【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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にぼっしーには早い段階で色々決断を迫らねばなりません。


七話 三好夏凜は完成型である・中

 

 

本日は快晴で、イラッとするほどの陽射しが体を煮沸消毒でもするかのようにこの身を焼いてくる。これちょっと暑すぎない?

木霊みたいな光合成出来る訳もない体でこれは少々キツい。今度帽子でも買うか。牛鬼の事じゃないぞ。

 

「あれ、にぼっしー」

「……う、げぇ……」

 

陽射しに耐えながら歩みを進めていると、見覚えのある自称完成型勇者の後ろ姿を発見する。

心底嫌ですって感じの声を出しながら振り返る少女、三好夏凜。俺からのアダ名呼びがそれはもう嬉しいらしい。

 

「奇遇じゃなーい、にぼしも買い物?」

「そのアダ名どうにかなんない訳?」

「えー可愛いじゃん、にぼ――おっぐぅ……」

 

 

極普通に腹パンされた。こいつ風でもやらないような事を平然として来やがったぞ。

俺じゃなかったら傷害罪ですよ傷害罪。

 

 

「また呼んだらもっかい()るからね」

「照れ隠しかよ。可愛い奴め……」

 

義輝が牛鬼に食われたり夏凜が友奈に柔らかくされたりの一件から後日、あれから色々と情報共有を行った俺達は、子供達との折り紙教室や十八番の勇者と魔王の劇を開く事になったのだが、子供嫌いの俺は当然サボることを決意していた。

あと俺折り紙苦手なのよ。

 

加えて歌野に美味しい鍋を作る約束をすっぽかしていた事を思い出して買い物に来ていたのだが、なんでか参加することになっていた筈の夏凜ことにぼっし(命名:風)ーと鉢合わせしたのでした。と

 

 

「ぐぬ……で、夏凜はなんであいつらと折り紙教室開いてないのさ。お前もサボりか?」

「うっ、うるさいわね……」

 

あらら、キレも覇気もない。

もしかして現地集合なの忘れて部室に行ったら誰もいなくて疎外感とかで虚しくなったのかな?

 

 

ああじゃあちょうど良いか。

 

「ふーーーん。」

「……なによ。」

「夏凜さ、俺とちょっとデートしない?」

「―――――はぁあ!!?」

 

 

 

 

 

 

俺に手を引かれて歩く夏凜は、上の空で心ここにあらずな顔をしていた。

 

「デートっつっても俺の買い物に付き合ってほしいだけだからね?」

「……じゃあなんであんなややこしい言い方したの。」

「面白い反応してくれそうだ――「ふん!!」

 

思いっきり足を踏まれた。この野郎ことごとく急所を狙いよる……

 

 

「全く。しかも目当てのスーパーなんてすぐそこじゃない、どうしてわざわざ遠回りしてるのよ。」

「いってぇ……あー、人の目があるからだ。」

「っ……私の慌てる様子でも見たかったわけ?」

「――――夏凜」

「ふえ?」

 

腰に手を回し、軽く引き寄せる。情けない声を出してポカンとした後、一瞬遅れて爆発したように顔を赤くする。

すかさず耳元に顔を伸ばすと、何かを期待するかのようにギュッと瞼を閉じる夏凜に囁いた。

 

 

期待させて悪いな……じゃなくて。

 

 

「振り返るなよ、尾行されてる。」

 

 

「はい?」

 

俺がデートがどうのと言ったのはこのため。

ああでもして有無を言わさず連れていかないと、夏凜に離れられかねなかったからだ。

 

「家を出たときから視線を感じたから、わざと人目のある所を歩き回ってたんだよ。お前が離れたら俺死んでたと思うぞ。」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、頭が追い付かない。」

「急に触って悪かった。歩きながら説明するから来なさいな。」

 

夏凜から離れ手を取り歩く。慌てて着いてきた夏凜を見るついでに横目で背後を睨む。

離れた位置にいるスーツの男が顔を隠すように俯き、歩きスマホをしているように見えて恐らく俺を撮影している筈だ。やだなぁ自惚れで済めば良いけど。

 

