【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

71 / 138

祈りの歌を聴きながら読んで投稿者と一緒に地獄に、落ちよう!(死なば諸共)

更新が遅いのは他のゆゆゆ二次創作を読んだりゆゆゆいで忙しかったからだ。だが私は謝らない(天下無双)



二十六話 犬吠埼風は勇者である・中

 

 

 

夕陽がカーテン越しに部屋を照らしている風と樹の部屋に、紅葉は手荷物を片手に招き入れられていた。

 

荷物をテーブルに置くと、中に入っているものが硬いのか、カツンと金属のような音がした。

 

「それ何が入ってるの?」

「内緒。」

 

「教えてよ」

「やだ。」

 

手提げ鞄に伸ばした風の手をその都度叩いて止める。

 

「ケチ」

「ケチで結構。」

 

 

風は膨れっ面で台所に向かうと、お茶の用意を始めた。 紅葉は手持ち無沙汰になり、辺りを見渡す。

 

と。

 

 

「……これは……」

「あーそれ?」

 

近くの本棚に納められていた一冊の古いノート。 紅葉がそれを手に取ると、風がお茶を淹れたコップを持ってきて言った。

 

 

「2年くらい前に()()()()()()()()()()なんだけど、覚えてない?」

「―――ああ、そういえば……お前と俺が会ったの、讃州中学が初めてじゃなかったのか。」

 

パラパラページをめくると、手書きで様々な料理のレシピが書かれていた。 ノートの裏には、『先人椛』という名前があった。

 

「母さんのレシピ本、どこにも無いと思ったら……風に渡してたんだったな。」

「これにはかなり助けられたわ。 紅葉のお母さん、かなり研究熱心だったみたいでね、子供でも作りやすく食べやすい内容で―――ほんとに凄い。」

 

自分の母親のように褒める風を見て、紅葉は一瞬胸が締め付けられた。

 

紅葉と歌野と風と樹の共通点はたった一つ。 親が瀬戸大橋の事故で死んでいること。

 

紅葉が風を、風が紅葉を苦手としていたのは、親が居ない者同士の同族嫌悪からだった。 今ではそんなこともないのだが。

 

 

「最初に会ったの、かめやでだよな。 相席になった相手が風で、顔をしかめながら食ってたから不快だったよマジで。」

「あの時は……いっぱいいっぱいだったんだから仕方ないでしょ。」

「樹がコンビニの弁当食わねえからどうしよう、だっけ?」

「そうそう、当時は料理なんて一回もしたことなかったのよねぇ。」

 

ケラケラと笑い、お茶を飲む。

 

「あー、あのときアンタになんて言われたんだっけ。 ちょっと思い出しなさいよぉ。」

「……なんだっけな、確か…………『生焼けでも焦げてても良いから、手料理を食わせろ』。」

「そう、それよ! ……なっつかしぃなあ……」

 

しみじみと、噛み締めるように呟く。 ―――無理をしている。紅葉は直感で理解した。

 

今、風の心には亀裂が入っている。 選択肢を間違えて爆発でもされたら、紅葉に抵抗する術は片手で数えるほどしかない。

 

内心で冷や汗を垂らしながら、紅葉は全力で言葉を選んでいた。

 

 

「……にしても、どうするよ。 樹が帰ってくるまでなにもすることないぞ。」

「そうねぇ、それじゃ、アンタには晩御飯の用意手伝ってもらおうかしら?」

「まあ、いいぞ。」

 

風が冷蔵庫を開け、紅葉が立つ。

 

瞬間、待ち構えていたかのように電話が鳴った。

 

 

「あー、あたしが出るから。」

「ん。」

 

 

電話が終わるまで待つか、と、紅葉は着席した。

()()()()()()

 

自分の方が近いからと、無理にでも出たらよかった。 そうやって後悔するまで―――5分と掛からない。

 

 

「はい、犬吠埼です。」

 

そういって受話器を耳に当てる風。横目でぼーっとしながら見ていた紅葉は、相槌を打ちながら会話を進める風の顔がどんどん青ざめていくのを見て、反射的にスマホに手を伸ばした。

 

「(―――――不味い。)」

 

ぞわり、ぞわり、ぞわり。

 

首筋を、怖気(おぞけ)がなぞる。

 

