【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

51 / 138

いかん、段々歌野より夏凜の方がヒロインらしくなってきた



八話 三好夏凜は完成型である・後

 

「……紅葉、誰だったの?」

 

タオルで顔を拭きながら戻ってきた夏凜は俺にそう聞いてくる。

そして、ピタリと動きを止めた。周り見れてないけどもしかして気配とかわかっちゃう人ですかこいつ。

 

 

「―――誰」

 

タオルから手を離して左手に端末、右手に壁に立て掛けた木刀を素早く握る夏凜。

 

「あわわわわわっ、私だよ夏凜ちゃん!」

「友奈……!?」

 

顔をタオルで遮っていた事で僅かにずれたピントを目元を揉んで戻すと、そこには俺を除いて友奈を筆頭に美森、風と樹、歌野がソファーに座っていた。事後報告になるけど、上げちゃった。

 

 

「……なんで居るのよ」

 

少しだけ冷めたような顔をする。まあ驚くよね、俺も昔トイレから戻ったら歌野が居たとき心臓止まるかと思ったもん。

 

「お前、今日何の日か自覚してなかったのか。」

「ちょーっと鈍感なんじゃない?」

 

俺と風が煽ると、ムッとした顔で、それでも何かを思い出そうとする。

 

「……あー……んー……えー…………」

 

「もういいもういい。」

 

ダメだこいつ鈍すぎる。

 

 

「……さて、諸君。」

 

俺が指を弾くと、それを合図に俺と夏凜以外が全員パーティーに使われる三角帽子を被る。全員が勇者のときのモチーフカラーを被り、友奈が夏凜に赤いのを被せた。

 

俺は当然白。清純なので。

 

 

テーブルの下に隠した飲み物やお菓子を歌野が引っ張りだし、樹と風が全員分をテーブルに広げる。そして友奈が白い箱を膝に乗せると、パカッと開ける。

 

中にはホールケーキが入っていて、チョコのプレートに『お誕生日おめでとう』と書かれていた。

 

 

『三好夏凜さん、誕生日おめでとう!』

 

 

ちょいと恥ずかしいが俺も一緒に言う。誕生日のお祝いなんて何時ぶりだったかな、夏凜も驚いて口を開けて黙っている。

 

「紅葉と友奈が、入部届けの生年月日見て誕生日が今日なのに気付いたのよネ。」

 

「子供達とのレクリエーションの時に祝おうって決めたんだけど、夏凜ったら来ないんだから。」

 

「だから、サボってた紅葉さんに頼んで上手いこと家に居てもらっていたんです。」

 

「紅葉くんがやたらと自信ありげに任せろと言ってきたときは不安でしたけどね。」

 

 

さりげなくボロクソに文句を言われた。

いやぁ信頼が厚いぜ。

 

というか夏凜が面食らったまま動かないんだけど。バグった?叩けば直るか?

 

 

「友奈、やっておしまい。」

 

「了解! 夏凜ちゃん?おーい、夏凜ちゃ~ん?」

 

「――っ……」

 

友奈に額をつつかれようやく再起動した夏凜は、何かを言おうとしては口を閉じ、口を開いては閉じる。それを数回繰り返したかと思ったら―――

 

 

「ぅ……ばかぁ……あほぉ……ぼけぇ……」

「なっ、なにおう!?」

 

力無く罵倒の限りを尽くした。

風は真に受けるんじゃないよ。

 

 

「誕生日なんてやったことないから……なんて言ったらいいかわかんないのよ……!」

 

 

あっすいませんさらっと重いこと言わないでくれませんか。

 

 

「―――誕生日おめでとう、夏凜ちゃん。」

「…………うん。」

「そこは『ありがとう』で良いんだぜ、夏凜」

 

「――――ありがとう。」

 

 

 

それからはケーキを切り分けたり集合写真を撮ってNARUKO経由で画像送ったりと色々やったのだが、全部の説明をすると長くなるので割愛。あと風はたかが炭酸で場酔いするんじゃないよ全く。

 

その後は事情を説明して大型のタクシーを呼び、歌野に友奈と美森と風と樹の5人を押し込んでから代表で歌野と美森にお札を数枚握らせ帰らせた。夜も遅いし、金を出すのは想定内だ。

返して貰わなくても別にいいしね。

 

こんなに渡されてもと渋る美森を無視して運ちゃんに出してもらう。

……財布から勢い良く抜いたから一万円とか出しちゃったかも。

 

 

 

「(まいっか。)じゃー明日なー。」

 

俺はそう言って夏凜の部屋に戻り、ゴミ捨てを手伝った。

 

 

 

 

 

「さて……そろそろ俺も帰らないとなぁ。もっと居たいんだけどさ、流石にこれ以上遅くなっちまうと補導されるからね。」

「またあんたはそんなこと言うんだから……」

 

玄関まで見送りに来た夏凜は、まだ誕生日パーティーの興奮が冷めていないのか頬が緩い。

 

「今日、どうだった?」

「―――まあまあね。」

「ふーん?」

「なによ。」

「顔には『超楽しかった』って書いてあるけど?」

 

その緩んだ頬じゃ説得力に欠けるよ~にぼっしー?

