【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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この作品は原作とまったく同じ時系列・キャラの性格で進んでいる訳ではないといったご理解は既に戴いているものとします。(悪魔の契約)



二十一話 楠芽吹はライバルである・後

 

 

 

 

気まずい。

 

 

 

 

 

 

特になにか言うでもなく、かれこれ10分は経過している。まさか芽吹ちゃんがここまでノープランで来てたとは思わなかった。

いくら俺が外道だからって『見に来ただけならもう帰れ』とは言えないし。

 

なんか悩み事とかありそうな顔はしてるんだけど多分俺じゃ解決できないだろーしなぁ

 

 

とか考えてたら、芽吹ちゃんが声をあげた。

 

 

「……その、先人さん。」

「紅葉で良いよ。で、なに?」

「いえ…………実は一つ、相談に乗っていただけないかと思いまして。」

 

ずっとキッチリ正座してそれを崩さないの凄いね。とりあえず話をするためにも、お茶を淹れ直してどら焼きを補充する。

 

芽吹ちゃんは咳払いを一つして、お茶を飲んで切り出した。

 

 

「……私と三好さんは、勇者候補として日々競い合ってきました。

三好さんとは互角だと思っていましたし、私こそが勇者になれるのでは、と、そう思っていた。」

「でも、取られちゃったんだ。」

 

「はい。何故私では駄目だったのかと、ずっと考えていました。何故私が勇者になれなかったのかが―――どうしても分からない。」

 

「……なにがあったの?」

「納得いかずに暴れそうになったら薬打たれて眠らされました。」

「えぇ……」

 

 

なにしてんの芽吹ちゃん。いや、やりそうだなぁ…………あ?

 

 

芽吹ちゃんの吐露に俺もまた疑問があり、一呼吸置いてから質問した。

 

 

 

「んーーー……芽吹ちゃん、一つ良い?」

「……どうぞ。」

 

「君さ、()()()()()()()()()()()()()言える?」

 

 

 

「―――――。」

 

 

 

芽吹ちゃんは、目を見開いて何も言わなかった。ビンゴ。この子あれだ、世のため人のためじゃなくて『勇者になりたい』だけだ。

 

周りはライバル、周りは敵。

 

ツンデレチョロインのにぼっしーですらある程度人の心配はできるが、芽吹ちゃんはきっと出来なかったんだろう。

 

 

恐らく夏凜をも蹴落とすべき敵として見ていたのだ。俺が神樹なら、そんな奴を勇者にはしない。

 

 

正座の姿勢から立ち上がろうとした芽吹ちゃんは、俺の顔を見ると幾らか冷静さを取り戻して座り直す。

 

飛び掛かられたらどうしようかと思った。テーブルの下にガムテで張り付けた金槌から手を離す。

 

 

「―――私は……ただ勇者に、なりたいだけだった……」

 

うわ言のように呟く。

 

 

「……友奈も美森も風も、樹も歌野も夏凜も、誰かのために…世界のためにと戦っている。

その考えに至れなかった芽吹ちゃんが勇者に選ばれても、きっと他の勇者との不和で仲違いを起こしてたろうさ。」

 

あーイメージが鮮明に出来る。歌野と血みどろの殴り合いに発展してる芽吹ちゃんが容易にイメージ出来るぞ?

でもなんでだろう、芽吹ちゃんが勝てるイメージは湧かない。

 

 

……歌野>芽吹ちゃん>>>>>俺ってマジ……?

 

 

 

芽吹ちゃんはため息を吐くと、ポツリと言った。

 

 

「―――私はただ、勇者になりたいだけだったんですね。」

 

 

諦めにも似た表情でそう言うと、芽吹ちゃんはそのまま俯いてしまう。

 

芽吹ちゃんは勇者になりたいだけだった。

夏凜は勇者になって家族を見返したかった。

 

どこか似ている二人に違いがあるとするなら、それは何処かの誰かを思えるかどうか。

 

 

「芽吹ちゃん。」

「―――。」

 

「聞けやコラ」

 

「――――いっ……!?」

 

戦意喪失にも似た脱け殻染みていた芽吹ちゃんの、俯いてて丁度良い角度の頭にわりと強めにチョップを叩き込む。

 

頭を擦る芽吹ちゃんに、俺は問う。

 

 

「芽吹ちゃんはなんで勇者になりたかったの?