 

過去に何度も感じた嫌な気配。

 

 

『大至急風の家に樹連れて帰ってこい』

 

メッセージが返ってくるのも待たないでスマホをポケットにねじ込む。 ガチャンと受話器を置いた風は、文字通りの顔面蒼白で紅葉に向き直る。

 

 

「……どうした。」

「えっ、あぁ……樹のオーディション、一次試験突破したって言うお知らせ。 樹が帰ってきたら、話さないと、ね……」

 

そう言ってぎこちなく笑うと、樹の部屋を開ける。 一応片付いてはいるが、机の上なんかは紙や筆記用具なんかが散らばっていた。

 

そして、パソコンが一つ。

 

 

「樹……の、オーディションのやつね……」

 

風がなんとなく、その音声を再生する。

 

 

そうして、破滅のカウントダウンが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パソコンを通して、暫く聞けていなかった樹の声が犬吠埼家の室内に響く。

 

オーディションでの録音で、自分の境遇や勇者部の事、歌が好きだと言うこと、歌手になる夢はまだ内緒だ(皆が知ってることは知らない)と言うことなど―――

 

 

風の崩れかけていたダムを破壊するには、あまりにも十分過ぎた出来事だった。

 

紅葉にとっての想定外、それはオーディションの通達が今日この日この瞬間に起きたことと、風が樹の録音を聞いてしまったこと。

 

 

そして、メールによって()()()()()()()()()()()()()()()()こと。

 

 

 

 

『では、歌います。』

 

 

 

 

その言葉を皮切りに、BGMが流れ始める。

 

 

「っ―――う……あっ、あぁ……」

 

風が嗚咽を漏らして、机に向かってきた。

そのまま机に倒れ込む勢いの風を紅葉が前から抱き止める。

 

 

「落ち着け、馬鹿なことは考えるな。」

「ああ、ああぁぁ―――――」

「大丈夫、大丈夫だ。」

 

背中を擦り、子供をあやすように叩く。

 

一瞬、ほんの一瞬。 風は落ち着いた。

 

このままこの人に身体を預けてしまおう、甘えてしまおう、眠ってしまおう。

その思考を理性で捩じ伏せ、勇者システムという感情を――――爆発させた。

 

 

「―――――ううう゛う゛うっっっあああああぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!」

「く、そっ……!」

 

変身によって発生した暴風に巻き込まれ、紅葉の体は一瞬だけ浮いて壁に叩き付けられる。

 

夕暮れの光を反射した花びらが、部屋に舞う。

 

 

オキザリスをモチーフにした勇者装束を身に纏い、凄まじい力を体に張る風が部屋の中心に居た。

 

埃を払って立ち上がった紅葉が言う。

 

「風、やめろ。」

「……紅葉」

「取り返しがつかなくなるぞ。」

 

風は紅葉を一瞥すると、窓に足を進める。 紅葉は、窓と風の間に立ち塞がった。

 

 

「どいて」

「何をするつもりだ?」

「大赦を、潰してやる……!」

 

「そんなことをしても、散華で失ったものは戻らない。 それは八つ当たりと言うんだ。」

「―――分かってるのよ、そんなことは。」

 

手のひらに爪が食い込む程に、力強く握り拳を作る。 紅葉は風が止まりそうにないことを再認識した。

 

 

「なら尚更通すわけにはいかない。 歌野と樹が帰ってくる前に変身を解いて、晩飯を作ろう。 一時の気の迷いで、あいつらに顔見せできない人間に落ちぶれるつもりか?」

 

紅葉の正論にたじろぐ。 だが、それで止まらせるにはほんの数分遅かった。

 

「紅葉―――――ごめん。あたしはどれだけアンタの言葉が正しくても、これで樹が悲しむとしても、嘘をついた大赦を―――あたし達を騙して生け贄にさせてきた大赦を(ゆる)すつもりはない。」

 

 

そう言った風は紅葉に一歩近づき、右手を握る。

 

「あたしの邪魔をするなら、少しだけ寝てて。」

「…………本気なんだな。」

「ええ。 ……ごめんね」

 

 

気絶させるつもりで、風は腹部を狙って拳を引く。 勇者としての力があれば一撃で眠らせられる。

 

