誰かがこの作品を楽しみにしてくれる限り失踪なんてしないので心機一転今回が初投稿です
「痛いったら、もう少し加減してよね」
「我慢しろ馬鹿」
部室に戻った俺たちは、救急箱を引っ張り出して二人の顔の傷を消毒していた。
消毒液を染み込ませたガーゼを歌野の切れた目蓋の傷にグリグリ押し付ける横で、夏凜は友奈に手厚く看病されている。
『痛くない?』とか『大丈夫?』とか聞かれながら手当てされてるせいか、夏凜の顔は赤い。ふははは羨ましいか歌野よ、お前を手当てしてるのは加減せず消毒液べちゃべちゃ押し当てる幼馴染だ。正当な罰として受け取りタマえ。
……いやタマってなんだ。
「ほい完了」
「あいたっ」
ガーゼを貼って、ついでにぺちんと叩く。
手当てで分かった怪我は、歌野が左まぶたを殴られた事での裂傷と目の周りのアザに口の端が切れているだけ(?)に対し、夏凜は裂傷、アザ、頬の打撲に鼻血と中々に痛そうである。
でもガキの頃やった歌野との喧嘩で俺が負った怪我と比べたら大分軽傷だから、流石は訓練積んでる勇者っすね。
ほら漫画とかでもあるじゃん、『肋骨が何本か折れたな……』ってやつ。あれ実際に体験すると痛すぎて呼吸できないからね。そのうえで肩掴まれて何回も腹に膝蹴りされた時の話しようか?
「―――うん、歌野と夏凜が浜辺で青春してたのはわかった。」
「(青春が血生臭いよお姉ちゃん)」
「俺は『話せ』と言ったんであって『殴れ』とは言ってないんだよなぁ。」
ぶすっとして黙り込む夏凜は置いておき、歌野の顔面を掴んで聞く。
「お前の思考回路では『話せ』は『殴れ』に変換されるんか?お?」
「いだだだだだだ!! だ、だって夏凜は簡単に相談に乗らせてくれそうにないし、それなら拳を交えて……こう……上手いこと聞けないかな?って思ったのよ!」
「そこからどうやったらレッドファイトに繋がるんだよこのすっとこどっこい、お前時間経つと平然とルール無用のダーティプレイ始めるんだから加減しろ馬鹿たれ。」
具体的には目潰ししたり距離を取ったと思ったら靴下脱いで土詰めて即席ブラックジャック作り出すくらい。当時それで乳歯だった奥歯がへし折れたのまだ覚えてるからな。
「―――まあこの件は今度にしよう。それで夏凜、お前、決心はまだ纏まらないのかな?」
「……私、は……」
…………?いや黙らないで?
「夏凜ちゃんどうしたの?」
「……顔中痛くて喋りたくない」
歌野を見る。顔を背けるなコラ。
「……はぁ、勇者システムって回復力上がらんの?」
「上がりますけど、精霊の存在が前提な所為か紅葉くんみたいに直ぐ治ったりはしません。」
「不便だなぁ」
「アンタが変なだけヨ……あら?」
美森がパソコンで子猫の里親探しのホームページ改良をしている横で事の顛末を見ていた風は、スマホにメールが届いたらしく確認すると席を外した。あの反応を見るに大赦絡みか。
机に顔を突っ伏して周りの視線から逃れようとしてる歌野に、その向かいで友奈に慰められる夏凜。 ……を血涙を流しそうな程に凄い顔して見ている美森を無視して、俺は樹の横に座って小声で話しかけた。慌ててスケッチブックを開こうとした手を止める。
「いーよ、書くの大変でしょ。」
「―――。」
「話せないって不便だよなぁ、俺なら耐えられないかも。だからそうやって頑張ってる樹は偉いんだよ。」
「―――!」
「事実だって。しっかり休んで、早く喉治そうな。」
何かを言おうとして、それでも声が出ないから口を閉じる。何日か経っても一向に改善されない満開の―――後遺症、と呼べば良いのか。それを見ていると、嫌でも万が一の答えが脳裏を過って仕方がない。
だが、まだそれは仮説の段階だ。
断定するには情報が少なすぎる。
「……あん?」
くい、と制服の端を引かれる。
樹が不安そうな顔をしていた。考えが表情に出ていたらしく、部室に鎮座しているなんかに使うデカい鏡を見れば、俺の顔は険しく眉間に皺が寄っていた。
「……だいじょぶだいじょぶ、樹が笑ってくれたらさ、俺も笑えるから。」
「―――。」
そう言って樹の頬を両手の人差し指で押し上げる。歪な笑みが出来上がり、お返しと樹が俺に同じ事をした。ほーら笑えた。
「なぁにうちの妹とイチャイチャしてんのよ、あたしの目が黒い内は手出しさせないからね。」
「してるように見えるんだ?」
「―――!?」
「
「変身してぶっ飛ばす。」
「俺多分死ぬと思うんですけど」
馬鹿野郎首から上が無くなるだろ
「んで、さっきのメールなんだったのさ。
悪魔召喚プログラム?」
「ナニソレ。さっきのはアレよ、戦いを終わらせたあたしたちへの報酬と労いを兼ねて、慰安旅行として合宿先を用意してくれたらしいワ。」
「あいつらって人の心あったんだな。」
いや意外、まあそうか。
