【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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感想で紅葉の安否の声が出てるけど、あのくらいで死んでたらゆゆゆ二次創作男主人公の名が廃るんだよなぁ……こいつ多分ヴァルゴさんの爆弾の爆風くらいならギリギリ耐えるぞ(直撃は流石に死ぬ)


あと今回書きたいこと全部入れたらすげえ長くなっちゃった(無反省)



二十七話 犬吠埼風は勇者である・後

 

 

 

 

自分の体からミシミシと嫌な音が響くのを体感しながら、紅葉は砕けた床と花びらの舞う空間で目が覚めた。

 

時間にして僅かに数分、枕のように使っていた破片の近くには持ってきていた荷物が転がっていた。

 

 

「壊……れるわけねえか、神器だもんな。」

 

そう言って鞄を掴み、部屋から出ようとする。

 

 

「……これどうすんだ。」

 

紅葉は自分の立っている部屋を見渡す。 生活感があるため、誰かが住んでいるのがわかる。 修理費を心配していると、風の部屋である上の階、穴の空いた方から声がした。

 

 

「うわぁ……酷いわねこれ。」

「……歌野か。」

「紅葉? 生きてる?」

「死んではいない。」

 

穴から下を覗く歌野と樹。 二人と目が合った紅葉の体は、生きているのが不思議な程にボロボロだった。

 

「―――!?」

「あー、平気平気。 心臓辺りを本気でぶん殴られたら流石に立ってられなかったがな。」

「相変わらず化物ね。 ……で、風さんは?」

「悪い、逃げられた。」

「は?」

 

悪びれた様子もなく、紅葉はあっけらかんと言い放つ。

 

「すぐに来いってメッセージ来たから急いだんだけど?」

「ならもう一働きしてもらおうかな。」

「貴方もしかしてトドメ刺されたいの?」

 

歌野の額にはわかりやすく大きな青筋が立っていた。 樹はおろおろして歌野と紅葉を交互に見る。

 

紅葉は外からサイレンが聞こえてくると、ため息を吐いて言った。

 

 

「とりあえず外で話すぞ、警察に見付かったら俺なんて職質されたあと救急車に押し込められる。」

「押し込められろ馬鹿。」

「はは、面白い。」

 

歌野と樹が部屋から出ていくのを確認して、紅葉もまた部屋から出ようとすると、ポケットのスマホが揺れた。

 

「……電話?」

 

よく壊れなかったな、とぼやいて電話に出る。 電話の先から、マイペースな雰囲気の声が聞こえてきた。

 

『もしもし~? 生きてる~?』

「さっきぶりだな。 死んではいねえよ。」

『それは良かったよ~』

 

緊張感がずれる変な感覚に襲われながらも、紅葉は通話を続ける。

 

「で、なんの用だ、今忙しいんだが。」

『知ってるよ、風さんが暴走したんだよね。』

「急に真面目なトーンになるな。」

 

間延びした声を出していた声の主である乃木園子は、電話の先で真面目な声を出すと言った。

 

『止めてって大赦の人たちにお願いされたけど断ったんだ~。 もーみん達に任せれば良いと思ったし、私の槍は仲間に向けるモノじゃないから~。』

「……それでいい。 あいつは俺たちで止めるから安心しろ。」

『うん。 あ、それはそれなんだけど、もう一つあるんだ~。』

「……なに?」

 

げっそりとした様子で、電話越しでもわかるほどにわかりやすく面倒くさそうな声で聞き返す。 そんな紅葉に、園子は淡々と言った。

 

 

『わっしーに壁の外の事とか全部話しちゃった~、ごめんね~?』

 

「―――――お前マジでふざけんなよ」

 

パキ、と、スマホの画面に亀裂が。

紅葉が本気で握り締めたせいである。

 

『だって、わっしーには聞く権利と知る権利が……義務があると思うんだ~。』

「……これで世界が滅んだりしたらお前……あの世で若葉とひなたに説教させてやるからな、神妙に覚悟しとけこの野郎。」

『わ~ご先祖様だよね~? 楽しみだなぁ~。』

「こいつ……いやここまで強かじゃないといけないのか……嫌な継ぎ方してるぞ乃木の血め。」

 

苛立たしげにスマホの通話を切ると、紅葉は手荷物片手に外に出る。

 

 

「最低限風を止めるのと、あと友奈と合流しないといけないのか。 ハードワークだな。」

 

