刀使ノ巫女に逃げるな。
あとついでに神刀の方も読んで(ダイマ)
若葉や棗の写真や海の幸というチョコですらないお返しが行われているホワイトデー。
色んなチョコを貰ったは良いが個別に返すと金も掛かるし忙しいと言うこともあって、バレンタインデーのお返しにはホールのチョコケーキを振る舞ったのだが。
「……おお、いてぇ……。」
ホラーゲームの奇形の敵キャラみたいな悪夢になりそうなタイプの奇声を出した歌野に欠片の手加減も無いビンタをお見舞いされ、首がもげるところだった。
あいつまだあの一件を根に持ってたのか……いや、腐る前に食わせる為とはいえキッチンに縛り付けたのは悪いと思ってるよ、うん。
「あ、居た居た。 おーい紅葉さーん。」
「……ん、どうした? 銀。」
数日経っても尚痛みが残る頬を抑えて廊下を歩いていると、奥から駆け寄ってくる人影が、振り向いた俺の懐に飛び込んでくる。
俺を見上げてくる少女―――銀は、走ってきたのだろう額に汗を滲ませながらもふにゃりと笑って続けた。
「部室まで呼んできてくれって頼まれたんですよ、理由は知りませんけど。」
「すげー嫌な予感するけど……まあいいか。 じゃあ行こう。」
銀と横になって歩くと、銀は俺の手をそれとなく握ってくる。 そういえばここのところ、あまりそう言う機会を作る事がなかった気がする。
「ふへへっ」
「いじらしい奴め。」
「……へ?」
「なんでもないよ。」
◆
部室の扉を開いたら、既に終わっている筈だったイケメン4(稀に5か6)の男装大会が開催されていた。 俺と銀は恐らく同じ顔をしているだろう。
「……なにしてんの。」
「須美、お前、目覚めちまったのか……。」
「ちっ、違うわ! 誤解しないで!」
男装――――男物の制服着用で髪を後ろに縛ったメガネモードという欲張りセットも良いところな格好の須美を見て、銀が呟く。
俺もまた、和服の若葉と燕尾服の棗、額にゴーグルを着けた…………なに、不良? の格好をしている千景に目を向ける。
……多分、ここに芽吹ちゃんと美森が混ざってたら躊躇い無く帰っていたと思う。
「私たちとて好きでしているわけではない、話なら園子に聞いてくれ。」
「は? …………おおう。」
無駄に似合っている和服姿の若葉がつい、と指を向ける。 そこには、演劇部の使う血糊の予備で『ヤバい』と書いて突っ伏している園子が居た。 チビの方はいない辺り、ひなた達の足止めでもしてるのかね。
「起きろ、なんで自爆してるんだお前は。」
「ふ、ふふ……私は…………イケメン4や追加戦士達の男装を見て…………ふと、疑問に思ったことがあるんよ……。」
ティッシュで口許の血糊を拭いながらも死にかけている園子が、男装してる連中を見てから、俺を見てニヤリと笑い呟いた。
「――――勇者が男装しているのに、もーみんが女装していないのはおかしいんじゃないか? …………ってね!!」
「『ってね!』じゃないが。」
ドヤ顔まで披露されると普通に腹が立つのだが、こいつの面倒くさいポイントは、俺が断ることを視野に入れて既に男装している勇者を用意して罪悪感を抱かせようとしている部分だ。
「ふっふっふ、良いのかな? 今は小さい私がヒナたんとかうたのんとかにぼっしーとかたかしーを足止めしているけど……私の合図一つで直ぐにでもここに来させられるんだよ?」
「えぇ……。」
チビ一人にあの4人を足止めとか難しい方押し付けるなよ……寧ろそっちに罪悪感があるわ馬鹿。
「どちらにせよひなた達がここに来るんだから、その前にさっさと女装して撮影されちゃえ、と。 姑息な奴め……。」
「何とでも言うが良い……私の執念を甘く見たもーみんの敗けだよ……!」
「というか、私達は園子さんに『もーみんの女装姿が拝めるけどどう?』とか言われて来たらこれだったのよ。 しないなんて……言うわけ無いわよね?」
場合によっては大葉刈でも抜きそうな程に苛立っている千景。 これはもう、しないといけない流れなんだろうが……。
「女装とか二度としたくないんだけど。」
「…………二度と?」
「あ、やべっ」
棗の呟きに訂正しようとするも遅く、顎に指を当てて少し考えた銀に言われる。
「もしかして……もう経験済み?」
