【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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風先輩に対して紅葉が辛辣だけど、投稿者である自分が嫌いだから自己投影してこうなっていると言う訳ではないことを此所に誓わせて頂きます。

勇者であるシリーズで嫌いなキャラなんて大赦のモブくらいしか居ませんもの。



四話 犬吠埼風は不憫である

 

 

ガチャリ、と僅かに錆が窺えるドアノブを捻り、俺を先頭に歌野、友奈と美森の順で部室に入る。

 

「待ってたわ。」

「そりゃご苦労。」

 

椅子に腰掛けている風と樹。俺と目が合うと、樹は慌てた様子で頭を下げた。

別にメンチ切(睨んだ)った訳じゃないからそこまで慌てないでくれないかね。

 

四人でテーブルを囲うように座り、座る位置を整えると、風は咳払いを一つして切り出した。

 

 

「色々と聞きたいことはあるでしょうが、まずは一つ。紅葉、あんたの入部を歓迎するわ。」

「どーも。それじゃあ洗いざらい話してもらおうか。」

 

 

間を置いて、風は自分が持っているであろう情報の全てを語り始めた。

 

 

 

 

◆

 

「なるほどねぇ、勇者に変身して神樹を守らないと世界が滅びる。だからその……バーテックス?と戦わないといけない。」

「ええ。」

 

頂点を意味する敵と戦わせられてるとかこいつらも苦労してるな。

大赦の連中に爆弾でもくくりつけて投げれば良いんじゃないかと思ったが、勇者になれるのは無垢な少女でなければならないらしい。

神樹はユニコーンか何かか。

 

しかし……無垢?

 

「なによ」

「なんですか?」

 

風と美森をちらっと見る。

 

 

「まあ、どうでもいいか。」

「アンタまたなんか変なこと考えたでしょ。」

「滅相もない。」

 

バレないように深く静かにため息を吐き出すと、横に座る友奈のスマホからゲームからしか聞けないような効果音を奏でてナニカが飛び出して――――

 

 

――――俺の頭に着地(着陸?)した。

 

 

「……なにこいつ。」

「あっこら!牛鬼(ぎゅうき)!」

「牛鬼ぃ?」

 

『力の象徴』の名に恥じぬ力を持つ強い妖怪……と記憶しているが……

 

「それがさっき説明した、あたしたちを守るバリアを張ってくれる精霊よ。」

「精霊なのか妖怪なのかハッキリしてくれよ。」

「妖怪等の概念を抽出して形を与えたのが、精霊なの。元ネタが自然災害だろうと妖怪だろうと精霊が総称だって覚えといて。」

 

「―――なるほど。」

 

フィーリングで受けとれと。

頭の上に帽子みたくへばりついた牛鬼を引き剥がし、両手で脇を支えるように持ち上げ目線を合わせる。

 

見れば見るほどゆるキャラであるな。

こんなのが二足歩行で歩いてたら子供に好かれそう。

 

牛鬼が現れたのを皮切りに、他3人のスマホからも妖……精霊が飛び出す。

 

歌野からは緑色の猿、風からはネズミと犬が合わさったような不可思議生命体、樹からは……葉っぱのくっついたケセランパサラン?

 

友奈は俺から牛鬼を受け取りテーブルに乗せると、鞄からビーフジャーキーを取り出して牛鬼に与え始めた。

 

「へへへ、牛鬼ってビーフジャーキーが好きなんだ。」

「牛なのに!?」

 

驚く樹の頭の上でケセランパサランが跳ねる。

 

 

「ついでに軽く紹介しときましょ。こいつは犬神(いぬがみ)よ」

「え、えっと……この子は木霊(こだま)……です。」

「私のパートナーは覚(さとり)ね。」

 

憑き物に元ネタの時点での妖精に人の心を読む妖怪か。

樹のはケセランパサランじゃないのか……幸運分けてもらおうと思ったのに。

 

