前回の話はちょっと詰め込みすぎたかもしれない、反省。
「あーーーーー。」
色々とごちゃ混ぜになった感情を吐き出すように、ため息を吐く。俺は全部を思い出した。
鷲尾須美、三ノ輪銀、乃木園子。
あいつらと一緒に猫を探したことも、3人が大橋市から来たことも―――――三ノ輪銀に不思議と惹かれていたことも。
やだ、俺ってロリコン……? いや中2と小6ならギリギリセーフでしょ。だって『こいつも苦労してそうだな』っていう親近感があってさぁ……
―――まあそれはそれとして、だ。
「あの時の鷲尾須美が東郷美森だったとして、つまりあの3人は2年前の大橋市から俺達のいたあの場所の竹林にワープしてきたってことか?」
「そうなるわね。でも2年前なら私達の事を覚えてるはずじゃ……あ、そう言えば東郷って事故で記憶が……?」
2年前の大橋市に帰った後から今に至るまで……美森はともかく銀と園子の姿が見当たらないと言うことは―――
「あいつらも、勇者だったんだな。」
「……まさか東郷は須美君の時に満開を?」
「恐らくな。」
……あの時夏凜とこいつに推理を披露したときの情報が、こんな形で信憑性を帯びるとはな。
3人は大橋市に帰ったあと、後に何かしらの理由で戦闘中に満開をした。
それで足の機能と記憶を失って、その後鷲尾須美から東郷美森に改名して讃州市にやってきたのだろう。精霊が3体だったのは2度満開したからだと言うのが推理通りなら諸々の謎にも納得が行く。
「銀と園子が一緒にこっちに来なかったのは、記憶を失った須美を戦力外として避難させただけなのかはたまた……」
「言いたくないけど二人は―――死んだか。」
無音。
最悪の結末を想定し、二人の間の音が消える。
チリンチリンと言う遠慮のない風鈴の音が、俺達の意識を現実に引き戻した。
「……この件は調べようにも調べられないな。
一般人の俺と、勇者とは言え権力のない歌野ではどうしようもない。」
勇者に関することは大赦によって徹底的に規制されている。まさか図書館に記録が残ってる筈も無し、大赦に遣わされていた風とかの力を借りても見付けられるとは思えない。
「鷲尾家と三ノ輪家と乃木家を当たるのは?」
「聞いたところで知らぬ存ぜぬの一点張りで返されるに決まってるし、仮に死亡説が事実なら傷を掘り返す事になるから駄目だ。
―――家族が居ない事の痛みは、俺もお前も良く分かってるだろ?」
「……そうね。」
どん詰まり、これ以上は無理か。
はい、難しい話終わり。
切り替えてこう。
「確証もない事で悩むのはこれまでにしておこうか。まだバーテックスの生き残りの事もあるし、あと夏凜が帰ってくる前に飯作りたい。」
「貴方ねぇ……」
じゃあ代わりに作るか?って聞くと顔を背けられる。蕎麦茹でるのは俺より上手いくせになんで普通の料理だけからっきしなんだよこいつ。
「ところで、私達ってなんで須美君たちの事を忘れてたのかしらね?」
「お前と友奈は白昼夢として忘れようとしてたんでしょ、俺の場合は友奈の尻叩いたのバレて拷問されたのがトラウマになってたか。」
具体的になにされたんだっけ。
…………あれ?
「……俺は美森に何をされたんだ……?」
「思い出さない方が幸せなこともあるわよ。」
哀れむような顔で、歌野が俺の肩を叩いた。
や、やめろよ……恐くなってきただろ……
◆
9月某日。あれから友奈たちの満開の後遺症が治らないまま、俺たちは秋を迎えてしまった。
部室に向かいながら歌野と駄弁っていたら、率直な疑問を投げ掛けられた。
「紅葉って、名前からして秋とか好きそうだけどその辺どうなの」
「……俺桜とかの方が好きだぞ」
「名前が紅葉なのに?」
「だからだよ」
なんかセンスのないダジャレみたいで好きじゃないんだよね。お前紅葉なら秋とか好きなんでしょって、それ偏見過ぎるよ?