まあ仕方ないか、と呟く。

 

 

 

()()()は『友奈』にしか使えねえ。」

 

荷物の中身を鞄の外から小突き、二人に合流してアパートから離れた。

 

 

「……あーこれどっか折れてるな。 全身が痛すぎて分かんねえけど」

「我慢しなさい。」

「結構な無茶言うよねお前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止まりなさい!!」

「―――っ……!」

 

4本の刀が、大剣を片手に跳躍している風に接近する。 大剣を振ってそれらを弾き飛ばすと、弾丸のように上空から降ってきた夏凜の蹴りを大剣の腹で受け止め落下した。

 

人気の無い道路に着地すると、夏凜は刀で大剣と鍔迫り合いする。 力で押し負け、数歩下がり片手に2本目を呼び出して構えた。

 

 

「あんた、自分がなにやってるかわかってるの?」

「――分かってるのよそんなことはァ!!」

 

離れた距離を詰めるように、刀を構えて突撃。 フルスイングを刀で受け止めようとするが、力の差を思い出して膝立ちの体勢で滑りその下を潜る。

 

風の後ろを取りつつ、すれ違い様に足の腱を狙う一閃。 それを犬神に防がれ、反転して立ち上がり背中を狙い再度刀を振るう。

 

()った。」

「―――うぉらぁ!!」

「な――がっ……!?」

 

 

風はバリア任せにノーガードで、振り向きながら全力で大剣を振った。

 

それは咄嗟にクロスさせた夏凜の刀を捉え、夏凜はピンボールのようにガードレールや道路をバウンドして吹き飛んだ。 数回転がって、ようやく止まる。

 

「う、が……」

『諸行無常』

 

 

チカチカと視界に星が明滅し、傍らに義輝が現れる。 夏凜の体を包む半透明の障壁が夏凜へのダメージを和らげたが、精霊バリアは衝撃までは防ぎきれない。

 

 

「……あぁ?」

 

ボヤける視界のなかで、夏凜は風の手が真っ赤なことに気付いた。 優れた嗅覚が鉄錆に似た臭いを嗅ぎ取る。

 

 

「……血……?」

 

 

 

―――バリアが出ない血の付き方なんて、一つしかない。

 

「あんたその手、誰を殴ったの……?」

 

 

苦虫を噛み潰したような顔をして、風は小さく言った。

 

「………………紅葉よ。」

「―――――は?」

 

 

一瞬、思考が止まる。

 

 

夏凜のその思考が再起動する頃には、夏凜はその手の刀の柄を砕けんばかりに握り―――

 

 

「あぐ……!?」

 

 

 

―――刹那、風が認識することすら出来ない速度で、首を狙った一撃が叩き込まれた。

 

 

犬神のバリアが無ければ、確実に風の首は切り落とされていただろう。 本気の殺意と本気の一閃に、冷や汗が流れる。

 

「速―――ッ」

 

 

「お前―――お前ッ……! それは、するなよッ……しちゃいけないだろ……!!

紅葉はっ……守る対象で…………傷付ける対象じゃ、ないだろうがァ!!」

 

「……夏凜―――!」

 

夏凜にとって、紅葉は逆鱗のようなモノだった。 守らなければならない存在で、友人で、家族。 それを守れなかったことと風が傷つけた事が重なって―――結果、夏凜は激怒した。

 

言葉足らずが引き起こした事態とはいえ、事細かに説明しても、結局は紅葉を傷付けたことに変わりはなく。

 

 

「―――――叩っ斬る。」

 

 

夏凜の姿を捉えていられたのはそれが最後だった。

 

 

胸部への突きを辛うじて防いだ次の瞬間には、背骨を断たん勢いで背中を斬りつけられた。

 

前のめりに倒れそうになった風の顔面に肘打ちが入り、肩に斬擊が叩き込まれる。

 

一切の手加減が無く、一切の情けも無い。

 

 

紅葉の攻撃によるダメージが想像より蓄積している事もあって、風の息が乱れ始める。

 

 

 

―――速すぎる。

 

と、子供のような簡素な意見が風の脳裏を過った。

 

 

速度が完全に負けている風が出来る事は、たった一つだけ。

 

「(―――真正面からの攻撃に合わせたカウンター……)」

 

 

ギリ、と、大剣の柄を握る音がやけに鮮明に耳に届いた。 自分の心臓の音、夏凜の斬擊をバリアが防ぐ音、夏凜が動くことで(かぜ)が揺れる音。

 