「大赦は呆れるくらいの秘匿主義の集まりだからな、俺が何時どこで話を漏らしたりしないか気が気でならないんだろうさ。」

「まさか……だからって大赦がそんな事するわけ……」

 

「するんだなぁ、これが。秘匿主義であり神樹絶対主義のあいつらに道徳論理なんか求めちゃ駄目だぜ」

 

 

 

 

―――何せ勇者の名前を世間体の為に消す奴だぞ。あいつはただ愛されたかっただけなのにさ、ねぇ、■■ちゃん。

 

 

 

 

「……ん?」

「紅葉、ちょっとどうしたの」

 

一瞬意識が飛んでいた。肩を揺すられることでハッとして目覚める。

 

今俺は何を考えていた……?

 

「まあいいや。」

「いや良くない。というか、私にそんなこと話していいの?私は大赦側の人間なのよ?」

「うん。で?」

 

「……私が実はあんたを暗殺するために送られた人間なんじゃ、とか少しは考えないわけね、あんたは。」

 

ああそう言う事ね。

怪しむ夏凜に少し溜めてから返す。

 

「俺を殺すって言う殺意を持った人間が勇者に変身できるもんなのか?勇者の条件は無垢であること、なんだろ?」

「―――――それもそうね。」

 

 

盲点だったのか、頬を染めて顔を背けた。うーん弄りやすくて面白いなあにぼっしーちゃんは。

だがそれと同時に唯一普通に手を出してくるから、からかうのは諸刃の剣となっている。

 

スーパーまであと10分も掛からない辺りまで歩き、夏凜に質問する。

 

「そう言えば、夏凜ってこっちには一人できたのか?家族はどうしてんの。」

「あんた結構ぐいぐい来るわね、ええそう。一人よ。」

「兄弟とか居ないの?」

「兄貴がいて大赦で働いてるわ。」

「はーん。じゃあ勇者にはコネでなったとか?」

「――違う。こればかりは私が努力で勝ち取ったの。」

「……ふぅん。」

 

大赦に兄がいて、勇者になれたのは努力したから。ねぇ

……夏凜が兄って言えるくらいは若かったよな、あの時の大赦仮面。

 

いや、深くは考えないでおこう。

 

「それじゃまあ、パパっと買い物済ませて帰るか。」

「で、アタシはあんたのことを家まで送ってやれば良いわけ?」

「ここは『私の部屋に来る?』ってパターンだぞにぼっしー」

「次それを言うときは死ぬ覚悟しときなさい。」

 

にぼっしーこわーい。

 

 

 

 

って考えてたら無言でビンタされた。

 

 

 

 

 

 

「……結局上げちゃったわ」

「お邪魔しまー。」

 

俺の家から走ってそこまで時間が掛からない場所のアパートの一室、夏凜は大赦の支援で部屋を借りているらしい。

家賃とか光熱費払わなくて良いとか贅沢な奴め。

 

買った材料を水しか入ってない貧相にも程がある冷蔵庫を借りて全てぶちこみ、案内されたソファーに体重を預ける。

 

 

「っ―――はぁー。」

 

緊張が解れる。どうやら思っていた以上に俺は夏凜を信用しているようで、どうにも夏凜を警戒できない。

 

このまま刺されでもしたら抵抗すら出来ないだろう。何せ戦闘訓練を日頃から積んでいる勇者部で最強の人間だ、男だからと言って挑んだとして、手も足も出ないと思う。

 

 

そもそもその辺の一軒家よりデカイらしいバーテックスを相手取れる奴だぞ、勝てるわけないでしょうが。

 

 

「ん。」

「サンキュー」

 

500mlの水のペットボトルをコップに入れる事無く手渡すとか男らしいっすね。

 

スマホで時間を見ると折り紙教室はとっくに終わっているであろう時間となっていた。というか普通に晩飯の時間帯だ。

 

