過去と未来でリンクしてるって予想されたのは想定の斜め上でしたが正直凄い面白く、もうそっち路線にストーリー切り替えた方が良いのではとすら思えてきました。でも違います(無慈悲)
まあ自分でも紛らわしい書き方したなーとは思ってます。
「―――……て」
声が聞こえる。
「―――起…て」
さわさわと木々の擦れる音がして、涼しい風が頬を撫でる。
「―――起きてったら」
「もがぁ」
べちっ、と顔を叩かれる。
痛くは無いが、流石にここまでされたら起きるしかないだろう。
「やっと起きた。」
「叩き起こしたの間違いだろ」
「ふふっ、相変わらずだね。」
「あー……ごめん、誰?」
鈴を転がしたように心地好い声で笑う、短い茶髪が愛らしい巫女装束の少女。
見上げる形で見ている事と後頭部の柔らかさから膝枕されているのだろうが、俺はどうも……この少女に見覚えがなかった。
「……覚えてないよね、事情が事情だもん。」
「でも、どこかで……会ってる?」
「キミにとっては、そうなるのかな。私にとっては大事な戦友みたいなものだけど。」
「……お前くらい可愛いなら、絶対忘れないんだけどなぁ。」
「じゃあ覚えといてよねー。」
「いててててて」
ふざけたら鼻をつねられた。樹のような強かさを感じるぞこいつ、なんか俺の扱いがやけに手慣れてる気がするんだけど。
「……と言うか、ここどこ。」
寝転がりながらでも分かる範囲を見回す。何処かの村……なのか。自然が多く、大きく畑が耕されていて、俺と少女は畑の近くの木陰に居た。少女は俺の髪を弄りながら答える。
「分かりやすく言うと、精神世界……かな。魂の中にあって、その人を表す形をしているんだ。」
「……この世界の主絶対俺じゃなくて歌野だろ、俺こんな畑好きじゃないし寧ろ嫌いな方だぞ。」
畑はなぁ……ガキの時に畑関連で歌野とガチ喧嘩したときにクワでフルスイングされたからトラウマっていうかなんというか。
「―――じゃあ多分、それだけうたの……って人がキミに強く影響を及ぼしているのかもね。」
「……ああ、なるほど。」
見える範囲で言えば、畑はかなり広い。少なくとも俺と歌野宅を合わせても足りないくらい。
精神世界と言うことは一切誤魔化せない訳で、つまり俺にとってはこの畑=歌野で、その広さ=俺の歌野への想いと言うことになる。
やだーもー恥ずかしー
「んー、じゃあこの木はなんなの」
「これは……ちょっと恥ずかしいけど、私。」
あんたも恥ずかしいんかい、嫌なお揃いだぜ。
少女は朱色に染めた頬を緩ませる。まるでその目は愛しくて仕方がない息子を見るようで、俺にはそれが酷く懐かしく感じた。
なのに、分からない。
この少女は誰なのか。
だが、俺の中の『
「……覚えてないのに、分からないのに、俺はこんなにもあんたを心の拠り所にしてるのか。」
「そうなる……の、かな?」
なんで疑問系なのさ。少女の頬を引っ張ってやろうと左手を伸ばしたとき、傷が目に入った。
「そういや、俺のこの左腕なんだがどうなってるんだ。」
「それは紅葉の記憶だよ。最近になって、ようやく体が思い出したってことだね。」
「プラシーボ効果のやけどか。」
「うーん……分かりやすいね。」
ほんとにね。左腕の古傷は、つまり俺じゃない俺が負った傷と言うことだ。触ると僅かに膨らんでいるその切り傷の感触に気色悪さを覚えていると、少女が言う。
「……ねぇ」
「なんすか」
「キミは時々、何かを思い出しそうになるよね。さっきも忘れていたことを思い出そうとした。」
「あー…………そうだな。」
気付くと無意識に左腕を掴んでいた。気を失う直前に想起したあの痛みも、熱も―――少女の悲痛な顔も、俺は
さっき気を失ったのも、何かを思い出しそうとしたのがトリガーになったのか。申し訳なさそうにする少女を見て、流石の俺も色々と察してしまう。
「―――俺の意識を強制停止させたり記憶をモヤで包んで思い出せなくしてたのは、あんたか。」
「……うん、そうだよ。」
「なんでそんな事をした?」
「無理に思い出そうとすると脳の負担が大きいからっていうのもあるけど、今はまだ早いの。」
早いと来たかそうですか。
……色々と分かったこともあるのにそれ以上の問題を三つも四つも用意するのやめませんかね。
「じゃあ何時なら早くないんだ。」
「それは、その時になるまでわからない。」
「はぁ……で、傷が現れる程に強く記憶が甦ると意識が落ちて、そうでもない時の軽い想起では記憶が薄れていずれ忘れる。と」
記憶処理……か。とすると、やっぱ
こんな不可思議な現象を引き起こせる奴なんて限られる……ったくふざけやがって。