 

 

―――――。

 

 

真正面から来た場合だけを想定して集中していた風の視界に、夏凜の輪郭が入ってきた。

 

「こ、こ、だァ!!」

「―――斬るッ!!」

 

上から振り下ろされる大剣と、腹を捌く勢いの刀。

 

ふと、風と夏凜の目が合った。

 

 

『…………あぁ、その目は―――。』

 

 

大赦への憎悪、紅葉への後悔、樹への懺悔の色をした風と、風への憤怒、紅葉を守れなかった後悔、そして風を半ば私怨で斬っている自分への怒りを持った夏凜。

 

 

二人は、このまま行けばどちらかに精神的外傷(重いトラウマ)を負わせることを理解しつつも、止まれない。

 

バリアがあろうと体に障害が残る可能性すらある、本気の一撃。 それを止められる者は、今この場には居ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――()()()()()()()()()()

 

ズドンと、隙間を縫うように二人の間に着地した謎の人物。 土煙が晴れる前に、二人の体に壁()ぶつかってきた。

 

 

「が―――」

「うあっ……!?」

 

 

否、厳密には壁のような圧力。

 

防衛本能に従って振り下ろした勢いを利用し、大剣に体を隠せた風は、踏ん張ったアスファルトごと地面から体が引っこ抜かれて数十メートル後退した。

 

夏凜に至っては、軽い体が災いしてその壁のような圧力に押し出されて風と同様に、しかし地面を転がるように吹き飛ぶ。

 

 

「今度は……なによ……」

「つ、う…………友奈……?」

 

とん、と、()ねるように友奈と呼ばれた少女は夏凜の元に()ぶ。 夏凜の腕を掴んで立たせたその人物は、二人の良く知る友奈その人だった。

 

―――が、違和感を覚えた夏凜が質問する。

 

 

「あんた、友奈よね?」

「―――うん。 そうだよ?」

 

当然のように、決まった答えを返す。 夏凜が違和感を覚えた理由は、髪の毛と傍らの精霊。

 

友奈の勇者形態での髪色は、元のような赤色ではないし、友奈の精霊は、小生意気な牛っぽいのと燃えてる猫な筈で―――

 

 

 

片眼に眼帯をした龍の精霊は居なかった。

 

 

 

「……なんでここに……というかその精霊なによ?」

「うーん……最初の質問の答えは、これ。」

 

そう言って友奈は自身の端末を見せる。 そこには、紅葉からのメッセージがあった。

 

 

『夏凜と合流して風を止めろ、歌野と樹連れて向かう』

 

 

「……私と合流しろって言われてて、なんで私まで攻撃したのよ。」

「あー……んーと……け、喧嘩両成敗?」

 

夏凜は呆れた顔をした。 直後に、風への殺意が霧散していることに気付く。 良くも悪くも頭が冷えたらしい。

 

 

「……ま、反省したわ。 もうああならない。」

「ん、良かった。」

 

にへっ、と笑う友奈に、完全に毒気を抜かれる。

 

 

「んで、この精霊はなんなの」

「ああー……この子は一目連(いちもくれん)。 この体を借りてるついでにこっちも貸して貰ってるんだ。」

「この体……ってことはあんたは、友奈じゃない……?」

「―――――『友奈』だよ。『この子』も、『私』も。」

 

芯のある強い目付き。 それを疑うなんて事は出来ず、夏凜はそれが少なくとも『嘘ではない』と判断した。

 

 

「分かった分かった。 兎に角、風を止めるわよ。」

「うん。 無茶しないでね、夏凜ちゃん。」

 

一言二言交わし、風に二人で向き直る。

大剣を引きずるように持ちながら、苛立ちを隠さないで険しい面持ちで友奈と夏凜を睨んでいた。

 

 

「邪魔を、するな……」

 

「嫌だ。風さんのそんな顔、見たくない。」

 

「邪魔を―――するなァ!」

 

 

そうしてアスファルトに大剣を突き刺す。

スコップで土を掘り返すような感覚で、さも当然のようにアスファルトの一部をひっくり返した。

 

バットみたく振りかぶり、風は勇者の力によるアシストを以てそのアスファルトを二人に打ち込む。

 

 

「滅茶苦茶な……!」

「夏凜ちゃん、下がってて」

 