でも両親の名前なんて楓と椛だからなぁ。
そう言う星のもとに生まれちまったからには諦めるしかない。
とか言ってたら、部室前に到着。
ガラガラと扉を開けると、俺達以外の5人が既に来ていた。
「うーい、紅葉と歌野が来たぜぃ」
「ウィーッス!」
なんかチャラい感じで風が挨拶してくる。流れで夏凜以外が真似をして、歌野が困惑しながら返した。
「う、ウィーッス?」
「やらんで良いぞ。」
「んもぅ、ノリが悪いわね」
「眼帯着けてる間はそのキャラで行くつもりなの?」
「まあねぇ」
どうせ明日まで保てないだろうが見物だな。
「……んぶぇ」
「うわぁ。」
扉を閉めてから振り返ると、それに合わせて顔に何かがへばりつく。ひっぺがして確認するとそれは犬神だった。
目元がキリッとするかしないか以外では無表情だが、代わりに尻尾がパタパタ揺れている。
うわちょっと毛が口に入った。
「あぁもう、いーぬーがーみー?」
近付いてきた風にひょいと取られた犬神は、主人に逆らうつもりはないのか大人しくなった。だが続けて首に鎌鼬が巻き付き、頭に牛鬼が乗る。
「あわわわ、牛鬼ってば……」
「相変わらずの止まり木具合ね、あんたって。」
「お、重い……」
「頑張れー。」
「他人事だと思ってお前なぁ」
加えて木霊が頭に乗った牛鬼の上で跳ね、俺の周囲を四肢の燃えてる赤い猫と雲?に鏡がくっついたモノが飛び回る。
「(紅葉さんは相変わらず精霊にモテモテですね)」
「不思議なものね、私の精霊はあんな風にはならないのに。」
「うぬおおおおおおお……!うっ、とう…しい!」
手で猫と鏡を払い、木霊に跳ねるのをやめさせる。満開をした4人には精霊が追加され、友奈と風と樹が2体、美森が4体に増えていた。
多いなぁ。
……フォックスファーみたいになってる鎌鼬は空気を操れるのか、暑苦しくなくほどよく涼しい。こいつは剥がさないでおこう。
「あー、こいつら何だっけ。」
「私のが
「あたしのは……知ってるか、鎌鼬ね。」
「(私のは
「
「んで、合計12体か。百鬼夜行かなんか?」
演劇とかもうこいつら使えば良いんじゃないのかと思ったが常人には見えないようになってるから無理か。同じ事を考えていたのか、友奈が提案して美森にバッサリ切られていた。
「そういや風、こないだ頼んだやつ調べついた?」
「頼んだやつ?」
俺の質問に夏凜が疑問に思い、風はスマホを取り出す。
「調べて貰ったワ、メールがもう届いてたけど皆が揃ってから読むつもりだったの。」
「何を調べたのよ」
「精霊がやたら俺になつく理由。」
後ろから俺の右肩に顎を乗せる歌野に鎌鼬がウザそうにしている。風が読み上げるわよーと言って一先ずメールの文章に目を通すと、僅かに間を置いて顔を爆発させたように赤くした。
「……ヴェッ!?」
「うおっ!?」
「わあ、爆発した。」
「ふ、風先輩?」
「(お姉ちゃん?)」
「いかがわしい詐欺に引っ掛かったのでしょうか?」
「勇者端末がそんなポンコツな訳無いでしょーが。」
口々に反応するも、風は固まったまま動かない。
……なんだか嫌な予感がしてきたぞーう!
