【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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情報過多で混乱するだろうけど頑張って下さい(他人事)




三十話 ■■友奈は勇者になる

 

 

 

 

 

「う……あぁ―――」

「友奈ちゃん!?」

 

 

太陽と化した獅子座―――レオ・バーテックスを押さえていた友奈と美森。 突如として力を失い、満開が強制的に解除され、変身すら解除された友奈が地面に落下する。

 

美森の叫びが響き、精霊バリアに守られた友奈はかろうじて地面に激突するのを逃れた。

 

 

 

「っ……はっ、はぁっぜっ……ひゅっ……!?」

 

一瞬肺が止まったかのように激しく咳き込み、必死に酸素を取り込もうと荒く呼吸する。

 

「……あ、足、が……」

 

 

再び立とうと足に力を込めるが、友奈の両足はピクリとも動かない。

 

 

満開した勇者同士の戦闘に、背中に追加されたアームの無理矢理なパージ。

 

無茶な行動を繰り返し、止めに獅子座を食い止めようとした事が重なり、友奈の散華は一度に二度行われていた。

 

 

―――左の肺と両足

 

 

これで記憶でも失えば、東郷さんとお揃いなのかな。 と、友奈は場違いな事を考えていた。 足が動かないが、それでもなんとか座り込む。

 

 

「東郷さん……ごめんね……」

 

友奈の記憶から、美森の言葉が呼び起こされる。

 

 

 

 

 

『一番大切な友達を守れないのなら、勇者になんかなる意味がない!』

 

『大切な気持ちや思いも忘れちゃうんだよ!?』

 

『友奈ちゃんや皆のことだって忘れてしまう……一番大切なモノをなくしてしまうくらいなら……』

 

『忘れない、忘れたくない……きっと私も、そう思ってた……』

 

『私はもう―――自分の涙の意味が分からないの……!!』

 

『嫌だよ! 怖いよ! きっと友奈ちゃんも、私のことを忘れてしまう……!!』

 

『銀が死んで……そのっちがああなって、友奈ちゃん達まで生き地獄を味わうくらいなら―――――こんな世界終わってしまえば良い!!』

 

 

 

 

 

自分の気持ちを押し込めて、他人を優先していたのは―――――なにも友奈だけの話ではなかった。

 

もっとも、記憶を失い足を動かせなくなった年頃の少女の心境を理解しろなんて事は不可能なのだが。

 

 

「『絶対』忘れないなんて、無責任だよね。」

 

 

美森の両側に、風と樹が満開した姿で同じように獅子座を止めようと踏ん張っていた。 ほどなくして、髪の色素を失った白髪の歌野が獅子座の停止に加勢する。

 

夏凜は居ない。 ここにいる全員が認識できない程に離れている場所で、つい先ほど死闘を終えて眠っているからだ。

 

 

「東郷さん……夏凜ちゃん……紅葉くん……」

 

震える手で、勇者端末を握る。 足を奪われたショックもあり、友奈の体が無意識に変身を拒否していた。

 

 

「痛いのは怖いよ、怖いのは嫌だよ。 私は……勇者になりたかった。 勇者になれば、どんなモノも怖くない、勇気のある人になれると思ってた……。」

 

 

結城友奈の本質は、争いや災いを忌避する臆病なものだ。 ムードメーカーを演じているうちに、それが演技であると友奈自身が認識しなくなっていただけ。

 

苗字が結城(ゆうき)なのに勇気のある人間では無かった事が、本人の密かな悩みであり―――『勇者パンチ』等の叫んで殴るというのは、友奈なりの『ゆうき』の出し方だったのだ。

 

 

「ごめんね、みんな…………私、もう、頑張れそうに……ない…………」

 

 

だが、もう、流石の友奈でも限界だった。 親友の謀反、終わらない戦い、失って行く人間性。

 

無意識下のムードメーカーとしての振る舞いがほんの僅かずつ精神を削っていた日常に、世界の命運を賭けた戦いを強制される非日常。 平気でいろ、なんて要求はあまりにも無情で―――

 

 

「……あ、これ……」

 

その時、腰に吊るしていた赤黒い籠手がカランと音を立てた。 手に持った友奈は―――――それを嵌めた。 そうしなければならないと、本能が理解していた。

 

右手にピッタリと納まった籠手は、元から友奈の物だったのではないかとすら思える。

 

 

そして。

 

 

 

 

 

「あっ―――――がッ!?」

 

 

脳がスパークしたように刺激が弾け、友奈の意識は一瞬でシャットダウンした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に友奈が目を覚ましたとき、眼前に広がるのは、直前と同じ樹海化した四国の光景だった。

 

ただ―――

 

 

 

「……あの人たちって……」

 

 

―――夢でもみているような感覚の友奈は、上から3人の少女達を見下ろしていた。

 