両手の剣を構えて対応しようとする夏凜を腕で制し下がらせた友奈は、一目連の力を引き出し体に纏う。 暴風が腕を覆い、追加パーツが片目を隠すように現れた。

 

その動きを1秒以下で終わらせた友奈は、右手を振りかぶる。 刹那、友奈の右腕がぶれたかと思えば―――――ボンッ、と言う音がしてアスファルトが消し飛んだ。

 

 

 

「―――は?」

 

とは、夏凜の声。 風は既にその場を離脱している。 アスファルトを壁に姿を隠すと、跳躍して居なくなっていた。

 

 

「……ありゃ、風さん居ない」

「――って、不味い、友奈!追い掛けるわよ!」

 

拳を突き出している体勢でフリーズしていた友奈は、夏凜の声で我に帰る。 端末で位置情報を見ていた夏凜は跳躍の体勢を取った。

膝を曲げて屈んでいる夏凜を脇に抱えると、友奈は風を追って跳んだ。

 

あり得ない速度で。

 

 

「うおおおおおおお!!?」

「夏凜ちゃんそれは女の子の出す声じゃないよ! あと口閉じて! 舌噛むから!」

 

ジェットコースターを遥かに凌駕する勢いで、景色が置き去りにされ、高度が上がって行く。

 

十秒と経たずに風に追い付くと、夏凜を更に上空へと放り投げ、友奈は『借りてる友奈の体』から火車を引き出す。

 

 

足に火車の力を纏い、一目連による暴風を利用して酸素を炎に取り込み文字通り爆発的に火力を引き上げ―――――

 

 

「―――風さあああああん!!!」

「なっ、友奈ッ!?」

「滅多にやらないけどっっ!!勇者ぁぁあ…………キィィィィィッッック!!」

 

 

―――――空中で体を捻り落下。 さながら隕石のような炎の塊となって風の盾に使った大剣と衝突し、果たして大爆発を引き起こして二人は瀬戸大橋記念公園に落ちた。

 

精霊バリアによって怪我も無く着地したが酷い吐き気に襲われグロッキーな風と、爆風を一目連と火車で和らげたが熱気でのぼせたような気分の悪さを味わう友奈。

 

前転するようにして着地の衝撃を消し地面に降りた夏凜は、埃を払うとフラフラの友奈を支える。

 

 

「ほら、借りてる体に無茶させない。」

「ご、ごめん、なさい……きもちわるい……」

「後は私がやるから、座ってて。」

 

 

夏凜が友奈の腰に手を回して、地面に座らせる。 振り返りつつ両手に刀を召喚して構えずに風を見た。

 

そこに慢心は無く、怒りも無い。 あるのは、部員を―――友人を止めなくてはと言う覚悟のみ。

 

 

「風。」

「夏、凜……!」

「この馬鹿野郎。」

 

 

夏凜は、友奈に止められた。

 

だから今度は、夏凜が風を止める番。

 

 

両手をスナップさせ刀の刃と峰の向きを反転させると、腰を落とした。 受けの姿勢は、『お前を受け止める』と言う覚悟の現れ。

 

三半規管へのダメージが回復した風は、大剣を両手で持つと刃先を夏凜に向けた。

 

 

「あんた、もう自分が何やってんのかも、どうすればいいのかも分からないんでしょ。」

「―――っ……」

 

奥歯が砕けるのではと言うほどに、噛み締める。

 

「だから、付き合ってやるわ。」

「………………あ?」

「あんたのストレス発散に付き合ってやるっつってんの。 イラつくんでしょう、ムカつくんでしょう。」

 

カツカツと足音をわざと出して風に近づく。

 

 

「壊したいんでしょう、そんな事ほんとはしたくないけど、やめたら今までしてきた事の否定になるから嫌なんでしょう。」

 

歩行から走行に代わり、地面に刃先を押し付けながら風に接近する。

 

 

「だから、私にぶつけろッ!! 受け止めてやる! あんたの全部を、あんたの全てを、あんたの憤りを!!」

 

「ッ―――ああ、あぁ、嗚呼…………っ!!」

 

 

ガリガリと引きずっていた、火花の散る刀を風に叩き付ける。 バリアが防ぎ、大剣をお返しに振り抜く。

 

刀で巧みに受け流し、防ぎきれない力を外側に抜くように弾き、隙間に体を滑り込ませるように避ける。

 

 

「どうせ、あんたの事だから、皆を勇者部に巻き込まなければ、なんて思ってるんでしょ!!」

 

