【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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二ヶ月以上一度も更新してなかったので実質初投稿です。リハビリがてらなので短いです。




ひな誕Ⅱ

「紅葉。ひなたの誕生日に何を送れば良いか分からないのだが、助言を貰えないだろうか」

 

「自分をラッピングして部屋で待ってろよ」

 

「返答に悩むとすぐに人をラッピングさせようとするのをやめろ」

 

 

 放課後の部室に机を挟んで向かい合う二人──乃木若葉と先人紅葉は、前回のひなたの誕生日を迎えてから一年が経ったある日、二度目のプレゼントに思い悩んでいた。

 

「紅葉からのプレゼントならなんだって喜ぶだろうが──私の場合はもう既にカメラという高価な贈り物をしてしまっているしな」

 

「俺からの物なら何でもというのは買いかぶりだろう。俺だったらまあ、仮にひなたや銀から虫の死骸を渡されても嬉しいが」

 

「いやそれは…………」

 

 

 ジョークだ。ジョークか、張り倒すぞ。淡々とした会話を挟んで、紅葉はため息をついてから切り返す。

 

「そもプレゼントに高い安いは関係ないだろ。相手の事を考えて送った物を無下にするような奴じゃないのは、俺もお前も知ってるはずだ」

 

「それは、そうだが」

 

「前回のプレゼントがカメラなんだから、カメラを使ったときに便利なものでも送れば良いんじゃないか?」

 

「便利なもの──か」

 

 

 指を顎に当てて思案する若葉は、少ししてからハッとした様子で席を立つ。

 

「思い付いたのか」

「ああ、すぐに買ってこようと思う」

「それは良かった」

 

 

 部室から出ようとする若葉は紅葉に振り返ると言った。

 

「ところで、紅葉は何をプレゼントするんだ?」

「言ったらサプライズにならないだろ」

「私に渡すわけではあるまい」

「──大丈夫だろ。恐らく若葉とはダブらない」

 

 

 そうか? と言う若葉の疑問符を浮かべた顔を見て、紅葉は小さく笑った。

 

 

 

 ◆

 

 

 浴室から漂う花の香りが、紅葉の鼻腔をくすぐる。視界の端に見える物を瞳に映しながら、風呂場から戻ってきたひなたに聞いた。

 

「それで、若葉からは写真立てを渡された訳か」

「はい。前回戴いたカメラで撮ったものをそれに入れられるので、ピッタリでした」

 

 

 部員たちの写真や紅葉とひなたのツーショット、若葉との写真等を並べられた机を見やるが、ふと思い出したように紅葉が座るベッドの縁に並ぶようにひなたが座る。

 

「ところで紅葉さん。部室でのパーティでは何も渡されなかったのですが──後で渡す、と言っていましたよね?」

 

「ああ……少し待て。それと髪は乾いたか?」

 

「──? ええ、乾いていますよ」

 

 

 ひなたの言葉を聞いた後にベッドの下から小包を取り出すと、紅葉は中から手のひらに収まる程度の大きさの櫛を見せた。

 

「それは……」

「昨日、使った櫛が折れただろう。プレゼントも兼ねて、探しておいたんだ」

「なるほど。だから『俺が探すから待ってろ』と言ったのですね」

 

 

 さほど似ていない声真似を披露されつつ、苦笑をこぼした紅葉はひなたに櫛を手渡す。紫の花模様がある黒色の櫛は、艶やかな光沢を放ち照明を反射した。

 

「紅葉さん」

「ん?」

 

 

 ひなたは不意にベッドの縁から下部分に座り、背中を向けて手に持った櫛を紅葉に向ける。

 

「どうぞ」

「……どうも」

 

 

 梳してくれ、と言うことらしい。紅葉は早速と櫛を右手に、左手で髪がきちんと乾いているかを確かめる。木製の──つげ櫛と呼ばれるこれは、水分に弱い為だ。

 乾いていることを確認した後、紅葉は毛先から順に櫛を入れていく。するりと抵抗なく髪を梳す櫛が流れ、徐々に上へと手が伸びる。

 

「~っ」

 

 

 頭皮のマッサージにもなる櫛の動きが、頭頂部から尾てい骨の辺りまである髪を通り抜ける。椿油が塗られているつげ櫛は、ひなたの綺麗な髪をより美しく保ってくれるのだ。

 

 胡座をかいて座る紅葉が膝に櫛を置いて、紫の混じった深い黒色の髪を指で掬い鼻に近付けた。

 すんと鳴らして嗅いだ匂いは、様々な花が混じりながらも決して不快にはならないバランスとなっている

 

「──終わったぞ」

「……また明日も、梳してくれますか?」

「良いとも。銀の分も、いつか買ってあげないとな」

「紅葉さんに梳されたら、癖になってしまいます」

 

 

 振り返り向き合うひなたは、風呂上がりのとろんとした眼差しで紅葉を見る。「紅葉さん」と声を出すと、片手を掴み自身の頬にあてがった。

 

「どうした」

「明日も──明後日も……明々後日も。私はいつまでも、貴方の隣に居たいと、そう思っています」

「────」

 

 

 右手を左の頬に当てるひなたの両手は、男のそれと比べたらずっと小さい。簡単に振りほどける力でありながら、その両手は紅葉が離れていかないように掴んでいる。

 

「これからも、ずーっと一緒ですよ」

 

「当然だ」

 

「……即答するんですもの。

 まるで必死な私が馬鹿みたい」

 

「そんな事はないさ」

 

 

 にこりと笑うひなたの顔を見て、紅葉は思い出した。『断とうにも断ち切れぬ繋がり』として、『絆』という言葉があることを。

 だが、『絆』の本来の意味というのは犬や馬を繋ぎ止める綱を指しており──とどのつまり、結局は呪縛の意として使われる方が正しいのだろう。

 

「これからも、ずっと一緒に居てくださいね」

「ああ」

 

 

 言葉は呪いだ。

 

 そう思わずにはいられない程に、ひなたの言葉は力強い。されど互いの間にある気持ちは本物である。

 

 

 果たして巫女の心が籠った──祝詞と言っても過言ではないそれは、(のろ)いなのか、(まじな)いなのか──はたまた。

 

「……ずっと、いつまでも」

「心配性だな、ひなたは」

「──ふふっ」

 

 

 二人の部屋に笑い声が木霊する。

 ──難しく考える必要はなかったのだ。なにせ、わざわざ言葉に出す必要もなく、紅葉とひなたは深く長い縁で結ばれているのだから。

 

 

 二人のこれからに幸あらんことを。誰かがそう、静かに願っていた。

 






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