【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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スランプ脱却の為にも原作に沿ってストーリーを進めていきます。



十二話 犬吠埼姉妹は仲良しである

 

 

 

夕陽が射し込む部室。そこには、小柄な少女と男が居た。窓からの光をバックに、少女は男を見据える。

 

深く息を吐き、少女―――樹は覚悟を決めたように口を開いた。

 

 

「も、紅葉さん!」

「―――なに。」

「あの……わ、私の……」

 

顔を赤くし、紅葉と呼ばれた男に視線を向ける。

告白でもするのかと言わんばかりに、その視線は熱い。

 

 

「私の―――――歌を聴いてくれませんか!」

 

「あ、はい。」

 

まあ当然、告白などではないのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹に依頼と称して呼び出され部室に向かった俺は、樹から告白よろしくなシチュエーションで頼まれごとをされた。

別に残念とは思っていないが。だって樹に惚れでもしてみろ、ロリコンの烙印を押されてから風にハンバーグの材料みたいな体にされる。

 

俺はまだ死にたくない。

 

 

「歌、ねえ。」

「実は、今度歌のテストがあって……」

「あーなるほどね、お前さん人前で歌うの苦手なタイプか。」

「…………はい……」

 

図星らしく、赤い顔が下を向く。

 

「……歌のテストもそうなんですけど、やっぱり歌手を目指すにはそう言うことも克服しないといけないし……なら、先ずは私の歌を聴いてもらって、そのあと苦手の克服をしようかと……」

 

いっぱい喋るなこいつ。

早口で捲し立てる樹は、それでも確固たる意思を感じさせた。良いねえ、夢があるって素敵でさ。

眩しいぜ。サングラスほしい。

 

 

樹が言い終わると、鞄からUSBを取り出し俺に渡した。これに録音した歌が入ってるらしい。

 

「んー、これ今聞かなきゃ駄目?」

「…帰ってから、ゆっくり聴いてほしい、です」

「分かった。」

 

USBを俺の鞄に入れ、持ち上げる。

 

 

「暗くなってきたし、帰るか。送るから自転車持ってきな」

「そんな…途中で道が違うのに、迷惑になります……」

「風は俺がちゃんと送ってくれるって信じてるんでしょ、じゃないとこんな時間にお前を部室に置くの許可しないだろうし。」

 

そう言いながら部室を出て歩き出す。慌てて着いてきた樹と並んで下校すると、濃いオレンジの夕焼けが少しずつ沈んで行くのが見える。

自転車を押して歩く樹を歩道側に立たせ車道側を歩いていたら、暫く無言が続いたがその均衡を樹が破った。

 

 

「……紅葉さんは、どうして私にここまでしてくれるんですか?」

「ここまでってどこまで?」

「……そう言うところ、本当に嫌いです。」

「俺は樹は好きだけどね。」

「―――むぅ」

 

 

はぐらかされて納得がいかないって顔をされるが、髪をぐしゃぐしゃに撫でて誤魔化しておく。

だって言えないでしょ。『同じ境遇で親を亡くしてるから同情してるんだよ』なんて

 

 

「……と、着いたな。」

 

樹と風が暮らしている家に到着し、インターホンを押す。どったんばったん音がしてから、大慌てで扉が開いた。

 

「樹!怪我は無い!?大丈夫だった!?」

「わっ!?お姉ちゃん……!」

 

家主の風が飛び出してきた。

樹は抱きつかれてしまった。

 

……流石に過保護じゃない?

 

 

「……そんじゃ、俺帰るわ。」

「あー、待ちなさい紅葉。ついでにご飯食べていきなさいな。」

「もがーーー……ッ!!」

 

樹の顔をそれなりにある胸に埋めながら提案してくる。すいませーん妹さんから殺意が滲んでるんですけどー、やめてあげませんかねぇ。

 

 

「えー……あー、ちょい待ち。」

 

NARUKOを起動して、歌野と夏凜にグループ通話でメッセージを飛ばす。

 

『風のとこで飯食うことになった』

『あらら、じゃあ夏凜は私と二人で食べましょう?』

『仕方ないわね』

『突然で悪い。じゃ、後でな』

 

そう簡潔に済ませ、スマホを鞄に突っ込む。樹を離して家に入れた風が玄関で待っていた。

 

