【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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ゆゆゆにおいて満開と散華の辺りは書きたいけど書きたくないという葛藤を誰か分かって欲しい



十三話 犬吠埼風は苦労人である

 

 

 

 

―――心地の好い音が聞こえる。

 

その『音』は『声』で―――

 

その『声』は『歌』だった。

 

 

 

 

「……んおぉ…」

 

 

子守唄のようなそれの誘惑を振り切って起きた俺は、耳に刺さったままのイヤホンを抜いてスマホの画面を落とす。

 

USBからパソコン、パソコンからスマホへと移動させた樹の歌の録音を帰ってから聴いていた俺は、疲れてた事もあってそのまま寝落ちしていたらしい。

 

 

しかし、ほんとに樹は歌が上手かった。歌のテストなんて一発合格間違いなしなんだろうが、人前で歌えないというのは確かに歌手を目指す以上克服しないといけない弱点だろう。

 

 

起きて着替え、夏凜が使っている部屋を開ける。

 

「かりーん……あれ」

 

だが、部屋に夏凜は居なかった。布団が綺麗に畳まれて、最低限の家具だけが置かれている辺りが流石は夏凜だけど……今何時だっけ。

 

外が明るい辺り8時とか9時では無いよな。

そう思ってスマホをつけて時間を見ると―――――12時を過ぎていた。NARUKOにはたまに行くカラオケに集合する旨のメッセージが2時間前に書かれている。

 

 

あーーー、寝過ごしたな。

 

……ドリンクバー奢るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カラオケ店の前で集合していた6人は、俺を見てやんややんやと騒ぎ立てる。やれ遅いだ遅刻だと好き放題言いおって……当日に約束こじつけられてるんだから俺被害者だぜ?

 

風に『また明日』とか言っといて特に予定もなかったから良いけど。

 

 

7人という人数でも余裕な大部屋を借り、樹の克服訓練と称した歌唱大会が始まって数十分。

相変わらず意外な事に歌が普通に上手い風が高得点を叩き出すも、友奈と夏凜のデュエットに上回られてショックを受けていた。

 

美森の歌で歌野と友奈と風と樹が敬礼を決める動作に面食らって固まる夏凜が面白かったが、こう言うときのこいつらのノリに着いてくの結構大変だからこれから慣れてって欲しい。

 

 

「―――ってあーあーあー牛鬼お前全部食う気かコラ、ちょっ夏凜、義輝貸して義輝。」

 

「…………義輝。」

『諸行無常……』

 

夏凜に喚び出され、悟ったような声を出す義輝をひっ掴んで牛鬼が黙々と食ってたお菓子の間に割り込ませる。義輝の方を見た牛鬼は、そのまま義輝をゆるキャラめいたその手足で固定して齧り出した。

 

 

……こいつもしかして『食べる』んじゃなくて『齧る』のが好きなのか……?

いや、友奈の勇者としての力は適性の高さを含めて他より数段上らしいし―――その出力分のエネルギーを浪費する精霊なのだとしたら、エネルギーを補給するには食うのが手っ取り早いのか。

 

 

―――考えすぎか、ただの大食らいの精霊ってだけだろ。神樹ってその辺適当そうだし

 

 

「そういえば、あんたと歌野は歌わないのね。」

「あー、歌野なんかは名前からして歌いそうだけど、昔からこういうのは苦手らしい。俺はそもそも興味ない、聞いてる方が面白いからな」

「ふーん……?」

 

渋々、と言った様子で納得する夏凜。カラオケ店に来といてジュース混ぜるだけの奴とか居るんだし良いだろ別に歌わなくても。

 

横で子供向けアニメの主題歌を熱唱してる友奈を全力で応援してる美森の熱意に少し引いていると、スマホの画面を見ていた風が席を立つのが見えた。

 

「どうした?」

「……察しなさいよ」

「もーみーじー」

「悪い。」

 

 

横から手を伸ばした歌野に頬をつねられる。まあ、お花摘み(トイレ)だよね。

今のは俺が悪いので歌野の折檻を甘んじて受ける―――というのは方便で、風が出ていった直後に、夏凜と歌野に目線を送る。

 

意図が伝わらず首を傾げる夏凜を余所に、俺の頬から手を離した歌野が夏凜に小声で何かを言う。夏凜にアイコンタクトはまだ早いか、そこまで長い関係じゃないし。

 

 

次の歌を待っていた樹と二三言葉を交わして、二人は風を追うように部屋を出た。

 

 

人生、嫌な予感の方が良く当たるってわけだ。あー諸行無常。

お菓子をある程度確保してから、俺は牛鬼から義輝を引き剥がす事にした。

 

 

 

 

 

―――うわ牛鬼力つっよ……そう言うときだけ名を体で表してんじゃねえよこの牛野郎……!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女子トイレから出てきた風が最初に見たのは、向かいとトイレ横の壁に背中を預け立っている歌野と夏凜の姿だった。

 

「なぁにどうしたのよ、トイレ空いてるわよ?」

「何を言われたの。」

「……なんのこと?」

 

問い詰めるようなトーンで、歌野に会話にもなっていない返しをされる。見透かされているように思えて、僅かに不快感が湧く。

 

 

「……別に、ちょっとした定時報告よ。イヤよねぇ、休日にまでお役目お役目で。」

「それだけなら紅葉は、わざわざ私たちに見てくるよう頼んでこないの。」

「大赦絡みなのは事実でしょうけど、あんたは本当のことを言ってない。合ってるわね?」

 

言葉が詰まる。何か返さないとと思考を張り巡らせるが、良い返しが思い付かない。そして、二人の質問は無言が肯定となっている。

 

