【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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若葉様の誕生日に気を取られてて夏凜の誕生日をド忘れしてた。

ちなみに紅葉の結婚相手は少し考えればわかります。読み返せば選択肢が実質一つだけなのに気付けるかもしれない。





……なぜ誕生日回で戦闘が起きているんだ……?



祝福 三好夏凜は後輩である

 

 

 

 

「まいったなぁ……」

「……面倒になった。」

 

樹海化した世界で、二人は揃ってぼやいた。

 

刀を逆手に持ち、端末の位置情報の確認を行っている三好夏凜の横で、三ノ輪銀が暇そうに大斧の柄を弄っている。

 

 

「どーっすか? 夏凜さん。」

「駄目ね、バグか知らないけど皆の位置が確認できない。」

 

夏凜の刀を持つ手の反対に握られた勇者端末には、『Unknown(わからない)』と表示されていた。

 

 

「まさか大量の星屑に流されて皆散り散りになっちゃうとは思わなかったっす。」

 

「あんなの想定できるか。 ……世界が終わってない以上、各自で対処・防衛が出来てるんだと思うし、大丈夫だろうけど。」

 

 

二人は―――――否、戦っていた17人の勇者は、濁流のように押し寄せた星屑によって、拡散を余儀無くされていた。

 

最低限二人一組が原則の為、咄嗟に近くにいた銀の首根っこを掴んでいた事が、この場での最大限の幸運であろう。

 

 

星屑ごときでは精霊バリア越しに勇者を傷つけられない。 だからこそ、敵は星屑の海で押し流し、勇者を散らばらせる事にしたのだと推測される。

 

 

「ったく、とんだ誕生日になったことで。」

(やっこ)さんも空気読んで欲しいもんですよ。」

 

この日は夏凜の誕生日だった。

 

案の定、と言うべきか。 造反神はこういう時を狙ってやたらピンポイントで攻めに来る。

 

誕生日を祝うことで浮かれた所を狙っていると考えれば分からなくはないのだが、勇者部からしたら迷惑極まりない事だ。

 

 

「せっかく紅葉さんと一緒に夏凜さんのプレゼント選んだのに……」

「ナチュラルにのろけんな。 プレゼントは嬉しいけど、どうせあいつ煮干しとかキャンディーの詰め合わせでも選んだんでしょ。」

 

銀は夏凜の言葉に驚いた様子で言い返す。

 

「おぉ、良くわかりましたね…………あー、のろけって? なんですか?」

「無自覚なのか……」

 

 

流石にひきつった顔をする夏凜。

 

消してから出すインターバルを考えて消さずにいた刀の峰で、刃こぼれしたもう片方の刀の刃を削って凹凸を揃えていた手に力が入る。 妙なむず痒さを誤魔化すように、指で眼帯を掻いた。

 

 

「(紅葉も銀も面倒くさい奴。)」

 

紅葉が銀を好きなことは―――――銀と美森(知られたら紅葉が死にかねない)以外の勇者部全員が知っている。

 

部員達は『さっさとくっ付け派』と『経過を見守ろう派』で分かれているが、せっかちな夏凜と歌野が前者なのは言うまでもない。

 

 

 

そんなお喋りを広げながらも警戒を怠らない夏凜は、ふとバーテックスに似た()()()()()()()を感じ取った。

 

「あ?」

 

振り返ると、黒いモヤのような()()()が銀に向かって迫って来ているのを視認した。 銀はまだ気付いていない。

 

 

「――――銀ッ!!」

「……はい?」

「どけ!!」

「おごぁ!?」

 

そう言って、夏凜は無遠慮に銀の横っ腹を蹴り飛ばす。 精霊バリアが作動する程の威力で蹴ったことから、咄嗟且つ本気の対応だと分かる。

 

銀が離れ、近くに夏凜が居ることで、モヤは夏凜に狙いを切り替えた。

 

「(こいつ意思が……バーテックスの攻撃?)」

 

 

そんな考えを打ち切るように、モヤは夏凜の体に入り込んだ。

 

「うおっ」

「っ……夏凜さん!」

 

蹴り飛ばされてから起き上がった銀が、脇腹を押さえながら叫ぶ。 夏凜は手足を一瞥して、首を傾げた。

 

 

「……あれ、()()()()()()。」

「今の明らかヤバい感じでしたよ!?」

「いや、平気なもんは平気なんだけど。」

 