「あいつらには連絡入れといた、それじゃあお邪魔させてもらおうかな。」

「ふふ、いらっしゃい。」

 

微笑を浮かべて俺を招き入れる風からは、警戒心を感じない。俺は敵にすらならないと思われているのか、はたまた。

うーん素直に喜べない。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に通された俺は膝に乗せた犬神の体温を感じながら、頭の上で自己主張激しく跳ね回る木霊につむじをどつかれていた。痛くないけど痒いところに手が届かない変な感じがしてる。

 

「分かったから降りんか木霊、それか乗ってて良いからじっとしてくれ。」

 

俺がそう言うと、木霊は跳ぶのをやめて頭の上で大人しくした。俺の頭に葉っぱと苔が生えたみたいでちょっと面白い。

 

犬神は相変わらず犬にネズミを混ぜたようなよく分からないデザインしてるが、喉を撫でると猫みたいにゴロゴロと鳴らす。こいつは……うん、わからん。

名前は犬神だし主食がドッグフードだから犬なんだろうけど、さっき玉ねぎ丸かじりしてたの俺見たからな。

 

 

「むーーーーー……」

「なんだよ」

「……なんか複雑です。」

「女心もわからん。」

 

ソファーに座った俺の横に座る樹は、犬神を撫でている俺をジトっとした目で見てくる。穴が開きそうだ。

犬神を撫でたいのかと思って持ち上げた犬神の腹を顔に押し付けたら無言で脇腹つねられたし、そう言うわけではないらしい。

 

 

「悪いけどそういうのを察するの無理だからな。ハッキリ言ってくれ?」

「……むむむ……」

 

 

なにがむむむだ。

 

俺の言葉に迷うそぶりを見せると、少しして樹は倒れ込むように俺の膝に頭を置く。

あー、そういうことね。

 

 

「……ま、言い難いよな。」

 

右手で犬神、左手で樹を撫でる。

まだまだ甘えたがりなのだろう、樹は目蓋を閉じてポジションを整えるためにもぞもぞ動く。寝ないでよ?

 

10分近く経って、調理の音が聞こえなくなると風がキッチンから戻ってきた。

 

 

「二人ともー、ご飯でき……って樹、寝ちゃ駄目よー。」

「―――ねてないよぉ……」

「いや半分くらい寝てたでしょ、もう。」

 

エプロンを畳むと、俺の膝を枕に大人しくしていた樹の頬をぺちぺち叩いて眠気を覚まさせる。

 

「まったく、紅葉も、この子達あんまり甘やかしすぎないでよね」

「はいはい。」

 

 

犬神を下ろし、木霊をつまんで小さいプラスチックの鉢植えに乗せる。この鉢植えは樹曰く人で言う座布団らしい。特等席だな、霧吹きを浴びせてやろう。

 

それから3人で飯の準備をして、席に着いた。

風と樹が横に並び、その向かいに座る。

 

 

「さあ、召し上がれ。いっぱい食べていいのよ。」

「―――いっぱい食べて良いって言うか、多すぎない?俺居るからって奮発しなくて良かったんだぞ?」

 

4人用の机に所狭しと、食いきれるのかってレベルで並べられ敷き詰められた料理の数々に、死んだような目をした樹。その2つを見て、嫌な予感が脳裏を掠める。

 

「樹、まさか―――」

「これがお姉ちゃんのいつものです。」

 

 

…………マジ?

 

 

「あ、おかわりもあるからね!」

 

 

……マジ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死ぬかと思った。

出された以上残すのも失礼だと出来るだけ多く食べたのだが、大食いでもなんでもない俺からしたら苦行もいいとこだった。

 

尚ほとんど全部を風が平らげた、すごい理不尽だと思う。

 

 

「男の子なのにだらしないんだから」

「お前は女の癖に食い過ぎなんだよ」

 

樹は風呂に入り、胃が悲鳴を上げてる俺はソファーに体重を預けていた。風がさっきの樹のように横に座ると俺の膝で箱座りしていた犬神を抱き上げ自分の膝に置く。

やはり飼い主と俺とでは違うようで、なすがままされるがままに風にもみくちゃにされている。

 

 