 

―――鋭いにも程がある、とこの場には居ない紅葉を少しだけ恨んだ。

 

 

「―――バーテックスの進行が予定から大分かけ離れている事は知っているでしょう?」

「あー……そうなの?」

「……大赦辞めるときに可能な限り持ち出した資料によれば、2日連続の戦いも2回目で3体同時戦闘になったのも、1ヶ月半以上期間が空いたのも、全部想定外の事らしいわ。」

 

「そう。大赦からは『最悪の事態を想定しろ』って言われた、次の戦いは、きっと熾烈を極める。」

「……なるほど。ならきっと、次の戦いで最後になるのでしょうね」

 

歌野の言葉に、夏凜が返す。

 

「総力戦ってこと?なんでわかるのよ」

「そうねぇ……紅葉の言葉を借りるとするなら―――『俺が敵ならそうする』―――かしら。」

 

にっと笑う歌野に、説得力あるわねぇ……と言う風。夏凜は、眩しいものを見るように目を細めて歌野を見ていた。

 

「おっと、そろそろ戻らないと怪しまれちゃう。」

「……紅葉に『連れションか?』とか言われたら正気でいられる自信がないわ。」

「はしたないからそういう事言わないの……」

 

想定の段階で既にイラついたのか、額に青筋を浮かべながら部屋に戻って行く夏凜の後ろを歩く風と歌野。ふと、歌野は小声で風に言った。

 

 

 

「大丈夫よ。私も紅葉も皆も、貴女の事が大好きだから。何があっても味方で居続けるから、少しだけ――皆を信じて?」

「っ―――――歌野……」

「私たちなら、必ず生きて帰れる。

紅葉に、『ただいま』って言ってあげられる。」

 

 

 

 

姉であり、母であり、部長であり、リーダーであり、大黒柱である風にとって、歌野のその言葉は足りない穴を埋めるようで―――

 

 

「……うん、そうよね。

必ず勝ちましょう、皆で!」

 

 

―――それはきっと、風が今一番欲しかった言葉なのかもしれない。

 

 

 

こつん、と二人の拳がぶつかった。

 

「なんか時々歌野の方が年上に見えるワ」

「ま、お隣さんがやんちゃ坊主だからね。」

 

違いない、と笑う二人。言うなれば樹のお姉ちゃんと、紅葉のお姉さんだろうか。

 

「さて……戦い以前に樹の歌のテストなのよねぇ」

「樹君なら紅葉にメンタル鍛えられてるし、土壇場でどうにかできそうなものだけど?」

 

出会った当初の引っ込み思案はどこへやら、今では紅葉にからかわれても平然と言葉を返せるくらい胆力が付いている樹なら人前で歌えないくらいはすぐに解決できそうだが。

 

そう思う歌野の横で風が答える。

 

 

「流石に勇者部以外の人にはまだ慣れてないんだと思う、まあ樹ならきっと慣れてくれるわよ。勇者になれるくらい強い子なんだから」

「―――そうね。」

 

 

憑き物が落ちたような顔の風を見て、歌野は満足気に微笑んだ。

 

 

「あ、そうだった。戻る前に、これにあることを書いて欲しいのだけど」

「……なにこれ?」

 

歌野がポケットから取り出した紙を広げる。

女の子が手紙に使う可愛らしいデザインの紙には、寄せ書きのようなものが書かれていた。

 

 

「―――未来の歌手へのファンレターよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、帰り道。

 

樹の特訓とは名ばかりの喉自慢大会を開催した俺たちは、人が居ないことを確認して纏まって歩いていた。

 

 

「結局樹の特訓になったのかこれ。」

「なってない……気がしますけど、楽しかったですよ?」

「途中から私ばっかり歌ってた気がする……」

「上手かったわよ友奈ちゃん!」

 

友奈が押している美森の車椅子の後ろを俺と樹で着いて行き、夏凜達は更に後ろにいる。

さっきの一件で仲良くなったのか知らないが、お前ら俺が牛鬼から義輝引き剥がすのにどれだけの労力を費やしたか分かってんのかこんちくしょう。一回指噛まれたんだぞ。

 

人身御供にした俺が悪いけど、あっさり義輝を引き渡した夏凜にも問題はあると思うんだよね。

 

 

俺は横を歩きながらくらーい顔をしている樹を見る。そんなに自信が無いのかねぇ、俺に噛みつけるだけの胆力あるのに。

 

……助け船位は出せるか。

 

 

「なあ樹」

「……はい?」

 

「『やりたいこと』があって、『やれる力がある』なら、『やり通すべき』だと、俺は思ってる。」

「やり通す、べき……」

 

俺の言葉を噛み砕き、反芻し、考える。夢もないやつが偉そうな事言っといてアレだけど、それでも樹は何かを納得したらしい。

 

「―――わかりました。私なりに、やり通してみます。」

「その意気だ、頑張れよ。」

 

ちらっと後ろを見ると、歌野と目が合う。とりあえずこの姉妹のメンタルケアは出来たようで安心か。

 

 

 

 

 

 

 

―――数日後、文句なしの満点合格だった樹の生歌を部室で聞くことになるのはまた別の話。

 

 

そして4回目の戦い。目の前から消えた歌野を追って学校に向かった俺は、妙な胸騒ぎに急かされ足を動かしていた。

 

 

 





樹の歌手の夢については

友奈→詳しくは知らないけど応援してる
美森→薄々勘付いてる
風→知ってるけど知らないフリをしてる
夏凜→テストにしては気合い入ってるなーと思ってる
歌野→風と同じ

と言った感じです
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