「…………あーーー、夏凜。」
「はいはい。」
風からスマホを奪った夏凜が俺にそれを投げ渡す。昔と違って滅茶苦茶頑丈に作られてるから壊れることはないが、念のため気を遣って受け止めた。
「へい、んじゃ俺が読み上げまーす。」
「……ふーん、そういうこと。」
後ろで覗いている歌野がさっさと黙読してしまったが、構わず読み上げる。
「えーっと、『精霊が勇者でも巫女でもない一般市民になつく理由の解析をし、現状把握できているだけでも報告します。
精霊は勇者にバリアを張って防御すると言う優先的な使命を持っている為か、勇者と深く繋がってしまう事がわかりました。
その為勇者の感情とリンクする事が判明。つまり愛情や友愛、好奇の感情が精霊に伝わった結果が精霊の行動に繋がっているのです。ただ、精霊には勇者に反抗しない程度の自我が存在している事もあり、単純に精霊の好みと言う可能性もあります。
更に分かったことがあった場合、追って連絡します。』
だって。」
いまだに固まってる風の様子を見に俺から離れた鎌鼬は風に近付いて鼻を鳴らす。
「あー、つまり、んー。」
「貴方比喩じゃ無しにモテモテだったのね。」
はい。らしいです。
スマホの画面を閉じて机に置く。
……ん゛ん゛。
「精霊の行動=勇者の感情ってことはつまり、風さんは犬神みたいな扱いを紅葉にされたいの?」
「わーーーーー!!わーーー!!」
フリーズから戻った風が、叫びながら寄ってきて俺の頭をボコボコ叩いてくる。
痛くないけどええいやめんか。
「前々から名前からして犬っぽいなとは思ってたわ。」
「わんちゃんの風先輩?」
「……イケますね」
「(お姉ちゃん……)」
「んな゛ーーー!!?」
どんどんポンコツ化が進む風は置いといて、他の精霊の行動を振り返る。
木霊がよく俺の頭の上で跳ねていたのは他の精霊に構っていた時が多いし要するに、遠回しに『私も構え』と言いたいのだろう。年頃の妹なら微笑ましいものだ。
牛鬼は……なんだろう、友奈って俺に
唯一の異性だから好奇心が勝ってるのかな?
義輝はわからん。と言うか夏凜からどう思われてるのかがわからん。
美森のは俺に全然なつかないし、他のだらしない部員に代わって警戒して
覚?心が読めるんならわざわざひっつく必要ないでしょ、以上。
「うんうん、風が俺を好きなのはわかったからおちつぐぇえ」
「だ、誰がアンタみたいな、デリカシーがない奴好きになるのよ!」
モンゴリアンチョップされた。
ははーん、照れ屋め。
まあ、これだけ誤魔化しとけば周りも茶化さないだろ。
風にガックンガックン胸ぐら掴まれて揺すられてると、聞けば不快になる嫌なアラートが鳴った。
「―――って、樹海化が始まる……!」
「うおぉ……、そんじゃ、行ってこい。」
「締まらないわねぇ。」
「パパっと終わらせて、演劇の準備とかしましょう!」
「そうね、それにこの延長戦で全部が終わる。」
「(がんばりましょう!)」
「まだ満開してない私と歌野でやっちゃってもいいのよ。」
夏凜がそう言って、俺を見る。
覚悟は決まったらしい。
俺も、そろそろ覚悟決めるとするかなぁ。
そう思ってまばたきをすると―――
―――次の瞬間には、俺は外に居た。
丸椅子に座ったまま。
……えぇ……?
◆
「延長戦、行くわよ皆!」
『はい!』
お姉ちゃんが言って、私以外が声を出す。皆を見ながら樹海化で世界ごと固まってしまった紅葉さんを見ると、悲痛な表情で顔が歪んでいた。
その事をお姉ちゃん達に伝える声も出せないまま私達は、まるで逃がさないと言わんばかりの光に呑み込まれた―――。
タイトル考えるのが面倒だからって前後編で話数を誤魔化すのはやめるんだ!