「それってどんな所なのかな?」
「さあ?当日まで秘密だって。」
「慰安旅行……ですか。」
「日頃の行いによる正当な報酬なんだから、ありがたく満喫すれば良いじゃん。バチなんか当たんねーよ。」
「そうだよ東郷さん!皆頑張ったんだもん、精一杯楽しもう?」
「―――友奈ちゃん……」
美森は友奈を間に挟めばスムーズに話通じるから楽で良いな、美森専用ブローカーと化した友奈は特に労われるべきだと思う。
「ま、良かったじゃないか。じゃあ土産に期待しとくわ、歌野に財布渡しとく。」
「は?」
「え?」
「ん?」
「……なんだよ怖いな。」
俺の当然の発言に、対して風と美森と友奈に同時に返される。同時だったから声が重なってビビった。
「どうせメールには『勇者の皆様へ』とか書かれてたんだろ?」
「……そうだけど……」
「なら『勇者』であって『勇者部』じゃないんだ、俺はカウントされてないよ。」
大赦からしたらあいつってなんかしたの?だからね、俺ならそんな奴ハブるし当然。
「っ―――そんな……」
「風先輩……どうにかなりませんか?」
「ええ、ちょっと聞いてみる。」
「そんなことしなくて良いのに。」
素で言い返すと、風は病院の時の俺みたいに怒った様子で俺を見る。
「あんたは仲間じゃないなんて言わせない。紅葉も、一緒に行くの。分かった?」
「あ、はい。」
「―――!!」
樹も同意見らしく、無言で俺の腰をぼこすか叩いてくる。あー困ります樹さん腰は地味に響くのでお止めください樹さんあー困りますあー。
この樹野郎強かになりやがって……
スマホをカチカチ弄ってた風が、画面を見て声を出した。
「……返信来たわ、紅葉も一緒で良いって。」
「やった!」
「良かった……」
「すげー嫌そうに返信した顔が見える」
許可するしかないよなぁ、勇者怒らせたくないもんな。大赦も苦労してんのかなーと思ったけど別に同情はしない。ざまーみろ
慰安旅行と言う名の合宿先へは夏休みに向かうことが決定し、俺たちは終業式を行った。俺は終わるまで爆睡したが。
◆
「そんな訳で海へとやってきたのだった。」
「急にどうしたの?」
「
青い空、蒼い海、白い砂浜、見目麗しい美少女の水着と。男からしたらさぞかし楽園のような光景なんだろうが、俺からしたら一癖どころか三癖くらいあるのを知ってるから素直に喜べない。
「なによう紅葉ったら、女の子の水着姿なんて滅多に見れないのよ?もっと喜んだら?」
「自分で言うな、あーはいはい可愛い可愛い。さっさと夏凜と水泳対決でもしてこい。」
「雑じゃない!?」
風を適当にあしらって、ビーチパラソルを突き刺してシートを敷き、そこに座る。一応下に泳ぐ用の半ズボンタイプの海パンを着ているが、上にはクソダサ農業王Tシャツと日焼け対策のジャンパーを羽織っていた。
「―――?」
「俺は良いから行ってきな。」
「――――。」
「荷物番が居るでしょ?」
「―――……」
今度は樹が来て俺を誘う。俺が断ると少ししょんぼりした顔で海に歩いていくが、砂浜が熱かったのか走っていった。
いやー俺も海に入りたいのは山々なんだけどねぇ、流石に
「……ほんと痛々しいなこれ。」
―――刃物で切断されかけたかのように、斜めに出来た切り傷が塞がった古傷のようなものがあった。
ほんの数日前にいつの間にか出来ていたこの傷には覚えがなく、また痛みも無いから放っておいたがあいつらに見られたら余計な心配になるから上脱げないんだよ。
しかしこれ、どうやったらこうなるんだろうな。湾曲したモノじゃないとこうはならないから、刀傷ではない。
例えばそう―――――大鎌、とか。
刹那、視界が切り替わる。
『なぜ褒めてくれないの』
『なぜ讃えてくれないの…』
『なぜ愛してくれないの……!』
『今までさんざん頼っておいて、状況が悪くなったら手のひらを返す。』
『私の価値を認めてくれないなら』
『私を愛してくれないなら』
『そんな奴ら、いっそのこと―――』
―――殺してやる。
『死ね―――!!』
『――っ、ぐ、おおぉあああ!?』
『紅葉!!』
『―――ッ! な、んで……!』
――少女が、村人に大鎌を振りかぶる。俺はその間に割り込んで大鎌を代わりに受け止めた。
防刃ベストの中身を取り出して腕に巻き付けた即席の籠手すら容易く貫通し、二枚重ねのそれを切り裂いて、俺の左腕に鋭利な凶刃がめり込む。
腕の三分の一に突き刺さり、痛みを超越してただただシンプルな燃やされたような熱さに襲われ、視界が白黒に明滅する。
でもそれ以上に、眼前の少女があまりにも可哀想で、哀れで、無力ながらに救いたくて、腕の痛みなんて気にも―――――――
オーバーヒートした思考を強制停止するかのように、俺の意識の電源はまたブツリと落ちた。
大鎌の少女……いったい何・シャドウなんだ……