【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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ちょっと長いです。



十八話 勇者部の慰安旅行である・後

 

 

 

日は落ちて夜。女将さんに案内されて旅館の一室に通された俺たちの目の前には、普段はお目にかかれないだろう豪勢な料理が並んでいた。

 

 

「凄い、カニカマじゃない……!」

「そりゃカニそのものだからね。」

 

友奈の絶妙にズレてるボケにツッコミつつ、部屋を見渡す。6人で寝るならまあ十分だよねって感じの広さだった。んで俺の部屋どこ。

 

 

「ちょっと豪華すぎない? あのー……部屋間違えてたりとかは……」

「いいえ。とんでもありません、ごゆっくりとお寛ぎ下さいませ。」

「あー、はい。どうも……?」

 

風の質問をバッサリ切った女将さん達は、それだけ言って部屋から出ていってしまった。

 

 

すいませーん、もしかして俺こいつらと同じ部屋ってことなんですかねー。

これはもしかして俺が男として見られていない可能性が……?

 

 

「俺は女だった……?」

「アホみたいな事言ってないで座ったら」

 

「あ、はい。」

 

夏凜に促され、テーブルに向かう。

部長として誕生日席よろしく端に座った風を筆頭に、樹と俺と美森、反対に夏凜と歌野と友奈の順で座った。歌野は俺の席のカニ見てんじゃねえぞこら、やらんからな。

 

 

…………ほんとにやらんぞ。

 

 

 

 

そんな顔してもダーメーだー。

 

 

 

 

ダメっつってんだろおいコラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を始めて暫く、そーっとカニの足を持ってこうとする歌野の手にハサミ(カニの手)をぶすりと突き刺していると、友奈が俺の顔をじっと見ていることに気付いた。

 

 

「どーした友奈。俺の顔になんか付いてる?」

「―――あ、ううん、なんでもないよ?」

「えーほんとにー?」

「ほんとだよぉー」

 

そう言ってカニを()()()()()()頬張る友奈を見てしまっては何も言えない。食事をいち早く終えた歌野が俺のカニにしつこく手を伸ばしてくるので、ハサミを額に突き刺す。

 

白鳥号の轟沈を確認。

 

 

「色気より食い気とは良く言ったものだぜ。」

「花より団子ってやつ?」

「そーそー。あとお代わりを平然と頼んでる時点で歌野と同等だって気付こうな、風?」

「うぐゥー!?」

 

2人目の轟沈を確認。そうえばこいつ家でも結構食ってたな、太らない質なのか勇者として戦うとカロリー消費がとんでもないのか。

 

 

「あんたら食べながら騒がないでよね」

「完成型様はお行儀もいいようで?」

「ふん、当然でしょ!」

 

夏凜は風にドヤ顔披露してる所悪いけどお前、俺が矯正するまで刺し箸に寄せ箸に迷い箸までやって歌野に強めにひっぱたかれてたよね?

 

……まあ今ではやってないし言わんでやろう。

 

 

「―――。」

「ん? ああ、醤油ね。」

「―――――。」

「どーも」

 

樹に袖を引かれる。醤油が欲しかったらしく、俺の手元にあった醤油を渡すと樹からワサビを渡された。ラッキーちょうど欲しかったんだよね。

 

「紅葉くんは、樹ちゃんの言いたいことが分かるんですか?」

「いやまったく。俺は雰囲気で言いたいことを察している……の、かも?」

「どうして疑問系なんですか……」

 

 

実際そうだし、心が読める訳じゃないし。歌野の精霊が覚だけど精霊は義輝以外喋れないから代弁できないのがなぁ。

 

なんで分かるのかは、単純に表情と目線と状況から当たり障りない選択肢を取ってるだけです。

 

 

最後の一口を食べ終わり、美森に耳打ちする。

 

「お前だって、友奈が何考えてるかとか言いたいことはなんとなく分かるだろ?」

「……ええ、それは当然。」

 

当然なのか……

 

 

「じゃあ聞きたいんだけど、友奈って何か隠してるよな。あいつだけだぜ?

()()()()()()()()()()()()()()()()のは。」

「―――――それ、は。」

 

 

樹の声帯、風の視覚、美森の聴覚。満開をしてない夏凜と歌野は除くとして―――なら友奈は何処がおかしくなっているんだ?

