【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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夏凜って何故か声が低いイメージあるんですよね、Blu-rayBOX買って見たら結構高くて驚いたけどそんなもんかなぁ。

ちなみにこっちの夏凜と歌野は声高くないです。



二十九話 三好夏凜は勇者である・後

 

 

 

 

 

「っ、ッ―――ああ゛あ゛!!」

 

 

額を伝って落ちた血液よりも早く夏凜は動く。 射手座の矢が自分の身体を樹海に張り付け標本にでもする前に、その場から脱出した。

 

その速度を維持して夏凜は刀を握り蠍座に飛び掛かる。 上から振り下ろされた尾を避け、再び振り下ろそうと持ち上げたその尾に刀を突き刺して宙ぶらりんになった。

 

 

「フゥーーー……! フウゥーー……!」

 

荒れた息を整え、雑に片手で鼻血を拭う。 自分の身体を守るバリアが消えたという事実は、夏凜を苦しめることはなかった。

 

なにせ精霊バリアと満開を実装したのは『おさがりの持ち主』が死んだ事が理由になっているのだから、昔は無い方が当たり前だった。 その事実が夏凜の思考を無理矢理に冷まさせていた。

 

 

「―――ぜぇえええいッ!!!」

 

2度の満開で急激に力が増幅している夏凜の刀による一閃が、蠍座の尾を半ばから両断する。

 

落ちた尾を足場に夏凜は着地すると僅かな硬直を狙った矢が降り注ぎ、夏凜の両手に召喚され投擲された刀と接触し爆発。

 

 

 

 

 

―――が、あらぬ方向に弾かれた矢の一部が蟹座の反射板に触れた瞬間再加速し、肩の一部を抉り抜いた。 撃ち抜かれたのが外側だったことが幸運と言う他無い。

 

 

「あ゛がぁ……!?」

 

 

訓練された勇者とはいえ、今まで受けたことの無い痛みとすら言えない感覚。 神経を直接弄られているかのような刺激に一瞬意識が途切れる。

 

 

「……んぅう゛!」

 

しかし、夏凜は頬の内側の肉を噛み千切ることで痛みを塗り替え意識を保つ。

 

「…………ぺっ」

 

 

べちゃりと水分を含んだ音を立てて、夏凜の頬と血の混じった肉が樹海を汚す。 肩を見て、手を握り、まだ刀が握れることを把握した。

口から垂れた血を拭い、バーテックス達を睨みながら、戒めるように言う。

 

 

「私は……皆と……帰るんだ……!」

 

 

刃こぼれした刀を消し、新たに2本召喚して両手に持つ。

 

 

「皆を……守るん……だ……ッ!」

 

 

 

蠍座の尻尾が再生した。

蟹座の反射板が夏凜を囲った。

射手座が口を開き光を溜めた。

 

 

痛みと緊張感による極限状態の夏凜の口から、乾いた笑い声が溢れる。

 

 

 

「―――――は、は……ははっ……ッ!!」

 

全方位から、夏凜目掛けて矢が撃ち込まれた。

 

「―――――死、ね、る、かぁぁぁぁぁアアアア゛ア゛ッッ!!!」

 

 

爆発的な脚力を利用して、夏凜はあえて、3体の懐へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし、仮に。

 

 

バーテックスに意思があったなら。

 

バーテックスに表情があったなら。

 

 

恐らくは驚愕の表情を作り―――――こんなことを考えた事だろう。

 

 

 

『なんなんだこの(お前らが言うな)化物は』 ―――と。

 

 

 

 

 

都合数分。精霊バリアを失い、肩の一部に穴が空き、確実に追い詰めている筈の人間一人を3種類のバーテックスは殺せないでいた。

 

 

「ーーーーー、ーーーーー。」

 

呼吸は荒くなるを通り越して最低限の動きになり、しているかどうかもわからないほど静かになっている。

 

 

そして、凄まじい速度で刺突する蠍座の針が腕を掠める。

 

触れただけで皮膚が爛れる猛毒にも関わらず、()()()()()()()()()に焼かれてその猛毒は夏凜の身体を蝕む暇もなく消え失せた。

 

続けざまに反射板によって前後左右上下斜めから撃ち込まれる矢をも紙一重でかわすが、杭のようで巨大な一本の矢が迫る。

 

夏凜が静かに刀を添えると、その矢は夏凜を避けるように中心から真っ二つに割れ、速度を失って海に落ちた。

 

 

