【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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にぼっしーすき(血文字)



六話 三好夏凜は完成型である・前

 

 

あれから1ヶ月近く。過ぎ去るのは早いような気もするが、俺の目の前から勇者である5人が消える懐かしい感覚から数拍置いて屋上に向かう。

負け無しの5人は、今回は何と戦ったのだろか。2回目に3体同時戦闘だったこともあり敵も学習するのだろう。

 

最悪の場合残り全員との総力戦になる可能性もある。

 

精霊のバリアや5人での連携があるからといって残心を捨ててはならない。バリアのギミックには穴があるのだから。

 

 

例えば、一般人である俺の攻撃。

ダメージとすらカウントされないのか、一度風に強めにチョップした時は犬神が止めることは無かった。

 

つまり日常生活での些細な怪我は守ってくれない。歌野が錆びた農具で手を切って破傷風なんかになったとしたら、覚のバリアは期待できないので病院に連れていきましょう。と言うことだ。

 

 

 

―――致命傷から守ると言うのは、『死ぬこと』から守るとも言えるのではないだろうか。

 

 

例えば、精霊は究極的な意味で『主を死なせない』とか。

 

 

「……まさかね。」

 

いくら勇者の存在が貴重だからって、生と死の輪から子供の魂を外して拘束するなんて事は人間がやっちゃいけないことだ。

いや大赦ならやりそうだけどさ。子供に戦うことを強要してる時点であいつらに道徳論理なんてねーもんな。

 

 

ほんの少し気を楽にして手慣れた動きで屋上に到着する。

毎回毎回誰かが欠けているのかもなんて考えていたら今以上に頭がおかしくなっちまうからな。

 

 

「お疲れさーん」

「―――つまりあんたらはもう用済みって事!」

 

「―――あ?」

「………ん?」

 

歌野、友奈に東郷、犬吠埼姉妹。5人揃っているのはいいが、なんか居た。

灰がかった髪をツインテールにした、気の強そう……というか絶対強いであろうチンチクリン。

 

「いや誰だよ?」

「それはこっちの台詞よ!あんた誰よ!?」

「……あー、うん、なるほど。」

 

これ絶対暫く面倒くさい事になるわ。

 

 

 

 

 

 

で、風経由で知ってはいたが昨日の今日に編入してくるとかお前行動力凄いな?

俺達は現在部室に全員で集まり、三好夏凜こと自称完成型勇者を6人で囲んでいた

 

「なんで尋問されてるみたいになってんのよ!」

「だって怪しいんだもん」

「アンタからしたら突然あたしや歌野たちに暴言吐いてた奴だものね……」

「別に私は気にしてないわよ?」

「私もだけど……流石にチンチクリンは……」

 

「……確かに言い過ぎたわよ。」

 

あ、謝れるんだ。

ちょっとプライドが高いってだけなのかね、多分友奈辺りを使えば簡単に堕ちるな。

 

席を正し、黒板を背に立つ夏凜を静聴するように座る。

 

「転入生のふりをするのは面倒だったけど、この私が来たからにはもう安心ね。勝ったも同然だわ。」

「うわーすげえ自信」

「自信が有るのは良いことですが、どうして最初から参戦してくれなかったのですか?」

 

「良い質問ね。私としてはあんた達に出番なんてくれてやるのも嫌だったけど、大赦が万全を期す為にあんた達の戦闘データを使って私の端末を改良し続けたのよ」

「で、とうとう完成したから昨日来た、と。」

 

ええそうよ、と言う夏凜は近くの箒を軽く振り回して俺に向けてくる。

が、ガツンと黒板に先端をぶつけた。

 

「だっさ」

「うっさい!……というか」

「なんすか」

「あんた、勇者でもなんでもないのになんでここに居るのよ。勇者部ってのは勇者を集めて監視する部なんでしょ?」

「それは前までの勇者部よ、あたしが許可したの。」

「だって俺が居ないとやだって風が駄々こねるから……」

「こねとらんわ!!」

「お姉ちゃん落ち着いて!」

 

顔を真っ赤にして俺の背中をどつく風とそんな姉をどうどう……と落ち着かせる樹。やっぱこう言うのの耐性は無いのか、発見発見。

 

 

「それはそれとして、これからは夏凜ちゃんも戦ってくれるって事なんだよね!」

「いきなり名前呼び!?」

「嫌だった?」

「……好きに呼べば良いでしょ」

 

「やった!夏凜ちゃん、ようこそ勇者部へ!」

「は?なんで?」

「え?紅葉くんが夏凜ちゃんの入部なら決まってるって……」

「どういうことよ?」

 

「フフフ、残念ながらお前はもう勇者部の一員なのだよ。」

 

そう言いながら一枚の紙を見せる。

それは自分の名前や生年月日を記入された、『夏凜の手書きの』入部届けだった。

 

「なっ―――!?それいつの間に!?」

「さぁ、なんででしょうねぇ……」

 

トリックは簡単、教師に頼んで編入手続きの時についでに書かせるよう頼んだだけだ。

どうせ編入関連のあれこれが面倒で録に内容の確認もしてなかったのだろう、なんの疑いも迷いもない文字がそれを物語っている。

こいつチョロいな?