あれぇ? と言いながらペタペタ体を触るも、痛くも痒くもない。 不発か、見えないだけでバリアに守られたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えながら、極自然と。

 

それが当たり前かのように首を狙って()()()()()()()()()()()()

 

銀もまた咄嗟に、ブリッジの要領で海老反りに体を曲げて避ける。

 

 

「おわーーーっ!!」

「……ん?」

「ちょっ、何するんですか夏凜さん! 確かに接近に気付けなかったアタシが悪いですけど!」

「……待て、私はなにもしてない。」

「……はい?」

 

 

そう言いながら、二撃目をもう片方の刀で繰り出す。 辛うじて大斧を盾にするも、本気の一閃に地面を抉りながら後退させられる。

 

 

「あー……なるほど、これさっきのモヤモヤに体を操られてるみたいだわ。」

「冷静っすね……」

「体のコントロールを奪われてるだけだし、頭は冷えてるのよ。」

「それはそうと……ぐっ、これ、訓練の時よりキツいんですけどぉ……ッ!!」

 

軽い口調で、淡々と。 それでも片方の隙をもう片方で埋める連撃に、銀は防戦一方だった。

 

体が勝手に銀と戦っている裏で、夏凜は考える。

 

 

「(精神干渉……いや、肉体支配。 なら私の中にあのモヤが居る……と、したら…………あー面倒くさいったらない。)」

 

内心でため息をつき、二振りをクロスさせるような斬撃を受け止めた銀に向かって声をかける。

 

 

「銀、今から体を操ってる犯人ぶっ殺してくるから、時間稼ぎよろしく。」

「はいぃ!? 無理ですよ手加減してない夏凜さん相手なんて! と言うかどうやって!?」

 

あっけらかんと、夏凜は言う。

 

「精神統一して心の中に入る。」

「さらっと言うなよこの鬼! 悪魔! 脳筋! 歌野さん!」

「『歌野』は悪口だった……?」

 

「あーもー! 馬鹿言ってないでやるなら早くしてくださいよ!」

「誰が馬鹿だゴラ」

 

「あんただこの馬鹿ーーーッ!!!」

 

 

言葉に反して叩き込まれる正確無比な刀の一撃に、銀は大斧を燃やして答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、別の場所で歌野は盛大なくしゃみを一つ放っていた。

 

「へえっくしょおい!! …………夏凜辺りかしら。」

 

 

金糸梅の勇者、白鳥歌野。

 

諏訪と四国の記憶が一つとなったことで相方の巫女(藤森水都)からの好意に気付いたり勇ましくなったりと、頼もしい勇者である。

 

…………頼もしい勇者である。

 

 

歌野の右手に握られた鞭―――藤蔓は、二人の勇者を纏めて巻き付けて叩きのめしていた。

 

桔梗の勇者・乃木若葉と、オキザリスの勇者・犬吠埼風の、リーダー組が歌野の相手だったのだ。

 

 

「ぐおおおおおあああ………………」

「あんたに、情けってものはないの……?」

 

面白い程に簡単に二人纏めて持ち上げた歌野は、勢い良く地面に叩き付けた。 バリアはその身を守ってくれても、三半規管までは管轄外である。

 

歌野と若葉と風の混戦と言うよりは、モヤが取り憑いた同士で争っていた二人を止める形で参戦したのが歌野だった、という話なのだが。

 

 

「はぁーまったく、リーダー同士で情けない。 それと情けで飯は食えないのよ。」

「うぐぅ……いや、ごもっともだが……」

「いつの間にかあの大量の星屑は居なくなってるし、なにがどうなってるのよ……」

 

二人のぼやきに、顎に指を当てた歌野が少し考えてから返した。

 

 

「ああ、あれは多分私たちを引き離す為だけの役割なのよ。 本当の敵はあの黒いモヤ。 原則二人一組になるのを利用して、誰にも邪魔されないように互いを潰し合わせるって作戦なんでしょう。」

 

「勇者に精霊バリアがあるとはいえ、『仲間に攻撃された』という事実は心を蝕む……ということか。」

「目の前に一人特に罪悪感とか抱かなそうな奴居るけどね。 進行形でそいつに縛られてるけどね。」

 

「あ? なに? 止めてあげたのに文句言うわけ?」

「なんでもないでーす。」

「諏訪の『白鳥さん』が幻聴だったのではと思い始めてきたぞ……」

「『素』がこっちなだけよ。」

 

はぁ、とため息。

 

