【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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今月のあややややを始めにくめゆ組の誕生日も祝っていきます。

自分から投稿のハードルを上げて行く投稿者の鑑。 もう下くぐれよってくらい上げてますが失踪はしません。 たぶん。




番外 小鳥遊ヒビキは人斬りだった

 

 

 

小鳥遊ヒビキに紅葉が襲われたその日の夜、紅葉は居間の畳をまばらに赤く染めながら傷の消毒をしていた。

 

 

「こっぴどくやられたもんね。」

「めっちゃいたーい。」

「生きてる証拠よ。」

 

穴の空いたダートナイフでの傷にガーゼを当ててその上から包帯を巻き、適当にやって終わり。

 

それで良いのかと同居人の夏凜は向かいに座って考えているが、気付いたら怪我が治って病院を退院していることがしょっちゅうあったのだから気にすることではない。

 

 

「少なくとも私が居たらあんたがこうなる事だけは無かったでしょうに。」

「逃がした時点で俺の敗けだからな。 女子供だからって侮るのはいかんなぁ、わはは。」

 

僅かに血が滲む包帯を服の袖に隠し、よっこらせ、とおっさん臭い掛け声で立ち上がる。

 

 

「何するの?」

「調べもの。 小鳥遊ヒビキの事で気になることが幾つかあるんだよね。」

 

部屋に向かうと襖を開け、中に消える。 少しして戻ってくると、自室のノートパソコンを抱えていた。 座り直してパソコンを起動した紅葉の後ろに夏凜が回り覗き込む。

 

 

「さっき俺の左肩見ただろ。」

「ああ、なんか刺された辺りが干からびてたわね。 日焼け?」

「ちげーよ。」

 

張り倒す気力もない紅葉はカタカタとパソコンを弄ると顔色を変えた。

 

 

「やっぱりな。」

「なにこれ。」

「警察が集めた小鳥遊ヒビキに殺された被害者の資料。」

「は?」

 

 

エンターキーをカチ、と押した紅葉が、とある共通点を画面越しに見せる。

 

死体の画像と解剖資料に眉を潜めるが、その異常性に数拍置いて気付いた。

 

 

「――――傷口が、乾いてる……?」

 

夏凜の見たその異常性は、死体の切り傷の周囲()()がミイラのように乾いていたというもの。 死語数時間でこれは、明らかにおかしい。

 

「……どういうことよ、刀が何かを吸い取ったって言いたいわけ? 妖刀かなんか?」

「なんか、というかそのまんま妖刀だ。」

 

 

キーを叩いて画像を切り替える。 その死体は、一番最初に犠牲となった被害者のもので、この死体だけが切り傷が乾いていなかった。

 

「最初の一人だけなんだよ、切り傷が乾いてないのは。 つまり最初の一人を斬ったのがトリガーになって、あいつの持っている刀は変異したんだろうさ。」

 

「…………これどうやって止めるのよ。」

「問題はそこなんだよねー。」

 

 

パソコンをパタンと閉じて伸びをする紅葉。

 

左肩の刺し傷のカサカサした感触に嫌そうな顔をするが、ふと妙案が湧いたように口を開く。

 

「よし、両親人質に取るか。」

「なんて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、学校を堂々とサボり、俺と夏凜は夜のうちに調べた小鳥遊家に訪れていた。

 

 

家の中を覗こうにもカーテンに遮られている。 窓でも割ろうかと思ったが、人に聞かれると面倒くさいのでNG。

 

 

「んで、私をボディーガードにするのは別にいいけど、なんでわざわざサボったのよ。」

「俺と同居人が同時に休みとか変な勘繰りされそうで嫌じゃん?」

「あんたが病気で私が看病してる事にでもすれば良かったんじゃないの。」

 

「…………あー。」

 

 

なるほど、天才か。 ともあれ玄関まで歩いてきた俺と夏凜は、ポストやドアノブを弄る。

 

「チラシとか溜まってるわね。」

「ドアも開かない、と。」

 

 

鍵が掛かっていて開かないドアノブをガチャガチャしてから、ポケットに突っ込んできたピッキングツールを取り出す。

 

「やたらと犯罪を重ねるのやめない?」

「たかだか住居侵入と銃刀法くらいでがたがた言うな、向こう(ヒビキ)もやってることだ。」

「いやアウトだから。」

 

 

まあ通報してない時点で夏凜も共犯みたいなもんだから。 そう考えながら、鍵穴に突っ込んだツールをひねる。

 

カチリ、と、開錠される音が聞こえてきた。

 

