【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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更新が遅くて本当にすまない……文章捻り出すのに苦労してるのじゃ……


※大量の誤字脱字報告されちゃって恥ずかしくないのかよ?(自虐)



二十五話 犬吠埼風は勇者である・前

 

 

 

深夜。

大赦の車に乗った二人を見送った俺は、珍しく心配していたらしい夏凜と歌野にボコボコにされた後ゲテモノを平らげ布団に潜っていた。

 

 

「うぐおおおおお…………」

 

……胃が重い。

 

 

大量の蕎麦と煮干しとサプリが胃の中で核融合を引き起こしてる感覚だ。結構ヤバい。

これはその内……本格的に風と美森辺りに頼んで料理教室でも開くべきか……?

 

そんなことを考えて横になりながら胃を擦っていると、懐でかさ、と紙がこすれる音がした。

 

 

「あー、忘れてた。」

 

起き上がって、封筒を取り出す。良い子の諸君は着の身着のまま寝るのはやめようね。

 

 

「なんだこら……スマホのメモリーカードと、写真……?」

 

封筒の中身を布団脇の机に広げる。1枚の写真と、今のより遥かに古いタイプのメモリーカードが入っていた。

 

……このメモカ何時のだよ。

少なくとも100年前のやつとかそういうレベルじゃねえぞ、オーパーツかなんか?

 

「……これ入るかな。」

 

持ってたスマホの電源を落とし、メモカの差し込み口から普段使ってる方を抜いて形を確かめる。

 

「うわ入る。こわっ」

 

古い方は、最新機種のスマホに普通に入った。えー……ウイルス入ってたら嫌だな……

 

でも確認しないことには始まらないし、コンピューターに強い美森を叩き起こす訳にもいくまい。

最悪スマホごとぶっ壊す覚悟で俺はスマホを再起動した。

 

 

「……電源入るまで写真確認しとこ。」

 

 

起動中のスマホを置いて、裏返しになった写真を手に取る。

更に裏返して表である中身を拝見す―――――

 

 

 

「―――――な、んだ……これ…は……」

 

 

その写真には、6人の少女と、1人の男がいた。

少女達は花柄の浴衣を着ていて、男を交えた集合写真に笑顔で応えている。

 

青い浴衣に桔梗。

薄い紫の浴衣にアネモネ。

桃色の浴衣に桜。

黒い浴衣に彼岸花。

橙の浴衣に姫百合。

鮮やかな紫の浴衣に、紫羅欄花(アラセイトウ)

 

そしてシャツにジーパンにジャンパーとラフな格好をした―――

 

 

 

「―――俺、か。」

 

 

少女達に囲まれて写真に写っていたのは、見間違える筈もない俺の顔(先人紅葉)

 

 

 

 

 

『―――行きましょう? 紅葉さん。』

 

 

 

 

 

そう言って記憶の中のアネモネの少女が、俺に手を伸ばす。勇者である少女達の背中を見て足を止めた俺を、引っ張って自分の隣に歩かせた少女。

 

 

俺はその子を知っている。

 

俺は、全てを見ている。

 

俺は少女達を―――愛している。

 

 

 

「若葉、千景、友奈、球子、杏……ひなた。」

 

 

思い出したように、記憶が流れ込む。

 

だが、それは今までのものとは違った。その勢いは濁流と穏やかな川の流れくらい違う。

この緩く鈍い痛みに気持ち悪さや不快感は無く、寧ろ既視感が解消されたような、痒いところに手が届いたような―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――歯車が上手く、噛み合ったような。

 

 

 

 

 

 

 

―――カチリ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、私たちを呼び出して……どうしたの?東郷。」

 

 

友奈と美森、そして紅葉が乃木園子に呼び出された時から数日。美森は東郷家の自室に、友奈と風と歌野を呼んでいた。

 

「……夏凜ちゃんにも来て貰うよう言ったのですが」

「あいつ木刀振りに海岸行ったわよ。」

 

質問した美森に、歌野は自分の勇者端末を見せる。

 

そこには『大至急私の家に来て下さい』という美森のメッセージに、『訓練、無理。歌野よろしく。』と夏凜がメッセージを返していた。

 

 

樹だけは、満開の秘密を話すわけにもいかなかったという事で今は本屋巡りに行かせている。

 

