【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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過熱した投稿者のスランプは、ついに危険な領域へと突入する……


十一話 先人紅葉は元一人暮らしである

 

 

 

「おばちゃーん!肉うどんおかわりー!」

 

元気な声でおかわりを所望した女の子が実に2杯目のうどんを眼前で平らげた時の俺の気持ちがわかるか?見てるだけで腹一杯になるわ。

 

 

「……俺の分もやるよ」

「いいのか!?」

「見てたら退院直後の食欲が無くなった。良く食うなお前、うちの部長かよ。」

 

風に負けず劣らずの食い気を見せる女の子は、病院で出会ったタマタマうるさい例の子だ。一人で帰すわけにもいかず、住所を聞こうかと思ったらデカい音で腹を鳴らしやがったので、こうして腹ごしらえついでに奢ったのだ。

 

最近年下に奢ってばっかだな。しかも、両方共何杯も食いやがって。

 

おかわりの肉うどんを待つ間に半分以上残ってる俺の大盛り肉うどんも平らげた女の子は、持ってこられた3杯目の肉うどんに箸を伸ばす。

 

 

俺ちゃんと金持ってきたよな……と財布の心配をしていたら、女の子はうどんの入っていた皿をドンとテーブルに置いた。汁まで完飲してこのスピードってなんだよ……

 

 

「っはぁー食った食った。腹六分目くらいだな」

「奢るとは言ったけどもう少し加減をだな……まあいいか。

……で、お前の名前まだ聞いてないんだけど。」

 

俺の言葉にきょとんとすると、女の子は当然だろ?と言った顔をして言う。

 

「おう?タマはタマだぞ?」

「……名字もだよお馬鹿。」

 

「ああ!タマは土居球子(どいたまこ)だ。改めてよろしくな、にーちゃん」

 

「―――――――土居?」

 

 

なんか、どっかで、聞いたことがある……ような。いかんな、この若さでボケたか?

 

 

「ま、いいや。

……それで球子のお友達はどんな子なんだ?」

「ん?ああ、あいつは可愛い奴でなぁ。お姫様みたいで、守りたくなるって言うか……」

「ほーん。」

「なんだよ」

「いや、なんでも。」

 

頬を赤くする球子からは、本当にその友達が大事なのだと言う感情が読み取れる。

 

「その友達も、球子みたいにうどん好きなのかねぇ」

「タマの事はタマっちでいいぞ!にーちゃんには特別にそう呼ばせてやろう。

それに、タマも友達もうどんは大好きだ!うどんが嫌いな人間なんて、居ないに決まってるけどな。」

 

 

ここで俺が蕎麦寄りの人間だと知ったらどんな顔するのか気にはなるが、楽しそうに笑う球子に言うのは流石に憚られ―――――

 

「―――――ぅ、あ……がっ――」

「にーちゃん!?」

 

 

なんてことを考えていたら、ふと、球子の顔を見てフラッシュバックするかのように、思い出したように記憶が流れ込んでくる。

あまりにも唐突なそれは球子を見ていると勢いがより強くなって、抗う間も無く濁流のように頭に叩き込まれた。

 

押さえても無意味なまでにガンガンと痛む頭の奥の奥で、懐かしい声が聴こえた。

 

 

 

 

 

 

『バーテックス相手にうどんで気を引こうとしたら失敗した挙げ句不意打ちされて脱臼ねえ、お前馬鹿なんじゃないの?』

 

『なんだとぉ!タマだって考え無しにやったんじゃないやい!』

『じゃあ言ってみろよオラ』

 

『……うどんだぞ?』

『うん。』

『嫌いな奴なんて居るのか!?』

 

『……バーテックスがどうやってうどん食べるんだよ、このお馬鹿。』

『うがーーー!誰が馬鹿だーーー!!』

『てめーだこらァ!!』

 

 

 

 

 

 

