【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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この作品は独自の設定の元で話を進めて行くので、公式が何か言っても設定を変える予定はありません。このまま猪が如く突き進んで行きます。



十九話 ■■友奈は■■友奈である

 

 

 

「…………おも……」

 

 

深夜、丑三つ時。

 

体に掛かる重さに起こされた俺がなんとか動く右手で布団をめくるとそこには、俺の左腕を枕にしている風と、腰に抱きついた夏凜……の背中に更にコアラみたいに抱きついている樹。

 

子供とはいえ人間3人分ならそりゃ重いわ。

 

 

「ええい、どけい……」

 

寝ぼけ眼のまま頑張って3人をどかして立ち上がる。トイレだよ、言わせんな恥ずかしい。

 

 

「はぁ……あれ」

 

 

部屋から出ようとしたとき、友奈の寝ていた布団に友奈が居ないことに気付いた。あいつもトイ……お花摘みかな?

 

 

 

 

最低限の明かりだけで薄暗い廊下をトイレを済ませて歩いていると、自販機や卓球台の置かれた休憩スペースに人影があった。膝を抱えてベンチに体育座りしているのは紛れもなく友奈で、ただならぬ雰囲気を放っている。

 

 

えー……眠気覚めちゃったんだけど。

 

見ないフリをするわけにもいかないので、わざと足音を立てて近寄る。顔を上げた友奈は俺の顔をじーっと見ると、ぽつりと呟いた。

 

 

「―――『紅葉くん』?」

 

「あ?」

 

 

ざわ、と魂が騒ぐ。目の前にいる『結城友奈』から、違う人間の雰囲気を感じ取った。

チカチカと光が明滅するように、眼前の『結城友奈』と、違う『友奈』が入れ替わる。

 

 

 

―――■■友奈。

 

 

 

高■■奈。■木■葉。上■■なた。

郡■■。土居球子。伊予島杏。

 

 

「……ごめんね、今『友奈ちゃん』には眠ってもらってるんだ。」

「なんで―――いや、満開の後遺症か」

「うん、相変わらず鋭いね。」

 

まるで長年連れ添った人を見てくるようだが、俺からしたら誰だか分からない奴にそんな顔をされると不快感しかない……筈なのだが、どうしてか安心できてしまう。

 

雑念を振り払い質問をする。

 

 

「簡潔に、かつ要所を省いて話をしよう。お前は()()の人間だ。」

「……西暦、かな。」

「そうか、お前は誰だ。」

「―――私も『友奈』なんだ。」

 

 

当たり前のように、そう言った。

友奈なんて名前の人間はそう居ない。

 

……西暦の友奈。

……高■、友奈?

 

 

「お前―――いや、何故お前は、『結城友奈』を乗っ取っている。」

「……今、友奈ちゃんは満開の影響で神樹様と深く繋がってしまっている。そのせいで、私達の時代の記憶や経験が際限無く流れこんでるんだ。」

 

「俺みたいに脳がセーフティを掛けたりはしないのか。」

「事情が違うから、専門外なのかも。」

「そうか。 ……敵ではないんだな。」

「そんな訳がないよ。」

 

 

ふっ、と笑い、俺を見てくる。

 

風たちと違って友奈の体に障害が表れなかったのは、それ程の『対価』になると判断されて神樹の記録の一部がそれこそ濁流のように流れ込んでいるからか。

 

満開と言うのは、経験した風たち曰く『神樹から伸ばされた力と接続している』ようなものらしい。更に言えば友奈は勇者の適性がずば抜けて高いようで、満開の出力も段違いだったとか。

 

そんな友奈が神樹と繋がったのだ。仮に友奈が防衛本能から『西暦の友奈』を頼るに至ったほどの量の記憶と言うのが事実だとしたら、つまりそれは過去の記憶・記録と言うことになる。

 

 

 

昔存在した西暦の友奈。

 

昔存在した先人紅葉。

 

 

 

「……ああ、そうか。」

 

 

そんなわけ無いだろうと目を背けていた現実を、俺はあろうことか―――――友奈に突きつけられてしまっていた。

 