「言い方を考えろお馬鹿。 ……女だけを狙う引ったくりを捕まえる為に一度だけな、まあ~杏の興奮したことしたこと。」
「そんなことあったか?」
若葉が呟き、千景もまた心当たりを探って首を傾げる。 ……いや、恐らく二人は知らないだろう。
「あの事件が起きたのは戦いが終わった暫く後の話だから、お前達は知らないぞ。」
「そうなのか。 しかし、またこんな目に遭ったんだ。 お前にも相応の目に遭って貰うからな。」
それとなく出入口を封鎖する若葉と千景。 須美は銀に写真を撮られていて動けないでいて、棗はやることがないのかボーッとしている。
「……まあ良いだろう、そんなに見たいなら見せてやる。 文句は言うなよ。」
「うひょー! やったぜぃ!」
今の俺の体格は昔の俺ほどガッチリしてないし、筋肉もない。 昔よりは今の方が女装向きの体格をしているのは確かだ。
滅茶苦茶不名誉だが。
鼻唄混じりに何処から取り出したか女物のドレスやアニメの制服を吟味する園子を前に、俺はどうせやるならと吹っ切れる事にしていた。
◆
「なぁんか妙に部室から距離取らせようとしてると思ったら、やっぱりなんか企んでたな。」
「ごめんなさぁ~い」
襟首を掴まれ持ち上げられている園子は、夏凜の呆れた顔を前に、特段悪びれた様子もなくスマホを片手にぶらぶらと揺れていた。
「それにしても大きい園子さんから『時間を稼いで』なんて、何をしているのでしょう。」
「また男装でもさせてるんじゃないの。」
「それなら別に、止める必要ないと思うけど?」
ちらりと懐から取り出したスマホを見て、ひなたは不思議に思いながらも四人と共に部室へと向かっている。 それを見て、高嶋が声をかけた。
「どしたの?」
「ああ、いえ……実は先程から紅葉さんとの連絡が取れなくて。」
「ふぅん。 ……それにしても、この間のチョコケーキ凄かったね。 歌野ちゃんとかなんかえげつない顔してたし。」
「その話はやめなさい、肥料にするわよ。」
数日前のホワイトデー、紅葉がまとめてのお返しと言うことで用意した人数分のチョコケーキを見た際に歌野が顔を青くして口許を押さえていたのは、チョコケーキ3ホールを食わされたトラウマが原因である。
「しっかし、どちらにせよこのチビと園子絡みって事は碌な事じゃないだろ。 一発ぶっ叩けば直るか……?」
「ぴゅい!?」
猫のように持ち上げられている園子を自分の顔の前まで持ってくると、夏凜の力を知っている園子は変な声をあげて震えた。
「……園子と園子君はアナログテレビじゃないのだけど。 あと貴女の馬鹿力で叩かれたりしたら、頭のネジがダース単位で消し飛ぶから。」
「この間リンゴ握り潰してジュース作ってたよね。」
高嶋の何気無い一言が、夏凜の印象をゴリラへと引き上げる。 ため息をついて園子を離した夏凜は、部室の入口にもたれ掛かっている中学生の方の園子を見つけた。
「何やってんだお前。」
「園子先輩!?」
「んぉお……に、にぼっしー……園子ちゃん……。」
「うわ……今度はどんな馬鹿やったの。」
鼻の辺りがどこか赤く濡れているやつれた顔で、園子はドン引きしている夏凜に言う。
「私は…………私達は……とんでもない怪物を……産み出してしまった…………がくり。」
と、わざわざ自分で擬音を言ってから気絶する。 入口を塞ぐ園子を雑に退かすと、夏凜は小さい園子に大きい園子を診ておくように伝えた。
「怪物……やはり、なにか企てていたのでしょうか。」
「知らん、エイリアンだろうがプレデターだろうが園子が作ったモンならどうにかなる。」
「思考回路がゴリラ過ぎる……。」
「それじゃあ、突入しましょう。」
念のためにとひなたを後ろに下げつつ、夏凜と歌野が前に出て扉をスライドさせる。
夕焼け混じりの薄暗い部屋の中には、誰かが立っていた。 足元にぶつかった物体を見下ろすと、それは――――。
「……うおっ!?」
「わ、若葉ちゃん!」
ホワイトデーの時に来ていた和服での男装姿をした若葉が、どこかやつれた顔をして倒れていた。
「若葉ちゃん、しっかり!」
「……ひ、なた……。 アレは……まずい……。」
「若葉ちゃーーーん!!?」
私は……男だったのか……?