「しっかし、犬神とか木霊もそうだけど……どうしてアンタにべったりなのかしらねぇ。」

「俺が知りたいくらいだ。」

「案外紅葉から良い匂いでも出てるんじゃない?」

「……なんかやだな」

 

それとなく腕の臭いを嗅ぐ。自分の臭いはわからない……あ、そうだ。

 

 

「ほい。」

「……ん?」

 

なんとなく手の甲を風に向ける。

無言だが何が言いたいかを理解した風は、頬を染めながら手の甲に鼻を近付ける。

 

いやーほんと良い反応してくれるから面白いね。その内夏凜にもやろうかな、近付けたら指折られそうだけど。

 

 

「…………臭くはないわ。」

「ふーん」

「……ねえ、紅葉」

「あ?」

「……はい」

 

お返しとばかりに、今度は風が手の甲を向けてきた。残念だけど俺はその程度で動じるようなやわなメンタルしてないんだよなぁ。

 

 

「っ……」

 

風と同じように鼻を近付ける。良い石鹸使ってるのか、くどくない花の香りがする。

 

「これがお前の匂いか。良い香りだ、悪くないんじゃない?」

 

とうとう顔を真っ赤にする。

樹と言いその辺りが姉妹だなぁ。

 

「ばーか、俺をからかおうなんて300年早いわ。」

 

犬神の背中に顔を埋めてモフモフを堪能するように逃げる風を見て、ふと、気になったことを聞いた。

 

「樹の夢って知ってる?」

「ああー……歌手でしょ?」

 

バレてた。まあ、樹って隠し事苦手そうだもんね、そりゃバレるよね。

 

「樹の部屋は散らかってるからね……片付けるのは私なんだけど、ボイストレーニングや発声練習の本がベッドの下に隠されてたのを見ちゃったの。」

「―――樹は隠せてるつもりだから黙ってやっててくれよ。」

「分かってるって、あ、そう言えば紅葉も知ってる?」

 

「なに?」

 

樹の入っている風呂の方を見て、ポツリと呟いた。

 

 

「あの子、一人で歌うときは凄く上手いのよ。」

「……樹が、そんなに好きか?」

「誰にも代えられないのよ、目に入れたって痛くない。」

 

「家族は大事にしろよ。」

「……うん、わかってる。」

 

 

俺は風の両親の最後を知っているが、恐らく風も俺と歌野の親の事を知っているのだろう。

 

無意識に伸ばした左手が、風の右手と重なった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「樹待たなくていいの?」

「風呂上がりの後輩見ようと思うほど猿じゃないんでね。」

 

女所帯の部室に俺一人が男なんだぞ、伊達じゃない精神力を舐めないで欲しい。

玄関まで見送ってきた風は、考え事をしているのか目線を右往左往させると、躊躇いがちに言う。

 

 

「ねえ、送っていこうか?」

「……樹が居るだろ」

「もう暗いし、変身しても誰にもバレない。」

「私用で使うな。」

 

心配されてるのは良いのだが、やはり風という人間は過保護な気があるらしい。

後輩が似たような時間帯に一人で帰ったら刺されてぶっ倒れてた前例があるなら仕方ないんだろうけどさ。その前例が俺の事なだけに、人一倍心配しているようだった。

 

 

「…………大丈夫…よね」

「心配しすぎだっつーの。」

 

風の頭に乗ってる犬神を軽く撫で、流れで風の頬に触れる。心配そうな表情は、俺なんかに向けるべきじゃない。

 

 

「やることもあるし、それじゃあまた明日。」

「あ―――うん。」

 

玄関を開けて、外に出る。扉を閉める直前に見えた風の顔は、寂しそうと言うか、何かを期待しているように見えた。

姉妹だけの家から朝帰りとか夏凜にスイカ割りのスイカの代用品にされるからそれだけはしませんし据え膳は食いません。

 

 

 

 

 

「……帰ったら、USBの音声スマホにコピーしなきゃなあ。」

 

 

 

俺の声は、夜空の星に吸い込まれて消えた。

星を見ていると、どうしてか不安になる。

 

 

……なんでセンチメンタルになってんだ俺は。

 

 

 





原作との相違点として、風は暴走回より前に樹の夢と努力を知ってます。後々の反動がヤバイことになりそうだけどまあどうにかなるでしょう。
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