「―――って、美森には居ないのか。」

「……私は変身できませんでしたから。それと東郷です。」

「ふーん。ところでこいつらの食事ってどうしてんの?」

「犬神はドッグフードで大丈夫みたいヨ」

「木霊は光合成と霧吹きで水を与えれば大丈夫です。」

 

で、牛鬼は言わずもがな(なんでも食う)と。

覚に至っては漬け物をボリボリ食うらしい、お前良いのかそれで。

 

 

「―――話が逸れたな。」

「そうね……じゃあ戻すわよ。」

 

パンパンと手を叩き、視線を纏める。

全員が精霊を戻し、机に向き直るが……

 

「友奈、空気読もう。」

「ち、違うよ紅葉くん!牛鬼ってば勝手に出てくるし戻ってもくれないの!」

「えぇ……」

 

ペットに一度ナメられると後が大変なんだけどなぁ。

友奈ってその辺だらしなさそうだし、そりゃ牛鬼にもナメられるわな。

 

俺達の頭上をふらふら飛んだと思えば、牛鬼は出てきたときと同じく俺の頭に着陸する。えー……気に入られちゃったよ。

 

 

「紅葉のヘッドに完璧にフィットしてるわね。」

「なんだか可愛い……」

「なついてるみたいですが―――」

「あーじゃあ牛鬼は紅葉に任せて、話を続けましょうか。」

 

「俺の人権とは。」

「ごめんね紅葉くん…」

 

 

これで齧られでもしたら窓から外にぶん投げるが、食後の昼寝とばかりにスピスピと鼻ちょうちん膨らませて寝てるから良いや。

 

人はそれを諦めと言う。

 

気にするな、と軽く友奈の頭を撫で、風を見る。

一瞬視界に入った美森に凄い顔で睨まれた。取らないよ。

 

 

「―――何処まで話したっけ。」

「『バーテックスは全部で12体』って辺り」

「あーそうそう、話が逸れすぎて忘れてたワ」

「お姉ちゃん……」

 

妹に呆れられてるぞ。

 

「…ゴホン。あたし達の初陣で倒したあのバーテックスで1体目、残り11体を倒せば私たちのお役目は終わるの。」

「残りの敵は何時に何体来るか、分かるのか?」

「いや、それは分からない。明日かもしれないし1ヶ月後かもしれない。最悪―――」

 

「皆が勇者に変身できなくなるまで待つ可能性も、か。」

 

「―――それが最悪のパターン。」

 

頭が痛くなってくるな。

勇者がバーテックスと戦う世界は神樹が作り出した結界らしいが、その世界に長くバーテックスが居すぎると現実世界に影響を及ぼし事故や災害として反映される。と

 

朝言っていた土砂崩れで怪我人が出た話は恐らくそれだ。

 

 

「この面子以外に勇者候補なんてのは居たりするんだろ。」

「うん、そうだよ。でもこの学校には特に勇者としての適性が高い人間が集められる。そしてその人達を纏めて監視するのが、勇者部とあたし。」

 

「……騙していたんですね。私たちを、樹ちゃんを。」

 

「っ―――言い訳はしない。」

 

「東郷さん!」

「ごめんなさい友奈ちゃん。私、やっぱり我慢できない。」

 

だろうね。

怒りの混ざった悲しい視線を風に投げ掛ける美森は、友奈の言葉をやんわり否定し、樹を見てから風を軽く睨む。

睨んでばっかだなって言ったら殴られそう。

 

「東郷、少しで良い。落ち着きなさい」

「これ以上ないくらい冷静です。」

「ほんとかよ」

「紅葉くんは黙っていて。」

「はい。」

 

美森は俺と歌野の言葉を一刀両断に切り捨てる。

やっぱりこうなるんだなぁ、予想はしてたけど。

 

 

「東郷、騙していたのは悪いと思っているし、樹に黙っていたことも悪いと思う。けど言えるわけが無かったのよ。皆にあらかじめ『勇者部はいつかくる人類の敵に対抗できる勇者候補の集まりです』なんて言っても納得できるわけがないし、きっと唐突な本番よりも戦えなくなっていた。」

 

「それでも言うべきでした。風先輩、貴女は悩んでいたんですよね?」

 

「……ええ。」

 

 

…………ん?