誰かに言われたから?そうしなきゃ、カッコ悪いから?」

 

「……それ、は……」

 

「……わかんない?」

 

こくりと頷く。じゃあもう駄目ですな、俺じゃ解決策が出てこない。だが、悩む俺の元に不意打ち気味に救いの手が差し伸べられた。

 

 

 

 

「なにしてんの?」

 

芽吹ちゃんから見て後ろ、俺から見て前の縁側から歌野が部屋を覗いていた。

 

 

両手に野菜の入った袋とクワを持っていなければ、純粋に喜べたのだろう。

 

 

「…………は、は?」

 

芽吹ちゃんのその疑問符も尤もだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジーパンに肌着のようなノースリーブ、頭に麦わら帽子で片手にクワと、色気の欠片もない格好で部屋に訪れた歌野は現在当然の権利が如く冷えた麦茶を飲んでいる。

 

困惑一色の顔で芽吹ちゃんは、俺にアイコンタクトを飛ばしてきた。 ……まあ、そうなるよね。

 

 

「……お前何してたの」

「ん? ああ、八百屋見て回った後にちょっと畑弄ってたのよ。はいこれ取れた野菜。」

「おっぐう……」

 

横にいるのにわざわざ投げて寄越された袋には、キュウリとかナスとかトマトが入っていた。 わー夏野菜。久しぶりに野菜カレーでも作ろうか。

 

 

……じゃなくて。

 

 

「なんでクワ片手に縁側に立ってたんだよ」

「玄関軽く開けたら見慣れない靴が有ったから賊でも居るのかと思って」

 

賊が丁寧に靴脱いで盗みに入るかよ馬鹿、武器にクワ選ぶとか中世の農民かお前は。

 

 

「あの、この方は?」

「……白鳥歌野、勇者の一人だ。」

 

「え゛」

 

「どーもー。」

 

 

ヒラヒラ手を振る歌野を見て、低い声を出したかと思えば、芽吹ちゃんはぴしりと固まってしまった。

崇拝にも近い思いを抱いていた勇者の中身がこんなんじゃ無理もないか。

 

「この子どうしたの」

「憧れの勇者が想像より蛮賊で驚いてるんだろ」

「……今のは聞かなかったことにしてあげる。」

 

ごめん素で言っちゃった。

 

芽吹ちゃんの硬直が直るまでに、俺は歌野に事のあらましを伝える。

芽吹ちゃんが勇者になれなかった事や、何故勇者になりたかったのかが分からないことで悩んでいるのを説明すると、歌野は床に置きっぱなしの孫の手で芽吹ちゃんをぺちぺち叩いた。

 

やめなさいよ

 

 

「芽吹、だっけ。」

「―――あ、はい。」

「知ってる?人って想像以上に欲深いの。

貴女が仮に勇者になれても、いつか必ずその次が欲しくなる。次の次、次の次の次と、それは際限が無い。」

 

「……欲……ですか……?」

 

「そ、まあ『欲』だけじゃ良いイメージが無いだろうけど、私にもちゃんとあるのよ。欲。」

 

 

野菜栽培したい、畑耕したい、あとなんだ。破壊欲求?それは俺に向くからやめてくれよ……

 

 

「今の私がオススメ出来るのは、『多少無茶な将来設計をする』ことね。」

「無茶な、将来設計……」

「例えば私は農業王…………『世界一の農家になりたい』けど、当然今すぐはなれない。だからその『将来』を目指しながら、ちょっとずつ一歩ずつ前に歩いてる。

 

貴女もそれ(将来)を探すために、とりあえず一歩だけ……進んでみない?」

 

 

凄い、道理を無茶で蹴飛ばして壁を無理やりぶっ壊しながら進んでる人がまともなこと言ってる。

つまりあれだ、広大なメインミッションを設置しておいて、寄り道してサブクエ回るみたいなもんでしょ。

 

何か思うことでもあるのか、芽吹ちゃんは思案に耽る。歌野も面白いものを見る目で芽吹ちゃんを見ている。この子で遊ぶなよお前。

 

 

…………あれ。

 

 

「そういえば、芽吹ちゃんってどっから来たの」

「ゴールドタワーの方面ですが。」

「あー、宇多津町かぁ。そろそろ帰らないと遅くなるんじゃない?今日休日だから電車とかも混むよ?」

 

いつの間にかオレンジ色に染まっていた空を見て言うと……

 

 

「―――あ。」

 

 

本日何度目かも覚えていないすっとんきょうな声を出して、大急ぎで立ち上がってお辞儀をしてから玄関に弾かれたように向かっていった。

 

「すみません、本日はこれでお(いと)まさせていただきます!」

「えっ、ちょっ、待って?」

「あらー。」

 

はえーんだよこの野郎!

