【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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あくまでゲストキャラですがね。



二十話 楠芽吹はライバルである・前

 

 

 

「俺の首根っこ掴むのはやめようね?」

「ごめんってば」

 

部室から逃げようとしたら窒息死させられる寸前になるとか、俺前世で何したんだよってレベルの不幸なんだよなぁ。

 

相手が風じゃなかったら死ぬ寸前までビンタしてやったところだが……なんで犬神が居るんだよ、しかもなんか増えてるし。

 

 

「尻尾が鎌のイタチ、正しく『鎌鼬』ってか。こーいこいこいこいこい」

「そんなんで来るわけ……」

「あ、来た。」

「えぇ……」

 

首にしめ縄を巻いた尻尾が鋭利な鎌になっているイタチが、部室の中を駆けて首に巻き付いた。俺は鎌に良い想い出がないんだけど、鎌は俺が好きらしい。モテる男は辛いぜ…………辛いぜ。

 

 

「勇者端末が戻ってきたってことは、やっぱり終わってなかった訳だな。」

「敵に生き残りが居たらしいの。つまり延長戦、それを倒せば今度こそあたし達の戦いは終わる。」

 

 

だと良いけど。

そんな言葉が口から飛び出なかったのは幸運か。

 

「んで鎌鼬は……なに、お前さんは俺がそんなに気になるのかい。で犬神はーってあーあー顔を舐めるなこらこら。」

 

俺の顔に飛び付いてベロベロと舐め回してくる犬神の背中を撫でてやる。相変わらず犬×ネズミみたいな見た目なのに、猫みたいにゴロゴロ喉を鳴らすのはなんなのよ。

そんな犬神に驚いたのか、鎌鼬は俺の首から離れて風の頭に乗る。犬神はそれに対抗してるつもりなのか俺の頭に乗った。

 

二匹は初対面なのかね。

 

 

「もう鎌鼬ってば……なんかこの子、アップデートで追加されたらしいのよ。」

「―――へぇ…………んー、犬神お前もしかして鎌鼬に威嚇してんの?」

 

ゴロゴロとは違う高さで喉を鳴らす犬神は鎌鼬をじーっと見ていた。わお忠犬、かーわーいーいー。風より可愛い。

 

普段と違って犬神は当社比増し増しでキリッとした顔をして鎌鼬を見ている。それで威嚇のつもりとか随分な自信ですね。

 

 

「なっ、ちょっ犬神!?あんたの飼い主あたしでしょお!?なんで紅葉を飼い主扱いしてんのよ!」

「……犬神はこんななのに鎌鼬はまだ警戒色が強くて好奇心があるって感じだし、個人差があるみたいだな。」

 

自分興味ないですみたいな顔してるけど、主の風は兎も角として俺が気になってはいるらしく風の首に巻き付いて俺を観察してる。

どうでもいいけどイタチが首に巻き付いてるとかフォックスファーみたいっすね。

 

 

「……こうまで顕著だと気になってしょうがないし、大赦に調べてもらいましょうか。」

「頼んだ。」

「そんじゃ、皆も呼びましょ。」

 

他の5人を呼ぶことになった風を置いて帰ろうとしたら、また首根っこ掴まれて死ぬかと思った。

 

お前またか…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部室に全員が集まって、重くなった空気を破るように第一声を放ったのは夏凜だった。

 

「―――生き残りが居た、ねぇ。敵は12体なんじゃなかったの?」

「……そう言えば、双子座のバーテックスは名前が双子座なのに1体だけだったわね。」

 

歌野が言葉を返し、俺が補足する。

 

「なら双子座は2体で1対のバーテックスなんだろう、厳密には12種類の13体って事だな。」

 

「……なんだか、嫌な予感がします。」

「心配しすぎだよ東郷さん!」

 

これで外国の星座とかまで使われてたらキリが無いんだがな。12星座だけで精一杯なのか、他の星座を使わないだけか。

 

どちらにせよ、手のひらで踊らされているような不快感がある。

 

 