 

頭の回りに集中している事から、嗅覚や味覚だと推理してはみたが……いくら自分のことを隠すのが上手いからって、豪華な食事の味も匂いも感じられないことが辛くないわけがない。

 

一瞬だけ表情を崩しでもすればわかるのだが……さっきも見たように、本当に美味しそうに食べていることから嗅覚・味覚が使えないわけではないらしい。

 

 

個人差があるのか、障害と認識できない場所がおかしいのか、友奈にだけは発生していないのか。 ……『お前どっか変だろ』とは聞けないもんなぁ……どうすっかなもー。

 

 

「友奈ちゃんが本気で隠してることは、私でも分かりかねます。」

「……よし、俺がどうにか聞き出してやるよ。」

「―――どうやって?」

「まあ、俺に任せタマえ。」

 

 

任せタマえ。

 

元ネタ知らねえけど実はこのフレーズ気に入ってる。球子がタマタマうるさかったからその影響だと思うけど、真偽は定かではない。

 

 

 

 

 

 

あ、そろそろ温泉か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――んぬ゛ぅぅぅぅぅあああああ…………」

「おっさん臭いわヨ歌野……」

「確かにいい湯ではありますけどね。」

 

「うわあ、歌野ちゃん溶けたアイスみたい」

「こんな良いお湯に浸かってるのだから仕方がないのよぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」

 

でろんでろんにふやけた顔をしている歌野。

食後に女湯に足を運んだ勇者達は、日頃の疲れを取るためにもと温泉に浸かっていた。

 

 

「―――ふぅ、ちょっと顔に染みるわね。」

「夏凜と殴りあったからでしょーが。」

 

お湯を顔に掛ける歌野は、溢した言葉にツッコミを入れられる。友奈と美森は歌野の手に視線が向かう。

 

「歌野さん、その手は……?」

「すごいカチカチだね。」

「ん、ああこれ? 何年も農具振り回してると、自然にこうなるのよ。」

 

歌野が自分の手を見るとマメが潰れてはマメが出来て、それが繰り返された事で固く頑丈に、大の大人でもそうはならないと言えるレベルの手が出来上がっていた。

 

「年頃の乙女がしていい手じゃあないわネこれ」

「そう?紅葉は綺麗だって言ってくれるけど?」

「あばたもえくぼ……と言うことですかね。」

「私は格好いいなって思うよ?」

 

差し出された歌野の手を握って感触を確かめる友奈。歌野を羨ましそうに見る美森は相変わらずだった。

 

「―――――。」

「……樹……」

 

声が出せないことで会話に混ざれない樹は、顎まで体を沈めて温泉を堪能する。どうしようもない申し訳なさに襲われた夏凜は、逃げるように温泉から出てシャワーを浴びに行った。

 

 

これ幸いと、美森は友奈に提案する。

 

「友奈ちゃん、折角だから夏凜ちゃんの背中を流してあげたら?」

「どうしたの? 急にそんなこと言って。」

「夏凜ちゃんを一人にはしておけないから、ね?」

「……わかった、じゃあちょっと行ってくる!」

 

一瞬悩むそぶりを見せたが了承して夏凜の元へ向かう友奈を横目に、美森は歌野と風と樹に顔を合わせた。

 

 

「……怪しまれてしまいましたか……」

「友奈ならまあ、へーきへーき。それでいったい友奈がどうしたってのよ。」

「私は紅葉に話聞くだけにしろって言われたから良くわからないんだけど。」

 

 

だってお前に直接聞かせに行ったらまた殴り合いになるだろ。と、口に出さなかったことは正しく幸運だろう。

 

 

「―――友奈ちゃんは、満開の後遺症を隠しています。ですが、どんな症状を隠しているのかがわからないんです。」

「……後遺症……か。あたしの目、樹の声、東郷の耳ときて、友奈はわからない……と。」

 

「普通に聞いてもはぐらかされてしまうものね……友奈、そう言うの上手いから。」

 

歌野はちらり、と友奈を見る。友奈は夏凜とイチャイチャしていた。

欲望と嫉妬と殺意の入り乱れた視線を送る美森だが、提案したのは自分なので自業自得である。

 

 

「紅葉くんが聞き出してやると言っていたので一任しましたが、どうにも心配で……」

「歌野は歌野で紅葉も紅葉だからなぁ……」

「あらそう?紅葉が自分からやるって言ったなら相当やる気な筈だし、大丈夫じゃないの。」

 