それは兄妹のように振る舞う二人の姿だった。

威嚇するアリクイのように両手を上げる姿はさっきの球子に似ていたし、球子似の女の子を煽る男もどことなく俺に似ていた。

どうしてかは知らないが、女の子と球子が重なってしまう。愛おしいのだ、目の前の女の子(土居球子)が。大切にしないとと思ってしまう。守らなければと、思ってしまう。

 

 

―――お前、は……

 

 

 

「…………にーちゃん?大丈夫か!?」

「―――タマっち」

「お、おう?」

 

名前を呼ぶと不思議そうに首を傾げる球子だが、俺は今、()()()の球子を呼んだのだろうか。

 

 

「……大丈夫だ。」

「ほんとか?」

「ほんとほんと。そろそろ帰ろうか、会計も済ませたいし。」

「あの、その……にーちゃん、ごめんな。」

 

「――なにが?」

「病み上がりなのにこうやってタマとお喋りなんて……うるさいもんな、タマは。」

 

しょげる球子を見ていると、とてつもない庇護欲に駆られる。こんな感情を持ったのは初対面の歌野以来だ、今はないが。だってゴリラを可愛いとは思わないでしょ

 

 

「……1つ、質問がある。」

「な、なんでもいいぞ?」

 

「……お前なんで俺に着いてきた。怪しい人間には着いてっちゃいけないって、親に教わらなかったのか?」

 

球子は多分、頭が良いんじゃなく勘が鋭いタイプだ。いわゆる感覚型。

友奈みたいなものなのだろう、本能が相手を悪人ではないと見抜ける人。まあ未来の後輩(小学6年生)にそこまでの上等なスキルは求めてないが。

 

 

「? ―――にーちゃんの何処が怪しいんだよ、タマはいい人だってちゃーんと分かるぞ。」

「はぁ。」

「だって、そんな本気で心配してるような顔してて、悪い奴な訳無いだろ?」

「―――――。」

 

俺の頬を両手で引っ張り、ニヒヒ、と球子は笑う。俺は―――その顔に()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

『お前、もう少し俺を疑えよ。俺が敵だったら寝首を掻かれても文句言えないぞ?』

『でもしてないじゃん。お前さんは……まあ、いい人では無いよな。』

『よくお分かりで。』

『―――それでも、悪人じゃない。タマもあんずも他の皆も、ちゃーんと分かってるんだぞ。』

 

 

 

 

 

 

―――そうか、そう言えば――

 

―――土居球子は、そういう奴だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、俺こっちだから。」

「おう。また病院来るような怪我するなよ」

「お前も次は親と行けよ。」

 

会計を終わらせ、店を出て球子と別れる。

 

 

「ああそうだ、おいタマっち!」

「なんだー!?」

 

そこそこ離れた位置で、背中を向けて歩いていた球子を呼ぶ。

 

 

「俺と飯食ったこと、バレて怒られたくなかったら()()()()()()ー。」

 

「うげ、そうだった……おーう、またなー!」

 

 

 

 

 

ぶんぶん腕を振った後に帰路を歩く球子は、ふと立ち止まった。

 

 

「―――あれっ、タマ……にーちゃんに友達の名前が()()()()()()()()()()()?」

 

んー?と疑問符を浮かべながら、わからないものは仕方ないかと球子は足を進める。

 

 

 

 

 

球子を遠目で見送った俺は、深く、重く、溜まった穢れを吐き出すように深呼吸し―――――

 

 

「そろそろ自分探しの旅でもしようかなぁ。あーやだやだ、神は越えられる試練しか与えないんじゃないのかよ。」

 

 

そう言って家へと歩き出した。

 

 

 

正直、勇者でもない俺に苦悩なんて与えないでほしい。と言うのが本音だ。

痛いのやだし、荒事担当は歌野で十分だからな。俺なら間違いなく何処かで死ぬ自信があるがあいつなら上手いこと生き延びてくれる、という確信にも近いモノがある。

 

 

 

 

……しかし、あの記憶はいったい―――どうしてああも懐かしいのか。

 