 

友奈は歌野の額に薄く青筋が立っているのを、見なかったことにした。

 

 

「はぁ……それでは、本題に入ります。」

 

キィキィと車イスを動かして、美森はパソコンの置かれた机に向かう。

キーボードの傍らに置いてあった細長い棒を手に取って、3人に向き直った。

 

 

「――見ていてください。」

 

そう言って、美森は細長い棒―――短刀を鞘から抜いた。

 

「東郷……さん……?」

「っ―――馬鹿!」

 

一番遠くで様子見していた歌野が、何をしようとしているのかを見抜いていち早く反応し美森に駆け寄る。

しかしそれよりも早く、美森は自分の首を短刀で斬り付ける。

 

 

―――が、寸での所で美森の精霊である青坊主が、短刀と首の間にバリアを展開して短刀を防いだ。

 

当然だった。精霊は勇者を死なせないために存在してるのだから。

 

 

「アンタなにやって……! 精霊が止めなかったら――」

「止めますよ。精霊は、なにがあっても。」

 

風の言葉を遮るように美森は言う。

どれだけ力を込めても、バリアと言う障壁が美森の柔肌を切り裂かんとする短刀を遮って止める。

 

歌野は美森が膝に置いていた鞘を取ると、刑部狸がそっと手元から奪った短刀を受け取ってその鞘へと納めた。

 

 

「私はそのっち……先代勇者であり、私が記憶を無くすまで一緒に戦っていた仲間の乃木園子から真実を聞いてから、思い付く限り、出来る限りの方法で自決を試みました。」

 

「そんな……!」

「ごめんね、友奈ちゃん。 ……ですが、そのどれもが精霊に止められました。」

「いや、そりゃ止めるでしょ。」

 

呆れた様子で、歌野は机に短刀を置く。

 

「ええ、それは電源を切っていても、充電が無くなっていても―――今のように勇者システムを起動していなくても。

 

精霊はどんな時でも、勇者の死を防ぐ。

飛び降り、切腹、服毒。全部を防いだ精霊は、私たちをお役目に縛り付ける道具に過ぎないんですよ。」

 

「……貴女結構アグレッシブね?」

 

 

つらつらと自決の内容を述べる美森に、歌野は軽く引きながら返した。

 

「……つまり、どう言うことよ。東郷」

「風先輩。以前言いましたよね、満開の後遺症は治らない……と。」

「……それが、なに。」

 

少しずつ、風の顔が引きつる。美森もまた、苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。

 

言いたくない。でも言わなければならない。

 

覚悟を決めると、美森は無慈悲に現実を告げた。

 

 

「勇者はどうあっても死ねないんですよ。そして満開で少しずつ人間性を失い、決して治らず―――やがてベッドに寝たきりになって大赦に神のように扱われ祀られる。

私も友奈ちゃんも風先輩も樹ちゃんも、夏凜ちゃんも歌野さんも例外無く……いずれ、必ずそうなる。」

 

無音。静寂が場を支配し、風が膝から崩れ落ちる音で、友奈が正気に戻ると床に手を突いて俯いた風に寄り添う。

 

「そんな、樹の、声は……」

「風先輩!」

「あたしが……巻き込みさえしなければ……皆は、樹は―――樹の声は…………」

 

倒れそうなほどに憔悴し、肩を抱くように友奈に抱き締められる。涙が流れるも、左目から流れることはなかった。

 

 

「東郷。」

「……歌野さん」

 

歌野が、美森の前に立つ。

 

右手を握りしめ、静かに振り上げた。

 

 

「一つ、言い過ぎ。二つ、やりすぎ。」

「―――――えっ?」

 

 

ガゴン。と、金属を金槌で力強く殴ったような音がした。ギョッとした顔で友奈と風が音のした方を見ると、歌野が拳を振り下ろし、美森の顔が下を向いていた。

 

「いっ……っ―――!?」

「貴女なりに悩んだってのは分かるけど、言って良いことと悪いことがあるのも分かるでしょうが。私より賢いんだから。」

「―――……はい。」

 

「あー、全く。 精霊は勇者を死なせないようにする道具だって言うけど、守る対象が突然自殺おっぱじめたら誰だって止めるに決まってるじゃないのよ。

うちの(さとり)なんか家で漬物噛る以外特にやることないただの緑色のサルよ?」

 