……あー、そう言うことね。

俺が美森の言いたいことを理解すると、おおよそ予想通りの言葉が出てきた。

 

 

「勇者部五箇条、『悩んだら相談』という言葉を作ったのは―――貴女じゃないですか。」

「―――――ぁ」

 

美森は聖母のように笑みを浮かべる。

 

「風先輩が人一倍苦しんだであろう事は、1日考えたら分かることでした。

ごめんなさい、紅葉くん達が居なかったら、私はきっと風先輩に恨み辛みをぶつけていた。」

 

「東郷……あたしこそ、本当にごめん。」

 

二人で謝って、おあいこですね、なんて言って仲直り。良いなぁこう言うの。青春だよね。

 

美森と風ががっしり握手をしてさあ一件落着だ、と言うときに

 

あの時の警報が鳴った。

 

 

「……また、皆消えるのか。」

「紅葉からしたら一瞬のうちだけどね、とにかく勇者部出動よ!」

『はい!』

「今度こそ、変身してみせます。」

 

立てない美森と戦いに参加できない俺以外が立ち上がり、5人でスマホを強く握る。

 

「昨日の今日で2回目のスクランブルとは穏やかじゃないわね。けど紅葉、大丈夫よ。」

「なにが?」

「ちゃんと帰ってくるから。

ただいまって、言うから。」

 

「…………ああ。」

 

 

―――弱いなぁ、俺は。

 

 

「そうか。そうだな―――行ってこい、勇者。」

「ふふふ、貴方の口から『勇者』なんて言葉が聞けるの少し面白い。」

 

 

その言葉を最後に、全員が俺の前から消えた。

 

 

「…………あー。これ結構く(・)るな。」

 

 

一緒に戦えない無力感。

突然目の前から友人が消える疎外感。

誰か一人が欠けたらという『もしも』が頭から離れない。その『一人』がもし歌野だったら―――

 

 

―――歌野だったら?

 

 

まるで歌(・)野(・)じ(・)ゃ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ら(・)大(・)丈(・)夫(・)みたいな言い方になるな。

俺そこまで酷い人間だったっけ。

 

 

いや、当然だ。部員仲間と幼馴染じゃ優先順位が違う―――――クソがなに考えてるんだ俺は。

 

そうじゃねえ。皆が大事なんだろ、俺は。

 

 

……意外だな、俺って奴はここまで醜かったか。

 

 

 

薄汚れた感情を振り払うように、俺は無意識に屋上へと走っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

「歌野!」

「はい?」

 

そろそろ壊れるんじゃないかという勢いで扉を開く。

 

 

……うわ、普通に無事だった。

 

 

「心配して損した。」

「あら、心配してくれたんだ?」

「当たり前だろ馬鹿」

 

するに決まってるだろうに、即答で返されて歌野は顔を赤くする。ざまあみろ。

 

 

「東郷……恐い……東郷……恐い……」

「―――で、風はどうしたんだ」

 

膝を抱えてぶつぶつと何かを呟き続ける風。

 

ちょっとキモい。

 

 

「実は、変身した東郷先輩の武器が色んなタイプの銃だったんですけど……最後の銃弾がお姉ちゃんの鼻先を掠めて行きまして……」

「……直撃じゃないからバリアも出なかったと。」

「はい……」

 

「―――こればかりはすみませんでした。」

 

「東郷恐い」

 

「風先輩大丈夫かな……」

 

「……後で奢ってやるよ」

 

 

 

 

 

 

うーん、締まらない。

 

何はともあれ、勇者たちは2日目にして3体同時戦闘というハードワークを無事……にこなした。無事と言ったら無事だ。

 

 

 

 

 

ただ一つ、俺の心にモヤのようなしこりを残した以外は。

 





やっぱりゆゆゆ二次創作と言ったらハッピーエンドが一番!なのでハッピーエンドをなるべく目指します。
本編終わったらifでバッドエンドとか別キャラルート書くかもしれません
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