 

「っ……そろそろ、限界かも……」

「な―――おい待て、聞きたいことがある。」

 

突然力を失ったかのように倒れそうになった友奈を支える。負担からか、体が発火してるみたいに熱い。

それでも俺の質問に答えようと、閉じかけた目蓋と口を開く。

 

「俺とお前は、知り合いだったのか。」

「……そうかな。うん、きっと、私たちは―――皆家族だった。」

 

 

体や脳への負担からか、ポタリと一滴涙が垂れる。ノイズのように脳裏に現れた記憶を押し込み、俺は友奈の体を横向きに抱き上げた。

 

「そうか……わかった、布団まで運んでやる。だからもう寝ろ……『友奈』」

 

俺が言うと、一度俺の顔を見て笑みを浮かべその体を預けた。

 

 

「―――お休み、紅葉くん。」

「ああ、お休み。」

 

 

糸が切れたように気絶した友奈を支える。

あどけないその顔が2つにぶれて、重なった。

 

 

「―――友奈。」

 

 

―――もしも、俺があの時みたいに『もう戦うな』って言ったら……お前どんな顔をする?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……朝か。」

 

結局、あれから一睡も出来なかった。

 

気絶した友奈を布団まで運んだは良いが、神樹の記憶と記録、友奈と俺の事で考える事が多過ぎたのが悪い。

 

あと2人(+α)に枕にされて一切気にしないで居られるほど鈍くないのよわたくし。なんで女ってのはこうも甘い匂いがするのよやーだー

 

……うん、俺疲れてる。

後で朝風呂しようかな。

 

 

 

「……邪魔じゃい」

 

一回剥がしたのにまた引っ付いてきた風と夏凜+樹を退かして起きる。歌野は普段の畑弄りをしなくて良いからか爆睡決め込んでた。

 

友奈に至っては電池の切れたオモチャみたいに寝てる。 ……生きてるよね?

鼻に手をかざしたら、ふすふすと寝息が熱い。よしよし。

 

 

今更になってぶり返してきた眠気を冷ますためにも顔を洗おうと決めて立ち上がると、椅子に美森が座っていた。

 

「おっはー美森。それどうやったの」

「おはよう、紅葉くん。これくらいなら自力でどうにかできるわ、車イスにも自分で乗らないといけないもの。」

 

あー……それもそうか。友奈にやってもらってるのかと思ったけど、確か美森みたいな相手の介護は免許だか資格が必要な筈だしな。

 

美森は手にいつも着けているリボンを持ち、窓越しに海を見ていた。哀愁漂ってるなぁ。

 

 

「それ、親の形見かなんか?」

「私の両親はご存命ですよ。これは……私が2年前、記憶と足の機能を失う事故に遭ったとき、手首に巻かれていたんです。」

「……へぇ」

「誰のものか分からないけど、とても大切なもの……そう思えるんです。」

 

 

2年前。

 

瀬戸大橋。

 

記憶と足。

 

3体の精霊。

 

 

……ほんと、胸くそ悪い話。

俺が分かっている限りの仮説を全部伝えたらこいつどうなんのかな。

 

 

「バーテックスって、星座がモチーフになってるんだよな。その中から12星座を使っている。」

「そうですね。」

「戦いは、終わったと思うか。」

 

「……()()()()です。

だって皆頑張ったんですよ。戦いが終わっていないとしたら……終わらないのだとしたら、あんまりにも、哀れじゃないですか。

 

―――私たち(勇者達)は都合の良い消耗品じゃない。」

 

 

思いたい……か。

 

最悪の想定をしたのか美森は、リボンを握り締めて海の向こうを―――神樹の作った壁を睨む。

 

 

……爆発するとしたら、こいつか風だな。

 

俺の今の体で何処まで耐えられるかねぇ。

 

 

流石に大剣とか拳銃・散弾銃・狙撃銃は耐えられるかわからんぞ、いや大鎌受け止めて死にそうになった俺が言う台詞じゃねえけど。

なんだったっけ、確か出血多量のショックでぶっ倒れたんだっけ。

 