「……ごめんね」
「お前もアレに利用されてこうなってるんだろ。だから許す。」
「……そういうあっさりした感じは、やっぱり『先人紅葉』なんだね。」
額の髪を横に分けながら少女は告げる。何かを諦めているようで、それでも誰かを一途に信じ続けている人間は、きっとこんな顔をするのだろう。
なんて事を考えながら涼しい風を感じて、少女に頭を撫でられる。普段は撫でる側だからわからなかったが、存外悪くないねこれ。
「そういえば、さ。」
「ん?」
「……こっちのうたのんってなんであんな……こう、肉体言語で話そうとしてるの?」
「いやー俺が知りたいっす。」
お隣さんとして挨拶したときはまだ普通だった。あのだっせえTシャツはともかく。
―――――。
…………あ。
「あーーーーー思い出した。」
「ど、どうしたの?」
「……歌野がああなったの、お互いに瀬戸大橋の一件で親が死んでからだ。それで荒れてたあいつを死ぬ気で矯正したんだったわ。」
「……今思い出したの?」
はい。
この夢が記憶を管理・整理する世界だからか、俺の中のバラバラに解れてた記憶が元に戻った。
「……今まで記憶の前後が曖昧だったのはあれだ、当時の歌野と大喧嘩した時にボコボコにぶん殴られたからだと思う。」
そりゃそうだってなるけどさ。
親が死んで平常心で居られたのは俺だけ。歌野は一時、流石の俺もドン引きするレベルで大荒れだった。台風かなってくらい暴れてたし。
「うん、そう考えると今のあいつ昔より大分マイルドになってるな。」
「あれで……?」
「言っとくけど『寄らば斬る』どころか『目があったから殴るわ』ってくらいだったからな。」
たまに話すより殴る方が早いって思考になるのはその時の名残でしょ。中学に上がる前にどうにかできて、本当に良かったと今になってホッとしてるぜ。
いやー幼馴染も楽じゃないよ。労災保険申請したら降りないかな。
「……『こっちの歌野』はまあゴリラみたいな感じだけど、『そっちの歌野』は、どんな奴なんだ。」
「私の知ってるうたのん?」
「ああ。」
こっちだのそっちだの、まるで俺たちや歌野が複数存在してるような言い回しをしている事がおかしいのは分かっているが、まあ良いでしょ。起きたらこのこと覚えてないんだし。
「こっちのうたのんは――――……紅葉?なんか透けてるよ?」
「はい? ―――うわほんとだ」
俺の体を見ると、半透明になっていた。
なんじゃあこりゃあ……!!
……ふざけてる場合じゃないか。
「……どうやら夢から覚める時間が来たらしい。もーちょっと居たかったんだがね」
「……そっ、か。」
視界が白くなって行き、少女の顔が見えなくなっている。
極限まで眠くなったときのように意識と目蓋が重くなり、碌に思考も練られなくなってきた。
……あー、そうだ。
……ヒントのこさなきゃな……
「……なあ、■■……」
「なぁに?」
ペン、もってない?
◆
「―――起きなさーい」
「うごぁぁ……」
ごすっ、と顔面を叩かれて起こされた。
さっきのよりいてえ。
……さっきってなんだ。
「なんだよ」
「様子を見に来たら倒れてたんだもの、熱中症?」
「……あー……いや、寝不足。」
起きたら、眼前に歌野。また膝枕ですか。
……いやまたってなんだ。
……なんか忘れてる気がする。夢なんて覚えてる方が珍しいもんだけどさ。
「まあいいや」
「なにが?」
「なんでもなーい」
起きて振り返り、歌野を見る。
心底不思議そうな顔をしていて、それがなんでか懐かしく思えた。
「まったく。皆旅館に戻ってるから、私たちも戻りましょう?」
「着替えに時間かかるだろ、先行ってて。」
「りょーかーい。」
パラソルを畳んで肩に担ぎ持っていった歌野を見送り、立ち上がって関節を鳴らす。バッキバキだった。
うぬおおおお……
「おおお―――お?」
不意に左手を見ると、何かが書かれていた。誰かのイタズラかと思い確認するとそこには―――
『ふじもりみと
みーちゃん
だいじなひと
わすれるなよ
もみじ さん』
―――平仮名の走り書きで、そう記されていた。
……もしかしてヒント?しかもこれだけ?
えぇ嘘でしょ……夢の俺ふざけんなよコラァ!ヒントこれだけってなんなんじゃい!!
読者の方々にほぼ答えのヒントをぶちこむ回。
精神世界は物凄く簡単に言えば、心がガラスの弓兵のアレです。その人物を表す記憶や思い出で構築されているので、紅葉が起き上がってより詳しく調べていればもっと情報を引き出せました。
尚みーちゃんの膝枕堪能したい欲には抗えなかった模様、紅葉も男の子だからしゃーない。