そんな謎を極める単語を発した若葉は、園子の時のように気絶してしまう。 パチンと電気を点けると、明るくなった部室に立っていた者の正体が判明した。
「…………誰だお前。」
それは少女だった。
少女にしては高身長で、棗や、いつぞやの小鳥遊ヒビキよりは小さい。 その周囲にどういうわけか頬を緩ませて倒れている須美と銀、そしてロッカーに顔を突っ込んでピクリとも動かない棗、机には千景が伏している。
「なにがどうなってるのかは知らんが……見ない顔だな。」
「その制服も見たことないわね。」
「――――あーーー……ああ、うん。」
鈴を転がしたような、聞き心地良い声。 黒いロングの髪を揺らして、高嶋を一瞬見ると、小首を傾げてウインクしながら言った。
「さて、だぁ~れだ?」
「ゴブッフォア!!!」
千景の安否を確かめていた高嶋は、それを聞いて思い切り噴き出す。 呼吸が出来ない程に笑い転げる高嶋を見て、二人は一つの選択肢が不意に脳裏に浮かび上がる。 まさか、と呟いて。
「貴女もしかして、紅葉?」
後ろで若葉を介抱するひなたが目を見開くのを視線で感じながら、歌野は少女へと言う。
眉を上げてからからと笑い、少女は明確に低い男の声で言った。
「なんだ、もうバレたのか。 友奈のリアクションが無かったら勘違いしてたな。」
「…………いや、おかしいだろ。」
ふと壁を見たら虫が張り付いているのを見てしまったような、何とも言えない顔をしていた夏凜は、頭身が若干縮んでいる少女の姿をした紅葉を見やる。
「身長10センチくらい縮んでるじゃん、削った?」
「削っとらんわ。」
見た目だけは漫画の世界から飛び出してきたような女子高生の格好なのに、声は青年の低さで、二人は会話をしながら脳が混乱していた。
「こう、上手いこと関節外したりロングヘアーのウィッグで体格を誤魔化したりだな。」
「は?」
「肩外すだろ? テープで頬とかを後ろに引っ張って化粧するだろ? 女物の制服着るだろ? そんで、声は気合いでどうにか女っぽくする。」
「…………うわぁ。」
首を鳴らしたときのようにゴキゴキゴキッ! という音を全身から奏でる紅葉がくるりと一回転すると、ウィッグを取り外して讃州中学の制服を着た元の姿に戻っていた。 マジシャンかよ……とは夏凜の呟きである。
「胃からなんかせり上がってきた。」
「耐えろ。」
気を失っている銀を抱き上げると紅葉は、若葉に膝を貸しているひなたに声を掛ける。
「園子の狂言に付き合ったせいで時間が潰れちまった。 さっさと帰って、晩飯作ろっか。」
「あ、はい。 ……若葉ちゃんはどうしましょう」
「その内起きるでしょ。」
千景のように椅子に座らせ、机に突っ伏させると、紅葉は銀を抱えたままひなたと部室を後にした。 残された夏凜と歌野、床に転がったまま動かなくなった高嶋の間には静寂が訪れる。
「……悪夢か?」
「それより、気絶してる人達起こして何があったか調べましょう。 ほら棗さん、起きなさい。」
「はぁ……おい、須美、起きろ。」
歌野が棗をロッカーから引っこ抜くも、起きず。 夏凜が須美の頭を指でつつくも、起きず。 やがて復活した高嶋がなんとか起こすことに成功した千景は、三人を前にボーッとしている。
「ぐんちゃーん、大丈夫?」
「……高嶋さん……? あれ、私……なにやってたのかしら。」
「紅葉の女装とかいう夢に出そうなバケモン産み出して良く言うわ、何があったのよ。」
寝ぼけ眼だった千景はその言葉に段々と正気を取り戻し――――爆発したように顔を赤くして取り乱す。
「あっ、あ、あ……あの人……! 私達にあんな……!! くっ……なぜ私は紅葉くんのあの姿に胸が……!!」
「ぐ、ぐんちゃん?」
「紅葉くんが……か、かわっ、可愛いなんて! 嘘でしょう!? なんで私はあんなにもキュンと……!」
ぶんぶんと髪を振り乱す千景は、言い終えるや否や、荷物を掴んで走って出ていった。
――――が、思い出したように戻ってくると、小さい箱を気絶している若葉の和服の懐に捩じ込む。
「なにそれ。」
「……遅れたけど、ホワイトデーだったし、単なる友チョコよ。」
「…………え?」
早口で捲し立てた千景。 再度部室から出ていった後、硬直した高嶋は若葉の懐から顔を覗かせる箱―――恐らくチョコレート入りを見て、口角を痙攣させる。
「ぐんちゃんが……紅葉くんどころか若葉ちゃんにまでなついて……う、うががががーーっ!?」
「高嶋が泡吹き始めたんだけど!」
「蟹なんでしょ。」
その晩、紅葉達のデザートは余りのチョコを使ったフォンデュだったらしい。
紅葉の
イケメン4(欠員・補充あり)に何があったかは………………想像にお任せします。