メンタルクソ雑魚のじゃじゃ馬が人生相談させてくれないんだもんなあ。

心配になって若■と様子見に行ったら左腕切り落とされかけるってなんだ。

 

まあいいけどさ。

 

 

「……やること多いなあ。」

「どうかしました?」

「いーや。 あ、そうだ。美森ぃちょっとリボン借りるぜ。」

「……はい?」

 

美森の持っていたリボンを取って、軽く指で髪を梳す。うーわすげーサラサラ。

 

「じっとしてろよー。」

「え、あ……はい。」

「ここを……こうで……ほいっ、と。」

 

パパっと髪を編み込み、リボンで先を留める。

 

 

「じゃーん。み~つ~あ~み~」

「あっ――凄い……紅葉くん、髪の毛結べたんですか?」

「わっはっは、凄かろう。」

 

後ろ手に髪を確認する美森。三つ編みが崩れないように、恐る恐る手触りを確かめていた。あんま形崩れたりしてないし上出来上出来。

 

 

「…………随分と、手慣れているんですね。歌野さんは結べるほど髪が長くないと思うのですが?」

 

「―――なぁんでだ?」

「質問に質問で返さないでくださいよ……」

 

ヒント、俺にも分からない。

 

 

「貴方から女難の相を感じるわ。」

「あるねえ目の前に。」

「ん?」

「おっと失言。」

 

そう言うところよ、と額を小突かれた。

さっきまでの不穏な空気は何処へやら、三つ編みっていう滅多にやらない髪型にしたお陰か。

 

今度風にもやってやろうとか考えたけど、あの髪の量で三つ編みにするとかそれただの鈍器だわ。

 

夏凜とかならやらせてくれそうかな、ポニテとか良いと思う。スポーティーに見えるし。

 

 

「……そう言えば、紅葉くん。」

「はい?」

「友奈ちゃんからは、何か聞き出せましたか?」

 

 

あっやべ。

 

 

「……()()()()。あいつ強情でさあ、疲れてるのか、()()()()()()()()()()よ。」

「―――そう、ですか。」

 

嘘はついてない。

だって『結城友奈』からは何も聞けてないもんな。

 

……んーーーーー。これだけは言っといた方が……いいよなぁ。

 

 

「美森」

「……なんですか?」

 

俺の比較的真面目な声色から何かを察して、美森は言葉を返した。

 

「俺と友奈は、これから何度か、多分言動と行動が変になる。でもそれは抑えられるようなモノじゃない。」

 

「どういうこと?」

 

「説明するに出来ねえ、でもふざけてるわけじゃない。何かあったら―――友奈がちょっと変になっても、否定しないでやってくれ。」

 

 

荒唐無稽。馬鹿な提案だとは自覚しているが、今の俺にはこれしか言えない。

 

それでも美森は、即答した。

 

「分かったわ。」

「えぇ……理解早いね」

「紅葉くんが変なのは前からだけどね、友奈ちゃんが変になるなんて余程の事態だもの。」

 

 

変 な の は 前 か ら 。

 

あ、はい。

ちょっと傷付いたけど、気にしない。

 

 

「……じゃ、頼んだぜ。」

「お任せください。」

 

コツっと拳をぶつけ合う。

 

前途多難な事になったが、きっとこいつらならどうにかできると信じてる。

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が起きて、飯を食って土産を買って車に揺られ、各々が家に帰ったのは良いが―――――風から呼び出しを食らって学校に行ったのは、今から少しあとの話。

 

 

「帰って良いっすか」

「待ちなさい。」

「ぐえぇ……」

 

 

部室で仁王立ちしてた風から逃げるように踵を返したら、首根っこ掴まれて息が詰まった。

 

馬鹿野郎殺す気か

 

 





【悲報】紅葉、とうとう『誰かさん』の記憶が混在してることを気にしなくなる。

気にしなくなっただけで友奈共々わりと危険な状態な事に代わりありませんがね。
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