消耗し切った体の最小限の動きと力を以て、夏凜は本来であればとっくに勇者が10人は殺されていたであろう攻撃を避け続けていた。

 

 

 

「………………あつい……」

 

 

()()()()で、蠍座と射手座と蟹座を見て呟く。 右の目蓋が切れ、血が流れる事で右目の視界を潰されていた。

全身は血に濡れ、最早夏凜は自分の何処が赤くないかもわかっていない。

 

体はふらついていて、血が足りずに思考が巡らない。 故に、夏凜の体はとうに限界だった。 攻撃が直撃すれば間違いなく死ぬ。

 

しかし夏凜は倒れない。 血が出る前より深く踏み込み、血が出る前より簡単に攻撃を避けた。 体内をマグマが駆け巡っているのではとすら思えるほど、心臓が、血液が、思考が燃え盛る。

 

 

 

「ごぼっ―――あんたらには、分からないでしょう…………この、力……」

 

 

 

―――否、比喩でも何でもなく、夏凜の身体の内側は燃えていた。

夏凜はそれを認識できていないが、吐き出した血の塊が沸騰しているのが証拠だ。

 

 

だが今の夏凜に碌な思考回路は無い。 精々、『蠍座なのに毒とか無いのか……』と考えているくらいだ。 実際は毒が体に入っても回る前に焼き尽くされているだけなのだが。

 

夏凜は自分の勇者端末が三ノ輪銀のおさがりと言うことは知っているが、三ノ輪銀が『精霊の補助もなく単独で武器に炎を点火させることが出来る』事までは知らないのである。

 

 

 

そう。 ()()()()()()()()

 

どういうギミックで、どういう条件で、どうやって炎を灯しているのかを二人の赤い勇者は一切理解していない。 『出来たから使ってる』としか言えないのだ。

 

 

ただ、発動条件の一つと言えるのは恐らく感情の噴出。 三ノ輪銀がバーテックスへの怒りを噴火させるタイプなら、三好夏凜は内側でマグマのように煮え滾らせるタイプ。

 

だからこそ、夏凜は毒を受けても即座に焼失させる事で無効化させるという人間離れした方法を取れていたのだが。

 

 

 

尾針による刺突を身体の軸をずらして避け、針と尾の繋ぎ目を刀で縫い止める。 尻尾を駆け登り、人間で言う顔の部分に斬撃をお見舞いしてから蟹座へ向けて跳躍。

 

「これこそが、私達人間の―――――」

 

 

蟹座の反射板二枚での挟み込みを片手の刀をつっかえ棒にして防ぎ、隙間を潜り抜けて一回転して遠心力を加えた一撃を叩き込む。

両手に2本持ち直した刀を突き刺し、射手座に向かって跳躍するついでに爆破させておく。

 

血を吐きながら、口を開いて光を溜める射手座を見る。

 

 

「げぶっ……き、あい、と―――」

 

 

射手座の放つ横向きに降り注ぐ矢の散弾に、夏凜の姿は埋もれる。 死ぬ寸前で発揮された危機回避能力と片目だけに集中させた動体視力と脊髄反射で、夏凜はその悉くを避けきった。

 

当然の話だが、()()()()()()()()()()()()()()()は不可能である。

 

 

「こん、じょう……ッ!!」

 

 

錆びた人形のような挙動で、射手座は矢を連射する口を閉じる。 逆に片方の口を開くが、場所がちょうど夏凜が立っている位置で、夏凜の足元から巨大な一本の矢が撃ち込まれた。

 

「がッ―――あああ!!」

 

寸での所で、夏凜と矢の間に刀が挟まれていた。 真上に花火のように打ち上げられ―――――突如、防いだ矢が腹部に突き刺さる。

 

「―――――ぁ」

 

バンッと、閃光手榴弾が破裂したような音。 刀を通して伝わった重さが消え、身体のあちこちに小さく尖ったなにかが入り込む異物感を味わい―――ふと、反射的に夏凜は顔を引いた。

 

そうした夏凜の顔右半分に、爆発してバラバラに砕け、至近距離で打ち出された小さな矢の破片が刺さる。 顔を引いていなければ、顔の右半分どころか頭部が無くなっていただろう。

 

 

 

「―――ううああああ゛あ゛!?」

 

空に、夏凜の悲鳴が木霊した。

 

 

 

バーテックスとは、進化する存在である。 星屑から融合体へ、そしてそこから更に進化して、12星座を模した体を手に入れた。

 

