【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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男が勇者になれるわけ無いし、巫女として神託が聞けるわけもないじゃないですか。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし



先人紅葉の章
一話 ■■■■は幼馴染である


 

 

カーテンの隙間から漏れた光が上手いこと顔に当たり、その何とも言えない不快感から目蓋を開ける。

スマホを点けて時間を確認すると、まだ5時を少し過ぎた頃だと分かった。家の裏の庭いじりが好きな幼馴染に付き合わされていた時期もあり、最早アラームも必要なく朝早くに起きる事の出来る体にされてしまっていた。

 

 

「ぐ、おぉ……」

 

上体を起こして()()をする。パキパキと関節の鳴る音が聞こえた。

 

「……さて、飯作ろ。」

 

 

誰かに聞かれる訳でもない声が、畳と障子に吸収された気がした。

 

 

 

 

白米、味噌汁、塩鮭に複数の漬け物にサラダを並べてさっさと食事を済ませ、6時を回った頃に汚れても問題ない地味な色合いの服装で固めて家を出た。

野菜多めなせいで嫌でも健康的になるのは悪いことではないが、ベジタリアンな訳でもないんだよなぁ。

 

小規模の和風屋敷とでも言えばいいのかは分からないが、一人で暮らすには十分過ぎる家を出ると、朝早くと言うこともあり冷えた空気が肌を撫でる。

 

「今日は肌寒い日になるんだったか。」

 

独り言を呟き、隣の家に足を運ぶ。

 

 

「家の間取りも隣とほぼ同じねぇ。加えて築ウン十年と、()()百年目じゃなかったよな、確か。」

 

家賃の低い理由がよく分かるな、と内心でぶつくさ言いながら隣人の家に向かうと、家の裏からザクザクと土を掘り返しているような音がした。

 

まあ『ような』では無いのだが。

 

 

勝手知ったる他人の家を文字通りで突き進み、裏にある庭……本人いわく『農業王の第一歩』らしい畑へと足を踏み入れる。

 

そこには、小規模の和装屋敷の、これまた小規模の畑へと改造された庭が広がっていた。

既に幾つかの野菜が育っているスペースと、ジーパンにジャージの少女が耕している開発途中のスペースに分かれている。

 

 

「おい農業馬鹿。」

「ワッツ?」

 

俺が声を掛けると、振り下ろしたクワを置いたままにして見事なまでのカタカナ英語を披露する少女が振り返った。

 

「お前のその畑好きは末期だな、味噌汁(ぬる)くなる前に着替えて来い。」

「サンクス紅葉!いやぁ畑を弄ってるとついつい時間を忘れちゃって……」

 

「……何時から始めた?」

 

この問いに額の汗を垂らすと、少女は小声でぼそっと答える。

 

「ご、5時位から……」

 

つまり俺が起きた辺りから一時間ぶっ続け、である。

 

「あのなぁ……」

「ソーリー!許して!拳下ろして!」

「―――はぁーーー。」

 

わざと聞こえるようにため息を吐き、縁側に置いてあったタオルを掴んで投げる。

受け取った少女は再度感謝のカタカナ英語を述べ、汗を拭い首に掛けると、靴を脱いで縁側から室内に消えた。

 

耳を澄ませると布の擦れる音が聞こえたので汗を拭いて制服に着替えているのだろう。地面に立てたままのクワを畑の脇の農具入れに仕舞い、自宅に戻り制服に着替えておく。

 

味噌汁の温度を確かめるととっくに温くなっていた。まあいいか、暖め直してちょっと美味しくなくなった味噌汁を飲むのは俺じゃないし。

流石に料理への侮辱になるのでわざと沸騰させたりはしない。

 

と言うか俺の料理を旨い旨いと言ってくれる奴がこれから来るのでそんなことは絶対にしない。

 

 

「そろそろかな―――と」

 

独り言が合図になったかのようにタイミング良く合鍵で扉を開け、少女が入ってくる。

 

二人で通っている中学―――()()()()の制服に身を包んだ少女の姿を見る。いわゆる馬子にも衣装だな、と何時見ても思う。

 

「うーん!いい香りね!」

「もうじき鮭が焼けるから座ってろ。」

「はぁい」

 

少女は来て早々俺と負けず劣らずに勝手知ったる他人の家と言わんばかりにテレビを勝手に点け、足を伸ばしてテーブルに顔をくっ付けテレビの天気情報を確認している。

 

俺はこの少女に当たりが強いと同級生からよく言われているが、仮にも見た目は美少女の部類に入るこいつに対して『そう』なのは単純に小さい頃からこいつが畑馬鹿だったからだ。

加えて、今は亡き父親に軽く格闘技を習ってた俺より何故か腕っぷしが強く、調子に乗って喧嘩を売ったときにボコボコにされた事があるのだ。

 

