【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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もう二度と……失踪できないねぇ……



十話 先人紅葉は怪我人である

 

 

 

「―――――ん、ぉ…………あ……」

 

 

腹部の鈍い痛みが刺激になり、俺は目を覚ました。

 

……どうやら死にぞこなったらしい

 

あの大赦仮面次あったら絶対ぶん殴ってやる。

俺を殺さなかったのを後悔してからくたばれ。

 

 

体感……5日くらいかな。結構寝たようだ。

 

 

「……ぅぁぉぉ……」

 

声が出ねえ。

水が飲みたいし、腹も減った。

 

呼吸器を外して腕に繋がったチューブを引っこ抜く。

 

心電図の電源を切って病室から出ると、周りにはあまり人が居なかった。点滴を吊るす棒のあれ――名前が出てこない――を支えにして何とか歩くと、大慌てでナースと医者が走ってきた。

 

あ、あれ電源切ってもバレるんだ。そりゃそうか。

 

 

二人は俺を生き返った死人が現れたような目で見てくると、病室に戻るよう促した。いやすいません俺お腹空いてるんですけど。

 

 

 

ダメ?えぇ……

 

 

 

 

 

 

 

色々な検査を含めて俺が解放されたのは、軽く一時間は過ぎた頃だった。胃に優しいお粥を流し込み、水を呷って一息着く。

 

あー、焼き肉食いたい。

寝てる間は当然栄養なんかは点滴任せだった為、体は動かせるがダルくて仕方ない。やっぱ肉だよね、肉。

 

 

誰か見舞いにでも来てくれたらなんか買ってきてもらおうかな、とか考えていると、病室の扉をゆっくり開く音がした。

俺にうるさくないようにって配慮してるのか、最低限開けると体を滑り込ませ再度ゆっくりと閉める。

 

 

「今日も来たわよ、紅葉。と言っても相変わらず寝てるんでしょ……う……」

「おはよー。」

 

振り返った私服の夏凜が驚きを隠せない顔で俺を見る。まーたそうやって死人を見るような顔してさぁ、流石の俺でも辛いぜ?

 

「っ」

 

 

夏凜は走り寄って来るが、直前で止まる。

まあ曲がりなりにも怪我人だからね俺。

 

俺は両手を広げて、迎えのポーズを取る。

 

 

「もう傷は塞がってるってよ。だから……いいよ、おいで夏凜。」

「――――紅葉!」

 

 

そう言って思い切り飛び付き、俺を抱き締める夏凜。ごめん思ったより痛い、けど夏凜も加減はしてくれているらしい。

 

痛い以上に、暖かい。

 

 

「馬鹿……馬鹿、ばかぁ……!」

「……悪い。」

 

凛々しい姿は何処へやら。泣きじゃくる夏凜の頭に、あまり力が入らない手を置くように撫でる。

 

「あんた一週間も寝てたんだからね……!」

「一週間か。5日くらいかと思ってた、ニアピンだな――――強く絞めないで腹に入れたの全部出てくる。」

 

今はふざけないから脇腹絞めないでくれ、お粥でマーライオンしたくない。

夏凜が泣き止むのを待ってから話す。

 

聞きたいことが多いもんでね。

 

 

「歌野達に本当の事言ったりしてないよな?」

「言えるわけないじゃない。でも、歌野にはバレてるかも。」

「それは想定内、あいつ俺より勘がいいから。」

 

とりあえず退院したら歌野に訳を話して、そのあとはあの変態糞野郎大赦仮面に会わないとな。

夏凜のお兄ちゃん説出てるけどそんなものは知らん、一回だけで良いから殴らせろ。

 

「医者曰く、寝てた間に傷の手当ても縫った傷口の抜糸も済んでるから、軽くリハビリして自力で歩けるようになればここのお世話になる必要も無くなるらしい。」

「そっか、良かった。後遺症とか残らなくて。」

 

……なぁんか、変わったな。

寄らば斬るって感じの雰囲気が消えて、なんだろう、何年も帰って来なかった飼い主が戻ってきたときの犬みたいになってる。

 

まあ自分の誕生日を祝ってくれた相手が刺されて昏睡状態だったんだからそうなるか。トラウマにならないだけ、やっぱり夏凜は強いよ。

 

 

ちなみに後遺症が残らない処かなんでこんな早さで治ったんだって驚かれたが、それは別の話。

 

 

俺から離れ、ベッドの縁に座ると夏凜が思い出したように切り出した。

 

「紅葉、私なりにこの間の件、色々と調べたわ。」

「……マジで?」

「マジよ。兄貴かもしれなかったあの職員を探しだして、問い詰めたの。」

「変身してないよな?」

 

 

「………………あの時の職員は兄貴だった。」

 

 

おい何だ今の間は。

お前変身してないよな?

脅したんじゃないよな?

 

 

「あの日なんでああしたかも、紅葉が狙われてた事も、全部知ったわ。」

「……呆れたか?」

「呆れてるし、怒ってる。」

「だろうね。」

 

夏凜のお兄ちゃんは俺を消してでも情報を隠しきるべき派と、俺の死で変身できなくなる勇者が居るだろうしそれは止めるべき派に挟まれた結果、面倒事に板挟みされた事への苛立ちを含めて俺に死にかけてもらうという選択を取りつつ大赦の中をふるい落として掃除する事にしたらしい。

 

誰も俺に生きててほしい訳じゃない(死なれると困るだけ)って所がポイントな。いやほんと、モテる男って辛いね。

 

 

「それで、夏凜のお兄ちゃんは何か言い訳でもしたわけ?」

「いいえ、それどころか私に斬られる覚悟をしていた。」

「斬った?」

「斬らんわ」

 

 

斬ってないのか……残念。

 

 

「でも代わりに今までの嫉妬の分とか家族の確執とか紅葉にした事とか全部含めて、暫く人前に顔を出せないくらいボッコボコにぶん殴ってから大赦の勇者辞めてやったわ。」

 

「やるじゃん」

 

 

訂正するわ。夏凜最高、惚れた。

 

 

―――って、大赦の勇者辞めた?