「ま、どちらにせよたった1体ならあたし達6人に勝てる訳がないし、パパっと終わらせて文化祭の準備しないとね。」

「そうですね!皆で頑張りましょー!」

 

 

おー!と皆で手をあげる。

 

……俺はやってないよ、恥ずかしい。

 

 

全員に勇者端末が行き渡り、時間も遅くなったからと解散することになったとき、俺は歌野と夏凜を呼び止めた。

 

「あーそうそう、帰る前に言いたいことがあったんだ。歌野と夏凜はちょっと待たれよ」

「? どうしたのよ」

「なに、告白?」

「窓から投げ捨てるぞ」

 

うたのーん。すいませーん、今は真面目の空気でお願いしまーす。

 

 

不信がる4人を部室から追い出して3人で残る。夕方と言うこともあり、俺の顔には影が射していて恐らく顔色を窺うことは出来ないだろう。

 

 

「正直言わない方が良いのかもしれないが……仮説の段階だからって黙ってたら手遅れになりそうになった経験があるもんでね。自己満足になるだろうが、言うべきと判断させてもらった。」

 

「……何が、言いたいの……」

 

僅かに震えた声で夏凜が聞く。

赤く、赤く、紅い。

記憶の片隅に、彼岸花が咲いていた。

 

「知らぬが仏、言わぬが花って言葉があるが……まあ、そう言うわけにもいかなくなったのさ。」

「まだるっこしいんだけど。」

「お前さぁ」

 

人が苦手ながらにシリアスにやってるときにお前さぁ。

 

咳払いを一つ、呼吸を整える。

 

 

心臓が高鳴る。本能が危険信号を発している。だが知らん。俺は俺のやりたいことをやりたいようにやる。それだけだ。

 

 

 

 

 

「いいか、満開の後遺症は――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日。

 

バーテックスに生き残りが居たとか言っていたのに何事もなくあれよあれよと数日が経過し、俺たちは暇を持て余していた。来るならさっさと来て欲しいものだよほんと。

 

 

精霊が俺になつく理由もまだ解明されてないらしくその手の連絡も来ないしで、なんかこう……気持ちが空回りしてる。

 

 

二人にあの話をしたのも理由の一つなんだろうな。

 

 

夏凜は訓練ついでに気持ちの整理がしたいと一人で砂浜に、歌野はさほど気にしていないようで八百屋の野菜見回りに行った。

 

 

「あー暇暇、でも面倒事は来ないで。」

 

そんななか、俺は縁側でたくあんをボリボリ齧りながら熱い緑茶を飲んでいた。自分でやっといてなんだけどジジイかよ。

 

……昔から見た目は兎も角、中身(精神)は早熟だった気はしていたが今にして思えばそれも前兆の一つだったのかねぇ。

 

 

そろそろ、『昔の俺』を知っている人を探す必要が出てきたが……知ってそうなのが大赦の人間なのがなぁ……やだーもーめんどくさい。

そんなことを考えていると、不意にインターホンが鳴った。

 

 

 

「へーい。」

 

テーブルにたくあんと湯呑みを置いて玄関に向かう。 ……来客の予定は無いんだけどなぁ。

 

()()()()()()()()玄関横に仕込んでるスタンガンに手を伸ばしつつ、玄関を小さく開ける。

 

 

「どちらさん?」

「どうも。初めまして」

 

玄関を開けた目の前には、少女が立っていた。

風と似たようなタイプのツインテールを前に垂らしているが、凜とした佇まいは夏凜に似ている。 ……ダジャレではないぞ。

 

夏モノの制服から露出した腕の筋肉には無駄がなく、夏凜と同等に鍛えられているのだろう事がわかる。多分今ここで不意打ちにスタンガンぶちこんでも容易に避けられると思う。

 

試しに一瞬殺意を向けてみたが俺の頭が吹き飛ぶイメージしか湧かなかったから抵抗するのはやめにする。スタンガンに伸ばしていた手を下げて、玄関を完全に開いた。

 

 

「ここは先人さんのお宅で間違いないでしょうか。」

 