だが、そこで終わらないのがバーテックスだった。 人間が何百年と時間を重ねてようやく行える『一種族の変化』を、()()()()()()()のだ。

 

 

 

夏凜にどんな攻撃も防がれ避けられるのなら―――――単純な話だ、絶対避けられない攻撃をすればいい。

 

 

 

さしずめ、先ほど撃ち込んだ巨大な矢は地雷だ。 中にぎっしりと連射時の矢を詰め込むことで、辺りにばら蒔き大なり小なりダメージを与える即席の攻撃。

 

本来なら精霊バリアに簡単に防がれる攻撃だが、その精霊バリアが無いなら十分な攻撃になりうる。 瀕死の夏凜相手なら尚更効果的で、だからこそ、それで夏凜を殺せなかったのが射手座の敗因なのだろう。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

打ち上げられた夏凜は落下するなか、思考が纏まるようになり辺りがスローになっている事に気付く。 走馬灯か。 と、自然に考え付いた。

 

 

「(ああ、これで終わりかぁ。 死ぬ気で頑張って……それで死ぬ。 あっさりしてるなぁ……)」

 

顔の右半分の感覚は消えていて、最早痛みすら無い。 ただそれ以上に、心が痛む。

 

 

 

―――心臓が鼓動する。

 

 

――――魂が、燃える。

 

 

―――まだ、死ねない。

 

 

 

「(これで終わりなんて、そんな訳には―――いかないでしょうが……っ!!)」

 

脳裏に、勇者部の6人の姿が過る。

 

帰る場所が出来た。

死ねない理由が出来た。

守りたい奴が出来た。

 

「(動け、動けっ、動けぇ!! 勇者だろ!! 勇者は……気合いと……根性だろ……ッ!!)」

 

 

されど、体が死にかけている事に変わりはなく。 バーテックスの攻撃なんて受けずとも、そのまま樹海に落下すれば死ぬ。

 

 

「(…………無理、か。)」

 

 

 

死を悟り、まぶたを閉じる夏凜の耳に―――

 

 

『気合いと根性、良いこと言うじゃん。 でもさ、あと一個足りてないんじゃない? こーはい』

 

 

―――男勝りながらも明るい声が届いた。

 

死ぬ寸前の幻聴かと決めつけ、声に応える。

 

 

「(あと一個ってなによ……)」

『そりゃお前さん、あれよ。』

「(だからなによ。)」

 

からかうような言い方にイラつきを覚えるが、それをなんとか飲み込んで夏凜は言葉を待つ。

 

『気合いと来て、根性と来たら一個しか無いだろ? それはこーはいも分かってると思うぜ』

「(―――――ああ……)」

 

 

なんとなく、『それもそうだな』と思った。 実際はそんなもの知らないが、夏凜は兎に角、不思議と、それを理解していた。

 

夏凜がまぶたを開くと、止めを刺そうと射手座が再度巨大な矢をチャージしていた。 左肩の満開ゲージが満タンな事を確認し、空中で体勢を整え刀を握る。 夏凜はまだ、戦えるのだ。

 

 

『さあ、見せてやろうぜ! 化物共には絶対に分かりはしない、アタシ達人間様の―――』

「(気合いと……!)」

『根性と―――ッ!!』

 

 

夏凜の背後に、サツキ()()()が咲き誇る。

 

 

「『―――――魂って奴をおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」』

 

 

全身を紅蓮の炎が包み込む。 射手座が放った矢を、炎の中から伸びた4本2対の追加アームがその手に握る大太刀で四方に切り裂く。

 

加えて背後に折り畳まれていた腕が伸びると、その手には、巨大な半円の大斧があった。

 

自由落下の勢いを乗せ、射手座を縦に真っ二つに切断する。

 

御霊を出す必要もない。中に有るまま外から切り捨てれば良いのだから。

 

 

『アタシとこーはいに……勝てると思うなよ!』

「頭ん中で叫ばないで、体に響く。」

『あ、わり。』

 

 

夏凜は、端末との完璧な適合を以て本当の満開を果たしていた。

 

 

満開による飛行能力で蟹座に詰め寄り、その途中で第三の腕に握らせた斧をぶん投げる。

 

咄嗟に反射板を盾にした蟹座のそれに、斧は深々と突き刺さった。 6枚あったにも関わらず、重ねられた反射板を貫いて、蟹座の丁度御霊のある部分に半ばがめり込む。

 

 

「勇者―――――パンチッ!!」

 

