【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

6 / 138

紅葉の、ではないのであしからず。


うちのみーちゃんはゆゆゆい風に言うなら 『聖母 藤森水都(黄)』と『小悪魔 藤森水都(紫)』ですかね。

※なお今回も好き放題やってるから人を選びますねぇ!(配慮0)



祝福 藤森水都は恋人である

 

 

 

2015年、7月7日。 数年前の俺ならきっと、『単なる七夕の日』としか認識しなかった事だろう。

 

諏訪大社に繋がる階段に腰掛けた少女、藤森水都を見ながら俺はそんな事を考えていた。

 

 

「……どうかしたの、紅葉。」

「別に。」

 

簡潔に返し、隣に座る。

 

 

―――藤森水都、11歳。

 

奇妙なまでに霊感があったり、虐められている訳ではないのだが臆病で人見知り。

 

そのビビり具合はリードに繋がれた小型犬すら恐がる始末。 前世で何があったんだお前は。

 

 

こいつとの出会いは、そう、なんだったか。

 

……田畑に落ちた帽子を拾ったんだったか。

 

 

 

その後はこれといった会話もなく、ぼーっとしながら、階段の下で行われている七夕を記念として開かれた祭りの様子を見ていた。

 

この空気は嫌いではない。 と言うか嫌いであればそもそも水都なんぞと一緒に居たりはしない。

 

 

祭りのどんちゃん騒ぎを暇潰しに見下ろしていると、俺の服を引っ張り水都が聞いてきた。

 

「なんでこんなところに呼び出したの?」

「ん、ああ。 すまん忘れてた。」

「……もう、紅葉が呼んだんじゃん。」

 

頬を膨らませて怒ってるアピールをする水都。 その頬をつついて潰すと、アホ面を晒しながらぷぅと息が吐かれた。

 

 

「………………もーみーじー!」

「くっくっ、怒るな怒るな。」

 

脇腹を叩いてくるが、まったく痛くない。

 

顔が真っ赤になるほどと言うことは本気なのだろうが、本気でこれってこいつ力無さすぎでしょモヤシかよ。

 

何度も叩いてくる水都の頭を掴んで円を描くようにぐわんぐわんと回してから離すと、水都は目を回す。 落ち着いたのを見計らってから、俺は水都の顔を見てあっけらかんと言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺四国行くことになったから。」

「……………………え。」

 

 

水都の表情が、絶望一色に染まる。

 

一瞬フリーズしてから、再起動。

 

 

「え、な…………なんで……!?」

「諸事情でな。」

「まさか……親の転勤とか……!」

「片や専業主夫、片や警備員。 どうやって転勤しろって言うんだ。」

 

「じゃあ、どうして……?」

 

道端に捨てられた犬のような、見捨てられた子供のような、そんな怯えた表情をする水都。

 

「紅葉が居なくなったら私……友達一人も居ないことになる……」

「事実なんだけどさ。」

 

やめろよ、こっちが泣きたくなってくる。 精神的に泣きたくなってくる俺とは違い普通に泣きそうになっている水都の頭を乱暴に掻くと、俺は続けた。

 

 

「ちょっと、四国の方から呼ばれててな。」

「呼ばれてて? 誰から?」

「うーん、『誰から』と言うべきか『何かから』と言うべきか。 まあ、確かめないことには始まらないからな。」

 

 

どうせ神性のあるなんかだろ。 昔から水都程じゃ無いが霊感がある俺は、よく『間違いなく見ちゃ駄目なヤツ』を見る機会があったもんだ。 だから海とタコ嫌いなんだよ。

 

いあ…………じゃなくて、嫌だねぇ。

 

……気を抜くとつい言いそうになる。

 

 

「再来週辺りから四国に向かって、それから一週間かそこらでこっちに戻るつもりだ。 旅行も兼ねてるから、高いうどんでも買ってきてやるよ。」

「…………まさか、一人で行くの?」

「人ならざる何かに呼ばれてるので四国に行きましょう、で着いてくるほど両親は馬鹿じゃねえし。」

 

あの二人は特に霊感が有る訳じゃないし、基本的に霊的なアレコレは信じてない。 よって俺の()()は遺伝では無いのだろう。

 

 