「あんた晩御飯どうするの」

「作りおきがあるから気にしなくて良いよ。夏凜こそ普段何食ってんのさ、俺気になるなぁ。」

「……弁当と煮干しとサプリで十分よ。」

 

枯れてんなあ。

せめて米炊く位はしようよ。

 

「まあ待ちたまえ夏凜くん。」

「……またなんか変なことするつもり?」

「違うわい。さっきなんのために多めに材料買ったと思ってんのさ、フライパンとか貸してくれたらおかず作ったげよう。」

「あんた料理出来るんだ……」

「失礼だなぁ、毎日歌野の分まで作ってるのは俺だし、あいつの野菜漬け物にしてるのも俺なんだぜ?」

「へぇ……」

 

 

ん?毎日歌野の分まで?という声を無視して台所に向かう。さーてなに作ろ、()()()()()()()()()()()()()()しないといかんから時間が必要な奴……少ない挽き肉を豆腐で嵩増ししたハンバーグにしようか。

 

さーて、また俺は女の胃袋を掴まなきゃいけなくなるのか……

やっぱり逆だと思うんだけどどうよ。

 

 

「夏凜ってなんかアレルギーあるー?」

「無いわ。」

「じゃ、弁当用意して待ってなさい。あと今度からせめて米炊けよこのスットコドッコイ。」

「んな―――!」

 

正論で黙らせ、集中する。皆頼むからなるべく早めに来てくれーーーーー!

 

 

 

 

 

「へーいお待ち。」

「おお……意外ね、紅葉ってほんとに料理出来たんだ。」

「疑ってたのか……じゃ、食っていいぞ。」

 

豆腐ハンバーグと簡単に作った卵サラダを夏凜の前に置いて反対に座る。

 

「……頂きます。」

 

 

ほんと、悪い子ではないんだよな。

多分頼れる相手や心を許せる相手がここで友奈たちに会うまで居なかったんだろう。

家族関連の話題で顔を曇らせた辺り、夏凜のお兄ちゃんとやらは相当な『出来る子』なようだ。その分夏凜に向けられるであろう親の無条件の期待や重圧は、さぞかし重かっただろう。

 

「……む――――!!」

 

ハンバーグを一口食べた夏凜は、間を置かずに二口、三口とハンバーグを口に運ぶ。

()せるよ?

 

口休めに卵サラダにも箸を向ける夏凜は、無言でハンバーグと交互に食べ進めながら―――――ボロボロと涙を流し出した。

 

 

「えっ―――ちょっ、夏凜?」

 

流石に焦るわこれ。

ハンカチを出して夏凜に差し出すと、ようやく夏凜は自分が泣いてることに気づいたらしい。

 

「え……あれ、なんで……?」

「それは俺が聞きたいのですがね、どうしたよ。」

「わかんない……わかんない、けど……なんか、あんたの料理が、懐かしくて。」

 

俺のハンカチで顔を拭うと、目尻を擦る夏凜は水を飲んで再度食べ進める。

 

 

「夏凜のお兄ちゃんが昔作ってくれたのかねぇ」

「……どうだったかしら、多分そうかも。」

 

 

暫くして食べ終わった夏凜は、皿を流しに持って行き、戻ってくると顔を赤くしてモジモジと体を動かす。

 

「…………ったわ」

 

「はいぃ?」

 

小さくて聞こえんわ。

 

「~~~~! 美味しかった!ありがとう!!」

「―――それは良かった。」

 

 

……やっぱいいね、作った飯でそう言われるの。

夏凜に『出来のいいお兄ちゃんの妹』を押し付けた親には恐らく見せないであろう顔を見られるってのは役得だよね。

 

 

とか考えていたら、ピンポーンとインターホンの音が室内に反響した。

 

「俺が出るから、顔洗ったら?目元赤いよ。」

「うっ……じゃあ頼むわ。セールスとかなら追い返して。」

 

 

そそくさと洗面台に向かった夏凜を見送って、俺は口を緩ませる。

 

さて、作戦スタートだ……

 





チョロインのにぼっしーは可愛いですね(ボンオドリ卿)
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