追加アームの斧を投げた手で拳を作り、蟹座に突き刺さった斧の先端を全力で殴る。

 

ボシュッ、と呆気ない音を立てて、内側の御霊を貫通して背後から飛び出た斧は、炎に包まれて消え再度追加アームの手元に現れた。

 

 

「あと一体……」

『ぼさっとすんな! 後ろだ!』

「っ―――!?」

 

幻聴に促され、一瞥もせずに第三の腕を折り畳み、大斧を盾にする。 直後、とてつもない衝撃が背中を襲った。

 

 

「ぐッ―――!!」

『気張れよこーはい、こいつシンプルに強いからな。』

「分かってるっつーの……!」

 

 

振り返りつつ、4本の大太刀で再度突き刺そうと迫ってきた針を弾く。 ()()()()()()()()しなる尻尾を見て、夏凜は驚く。

 

 

「こいつ……歌野の技術を取り込んでる……!?」

『伊達に頂点は名乗らないわなぁ。ま、大丈夫だろ。』

「は?」

『あんたはこいつより速い。』

 

「―――――そう、ねッ!!」

 

 

上からの叩きつけに、夏凜は4本の大太刀による膾斬りで答える。 刹那の内にバラバラにされた蠍座の尻尾を見て、幻聴は驚愕した。

 

『すっげぇ……アタシのこーはいヤベーな。』

「化物扱いはやめてくれない?」

 

そうは言うが、夏凜は瀕死の体である。 ただ気力のみで動き、会話している人間を化物と呼ばずに何と呼ぶのか。

 

 

だが、夏凜が戦えている理由は、ただ気合いと根性で動いてるからではない。 かつての英雄……桔梗の勇者の言葉を引用するのなら―――――

 

 

 

『人は、守るべきものの為なら無限に強くなれる』

 

『守るべき人のためなら、どれほど傷つこうと戦うことができる』

 

 

 

―――――だろうか。

 

 

 

「―――見てなさい、三ノ輪銀。」

 

都合5回、すれ違い様の一閃で、夏凜は蠍座の全身を大雑把に切り捨てる。

一撃で武器が破損する威力を叩き込み、腕のうち4本をパージして、残った1本の大太刀を追加アームの2本で構えた。

 

「―――私の……完成型勇者の、実力をおおおおおおおおおおおおおおおおォオオオオオオッッッ!!!!!」

 

 

道を作ると、友奈に誓った。

 

またね、と、友に約束した。

 

 

―――――大好きな人が居るのだから、勇者は絶対に、負けないのだ。

 

 

御霊の入った部位を残して佇む蠍座に、全力の一太刀をぶつける。 まるで豆腐に包丁を通したかのような一撃を最後に、夏凜はバーテックス6体を殲滅して見せた。

 

樹海の根に着地した夏凜の体から、満開による追加アームが消える。

 

 

『……よく、頑張ったな。』

「あー……ああ、東郷を……止めないと……」

 

幻聴の労いを余所に、夏凜の足は壁の外に向かおうとするが―――足から力が抜け、倒れ込む。

 

 

「……無理。 燃え尽きた。」

『おう……ほんと、よく頑張ったよ。』

 

仰向けに倒れた夏凜から、視力が消える。 3回目の満開は、夏凜から残された左目の視力を奪い取った。

 

それでも壁の向こうを見て、辛うじて残った力を振り絞り、拳を突き上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「友奈……()()……()()―――――勝ったよ。」

 

 

そう言って樹海の根に紅い花のような血溜まりを作った夏凜は、その中心で眠るように意識を手放した。

 

 






赤い勇者、勇者キラーへのリベンジ完了。

全身の大量出血・顔右半分に矢が突き刺さる・銀の使ったシステムを無理矢理引き出して体の内側が加熱される・追加アーム6本の同時操作で脳に負担。 自殺RTAかな?



オリ設定

満開・シロガネ

通常満開の追加アーム4本と大太刀に加え、背後に亀の甲羅のように展開される大斧を握った第三の腕を増設している姿。 ビームのような攻撃と大量の刀を発射する攻撃が使えなくなる代わりに、斧の威力は大太刀より大きく、また半円のため投げる際に軌道が安定する。

ただし発動条件の1つが勇者システムによる炎の点火で、夏凜の場合は体内を常に加熱し続けている故に血液が沸騰している。 追加アーム6本の同時操作と合わせて脳への負担が尋常ではなく使えるのは数分が限界。
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