「オープンセサミ、はいお邪魔しまーす。」

「あーあ、私知らね。」

 

 

無遠慮に開け放ち、俺たちを待ち構えていたのは――――――反射的に塞いだ鼻を貫通して突き刺さる腐った臭いだった。

 

 

「おげえええ。」

「くっさ。」

 

この臭いは…………あー、あー、やだなぁもう。 このご時世になってから嗅ぐ機会が無くて安心してたってのになぁ。

 

「なるほど道理で、小鳥遊ヒビキの捜索願いを警察に申請してない訳だ。」

 

 

なんか妙にぐにゃっとした変な物体を踏み抜いて、靴を履いたまま室内に入る。

 

コートで口許を隠している夏凜を横目で一瞥しつつ、歩みを進めて行くと、リビングに出た。

 

 

明かりの無い室内を、カーテン越しの朝日が辛うじて照らしている。

 

ハエが飛び交い、腐臭が漂い、割れた酒瓶が落ちている様を『凄惨』と呼ぶ以外でどう表現すれば良いのかが分からない。

 

 

「…………胸糞悪い。」

「慣れなくて良いことだ、吐きたきゃ吐け。」

 

腐った二つの()()()()()()を跨いで窓を開けようとして、不意に腐臭とは違う臭いが鼻に刺さった。

 

 

「……なんだ?」

「うえ……どうしたの。」

「いや、なんか、腐った臭いとは別に変な臭いがしてさ。」

 

 

――――ふと。

 

なんとなく、台所を見た。

 

 

「ああそういう。」

「? …………紅葉――。」

 

パチッという火花が散る音。

 

ガシャンという窓ガラスが割れる音。

 

 

俺が夏凜を窓から外に投げ飛ばすのと、小鳥遊家が火炎に包まれ凄まじい衝撃がでたらめに撒き散らされるのは、同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げほっ、ごほっ。」

 

煤の付いた頬を擦り拭って、夏凜はキンキンと耳鳴りが酷いなかなんとか立ち上がる。 鍛えていることとコートを着込んでいた事が幸いして怪我は無いが、爆発の衝撃が骨を軋ませていた。

 

 

「っ、う……あ、なに、が」

 

「……驚きました、まさか生きているとは。」

 

 

ようやく耳鳴りが治まった耳に、少女の声が聞こえてくる。 顔を向けると、そこには長身の少女が怪しく光を反射する刀身の刀を握っているのが見えた。

 

持っていた鞘を投げ捨てた少女に、夏凜が聞く。

 

 

「あん、た、が……小鳥遊、ヒビキ……?」

「おや、もしや昨日のお兄さんのご友人ですか。」

 

焦げ茶の瞳を夏凜に向け、思案すると、ヒビキは夏凜に切っ先を向ける。

 

 

「まあ、ともあれ、私の事情を知ってしまったのなら仕方ありません。 貴女に恨みは無いのですがね。 見てしまったのなら、死んでもらうしか無いでしょう。」

 

「くそ……体、動かねえ……っ」

 

 

立っているのがやっとな夏凜は、近付いてくるヒビキに抵抗する手段がない。

 

せめて勇者システムでもあれば話は別だが、今は大赦に返却しているし、殺人鬼だろうと民間人を相手に使うことは禁止されている。

 

 

「ところで、一緒にいたお兄さんは死にましたか?」

「…………はっ、馬鹿ね。」

 

愚問を問うヒビキに、夏凜は余裕綽々と答えた。

 

 

「あんな殺しても死ななそうな奴が、爆発程度で死ぬとでも?」

 

「は。」

 

「――――よく分かってんじゃねえか。」

 

 

突如聞こえた声に慌てて振り返るヒビキが目にしたのは、全身を煤で汚しながらも大して怪我が目立たないほぼ無傷の紅葉である。

 

 

「…………爆発の中心に居たはずでは。」

「防いだ方法は聞かないのが懸命だぞ。」

 

さしものヒビキも、表情を驚愕に歪める。 紅葉は先日と同じように警棒を取り出し、振って引き伸ばすとそれを構えた。

 

 

「やる前に一つ聞きたい、屋内のあの腐ってる死体はお前の両親か?」

「はい。」

 

動けない夏凜に警戒を向けつつ紅葉に向き直るヒビキは、一言だけ答えて刀を構える。

 

 

「さっきの爆発で警察が来るのは5分と掛からん、さっさと終わらせるぞ。」

 

 

瞳孔が開いた瞳で紅葉を見据え、強すぎず弱すぎない力で柄を握り、摺り足で地面を擦りながら近付く。 一足一刀――――一歩で斬り込める間合いに互いが入ると、その先に起こったのは剣劇の嵐であった。