つきたいのはこっちだと風は思うが、声に出したら余計に強く縛られそうだから黙っておく。

 

「他の勇者は大丈夫かしら、私たちはともかく、あの一瞬で夏凜が銀君の事掴んでたけど…………本当に大丈夫かしら……?」

「仮に銀に傷の一つでも付いたら今度は紅葉と夏凜で殺し合いになるわよ。」

「夏凜と紅葉かぁ……私実はゴジラvsメカゴジラって見たことないのよねぇ。」

「……少しは紅葉の心配をしたらどうなんだ……!?」

 

若葉の悲痛な一言は、樹海の彼方に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に夏凜が目を覚ました時立っていたは、大量の刀が突き刺さった荒野のど真ん中だった。

 

 

「……これが私の心の中って訳。」

 

地面に刺さった刀は、目に見えるだけでも刃こぼれしていたり、半ばから折れていた。 夏凜はそれら一本一本の全てに見覚えがある。

 

 

「私が使って、消してきた刀たち……か?」

 

一本は訓練中に折ったもの、一本は藁束を切りすぎて刃こぼれしたもの。 そのどれにも、夏凜の思い出があった。

 

刺さった刀の柄頭を指で撫でると、ふと視界の端で影か動いた。

 

 

夏凜は刃こぼれした刀を右手、半ばが折れた刀を脇差代わりに左手で抜いて構える。

 

ゆらゆらと揺れる影。 それはやがて、夏凜の姿を象った。

 

 

「……見た目だけはそっくりみたいね。」

 

二振りの刀を構え、殺意を滾らせる。そうした夏凜の耳に、声が響いた。

 

 

『良いのかなぁ? 銀をこのまま鍛えて強くしちゃってさぁ。』

「あ゛ぁ?」

 

ニヤニヤと、おおよそ考えうる限り夏凜のする筈の無い表情で、影は夏凜を見て言った。 分かりやすい偽物だな、と夏凜は思う。

 

 

「……どういう意味だ。」

『そのまんまの意味だよ…………だってさ、ここで貴女が銀を強くしたら……銀は元の世界で生き残る事になるじゃない。』

「良いことだろ。 あとそろそろ黙れ、殺しづらくなる。」

 

左目だけで、それでも明確に敵意と殺意を込めて影を見る。 自分の顔で、自分のしない表情で、自分のしてきたことを否定されたのだ。

 

『よし殺そう』となるのも仕方がなかった。 脳筋ここに極まれり。

 

 

『脳筋過ぎるでしょ………………私が言いたいのは、元の時代に帰った際の歴史の変化だよ。 銀が生き残ったら貴女が勇者になれる可能性は無くなるかもねぇ?』

 

「―――――ああ、なるほど。」

 

 

このまま銀が強くなったら、()()()()()()お前は勇者になれないぞと。

 

そうすれば、夏凜や芽吹が次期勇者の為の鍛練を始める理由が無くなるぞ、と。

 

 

影は、そう言いたいのだ。

 

 

『ねぇ、夏凜?』

 

いつの間にか後ろに回り込んでいた影が、耳元で囁く。

 

 

 

 

 

『このまま私に任せてさ、銀を痛め付けておこうよ。 そうすればきっと、元の世界でちゃんと死んでくれるよ?』

 

「――――――――――。」

 

 

 

 

 

影は、造反神に創られたバーテックスだ。 勇者の情報は、ある程度入っている。

 

三好夏凜という少女は家族との確執があり、兄に嫉妬し、熾烈を極める鍛練によって選ばれた事から、高いプライドを持っていると。

 

そんな夏凜に取り憑いた、数体しか作れなかった『肉体支配と精神汚染を同時に行う新型バーテックス』は、『三好夏凜はこう言えば堕ちる』とプログラムされていた。

 

 

だが、それは昔の記録である。 今はもう家族を怨んでなんかいないし、兄への嫉妬心すら無い。

 

 

()()()()()、夏凜が、()()()()()()()で意思を変えることはないという事実を理解することは出来なかった。

 

 

「――――――――だから?」

『げっ―――う゛っ……!?』

 

影は夏凜のローリンクソバットで土手っ腹を蹴り飛ばされる。

 

 

「ねえ、だから、なに?」

『う……げほっ……』

 

 

人の形を取ったことで咳き込む影。 膝を突いた影の目の前に、夏凜は仁王立ちした。

 