そう考えて拳を突き出そうとした―――刹那

 

 

 

「っ―――!?」

 

 

視力を失って見えない顔の左側から、鈍い痛みを感じた。 思わず後退りすると、紅葉が顔の横で両腕を構える妙なポーズを取っているのが見えた。

 

紅葉が伸ばした右足を戻すのを見て、風はようやく『蹴られたのだ』と認識する。

 

肘を曲げ、両腕の外側を相手に向けて顔を守る盾のように構えたそれを、瞬時に伸ばす。

右、左とジャブが顔に刺さり、たたらを踏んだ風にだめ押しとばかりに左足の甲が顔面に叩き付けられた。

 

 

「かっ、あ―――?」

「…………()()()()友奈がやらねえ動きだ、お前もわからんだろ。」

 

「な、に、が……?」

 

 

「サバット。 わかりやすく言えば、フランスの喧嘩殺法とか古代ギリシャのパンクラチオンが混ざった格闘技だよ。」

 

 

未知の動きで、しかも戦える訳がないと高をくくった相手に攻撃を受けて混乱している風に、そんなことを言っても理解されるわけがないが。

 

安全靴でも欲しかったな、と、()()()()()足の様子を確かめる。 腐っても勇者。

精霊バリアが必要とされないと判断される程に、紅葉の攻撃は弱く、勇者の体は頑丈過ぎたのだ。

 

 

それでも()めないし、()めない。 足の痛みを無視して、ボクシングの動きも取り入れた我流のステップを踏み、動きを予見されないようにしながら風に接近する。

 

 

勇者の回復力は揺らされた脳と蹴られたことで耳鳴りのする左耳、そして鼻血が一筋垂れた鼻骨のヒビすら、即座に治癒させた。

 

だが風本人の混乱までは回復できない。

 

 

苦し紛れに見よう見まねの動きで、『ボクシングっぽい』構えから『ストレートっぽい』右手を繰り出す。

 

だがそれもかわされ、潜り込むように懐に入ると腹に膝蹴り。 そしてがら空きの(下段)脇腹(中段)、右側頭(上段)部に3発蹴りが入った。

 

 

「ふぅーーー。 お前を大赦本部には行かせない。 行きたきゃ俺を倒してみろ。」

「生意気言うな!」

 

横凪ぎの蹴り。

 

避けず、受け止めた。

 

 

「う、ごっ」

 

たった一撃で、紅葉の内蔵がシェイクされたように揺れた。 吐き気を抑え、膝を曲げて押し倒そうとする。

 

風がそれを勇者としての力で無理矢理に防ぎ、逆に足の裏で紅葉を壁際に蹴り飛ばす。

 

 

「(滅茶苦茶だが、歌野も言ってたな―――)」

 

 

風は満開を含め、ただただシンプルに頑丈で力が強い。と

 

事実、紅葉が蹴りを受け止めた脇腹は服で見えないが濃い青アザが出来ている。

 

満開を使わない限り飛ぶことが出来ない勇者は、代わりに脚力がどの部位よりも遥かに高い倍率で強化されている。

 

 

飛べないが、跳べる。

 

 

その脚力を蹴りに回せばどうなるかなど、誰だってわかる。 加えて言えば足の筋力は単純計算で腕の約3倍だ。

あと数発蹴られたら、高い回復力を持つ紅葉といえど、その体には後遺症が残るだろう。

 

 

「(はっ―――知るか。)」

 

 

その考えを、切って捨てる。

 

今紅葉に必要なのは倒す算段ではなく、どれだけこの場に風を引き留めておくかだ。

 

歌野が来るのを待てば、それだけでいい。 樹が目の前に居ても尚大赦を潰す等と言えるほど風は強くない。

 

 

壁を背にした紅葉に、風の拳が迫る。 紅葉はその腕に手を沿えて、ギリギリで軌道を変える。

 

拳が壁に突き刺さったことで、風と紅葉の顔が近くにある状態に。

 

 

「なんで……?」

「あぁ?」

 

ポツリと呟いた。

涙をボロボロ溢して、風は叫ぶ。

 

 

「……なんで、なんで―――なんで、なんでっ、なんで!!!」

 

「なんでなんでうるせえ、ガキかお前は!」

 

 