 

とてつもない切れ味を見せる妖刀に数回で削られ両断される警棒を捨てては、新しい警棒を取り出し斬激を防ぐ紅葉。 矢継ぎ早に腰のホルダーから自身の得物を取り出す紅葉に、ヒビキはやや焦った表情を見せる。

 

 

「(昨日の今日で怪我は治っていない…………寧ろこんな動きをすれば悪化すると言うのに、何故昨日よりも動きが洗練されているのですか……っ!?)」

 

単なる帰宅部員だったヒビキが妖刀化した刀を持ったことで、歴戦の武者のような感覚と刀の振り方を学んでいるのと同じく、紅葉もまた刀を振った相手の癖とヒビキの動きを脳裏で計算しているのだ。

 

そも、西暦のあの3年間から神世紀初期を生き抜いた男の生存能力を侮ってはいけない。

 

 

「しぶというえに、厄介とはまた面倒な。」

「侮るのをやめたってだけ、厄介なのはお前の剣だよ。 さっさと手放してくれねぇかな。」

 

スパッと水平に真っ二つにされた警棒を捨てながら言う。 言われた事の意味を分かっていないヒビキは、ただの刀が妖刀になっている自覚が一切無い。 研いでも磨いてもいないのに、常に切れ味を保っている事に、違和感を抱いていない。

 

 

「両親を殺したのはお前か。」

「いいえ、私は父しか殺していません。」

「ならば何故殺した。」

 

峰で払い距離を突き放したヒビキ。 初めて強く感情を揺さぶられたのか、怒りの籠った眼差しを紅葉に向けて言った。

 

 

「父は母に暴力を振るっていました。 そしてとうとう私にも向けられた、だから刺しました。」

 

「つまり、正当防衛だ。 なぜすぐに警察に通報したりしなかった?」

 

「――――切り替わるイメージが、ありました。 抑えていた『なにか』が内から涌き出るイメージが、ありました。 これが私の本性なのだと一瞬で理解できましたよ。」

 

 

ギギギ、と口角を歪めるヒビキ。

 

伸ばしていた背筋を丸め、猫背に戻ったヒビキは刀を水平に構えると、だらりと腕を垂らす。

 

 

「(ブレーキが壊れたタイプか、あの膂力も脳の制御が外れているのだろ――――。)」

 

そう言いながら真正面に警棒を置き――――まばたきを挟んだ瞬間に踏み込まれ、上段からの袈裟斬りを食らう。

 

受け止めようとした警棒の堅牢さをものともせず貫通し、鎖骨から脇腹が裂けた。

 

 

「…………ご、ぶっ」

 

 

倒れそうになり、下がった足を柱に体を支えるが、ヒビキが刀の切っ先の峰側に指先を添え、突きの体勢に移行しているのを見る。

 

「が、ごぼっ、くくっ、獲物を前に舌舐めずりか、素人め。」

 

「―――シィッ!!」

 

 

最後まで挑発を忘れない紅葉に、僅かに青筋を浮かべたヒビキは渾身の突きを放つ。 胸元と首の間辺りを狙って突きだされた刀は――――。

 

 

「さ、せ、る、かぁーーーっ!!」

 

ゴン、という鈍い音が、足から聞こえた。 背後で物を投げた体勢をキープしている夏凜が自分の足に向けて何かを投げたのだと理解しつつ、刀は軌道がずれて、紅葉の首の皮を文字通り薄皮一枚切り裂いて空を切る。

 

 

「同じ相手に、二度は負けねえよ。」

 

空振った刀、崩れた姿勢。

 

紅葉の胸元に飛び込むように倒れかけたヒビキの脳天を、流れる動作で警棒が叩き割った。

 

 

「―――かっ、あ。」

 

 

ぐらりと倒れ込み、紅葉はヒビキを支えたまま背中から倒れた。

 

 

「…………疲れた。」

「人のファインプレーをだしにしてなにイキってんのよ、なにが『二度は負けねえよ』だ負かすぞこら。 」

「わかったからこいつ退けてくれ。」

 

 

渋々とした様子で頭から血を流して気絶しているヒビキを雑に蹴飛ばして退かすと、紅葉の手を引いて立たせる夏凜。

 

紅葉はヒビキの手から落ちた妖刀を拾い上げる。

 

 

「……さて、どうするかなぁこれ。」

 

ワイシャツが裂けた線の通りに赤い液体を滲ませる紅葉は、うーん、と唸りながら思考するが。

 

 