靴を履き始めた芽吹ちゃんに追い付いて、玄関に置いているメモ帳に走り書きして千切って渡す。

 

 

「はいこれ。」

「……これは?」

「俺の電話番号とメアド、何かあったらこれに連絡しなさい。出来る限り力になるから。」

 

まあ、期待しないでね。

 

 

「……あ、ありがとうございます」

 

「あー、芽吹ちゃん。」

 

メモを芽吹ちゃんの手に握らせて、そのまま頭に手を置いた。じんわりと、熱がある。

 

「芽吹ちゃんがめっちゃ頑張ってるのはわかったから、『頑張って』とは言わない。

でも無茶だけは、しないようにね。」

 

「―――――はい。」

「また来て良いから。」

 

一瞬ボケーっとしてから取り繕うように返事をすると、またお辞儀をして家から出ていった。背中が見えなくなるまで見送って、扉を閉める。

 

 

 

「……なんか、台風みたいだったな。」

「そうねぇ」

 

後ろに現れた歌野が、同意する。

あと脇腹をつねるんじゃねえ。

 

「台風みたいねぇ、あれ…………紅葉?」

「あー?」

「なんか前にもこんなことなかったっけ?」

 

 

……そうだっけ。こんな台風が目の前で発生するなんてのは人生の内に一度で十分だと思うんだけど、そこんとこどう。

 

「何時の話だそれ」

「前に私と紅葉と友奈の3人で飼い猫捜索に出たときなんだけど覚えてない感じ?」

 

そんな感じ。

 

んーーー、思い出せそうなんだけどあと一歩が足りない。

 

 

あ。

 

 

「スマホに写真とか入ってるかも。」

「なら見てみましょうか。」

 

俺がそう言って、居間に戻ってスマホのデータを確認する。俺と歌野と友奈ってことは勇者部の問題だから……多分2年に上がった直後くらいか。当時帰宅部の俺まで引きずり回すとか鬼だよな。

 

 

「なんで私の写真ばっかりなのよ」

「お前以外に撮る相手居なかったから。」

「後で何枚か消すからね」

「いーやーだー。」

 

 

 

……えーっと、2年に上がった直後だ、か、らぁ

 

「―――お?」

 

 

歌野とか野菜まみれの写真の中に一枚、6人で集まって撮られた集合写真が入っていた。身長差故に小学生であろう子供が下にいて、俺を真ん中に左右に歌野と友奈の姿が。

 

子供の方は真ん中に夏凜に近い灰っぽい髪色の男勝りな感じの女の子が居て、ミルクティーのような髪色の女の子と漆塗りよろしくな艶のある黒髪の女の子の腕を抱いて引き寄せている。

 

あんまり写真に写りたくない俺が仏頂面なのを除けば、5人は良い笑顔だった。

 

 

「これだよな、お前の顔に引っ掻き傷あるし。」

「飼い猫で命拾いしたわね、あの時の猫。」

「お前が言うと洒落にならんからやめろ。」

 

あー、色々と思い出してきた。そうそう、飼い猫捜索で走り回ってたら、雑木林から出てきたこの子らと衝突しかけたんだったな。

 

なんとなく黒髪の女の子に目が行く。綺麗なエメラルドグリーンの瞳に桜色に染まった頬と、万人が美少女と判定するのだろう事が良く分かるのだが―――

 

 

 

―――――え゛っ

 

 

 

「――こいつ美森じゃね?」

「―――この子東郷よね?」

 

 

 

 

俺と歌野は、同時に顔を見合わせる。

 

 

写真に写る黒髪の女の子。その子は、どこからどう見ても小さい頃の美森その人だった。

 

 





ゆゆゆいプレイ中「うたのんは可愛いなあ」
こっちの本編書いてる時「誰だこいつ!?」
読者もこう思ってると思う。

というか自分で出しといてなんだけど芽吹ちゃんめっちゃ扱いに困る。
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