「遅くても30日までには帰るさ、でもその間のお前が心配すぎるから、俺から一つ宿題を出すぞ。」

「しゅ、宿題…………。」

「簡単だ。 俺が帰るまでに、一人でいいから友達作れ。」

「無理だよ。」

 

 

……即答するなよ。

 

 

「私なんかが、作れっこない。」

 

そう言って目を伏せる水都を見て、ガリガリと髪を掻く。 自分に自信がどうの以前に、ネガティブ思考の塊なこいつは言動行動の前に『自分なんかが』と考えてしまう。

 

それは、水都の悪い癖だ。

 

 

「俺みたいな奴なんかがお前と友達やれてるんだ、また一人作るぐらい出来ないと駄目だろ?」

「……あうぅ……」

 

額を指で押すと、間抜けな声を出す。

 

こうして関わっていれば良い奴なのだが、相手も相手でこんなネガティブ女に普通は関わりたくない、というのはわからんでもない。

 

 

「要するに、あれだ。 お前にも何かしらの魅力があれば良いんだろ。」

「み、魅力…………?」

「アダ名でも考えるか。 親しみやすい感じのやつ。」

「急にそんな事言われても。」

 

正直な所、こいつに必要なのは水都自身のクソネガティブな部分を補って余りあるポジティブな奴だと思う。

 

でも、近所に居ないんだよなぁ。

 

 

「ま、どうにかなるか。」

 

「? ……なにが?」

 

 

なんでもねぇ、と言って俺は立ち上がり、石段を数段降りて振り返ると水都を見る。

 

「帰るぞ。」

「うん。」

 

 

人混みに巻き込まれないように、水都の手を引いて喧騒の中を歩く。

 

四国に向かう前にアダ名の一つでも提案してやるか、と考えながら、親への土産に適当になんか買ってやるかと思考する。

 

 

そうして歩いていると、ふと、深緑の髪を揺らした少女とすれ違う。

なんとなく、その髪に、後ろ姿に目を奪われ―――――やがて少女は人混みに紛れて消えた。

 

 

「……紅葉?」

「……いや、なんでもない。」

 

 

 

 

 

7月某日、俺は四国へ向かった。 『30日までには帰る』なんて水都に約束したが―――――

 

 

結局、その約束が果たされることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日、やることもなく惰眠を貪っていた俺は、寄宿舎のドアを叩くやかましい音に叩き起こされた。

 

 

「紅葉ーーー!! 助けっ……あ、開けてーーー!!」

「…………うるせえ、なんだよ……。」

 

 

声からして歌野。

というか今明け方じゃん、4時じゃん。

 

 

一発強めにぶっ叩いて二度寝してやろうと思いドアを開けると、薄着の歌野が飛び込んできて急いで鍵を閉められた。

 

「…………た、助かったわ……」

「こんな時間になんの用だこの野郎。」

 

 

顎に垂れた汗を腕で拭う歌野。 今が熱い時期だからと言うこともあって、寝るときの格好は半ズボンと肌着らしい。

 

露出した肌の至る所を埋め尽くすように大量の虫刺されのような赤い痕が付いているが、まあ、質問するのは野暮だろう。

 

昨夜はお楽しみだったんすね。

 

 

「散々ヤられたい放題だったみたいだな。」

「夜のみーちゃんは……下手したら勇者よりスタミナがあるわね……」

「へー。」

 

良く見れば、どことなく生気を搾り取られたみたくゲッソリとやつれている。

 

…………うん。 やっぱ神樹世界の水都は平行世界の別人だわ、それで良かったと言うべきなのだろうが複雑であるな。

 

「まあ落ち着きタマえ。 何が……ナニがあった。」

「なんで今言い直した。」

「……良いから言えって、追い出すぞ。」

 

 

外に人の気配あるし、多分水都が歌野を探してる。 小さく悲鳴をあげた歌野は、間を置いて語り始めた。

 

 

「ほら、昨日みーちゃん誕生日だったじゃない。」

「そうだな。」

「だから、ちょっと豪華なディナーを振る舞ったり色々と出来る限りの贅沢をしたのだけど…………」

「良いことじゃん。」

 

段々声が小さくなっていく歌野。 冷蔵庫に入れてた冷えたペットボトルの水を一気に呷って一息つくと、続ける。

 

 