「チガイマース、ミーのネームは田中猪苗代デース。気軽にジョニーとお呼びくだサーイ」

 

「ジョニーがいったい何処から出てきたのかはさておき、表札を見ましたがここは先人さんのお宅ですよね。 何故……嘘を?」

「ひえー……」

 

この人こわーい。目の前の少女に見上げられながら射殺さんばかりに睨まれ、流石に肝が冷える。

 

「……俺が先人紅葉だよ、嘘ついたのは謝るから睨むの止めてくれません?」

「は、睨んでませんが。」

「えぇ……?」

 

いやお前ガッツリ睨んできてるだろ。もしかして素の目付きがそれなの?それか無自覚?

 

 

「んで君誰よ。その制服讃州のじゃないよね」

「ああ、これは失礼、申し遅れました。」

 

 

……ふと、夏凜が前に言ったことを思い出した。

 

 

 

『そう言えば紅葉、一つ忠告しとくわ。』

『なんすか』

『私が勇者になる訓練してた時、まあ、ライバル?みたいな奴が居たんだけど、そいつあんたの事が気になってるらしいのよ。』

『へぇ』

 

『もしかしたら休日にこっちにくるかもしれないから気を付けなさい。あいつ自分を差し置いて勇者になった私と、その私が大赦を辞める理由になったあんたのこと逆怨みしてる可能性あるから』

『…………そいつの名前教えてくれない?』

 

『ええ、そいつの名前は―――』

 

 

 

回想の夏凜の言葉を借り受けたように、眼前の少女は言った。

 

 

 

「―――私は楠芽吹(くすのきめぶき)と申します。」

「………………嘘でしょ……?」

 

 

俺の呟きを聞き取ったのか、首をかしげながら「本当ですが」と言った少女……芽吹ちゃんは、パッと見はただの女の子に見えた。

 

目付きの悪さと事前情報さえなければ。

 

 

 

 

 

「あー、はい。家で一番高い奴っす」

「それはどうも。」

 

家に芽吹ちゃんを通した俺は、自分で楽しむ用の高級緑茶とたくあん……はやめて、これまた自分用のどら焼きを出す。あいつらに見つかると全部食われるんだもん仕方ないじゃん。

 

……これ歌野が居たら確実に部屋が血生臭くなるわ。俺が言うんだから間違いない。

 

 

「―――これは中々、お茶もどら焼きもいい茶葉と餡子が使われていますね。」

「あ、わかるんだ。」

「ええ、まあ」

 

芽吹ちゃんは玄関の時より大分表情が柔らかくなっていた。やはり甘いものってのは良い。

まあ興味があるからって男の家に来たんだし緊張もするか。だが安心してくれタマえ、俺吹けば飛ぶくらい(最悪の場合樹よりも)弱いから。

 

 

「それで、芽吹ちゃんは何しに来たわけ?」

「…私は三好さんが大赦の勇者を辞めるに至った理由である貴方に、興味があって参りました。」

 

姿勢を正した芽吹ちゃんは、あっけらかんと言い放った。あー、この子そういうタイプ(天然クソ真面目)かぁ…

 

「……直球だね。」

「誤魔化す必要は無いかと。」

「でも俺以外の人に言うと変な勘違いされたりするだろうから、言葉は選びな?もうちょっとオブラートに包もうか。」

 

「はぁ……」

 

ははぁ、いまいち分かってねーな。

 

 

「そんな気になってた俺の印象はどーよ。弱そうでしょ」

「……そうですね……あー……ちょっと、鍛え足りないのではないか……と。」

 

必死に言葉を選んだんであろう声色で、芽吹ちゃんはそう言った。そこでオブラートに包まなくて良いから、はっきり「弱そう」でいいから。

 

 

 

 

 

―――これ俺の手に負えるかなぁ

 

 

 

 

頼む、せめて夏凜だけでも帰ってきてくれ――!

 

 





やっとアニメ7~8話の辺りまでこれました
こっちの芽吹ちゃんは原作ほど尖ってないのでご安心を。
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