「めんどくせぇ、そーれい。」

 

「えぇ…………。」

 

 

軽い口調で岩の上に刀を置くと、柄を持ちながら刃を思い切り踏む。 それだけで、あっさりと、妖刀の刀身は半ばから二つにへし折れた。

 

そんなんで良いのか……と呆れる夏凜だが、遠くから聞こえてきたサイレンの音が耳に届き、安堵したのか膝から崩れた。

 

 

「これ絶対どこかが折れてる。」

「俺よりましでしょ。」

「…………そう言えばさっきどうやって爆発から助かったのよ。」

「聞かない方が良いよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

到着したパトカーに乗っていた警察の二人のうち、一人がパトカーの傍らにヒビキを座らせて話を聞いている横で、もう一人が紅葉と夏凜に事情を聴取していた。

 

 

「あー、それで、なんでこの家が燃えてるのかを聞きたいんだけどね。」

 

「熊がやりました。」

「ええ、熊ね。」

 

「熊ぁ!? いや違うよね!?」

 

見た目からも若さが伺える警察官は、あからさまな嘘に驚愕しつつツッコミを入れる。

 

 

「ちなみに言うとこの傷も熊がやりました。」

「間違いなく熊ね。」

「熊……? それっぽいけどいや、うーん、ちが……うよね、うん!」

 

ガリガリと頭を掻いて正気を保とうとする警察に、紅葉が激昂するふりをした。

 

 

「じゃあ誰がこんな惨劇を引き起こしたんだよ言ってみろオラ!」

「へえっ!? …………く、熊?」

「やっぱり熊なんじゃねえか。」

 

そう言いつつ、紅葉は懐から赤く染まった手帳を取り出し、無事なページに文字を書き込んで警察に押し付けた。

 

 

「詳しくはここに問い合わせて聞いてみろ。 あんたもそんな若さで路頭に迷いたくないだろ?」

 

呆ける警察の胸ポケットにメモを捩じ込み、紅葉はパトカーの方に向かう。

 

だが、間に割り込んだ脇腹を押さえている夏凜に、紅葉の元に行こうとする動きを止められた。

 

「…………あ、ちょっと!」

「すいません救急車呼んでくれませんか。」

「え?」

「私のどっかの骨が確実にボキボキになってるし立ってるのが辛くなってきまして。」

「―――あー、もう!なんなんだよこれ!!」

 

ごもっともな若き警察の叫びすら傷に響いている夏凜がしかめっ面を披露している後ろで、ヒビキに聴取している警察の元に紅葉が向かった。

 

 

 

「どーも、そいつどうですか。」

「ああ……あんたか、全部話したよ。 どうやら身内のいざこざがきっかけらしい。」

 

顔を下げて大人しくしているヒビキの横に立ち淡々と紙に文字を書き込んでいた、相方よりは歳のいっている男性が紅葉と親しげに言葉を交わす。

 

 

「それにしても、お前の周りには厄介ごとしかないのか? これで何件目だよ。 おい。」

「さてなんのことだか。」

「…………ちっ。」

 

分かりやすく大きな舌打ちをする男性。

 

紅葉が下がるよう頼み、男性が下がると、紅葉はヒビキを見据える。

 

 

「この後はどうするつもりなんだ?」

 

「……さあ。」

 

「お前は人を9人……親を含めたら10人殺した。 それは事実だ。 その罪を背負ったお前は、これからどうするつもりなんだ?」

 

 

 

うつむくヒビキは、やがて顔を上げ――――まぶたを細めた糸目で、にっこりを笑いかけてくる。

 

「止めてくれて、ありがとうございました。」

「あ?」

「負けてしまった以上、ケジメをつけるしかないのでしょう。 私には、これしか出来ない。」

 

 

そう言い、ヒビキは躊躇いなく、口から舌を出してその半ばを食い千切ろうと歯を立てた。

 

「っ――――とめろ!!」

 

「くそっ、ヒビキ……やめろ!」

 

 

紅葉が咄嗟にヒビキの口に人差し指と親指の間の部分をねじ込んで自決を止める。

 

紅葉の手ごと舌を噛み千切ろうとするヒビキの後ろに回り、紅葉はヒビキの首をもう片方の手で絞める。

 

 

「フゥーーーーーっ、フゥーーー!!!」

「死ねばそれで良いと思うなよこのボケナス……! 死ぬことは償いにもならねえんだよ、クソが……っ!」

 

ぶち、と肉を歯で千切られ、血を噴き出しながらも紅葉は締め上げる腕の力を緩めない。

 