「夜は基本いつも一緒だけど、珍しくみーちゃんから一緒に寝ようって言うから了承したのよ。」

「それだけなのぉ?」

「張り倒すぞ。 …………で、なんか起きたら両腕ベッドに縛られててね。」

「えぇ……」

 

B級映画でも中々やらない急展開だな。 顔を両手で覆った歌野は、大きく深呼吸してから事の真相を語った。

 

 

「何事かと思ったら、みーちゃんが私の腹に馬乗りになってて言ったのよ。 『誕生日のプレゼント、何が良いかずーっと悩んでたけど、ようやく決まったよ。』 って。」

「…………何が良いって? いやなんとなく分かってるけどさ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……首輪を構えて『うたのんが欲しいな』って言われた。 物凄く可愛い笑顔でつい首を縦に振りそうになったから、大慌てで手を縛ってたロープを千切ってここに逃げてきたって訳。」

 

「そう…………。」

 

残りの水を飲み干してゴミ箱に投げ入れると、歌野はふらふらと立ち上がる。

 

 

「じゃあ私、窓から逃げるから。」

「おい、その痕(キスマーク)見られたら不味いだろ。」

「ぐえぇ!」

 

水都が居るだろう玄関側じゃなくベランダ側の窓を開けて身を乗り出した歌野の、首根っこを掴んで床に張り倒した。

 

そのまま襟を掴んで、玄関まで引き摺る。

 

 

「ちょ、ちょっと紅葉、そっちみーちゃん居るから不味いんだけど……」

「……ったく、首輪だの縛られただの、単なるノロケだろそれ。」

「これがノロケに聞こえるって大丈夫? 寝ぼけて頭打った?」

 

ノン、残念ながら正気(しらふ)です。 この体アルコール効かないから余裕で酒呑めるけど。

 

 

「恋人の要望ぐらい叶えてやれよ。 水都も良識はあるんだ、流石に学校にまで着けて行かせようとはしないでしょ。」

「…………ねえ紅葉、貴方絶対今の状況楽しんでるでしょ」

「うん。」

「即答した……!?」

 

これを楽しまない奴とか人間じゃないでしょ。 ともあれ、片手でドアを開けて、俺は勢いをつけて歌野をぶん投げる。

 

ゴロゴロ転がって歌野は壁に背中を軽く打ち付けるが、すぐさま起き上がりこっちに向かってくる。 俺がすかさずドアを閉めて鍵を掛けると、やれ開けろだなんだと文句を言ってきた。

 

 

―――――が。

 

 

 

『う、た、の~ん!』

『み゛っ……みーちゃん……!』

『もう、なんで逃げるの?』

『流石に首輪は不味いからよ!?』

『大丈夫だよ、ほら、チョーカーっぽい形だからきっとバレないよ。』

 

『じゃあチョーカーで良かったんじゃない……?』

『それじゃ私のだって証しにならないもん! ねぇうたのん……部屋に戻って、続き…………しよ?』

 

『い、嫌よ。』

『…………うたのんは、私のこと嫌い?』

『そんなわけ無い! ……けど、これは不味いでしょ。』

 

『嫌いじゃないならいいよね! さ、いこっ!』

『あー…………もう、どうにでもなーれ。』

 

 

語尾にハートマークでも付いてそうな水都の言葉に押し切られ、半ば諦めた歌野はドア越しに悲痛なまでのため息をついて、俺の隣の部屋である自室に入っていった。

 

これは昼まで誰も出てこないな、間違いない。

 

 

 

 

 

「――――よし、寝るかぁ!」

 

気合いを入れた俺は、ベッドに飛び込んで無理矢理意識をシャットダウンさせ、二度目の眠りについた。

 

ただそれでも、心に残り続ける果たせなかった約束は俺の心を少しばかり抉るのだが、それはまた別の話である。

 

 





2015年、星屑襲来当時の紅葉の歳はだいたい13か14くらい。 勇者と巫女達よりは歳上とだけ覚えておけば大丈夫です。





・精神世界の紅葉が残した『だいじなひと』ってメッセージは結局どういう意味なの?(自問)

・文字通りの意味。 時間がなかったのと紅葉が大雑把な性格してるからあんなメッセージになったけど、普通に考えて帰ってくる約束を守れず手の届かない所で失った古馴染みなら十分紅葉にとって『だいじなひと』でしょ(自答)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。