なんの躊躇いもなく、紅葉は風の顔に額をぶつける。 グシャッ、と、何かが砕ける音がした。

 

「おい、その程度か?」

「っ、っ……?」

 

 

砕けたような音がしたのは紅葉の額だった。

 

頭突きした本人である紅葉の額が裂ける程に頑丈な風の顔―――鼻は既に治りかけている。額から流れる血を袖で乱暴に拭うと、紅葉は続けた。

 

 

「お前の大赦への怒りはその程度か? 俺に止められる程度の怒りで、『潰す』なんて大層なことを言ったのかって聞いてんだよ。おいコラ。」

 

「―――黙れ」

 

「あ? なに?」

 

 

殴られ、蹴られ、鼻を砕かれ、煽られ。

 

流石の風も、とうとうキレた。

 

 

「ッ――黙れ!!」

「おごぉ」

 

肺から空気が抜ける間抜けな声がした。 風の不意打ち気味なタックルで再度壁に押し付けられると、紅葉は風に頬を殴られる。

 

「黙れ、黙れ、黙れッ!! こんな目に遭うのが、あたしだけなら良かった!! ふざけるな! なんで樹がこんな目に遭わないといけない!?」

 

殴られる。

 

 

「どうして夢を諦めないといけない!!」

 

殴られて奥歯が部屋の隅に飛ぶ。

 

 

「生け贄にされないといけない!!」

 

顎が揺れて、一瞬意識がトぶ。

 

 

「世界を救った代償が―――これかああああぁぁぁあああ!!!!」

 

鎌鼬が増えたことで使えるようになった武装である脇差を、手元に召喚して逆手に構える。 頭上に掲げたそれを、風は感情のままに振り降ろして―――

 

 

 

 

その脇差は、とっさに左腕を盾にしようとした紅葉の腕の前で止まった。

 

 

「犬神…………?」

 

それがどっちの言葉だったかは、わからない。 わかるのは風と紅葉の間に黄色く半透明の障壁が現れて、脇差が紅葉に刺さろうとしているのを防いでいることだけ。

 

 

犬神は、自分の意思で、自分から出て来て精霊バリアを張った。

 

 

本来、精霊に勇者以外を防ぐ機能も無ければ使命も無い。

 

()()()()()()()()()

 

大好きな主と、その友人を守らなければという、そんな考えならあった。犬神がしたことは単純明快、『外側から内側への干渉を防ぐバリア』の『出力する方向を反転させた』だけである。

 

 

つまり、バリアから外に脇差が出てこないようにして紅葉に刺さらないようにしたのだ。

 

 

脇差では防がれると考え、風は即座に脇差を捨てて紅葉の胸ぐらを掴み持ち上げる。

 

「ぐ、か……」

 

首が絞まり呼吸が出来ないままでも、三角絞めの要領で足だけでお返しとばかりに風の首を絞める。

 

端から見れば紅葉は風の腕にコアラよろしくしがみついているようにしか見えないが、二人からすれば互いの意識をいち早く絞め落とそうと必死である。

 

 

「うぐ、ぐ……は、なっ……せぇ!!」

「ごぉっ!?」

 

腕を振り回し、壁に何度も紅葉を叩き付け、やがて風は紅葉を背中からテーブルに叩き付けた。

 

テーブルが砕け、勢いをそのままに床に衝突。 それでも離そうとしない紅葉を、2度3度と床に叩き付け、叩き付け、叩き付ける。

 

 

「離せ! 死ぬわよ!?」

「殺してみろよ、風……!」

 

力が緩んで足を離しそうになった紅葉は、口から紅い血を泡のように吹き出しながらも風の首を狙う。

 

紅葉と言う鈍器をぶつけたことで、床には亀裂が走っていた。 風は紅葉を、そこに金槌を打ち付けるように、トドメのように本気で叩き付けた。

 

 

結果、床が粉砕され、脱力した紅葉は下の部屋に落下した。

 

 

「あ、が―――ぁ」

 

立とうとして、膝から崩れ落ちる。

 

やがて動かなくなった紅葉を見て――

 

 

「……寝てなさい。」

 

 

――風はそう言って、窓を開けた。

 

 

 

 





だから戦闘シーンは苦手っつってんじゃねーかよ(棒読み)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。