進んでいる。



動く死体
・杏のじゃないボウガンで射抜かれたり若葉のとは違う刃物で斬られたり高嶋神にぶん殴られたりしてた過去があるせいで痛みには滅法強い。

ナイフが腕貫通するより鎌で切断されかけた時の方がよっぽど痛いのである。
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