信用ないのねぇ……とぼやく歌野。

逆に信頼しすぎではないかと美森に聞かれると、あっけらかんな顔をして言った。

 

 

「あの人は良く嘘を言うけど、約束は破らない。だから友奈も任せておきましょう?」

「……良くもまあそんなことをさらっと言えるもんだわ。」

 

 

内心でのろけかとツッコミを入れた風は、その後美森の胸について茶化していたら男湯の方から飛んできた桶に直撃して温泉に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、なにがメガロポリスだあの馬鹿。」

 

 

俺がぶん投げた桶は多分風に直撃しただろう。しかし誰一人として居ないある種の貸しきり状態の温泉を俺だけでゆったりとできるのはラッキーだったな。

 

 

まあ―――

 

「これ見られたらギョっとされるだろうしなぁ。」

 

 

隠すに隠せないでいる左腕の古傷にお湯を掛ける。俺からしたらただの痕に過ぎないが、この傷を負うに至った誰かさんからしたら堪ったものじゃないだろうな。

 

こんな傷が残る程の攻撃を食らったのなら、()()()()()()()()()()()()()()

 

誰かさんには悪いが、俺にまでその影響が出なくて心底ホッとしている。

 

 

 

……しっかし、あのヒント? って何だったんだ。

 

ふじもりみと……藤森三戸? 水戸……水都、か? みーちゃんって書いてあった辺り仲は良いみたいだし、友達だったのかねぇ。

 

いや夢の中とは言え素直じゃないのは自覚している俺が『大事な人』とまで書いていたんだ。所詮は夢で終わらせるには、妙に引っかかる。

 

 

―――『先人紅葉』ってのは、何者なのかねぇ。

 

 

……早急か。今はあいつらの事で手一杯だし、お役目に一段落ついてからゆっくり調べたって遅くはないだろう。

 

 

「あーもー、忙しいったら……な………い、ん……うぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ………………」

 

 

 

 

のぼせて溺れかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うごごごごごぉぉぉ…………」

「紅葉くん大丈夫?」

「これが大丈夫に見えるか……」

 

うつ伏せに布団に寝そべる俺は、背中を友奈にマッサージされていた。

 

同じ部屋で寝るのは流石にいかんだろと押し入れで寝ようとしたら、歌野と夏凜に両腕を捕まれて布団に叩き落とされたのだ。お陰で背中を強かに打ち付けて普通に痛かった。

 

「いやだって押し入れは……はしたないでしょう」

「……悪いとは思ってるわよ。」

 

 

枕に押し付けてる顔を持ち上げると、眼前に『私たちは紅葉を布団に叩き落としました』と書かれたプレートを吊るして正座させられている歌野と夏凜が居た。ペットへのお仕置きかな?

 

美森いわく「ここが旅館じゃなかったら吊るしてた」とのこと。2人を何でどこにですかね……好奇心で猫が死ぬので聞かないけど。

 

 

「……はぁ、もういいぞ友奈。大分和らいだ。」

「また痛くなったら言ってね?」

「明日には治ってるからだいじょーぶ。」

 

 

うーん改めて考えると俺ってほんとバケモンだな、骨砕かれようが刺されようが一週間か二週間で完治するんだから。

 

()()()()()()()とすれば、納得が行くんだけどね。

 

 

「それじゃ、そろそろ寝るとしますかあ!」

「夏凜ちゃんと歌野さんはどうしますか?一日中正座させておきましょうか?」

「さらっと拷問するのはやめよう東郷!?」

「……風先輩がそう言うなら……」

 

仕方ねえなあ……って感じで渋々正座を解かせる美森。夏凜はともかく、歌野は基本反省の色が薄いから気を付けろよ。同じ過ちは二度もやらんからマシだがね。

 

 

 

布団は出入口側に友奈と美森と歌野、奥側に風と俺と夏凜と樹で並んでいた。俺端が良いんだけど。なに?私と夏凜で挟めば変な事されないだろうからダメ?そんなー。

 

顔文字に出来そうな顔で訴えたらビンタされた。

 

 

じゃあ、はい。おやすみなさーい。

 

 

 

 

 

……あ゛ー引っ付いてくんじゃねえ!

 

 





勇者部って言う美少女揃いの空間に居ながら寧ろうっとうしいとすら言ってのけるせいで裏でクラスメートから度々ホモなのでは疑惑をかけられている紅葉ですが、普通に女の子が好きなのでご安心召されよ。
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