 

「……うるさい」

「ハッハッハ。」

 

夏凜の頭をぐりんぐりんと回すように撫で、扉を開ける。

 

 

「またな。」

 

「ええ。」

 

小さく手を振る夏凜を背に廊下に出て階段を降り、夜と言うことですっかり冷えた空気を浴びながら道路へ出る。

……って、やば。夏凜の部屋の冷蔵庫に料理の材料入れっぱなしじゃん。

振り返って部屋に戻ろうとすると、どこか聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。

 

 

「先人紅葉」

「またですか。」

 

めっちゃ嫌だけど、仕方なくまた振り返る。街灯の電球が切れていて真っ暗になっている所からぬっと大赦仮面が現れた。

顔には出してないけど正直めっちゃビビった、妖怪か。

 

 

「朝は災難だったようで」

「……全くだよ、どうにかならんのかよアレ」

「独断での決行らしく中々尻尾が掴めないのです」

 

こいつと朝のアレは無関係らしい。だからって『はいそうですか』とはならないんだが。

 

「なんか策が出来たから俺に会いに来たって事で良いんだよな?」

「はい。」

 

男がそう言うや否や、懐から折り畳みのポケットナイフを取り出して俺に向けてきた。

刃渡りは小さいが、それでも凶器は凶器である。

 

「―――ははーん、そう来る。」

「君には入院してもらいます、退院までの時間を使って私が過激派を全員黙らせますので。ああ、抵抗して場所が逸れたら死にますよ。」

「あわよくば、とか思ってねえよなお前」

「まさか、貴方に死なれては困る。」

 

「勇者の精神状態が悪くなったら変身できないもんな。」

 

大赦からしたら俺の価値なんてそんなものさ、生きていられると困るけど死なれても困るときたもんだ。自分で考えても面倒だなって思うよ、うん。

 

……何処まで言っても大赦の人間は大赦の人間だな。大赦の連中とこいつは考えが違うのだろうが、ただそれだけ。俺に居られるのは邪魔って意見では同じみたいだし。

お役目が終わる頃が俺の寿命なんだろうよ、わかりやすくて良いね。

 

まあこんな若さで死ぬつもりは無いけど。

両親に顔向け出来ない処かプロレス技食らうわ。

 

 

「―――ふぅ、よし、覚悟は出来た。スリーカウントでサクッと来い。

 

行くぞ……いち「3」いいいいいいいいいい―――」

 

 

噛み合わねえ―――――!!

男は俺の『1』と同時に『3』とか言いながら一歩で距離を詰めて腹に得物を突き刺してきた。

ぐじゅっ、とトマトに包丁を突き刺した時のような感触をトマト側で味わい、数瞬置いてナイフの刺さった部分が火で炙られているかのように熱を持つ。

 

 

ぶっちゃけ熱いなんてモノじゃない。

 

燃やされているようだ。

 

 

「う、お―――流石にっ……刺されたことは……ないっての……!」

「それ以外はあるんですか。さて、私が消えたら三好夏凜の方へ這いずって行きなさい。見つけてもらって通報されれば、次に目が覚めたら病院のベッドの上でしょう。」

「簡単に言ってくれるぜ……」

 

 

ズボッとナイフを引っこ抜かれる。うわこいつ捻りながら抜きやがった。

傷口が拡がった事で、手で押さえた裏から赤黒く熱い液体が漏れて垂れて地面に落ちた。やっぱこいつ運悪く死ねって絶対思ってる。

 

だがここで、お互いに想定外の事が発生した。

 

 

「紅葉?」

 

わざわざ道路に出ないと見えない位置に居る俺を、夏凜が見つけたのだ。

流石の大赦仮面もこれに動揺する。

 

「大赦の職員……?ねえ、紅葉がどうかし…た―――」

 

夏凜は見てしまう。夏凜から見た大赦の職員が、赤く濡れたナイフをハンカチで拭いて懐に仕舞うところを。

 

そして遅れて痛みと血が出ていった事で膝を突いた俺と目の前の事実を頭で理解して、怒り一色の顔で吠える。

 

 

「お前――――ッ!!」

 

ポケットから出したスマホを左手に持ち画面を見ずに何かをタップする。

夜だからか抑えられた光と花びらが夏凜を包み、払われるのを待たず赤い衣服に姿を変えた夏凜が、鍔の無い刀を片手にその中から突っ込んでくる。

峰を相手に向けて横に一閃、しかし予期していたのか、バックステップで男はそれを避けた。

 

即座にただ者ではないと見抜き、スマホを虚空に消し両手に一本ずつ刀を持つ。

 

右半身を後ろに、左を前に出して構えた時、夏凜は怒りに満ちた顔を、目に見えてゾッとした様子で青くした。

百面相だなぁ。と、気絶しかけてる頭はそれだけ混濁しているのか場の雰囲気を無視してアホらしい事を考えている。

 

意を決して、それでも震えた声で、夏凜は呟く。

 

 

 

「――――――兄貴?」

「―――。」

 

 

何か言い返す訳でもなく、男はそのまま暗闇に姿を消した。

追おうとするも、夏凜は慌てて踵を返すと俺に駆け寄る。足に力が入らなくなり、倒れそうになった俺を地面に激突する前に受け止めてくれた。

 

何度も言うけどこれ普通立場逆じゃない?

……血が抜けてテンションが上がってるな、そろそろ走馬灯とか見えそう。

 

 

「酷い……紅葉!紅葉!!しっかりしなさい!」

「あー、生きてます生きてます。でもそろそろ死にそう」

「馬鹿言わないで、すぐ病院に連れてくから!」

 

夏凜は俺を抱き上げると、常人とは考えられない身体能力で家の屋根に跳躍し、屋根から屋根へと飛び回る。救急車呼ぶより早く病院に着くな、これが勇者の力かぁ

 

 

 

 

「なっ……―――!――じ、もみ―!!」

 

頭がボーッとして来た。水に沈んだかのように、ふわふわとした感覚は、一転して泥がまとわり付いているみたいに何処か暗い所へ重く、苦しく沈んで行く。

 

 

 

 

あー、なるほど、これが―――

 

 

 

 

 

―――死か。

 

 

 

 

 

ブツンとテレビの電源を落としたかのように、俺の意識は途切れた。

 

 





次回:紅葉死す
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。