感覚としては何年も前に見た夢を思い出したような感じで、今はもう、霧の中に居るかのようにさっきの記憶がぼんやりとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長らく帰っていなかったような気がする我が家へと帰宅し、肩に提げていたバッグから鍵を探す。

 

 

「……んー?」

 

 

……あれ、無い。

 

いや、夏凜が持ってったのか。俺ん()の鍵、俺のと歌野に渡してる合鍵の二本しかないし、歌野にいちいち開けてもらうわけにもいかないしな。

 

と言うか、今何日の何曜日だっけ。

カレンダーすら無かったし確認する余裕もなかったから今がいつの何曜日か思い出せない。

 

太陽の高さ的にまだ昼だし、学校行かれてたら俺家の前で飼い犬みたいに帰りを待たなきゃいけなくなるんだけど――――

 

 

 

「―――あら、お帰り。」

 

ふと、玄関の扉が開く。

ラフな格好の夏凜が出迎えたのだ。

 

「……ただいま?てか今日何曜日?」

「端末で確認すれば良いのに……今日から祝日含めて三連休よ。」

「いや俺のスマホ電池切れててさ。」

 

そう言いながら靴を脱ぎ、家に上がる。

 

 

「色々聞きたいことがあるけど多すぎてぶっちゃけ混乱してるからまずは座ろう。」

「そうね」

 

居間のテーブルを間に向き合う形で座り、お茶を啜る。なんか俺の方が客人みたいだなぁ、と考えていると、夏凜から切り出してきた。

 

「先ずは退院おめでとう、になるのかしら。」

「まあ、そうだね。」

「じゃあ……あんたも聞きたいでしょうし言っちゃうけど、アタシがここを借りる提案したのは歌野よ。」

 

「あいつめ……」

 

善意で言ったのだろう、それは理解できる。なら自分の家に泊めてやれよとも思う。

お隣同士で家の間取り大体一緒だから部屋何個か空いてるだろ。

 

「アタシも野宿を覚悟してたから、断れなかったのよ。あんたが駄目だって言うなら家出てくから安心しなさいな。」

「俺もそこまで鬼じゃねえよ、行くとこないなら居ればいいさ。」

「家主だからって変なことしないでよね」

「いや興味ないので。」

 

だーれがお前みたいなチンチクリンに手を出すかよ。ちょっと複雑そうな顔をする夏凜を横目にお茶を飲みきり、一息つく。

実家は安心できるねぇ。

 

 

「……ああそうだ。俺が居なかった間に勇者部で何してたのか教えてくれない?」

「アタシの主観からになるけどそれでいいなら構わないわ。」

「それでいいよ。」

 

お茶を注ぎ直して楽な姿勢になる。

擬音混じりの友奈や壊滅的に説明が下手くそな歌野と比べたら、天と地、月とスッポンなまでに普通な回想だった。

 

歌野が畑仕事の手伝いでアホみたいにテンションを上げたり、料理教室で美森が主婦顔負けの料理の腕をみせたり、案の定義輝が牛鬼に食われたりと、あまり代わり映えがない日常を謳歌しているようで安心した。

 

 

「でも、みんな寂しそうだった。あんたが居ないと、なんか調子が悪いみたい。」

 

「―――そ。夏凜はどうなんだ?」

「……はぁ?」

「俺がいなくても、やっぱ完成型様は動じないのかね。」

 

「……別にそういう訳じゃ…………まあ、少しは?寂しかったんじゃないの?」

 

俺を見ないようにしながら、頬を染めてボソボソ言う夏凜。それが可笑しくてつい笑ってしまう。顔全体を赤くした夏凜にどつかれながら、俺はようやく帰ってこれたことを実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして、樹から個人的に依頼を頼まれたのは放課後の部室の中でだった。

 





だんだんタイトルを考えるのがキツくなってきた

ヒント多めに出しちゃったしもう紅葉の正体に気付いてる人いそう
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