 

どうやって言うこと聞かせたかについては聞かない方が良い。

 

「紅葉ってば中々やるじゃないの」

「これはとてつもないサプライズね…」

「…………いや、詐欺では?」

「気が強い娘なら多少強引な方が良いのよ、樹ちゃん。」

 

四者四様の意見が飛び交い、夏凜は絶句し、友奈は着いていけず目を丸くしている。

悲しいかな夏凜、ここに俺の行動を咎めるようなお前の味方は居ない。

 

 

「クソッ、禄でもないわねこいつら!」

「それって私も?」

「いや、あんたは単なる馬鹿っぽいし別よ」

「……あれ、誉められてる?」

「……なんか何もしてないのに疲れるわね……」

 

戦う前から心身が疲れたのか肩で息をする夏凜。今まではツッコミ役は風だったからな、これからは二人で頑張ってくれ。

 

「でも入部したってことにすればここにも来やすいし、バッドなことだらけじゃないと思うの。」

 

「ま、そうね。監視もしやすくなるし。」

「監視……ですか。」

「夏凜ってば自信満々なのネ」

「ふんっ、偶然選ばれただけの素人に――「夏凜、かりーん」

 

「……なに?」

 

台詞を遮った俺にちょっと苛立った顔で返事をする夏凜。あっち、と指を向けた先を辿ると、そこでは我らが飛び回る唯我独尊こと牛鬼が夏凜の精霊らしい義輝(よしてる)を齧っていた。

 

あ、顔の半分が口の中に入った。

 

 

「ギャーーー!!?」

 

流石完成型と言わざるを得ない素早い動きで義輝を牛鬼から引き剥がすと泣いてる義輝を抱え、大急ぎで距離をとった。

 

「何してくれてんのよクサレ畜生!!」

『外道メ……!』

 

それ喋るんだ。

 

「畜生でも外道でもないよ、牛鬼だよ!ちょっと食いしん坊さんなんだよね~?」

 

友奈が手渡した何時ものジャーキーを共食いする牛鬼。

いや厳密には牛じゃないし共食いではないのか。

 

「そいつ仕舞いなさいよ!」

「それが何でか戻ってくれなくて…」

「勝手に出て来て勝手に帰るんだよ。あと俺の頭の上に乗るのが好きらしい。」

「止まり木か何か?」

 

俺の声に反応して、ふよふよ浮いてた牛鬼が俺の頭に着陸する。あと夏凜、それは言わないでくれ。自覚してるから。

 

「でも俺の頭に乗ってる内は寝てて、そのあとふらっと友奈のスマホに戻るから、その間は出しておけるぞ。良かったな義輝。」

『外道メ!』

「あん?俺のどこが外道なんだよ」

「入部届けの件を見てまだそれ言える?」

「でもこうでもしなきゃお前適当に理由付けては単独行動しただろ。しそうなの分かるぞ」

「ぐっ」

 

その辺の言い分は分かるらしく言葉を詰まらせる夏凜。場の空気に敏感な友奈が、慌てたようにフォローを入れた。

 

「それにしても、義輝って喋れるなんて凄いよね!」

「――!そうよ、完成型勇者に相応しい最強の精霊なんだから!」

「でも確か、東郷先輩には3体の精霊が居ましたよ。でしたよね?」

「ええ。刑部狸(ぎょうぶだぬき)青坊主(あおぼうず)不知火(しらぬい)と言います、数的有利ですね。」

 

「―――――。」

 

樹に言われ美森がスマホを弄ると、花びらのエフェクトと共に3体のゆるキャラが飛び出す。分かりやすく言うと、服を着た狸と卵と青い炎。

 

「止め刺すなよ美森」

「……友奈ちゃんをチンチクリン扱いしたこと、まだちょっと怒ってますから。」

「もう。東郷さんったら……」

「東郷ってやっぱ恐い。」

 

 

風はトラウマ刺激されてないで止めなさいな。

 

窓際に移動した俺は、樹の出した木霊に霧吹きで水を浴びせる。

加えて光を浴びることで光合成をしていた。まあ、こうやって精霊との意思疏通を図ることで仲良くなることは悪いことじゃないよね。

 

「俺に幸運分けてくれねーかなぁ」

「紅葉さん、木霊はケセランパサランじゃないですよ。」

白粉(おしろい)まぶして白くしたらイケそうじゃない?」

 

「イケませんしやめてくださいね?」

「しないよ。」

 

誤魔化すようにグリグリと樹の頭を撫で回す。頬を朱に染めつつもされるがままの樹は、いつの間にか俺のことを先輩じゃなくさん付けで呼ぶようになっていた。なつかれるのは良いのだが風の目線が時折痛いのが難点だ。

 

 

友奈と東郷と風に囲まれてあーでもないこーでもないと言い合っている夏凜からは、不快と言った気配は感じられない。友奈パワーで柔らかくされている辺り、さしずめ友奈には酢豚のパイナップル的な力があるのだろう。

あれ漬け込むとかしないと効果無いけど。

 

なんてことを考えていると、覚を膝に置いて撫でながらぼーっとしている歌野に気付く。

 

「歌野、どうした?」

「―――ワッツ?」

「お前最近一歩引いてるよな」

「……大丈夫よ。」

「あ、そう。」

 

こう言うときのこいつの意思はテコでも動かない。どこか遠い目をした歌野に不安感を覚えるが、こんな事態では『幼馴染』という立場は逆に邪魔になってしまう。

 

さて、なんか変な選択でもしたか……良く樹に構うようになったからって嫉妬するほど短気でもないし、勇者になってからの事なら勇者に関しての事か。

 

 

 

 

んーなんか、なんか……なんかねぇ……

 

「あ。」

「紅葉さん?」

「いや、大丈夫大丈夫。」

 

ああ、そういやそうだった。

 

 

 

 

 

―――勇者とバーテックスの一件の所為で食わせる予定だった鍋作ってやれてないじゃん

 

俺は次の休みに鍋を作ってやる決意をして、歌野の頭もついでに撫で回してやるのだった。

 





書く方も読む方も長いと疲れるので4000文字以内を意識しています。
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