 

補足しておくと、それはバリアを張る必要の無い立ち回りで戦う歌野のせい(お陰)でもあるのだが。

 

ガリガリと頭を掻いて、深くため息を吐くと、歌野は手を叩いて切り出した。

 

 

「……ここは一旦お開きにしましょう。 皆一度、頭を冷やさないと。」

「……私は行くところがあるので、すみません。風先輩をお願いします。」

「ん。 またぶん殴られたくなかったらさっさと行きなさい。」

 

そう言うや否や、車椅子を動かして部屋から出た。 一瞬美森は友奈と、友奈が支えている風を一瞥して――それでも動きを止めずに部屋を後にする。

 

 

「―――さて、どうしましょうかね。」

 

 

美森の部屋に、歌野の言葉が染み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のことを、犬吠埼風はよく覚えていない。

 

気分転換になるかとうどんを食べに店に寄った気もするし、樹を探して書店に赴いた気もする。

 

 

気が付いたら夕方になっていて、風はふらつく足取りで帰路を歩いていた。

 

ふと、勇者端末に通知が入る。確認すると、歌野からのメッセージが届いていた。

 

 

『風さん、貴女の顔、酷いわよ。 今は樹君を連れて八百屋巡りしてるから、帰すまでにどうにかしておいてね。』

 

「……歌野……」

 

立ち止まった風は、手早く端末を弄る。

自分のことと妹のお守りを兼ねた感謝の念を伝えるために。

 

 

『ありがと、歌野。 樹を頼むワ。』

『りょーかい。』

 

そう書いて、再び歩き出す。

 

だが、風の心が晴れた訳ではない。

 

「(東郷の言うことが事実なら―――もうあたしの目も樹の声も、東郷の記憶も、足も、耳も……治らない。 樹は歌手になりたいのに……友達とカラオケに行ったり、あたしたちと普通にお喋りだってしたいのに―――)」

 

 

どうしてこんなことに?

 

なぜ大赦は黙っていた?

 

何故、何故(なんで)―――――何故(どうして)

 

 

風の心に、穢れにも似たどす黒い感情が貯まる。心の奥から湧き出し、端末を握る手に力が入る。

 

頭を振って、()()を意識しないように切り替えた。

 

「(ああ、いけない。 とりあえず顔洗って……樹の好物でも作って気をまぎらわせようかしら……) ……あれ、紅葉?」

「ん?」

 

風と樹の暮らすアパートの近くを通る人影を見ると、その正体は紅葉だった。

 

片手に何か物を入れた手提げの鞄を持ち、シンプルなシャツとジーパンに身を包んで歩いていた。

 

 

「……アンタどうしたの?」

「お前を待ってたんだよ。」

「……からかうのはまた今度にしてくれる?」

「重症だな。」

 

ポケットからスマホを出しながら風に近づき、画面を見せる。歌野との会話のやり取りがあった。

 

『紅葉いまどこ』

『帰る途中』

『じゃあ、風さんの様子見てきてくれない?』

『なんで』

『ちょっと色々あってね、心配なのよ』

『……わかった』

 

と、書かれていた。

 

 

「まあ、見に来て良かったな、ひでえ面しやがって」

「……もう、心配性なんだから。」

 

はあ、とため息が漏れる。

 

部長思いのいい後輩が出来たな、という安心感と、そんな後輩に心配されてしまう不甲斐ない部長だな、という自分への無力感。

 

 

「……部屋、上がってもいいか?」

「―――ええ、良いわよ。」

 

紅葉の問いに、風は二つ返事で返した。

もしかしたら紅葉が、自分のこのどす黒い感情をどうにかしてくれるかもしれないと、一抹の願いを僅かに込めて。

 

 

 

 

 

パンパンに膨らんだ風船に、更に空気を送り込めばどうなるのか。わかりきった質問の答えを見るまで―――残り数十分。

 

 

ここが少女達の、ターニングポイントだった。

 

 

 





アニメ一期分はあと7~8話くらいで終わる予定です。


歌野はアレやねん、みーちゃんおらんしもっと竹を割ったような快活で男らしい性格にしたろ!と思って書いてたらこうなったんや。 …………なんで?
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