あと慣れ。よってこいつを異性として見るのは流石にキツい。

 

―――いやなんで俺より握力強くて筋力あるんだよおかしいだろ。

ガキの時からクワ振り回してたからそれで鍛えられている可能性があるが、そうだとしたら格闘技なんてガキの頃が最初で最後の俺よりも、8だか9年近く今に至るまでクワ振り回してたこいつの方が遥かに強いのだと考えると、なんか吐き気してきた。

 

 

「(そういや、なんで矢鱈と強いのか聞いたときに『なんとなく』とか『勘』とか言ってたな……)ま、いいか。」

 

そんな事を考えながらさっきの俺の食事メニューに沢庵を追加して持って行く。

 

「ありがとう、頂きます。」

「ゆっくり食えよ、あと沢庵多目に切ったから貰うぞ。」

「貴方の作ったものなんだから許可なんて要らないのよ?」

「それもそうだな。」

 

今ボリボリ齧ってる沢庵やサラダ、漬け物の元はこいつ作の野菜だが、こいつ、自分で育てておきながら料理の腕がからっきしなのはどういう訳なのか。

蕎麦茹でるのは上手い癖に。

 

必然的に野菜を作ったら俺が調理する、という暗黙の了解もとい取引が出来てしまっていた。

八百屋で面倒な目利きをする必要が無いのはありがたいしなにより―――

 

「……こいつの野菜、旨いしなぁ。」

「んぐ!?」

「―――あ。」

 

声に出ていたようで、俺の呟きを聞き取って白米を喉に詰まらせる。味噌汁はまだ熱いので大急ぎで麦茶を淹れる。

 

 

「っ……はぁ、ビックリしたじゃない。」

「すまん。つい口に出た」

「―――ふーん。」

 

僅かに目を細め俺を見てくる。

『私の事を考えているなんてそんなに私にラブユーなのね?』とでも言ってくるのかと思ったら、少女はほんのりと頬を赤くして食事を再開した。

 

こいつも照れるんだな、と不覚にも感動してしまった。

三度の飯より畑が好きで、未だに俺が居ても普通に寝間着を着替えたりするし、恋愛ドラマのベッドシーンですら平然としているこいつにも照れの感情ってあるんだな。なんかちょっと感動した。

 

 

「……ごちそうさま!何時も美味しくてついお代わり頼みそうになっちゃう。」

「そりゃどうも。お代わりは夕飯まで取っときな」

「今日のディナーは何かしら?」

「教えねぇ」

「…むぅ」

 

 

等と軽い漫才も済ませ、流しに置いた自分の皿と纏めて水に浸けておく。

 

―――ああ、と一言置いてから質問を投げ掛ける。

 

 

「そういや()()、お前今日も部活か?」

「そうね。勇者クラブで……確か今日は浜辺のゴミ掃除だったかしら?」

「へぇ。」

 

さっきからこいつ、としか呼んでなかったが、勿論名前はある。

 

 

――――白鳥歌野

 

 

白鳥のように優雅でも、名前に入ってるからと言って歌が上手いわけでもないが、不思議と『お前らしい名前だ』と言ってしまう。

そんな名前だ。

 

そして歌野の所属している勇者部とかいうボランティア活動の部は、迷子のペット探しから子猫の里親探しに浜辺のゴミ拾いまで色々とこなす正しく「勇んだ者」の部活なのだが、俺からしたらゲームの方しか頭に浮かばない。

歌野はそれに参加しており、今日も予定があるらしい。

 

「紅葉も一緒にやらない?」

「あのうどん女に俺だけ断られてるから、行ったところで迷惑なだけだろ」

「うー……そうかしら?」

 

そう。勇者部には歌野に引っ張られる形で俺まで入部させられる所だったのだが、何故かうどん女(名前忘れた)に俺の入部は認められないと言われてしまったのだ。

深くは聞かなかったし、お陰で今日も元気に帰宅部な訳だが。

 

 

 

「――――さて、そろそろ出るか。」

 

時計を見ると、それなりに時間が押していた。ゆっくりし過ぎたかな。

エプロンを脱ぎ、下に着ていた制服のズレを正し、鞄を掴む。

歌野も玄関に置きっぱなしの鞄を持つ。相変わらず、日常が変わることはない。

 

 

「それじゃ、学校までレッツゴー!」

「わかったから引っ張るんじゃねえ」

 

朗らかな笑みを浮かべて俺の手を引く歌野。顔には出さないがダルさを醸し出しつつ、俺は引っ張られた勢いで倒れないよう必死に着いて行く。

 

 

 

 

ふと、朝の一連の光景を思い出した。

俺の人生の一つ、歌野とのこの関わりを分かりやすく纏めて言葉にするとしたら、こうだろうか。

 

 

 

『白鳥歌野は幼馴染である』

 

 





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