「ヴ、ウウウウウ……!!」

「絶対死なせねえからな、最後まで生きて苦しんで、それでようやく償われるんだよ…………ぐ、ぎぃ……っ。」

 

 

死なれないように、殺すつもりで首を締め上げる矛盾。 だがそれだけ本気でやらなくては、ヒビキの自決は止められない。

 

狂犬のように唸りながら噛む力を緩めないヒビキからはやがて、徐々にその力が失われて行く。 そして、ついにだらりと脱力して、紅葉にもたれ掛かった。

 

 

「……手間が掛かる。」

 

深くため息をついて、紅葉は眠るように意識を失っているヒビキの前髪を、絞めた方の手で掻き分ける。

 

相も変わらず全身を傷だらけにしながらも、紅葉は確かに、一人の少女を救っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっちぃ。」

 

強い日差しが照らす真昼時、俺は一軒の家を訪れていた。 錆び取りから研磨までなんでもござれな刃物専門店を経営している家の扉を開くと、薄暗い店の中に人影が一つ。

 

 

「…………よう、元気にしてるか。」

 

「~~~~。 ……おや、お兄さん。」

 

 

鼻唄混じりに包丁を磨いていた女が、何故か俺をお兄さんと呼びながら、包丁をケースに納めて立ち上がる。

 

「まあ、元気だろうな―――ヒビキ。」

「ええ、元気ですよ。 ふふ。」

 

 

柔らかい笑みを浮かべる糸目の女性――――小鳥遊ヒビキが、店主としてこの店を開いていた。

 

あの一件から数年、諸々の問題を終わらせた俺に待っていたのは、刑期を終えたヒビキの相手というもう一つの問題だった。

 

 

親も居ない、家も爆発した。

 

 

そんな真の意味で誰も頼れない家無き子のヒビキを助けるのは、もはや義務でもない。 使命に近かった。 そもそも家を爆破する選択を取ったのは俺が家を突き止めたからだし。

 

 

「営業はどんなだ。」

「ぼちぼち、ですかね。 そう毎日包丁やらハサミやらを研いで欲しい人なんて居ませんから。」

 

そりゃね。

 

 

それでも一つ一つの仕事に全力投球なヒビキは、俺の『生きることが償いになる』という言葉を受け止めてくれたのか、隙を見て自決しようといった雰囲気は無い。 止める身にもなって欲しいからそれはそれで助かっているが。

 

 

「お兄さん。」

「はい?」

 

「……死ぬ以外の道を選べなかった私を助けてくれて、ありがとうございました。」

 

「良いよ別に。 俺としても、自決されて終わりじゃ寝覚めが悪かったしな。」

 

ふ、と笑い、ヒビキは頬を掻く。

 

 

「そう言えば、東郷さんとはどうなりましたか?」

「なんで? 普通だけど。」

「ははぁ、難儀ですねぇ。」

 

なんのこっちゃ。

 

苦笑いをするヒビキだったが、店の扉を開ける音で意識を切り替えた。

 

店主を呼ぶ声に従って仕事を始めたヒビキを見届けて、俺は考える。

 

 

――――小鳥遊ヒビキは人斬りである。

 

 

いや、それは間違いだ。

 

今はこう呼ぶのが、適切なのだろう。

 

 

 

――――小鳥遊ヒビキは人斬りだった。

 

……と。

 

 





約7250文字ってなんですか(困惑)


神樹の『あらゆる概念を蓄積している』という部分を悪用するとこうなるよ、っていう例がこれ。 それにしてもこいつらいつもガス爆発に巻き込まれてるな。



ヒビキ
・負けたからケジメつけなきゃ! で舌を噛み切ろうとしたらDX長瀬ショットガンをぶちこんだ後の長瀬みたいに絞め落とされた。

刑期を終え最終的には包丁やハサミ等を研ぐ店を紅葉の支援でやっていくことになった。 生きることが背負いし罰ってそれアマゾンズで一番言われてるから。

腐臭にガスの臭いを隠して家に誘い込んでから爆破したのに何故か避けられて普通に引いてる。

夏凜を警戒していたのに最後存在を忘れてたのは紅葉に挑発されてイラついてたから。 小鳥遊ヒビキは精神が年相応の人斬りであって剣豪ではないのだ。



紅葉
・同じ相手に負けるのは一回までだよねー!(クソドヤ顔) とか言ってたが、若葉とか高嶋神には頻繁にボコボコにされていた模様。

大赦の神官もドン引きするような外道戦法が一番得意なので厄介な敵が居たら取り敢えず身内を人質に取る。
なにが困るってわりと有効な手段なところ。

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