見上げた影の目に映る夏凜の瞳に、光はなかった。

 

 

「確かにこのままなら私が勇者じゃない世界に切り替わるのかもしれないけどね、私はそれでも別に構わないのよ。」

 

影の胸ぐらを掴み立たせ、容赦なく頭突きする。

 

 

『がっ……!?』

「銀には生きていて欲しい。 でも私も勇者でいたい。 そんなワガママは通らない、だから決めた。」

 

前蹴りで突き放し、刀を構える。

 

 

「どっちに転んでも私は後悔なんかしない。 人間を、この私を―――――()()を舐めるなよ…………バーテックス。」

『なら、力ずくで!』

「―――死ね。」

 

 

殴り掛かってきた影の腕を折れた刀で切断し、刃こぼれした刀で肩から胸、腹を通って脇腹までを袈裟斬りで深く抉る。

 

返す刀で、首に一閃。

 

 

その勢いで反転した夏凜は、地面に刀を捨てて歩き出す。 まだ動ける影は追いかけようと足を進めるが―――――

 

 

『…………あ、ぇ……?』

 

 

―――――ずるり、と音を立てて、そんな影の首が地面に落ちた。

 

 

 

「お前の力なんて必要ない。 消えろ、私の『たましい』から。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夏凜の刀が大斧を手元から弾き飛ばし、銀は丸腰となる。 遥か後方に飛んだ大斧に向かおうにも、それを夏凜から逃げつつやるなんて不可能で。

 

 

「…………あー、結構不味いッス。」

 

冷や汗を垂らしながらも、余裕を崩さない。 それが気力を保つ最後の防波堤な事は自分が一番理解していた。

 

ジリジリと後退する銀は、足をもつれさせて尻餅を突く。

 

 

「うわっ……! あの、夏凜さん? ちょっと待ってくれるとアタシすげー助かるんですけど……」

 

夏凜が精神世界に入ってから数分、精霊バリアが無ければ今頃4回は死んでいるであろう攻撃をなんとか防ぐことを繰り返すも、限界だった。

 

振り上げられた刀を見て、反射的に顔を背けて腕を盾にする。

 

 

「っ―――――…………あれ?」

 

 

衝撃が襲ってこないことに疑問を覚え、銀は恐る恐る腕をどかして視界を確保。 刀は、腕に当たる数センチ手前で止まっていた。

 

「か、夏凜さん……?」

「―――悪い、待たせた。」

 

その言葉を聞いて、銀は力を失ったように仰向けに倒れた。

 

 

「もー……遅いですよぉ……!」

「ちょっと面倒な相手でね。」

「……いや、ほんと疲れました……」

「お疲れさん。」

 

銀のすぐ脇にあぐらをかくと、夏凜は銀の汗で張り付いた髪を分ける。

 

「あんたは……」

「はい?」

 

「…………なんでもないわ、()()。」

 

 

もし、仮に、勇者でなくなったら。紅葉や友奈たちとの出会いも無かった事になるのか、はたまた。

 

『今樹海で銀を労っている夏凜』は勇者でなくなる可能性を納得しているが、元の世界の昔の夏凜は、勇者になる選択肢の存在しない人生に耐えられるのだろうか。

 

 

 

「(……ま、平気か。 私はそこまで弱かない。)」

 

そう思考を纏めながら、夏凜は銀の頭を撫でていた。 妹が居たらこんな感じなのかな、なんて思いながらくすぐったそうにしている銀を見る。

 

 

「……私が操られたことはともかく、あんたに刃を向けた事は紅葉に言わないでよ。」

「わかりました! 心配させたくないですもんね、紅葉さん。」

 

「そうだけどそうじゃないのよ。」

 

 






誕生日回だけどなんかカッコいい夏凜が書きたくなったので欲に従いました。


紅葉の精神世界が表していたのはでかい畑(歌野)と大木(水都)でしたが、多分今は前と大分違った世界になってると思う。 今の紅葉の歌野への好意はかなり薄まってるので。

分かったと思うけど夏凜の精神世界のモデルは心がガラスの弓兵。 鍛練漬けで軽く女を捨ててるせいでああなってるけど、夏凜が見つけなかっただけで仲間達を表す花が一部に咲いてたり。


尚、新型バーテックスくんは今回だけの特別ゲスト(一度に数体しか生産できないからコスパが悪すぎると赤嶺にボロクソ言われて生産をやめたから)です。 これ以降の出番はないです、合掌。
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