 

言葉を句切る毎に、縦横斜めと正しく縦横無尽に刀を風の体に滑らせる。 斬擊ではなく打撃と言うこともあり、バリアを通して鈍く衝撃が残っては体の動きが強張る。

 

 

「はっ、馬鹿馬鹿しい! 何時! 何処で!! 誰がっ!! 『あんたに騙されて後悔してる』なんて言った!? 誰が『散華を黙ってた大赦が憎いから潰してくれ』なんて頼んだ!!」

 

「あああぁぁアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

「来いやああああああああああああああ!!!」

 

 

さんざん言われたい放題の風が、癇癪紛いに叫び大剣を上段に構えた。 夏凜が双剣を雄叫びと共に投げ捨て、招き入れるように両腕を広げる。

 

 

 

――――あと数センチで夏凜の頭をカチ割っていたとまでは行かずとも、脳に深刻なダメージを残していたであろう大剣は、突如として背後から巻き付いた鞭に止められた。

 

そのまま背後に引っ張られ、宙を飛び、風の意思に反して手元から離れたことで安全装置が働き花びらとなって消える。

 

 

邪魔をしたモノの正体を確かめようと振り返った風の胴体に何かがぶつかり、完全に不意打ちだった事で踏ん張れず、風は謎の物体を抱える形で仰向けに倒れた。

 

 

 

「……っつぅ……誰、よ―――」

「―――――…………。」

「………………い、つ、き」

 

 

風の中の復讐で燻り燃えていた炎は、瞬く間に鎮火した。 頭に上った血が普通の流れに戻り、サーッと思考が冷えて行く。

 

涙を流して嗚咽を漏らしているにも関わらず、声が出ない状態の樹が風の腰に抱きつき、背中に手を回して顔を腹に埋めていた。

 

顔を上げてそれを確認した風は深く重いため息をつくと、ゴンと後頭部を地面に打ち付けながら、樹の髪をくしゃくしゃっと撫でてから吐き出すように呟いた。

 

 

 

「……なにやってんだろ。」

「ほんとだよこの野郎」

 

すぐ横に人影。目線だけで見ると、その人物はつい先ほど徹底的に痛め付けた男だった。

顔は腫れ、鼻や口から血を漏らし、着ていた服の血は赤黒く乾いている。

 

 

「まだ、大赦憎しの潰したいって考えはあんのかね。」

「……ない。 と、思う。」

「あっそ、じゃあいいよ。」

「……ごめんね、紅葉」

「いーよ、許す。」

 

 

スッパリと許し、樹を抱き締めながら器用に起き上がった風を見て紅葉は微笑を浮かべる。

 

「痛かったでしょ、大丈夫……じゃないよね」

「はん、あんな腰の入ってないヘボいパンチが効くわけねえだろばーか。」

「あれ、貴方さっき『うわー肋骨折れてるかもこれ結構やべえ』とか言ってなかった?」

「触った感触的に亀裂で済んでるからノーカン。」

 

鞭を丸く巻いて片手で握る歌野が、金糸梅をモチーフにした勇者服を身に纏って現れた。

 

「いやしかし、勇者に担がれて運ばれるのはこれで4度目だが……良いね、風を切って跳ぶ感覚は。」

「……4度?」

「その辺の話は全部が終わってから追々してやるよ。」

 

 

のらりくらりと歌野の質疑をかわす紅葉は風たちから離れると、夏凜の前に立った。

怪我は無いが埃や土で、顔が汚れている。

 

 

「お疲れ。」

「全くよ。」

「ありがとな、俺の代わりに風とぶつかってくれて。」

「あんたの役目なんて馬鹿なこと言わないで。」

「そうかなあ?」

「そうよ。」

 

つっけんどんな態度で紅葉と会話をする夏凜。 言葉の端から、優しさが滲み出ている。

 

「ひっどい顔ね。」

「どうよ?」

「まあ、何時もよりは男前になったんじゃない?」

「そうだろうとも。」

「私も似たようなもんよ。 カッコいいでしょ?」

 

ふうん?と言うと、紅葉は夏凜に風が樹にしたような撫で方で髪をぐしゃぐしゃにした。

 

「うあっ、ちょっ、なに!?」

「『良く頑張りました』。めっちゃカッコいいぜ、夏凜。」

「…………っ……!」

 