 

 

「お前これからどうすんだよ。大赦の勇者辞めたって事は、あのアパートにも居られないだろ。」

「ええ、そうね?」

「なら今何処で寝泊まりしてるんだよ」

 

「歌野が私の事情を知っている、と言えば分かるかしら。」

 

ああ、なんだ。歌野の家に置いてもらってるのか。

じゃあ安心か。面会の時間に限界が来た夏凜は、帰る準備をして立ち上がる。

 

 

「さっさと退院して皆の所に戻ってきなさい。紅葉が居なくて牛鬼も寂しいのか、しょっちゅう義輝が齧られて参ってるのよ。」

「それは出してるお前が悪いのでは」

「皆が齧られたら困るし、頑丈な鎧着てる義輝じゃないと耐えられないでしょうが。」

 

 

義輝――――――!!

お前喋れるんだから訴えたら勝てるぞ!良いんだぞ主に向かって『外道メ』って言っても!

 

「じゃあ、またね。」

「……ああ、義輝のこと労れよ。」

 

俺は『諸行無常……』って言いながら牛鬼に食われてる義輝を想起した。哀れなり義輝。

 

夏凜は苦笑いを浮かべて、分かってるわよと言って扉を開ける。半分開いた所で、不自然に止まった。

 

「ああ、そうだ。一つ言い忘れてた」

「どうした?」

 

扉に手を置いたまま振り返った夏凜は、不思議なまでに清々しい顔で言った。

 

 

 

「私、今はあんたの家を借りてるわ。防犯にもなって一石二鳥だからね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて?

 

 

 

 

 

 

 

医者が匙を月に全力投球する程の回復力を見せた俺は夏凜とのお話から5日も経たずに退院した。担当した医者の諦めたような顔は正直笑ったが、一度ふざけて畑を荒らした時にマジギレした歌野にクワで殴り殺されそうになった時も今回みたいにすぐ退院したのが俺なんだから常識を求めないでほしい。

 

俺自身も自分の頑丈さだけは謎なのだ。

年季が入ってたとは言え木製バットが折れるくらい殴られまくっても、骨折程度で死ななかった時点で考えるのやめたし。

 

 

あの時の上級生の顔は何時思い出しても面白いものだ。

 

 

 

歌野が俺の家から持ってきたらしい服を備え付けの棚から出して着替え、病院を出た。

夏凜のお兄ちゃんがやり遂げたというなら、俺を狙う奴はもう誰一人としていない筈だ。よってこうして一人で外を自由に出歩けるのはいい、自由って素晴らしい。

 

 

……家に帰る前に腹ごしらえするか。いつもの店で、たまにはうどんでも食べよう。

風が毎回推してくる肉ぶっかけうどん肉大盛りにしようか、なんて考えていると、自転車置き場で膝を抱えて座っている子供を見付けた。

 

 

即座に心の奥から湧き出した嫌悪感を我慢して注視する。小柄ながらに活発そうな雰囲気は友奈と夏凜を足して割った感じで、それでいて目からは聡明さを感じ取れる。

黒とオレンジの鮮やかなパーカーに身を包む少女は、失礼な話だが女の子と言うよりはやんちゃ坊主なイメージが強い。

 

 

そんな女の子を見ていたら、俺は不思議と嫌悪感を失っていた。どういう訳かは知らないが、これ幸いと近付く。一人にしとくのもあれだし。

 

 

「おい坊主、どうした?迷子か?」

「だ、誰がボウズだ!タマは女の子だぞ!」

 

すくっと立ち上がる女の子は両手を上げて俺に飛び掛かるが、額を押さえて来れないようにする。と言うか嫌悪感が無いだけで触ると鳥肌立つわ。

 

 

「おーおー元気な事で。おめーさんみたいなのは病院じゃなくて公園で風の子になってこいよ、親御さんは何処だ?」

「うー……そんないっぺんに言うなよぉ、あとタマはお見舞いに来ただけだ!」

「見舞いだぁ?」

 

子供一人で?中学生である歌野と夏凜が同級生への見舞いだってならともかく、小学生の見舞いなら親同伴じゃないと無理だろ……つまり独断で来たら突っぱねられたのか。

 

「ふーん、誰の?」

「誰だっていいだろ」

「その反応からするに家族ってよりはお友達か。」

 

「なっ、なんで!?」

 

 

わーアホの子だ。

弄りがいがあるぞ、夏凜以来だなこれは。

 

 

「お前さんみたいなチビが一人で来るなんて、親か友達の見舞いの為だろ。」

「……ほおー。にーちゃん頭良いんだなぁ」

「お前がお馬鹿さんなだけだろ。」

「なんだとォ!?」

 

感情豊かで、関われば元気になれるのだろう。色んな所にポジティブの擬人化が居たもんだ。

酷く懐かしく、魂を揺さぶられる感覚に襲われながらもそれを表に出すことはない。子供ってのは聡いからな、気付かれたくないんだよ。

 

 

「つかお前何歳だよ、小学三年生くらいか?」

 

「むっきぃーーーー!!!タマは六年生だぁあああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

外だけど病院ではお静かにお願いします。

 

しかし、このタマタマうるさい坊主、どっかで会ったことある気がするんだよなぁ。

 





紅葉の子供嫌いは『俺は甘えられないのに』とか『お前には居るんだよな』とかそういった嫉妬心から来ているので、単なる八つ当たりに近いです。
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