滅多なことでは言われない、褒めの言葉。 夏凜が欲して止まない、魔法の言葉。 それだけで報われた、と思った。

 

それだけで、頑張れる。 とも思った。

 

紅葉は夏凜の尾てい骨付近でブンブン揺れる犬の尻尾を幻視しつつ、持っていた荷物を片手に夏凜から離れて今度は友奈に近付く。

 

 

「よう、ゆーうーなー?」

「ひぅ……も、紅葉くん……!?」

()()()()だなぁ? 300年ぶりか?」

「そ、そ、そう……だね……?」

 

若干顔を青くして、友奈は座ったまま器用に後ずさる。

その光景を見て、後ろの4人が疑問に思う。

 

「なんで逃げんだよ。 別に怒ってねえし」

「それ怒ってるときの言い方だもん!」

「分かってんじゃねえか。」

 

逃げられないように友奈の顔面を鷲掴みにすると、紅葉は言う。

 

「……お前ともう少し話してたい所なんだがそうもいかない。 そろそろ返してやれ、この後必要なのはお前じゃねえんだ。」

「…………うん。 分かってる。」

 

少し、惜しいような声色で。

友奈は目蓋を閉じると、だらんと力を失う。

 

素早く体を支えると、勇者形態の友奈の髪色が桜色に戻り、傍らを漂っていた一目連が消えて牛鬼が代わりに現れる。

きょとんとした様子で寝惚けたような声を出して友奈は言った。

 

「―――あ、紅葉くん。」

「お前どの辺まで覚えてる?」

「……ある程度? さっきまでの事は、覚えてる……かな。」

 

風を見て、夏凜を見る。 歌野はなんのこっちゃと首を傾げている。

 

「なら、話は早いな。」

「こっちは何が何だかなんだけど。」

「だから後で全部教えるっつの。」

 

 

痛みだの疲れだので憔悴しきっている紅葉は、余計な事を言う余裕すら無いらしく、手提げの鞄から荷物を取り出すと友奈に投げた。

 

「危ない!?」

「ナイスキャッチ。 それやるよ」

「もう……何これ――――籠手?」

 

 

友奈が呪詛のような文字列で埋め尽くされた奇妙な包みを剥がすと、中から右手に装着する金属の籠手が出てきた。

 

血を吸ったように赤黒いその形状は、友奈の腕に付けられた()()と非常に似通っている。

 

 

「これ、なんだろう……凄い力を感じる……」

「そりゃそうだろ、それ初代勇者の遺品だし。」

「…………え゛」

 

不意の一言に籠手を落としそうになるも、なんとかそれを防いだ。

 

「え、え?」

「西暦最後の戦いで、それを使ってた勇者が残したモノだ。 鬼の最強格である酒呑童子の力が染み込んでるわバラバラに砕けてたわで、300年経ってようやく元通りに出来たって訳。」

 

それを聞いていた全員は、思考を止めた。

 

 

『後で全部聞こう。』

 

 

そんな考えが、全員の中で一致していた。

 

 

「―――さて。」

 

やや平和じみた空気が流れ始めたとき、紅葉が話を打ちきって四国を囲む壁を見る。

 

「紅葉? どうしたの?」

「んー、あー……実はな……」

 

目線があちらこちらに動き、覚悟を決めると、深く息を吸って言った。

 

 

「…………美森が壁を破壊しに行った、これから敵が雪崩れ込んでくるぞ。」

 

『―――――は?』

 

 

樹と紅葉以外の全員が、同じようにすっとんきょうな声をあげる。 数秒経って、あまり聞いていたくない不協和音を鳴らしながら全員のスマホが現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『特別警報発令』

 

 





母の日になんか書こうと思ったんだけどネタが降ってこなかったのとか親居ない組と家庭環境劣悪のぐんちゃんをどう話に組み込むかで悩み、加えて時間が無かったから断念。





尚、一目連装備の友奈は拳の回転数を人知を越えたレベルで引き上げられるので、両手で500発ずつの千回勇者パンチを1秒未満でぶっぱなせます。

逆に言えば多少無理すれば片手で500発瞬時にぶちこんで壁みたいになった衝撃を相手に叩き込めるよね、と、どっかの誰かが発案した結果こうなった。

ちなみにそのどっかの誰か曰く、『これ妖怪じゃなくてハチドリだよね』とのこと。 相応にカロリー消費もやべーので良く寝て良く食べましょう。


この辺は独自設定だから気にしないで。
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