桜色の勇者服に赤毛の少女と、青い勇者服に金髪の少女と、赤の勇者服に黒髪の少女。

3人は等間隔で横に並ぶと、覚悟を決めた面持ちで唱えた。

 

 

 

『来い――――』

『降りよ―――』

『来なさい――』

 

 

暴風が、火炎が、枯れ葉が少女達を包み―――――

 

 

『―――酒呑童子(しゅてんどうじ)!!』

『――――大天狗(だいてんぐ)!!』

『――――玉藻前(たまものまえ)!!』

 

 

 

勇者達は、本来人には無い筈の異形をその身に権現させていた。

 

 

桜色から一転、深紅の衣装を着て、甲冑の腕の部分のような巨大な補助アームを腕に纏い額に角を生やした赤毛の勇者が、低い声で唸る。

 

翼が生え、山伏装束を着て刀を持つ金髪の勇者が、翼の様子と下駄の履き心地を確かめる。

その体の端から、チリチリと火種が生まれては散っていた。

 

そして白無垢のような服装の登頂部に狐の耳と、尾てい骨の付近に九つに分かれた狐の尾を生やした黒髪の勇者は、複数の刃を無理矢理纏めたような歪な鎌を肩に担ぐ。

 

 

「もしかして……精霊を、直接体に―――!?」

 

友奈の推測は合っている。 少女達は、日本三大悪妖怪と呼ばれる強力な精霊を憑依させていた。

 

―――当然、良いことばかりではない。

 

 

身に余る力がその身を滅ぼすように、分不相応な悪妖怪の力は、確実に通常の精霊が生み出す穢れを凌駕している。

 

現に、苦し気で我慢した声色を口の端から漏らす鬼の勇者は呻き声を出している。 天狗の勇者を手で制して、狐の勇者が鎌を地面に刺してから、鬼の勇者の肩に手を置いて名を呼んだ。

 

 

『ッ……ウゥーー……フゥウーーーッ!!』

『……友奈さん、大丈夫。 落ち着いて。』

『フゥーーー! ウゥーー……フゥゥ……』

 

この光景を見ている自分と同じ名前である『友奈』と呼ばれた鬼の勇者は、狐の勇者が伸ばした尻尾に包まれた。

毛先で顔を撫でられ、少しすると落ち着いたのか鬼の勇者はリラックスした表情で呟く。

 

 

『ふぁあ……もふもふ……干した布団みたい……』

『……落ち着いた?』

『うん、落ち着いた。 ありがとうぐんちゃん!』

『……良いのよ。』

 

全身を狐の尾に包まれた鬼の勇者を慈愛の表情で見守る狐の勇者―――の尻尾を、天狗の勇者が羨ましそうに見ていた。

 

 

『なあ千景、私にも……』

『貴女は嫌。』

『な゛ーーー!?』

 

『友奈』に見せた穏和な表情に反して眉を潜める狐の勇者に、ばっさりと断られた天狗の勇者は膝を突いた。

分かりやすくショックを受けられては流石に良心が痛んだのか、狐の勇者は間を置いてから渋々と案を出した。

 

 

『…………まあ、若葉さんが最後まで生き残ったら、帰り際に少しだけ触らせてあげても良いわ。』

『本当か! 今の言葉、忘れるなよ?』

『うわ…………少しだけよ。』

 

あまりの熱意に若干引いている狐の勇者―――千景は、『友奈』をちらりと見てからぎこちなく笑みを浮かべた。

 

それを見ている友奈は、3人を見てふと思う。

 

 

「(この人達が……最初の勇者……なのかな)」

 

 

バリアも無ければ満開も無い。

 

それどころか精霊(妖怪)を体に入れると言う冒涜的な方法を取っている以上、彼女等が過去の人間と言うのは頭の回転が良いわけではない友奈でも容易く理解できた。

 

 

『む……来たか、バーテックス。』

『これを凌げば、私たちの勝ちなんだよね。』

『ええ……勝って帰りましょう、皆で。』

 

 

壁の奥から現れた9体のバーテックス。それはかつて友奈達が倒したことのある姿をしていて―――――

 

 

「…………そっか。」

 

 

―――――友奈は気づいた。

 

戦いは終わらない。 そもそもこれは過去だ。 もう終わっている出来事を見ているのだから、この先の出来事は確定してしまっている。

 

 

 

初代勇者は負けなかった。

 

だが勝てなかったのだ。

 

 

 

最初の勇者達は―――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

友奈には、分からなかった。 何故こんなになるまで自分の体を酷使できるのか。 何故、勝ち目の無い戦いに身を投じられたのか。

 

それが『過去を知っている第三者目線(小説を読む読者目線)』から来る意見だと言うことには、まだ気付かない。

 

 

そして、友奈の目の前で状況が変わった。

 

『っ―――地中を潜ったぞ!?』

『神樹様に向かったのは私がやる!!』

『なら、反射板と矢を撃つのとサソリは私が対応するわ。』

『わかった。 私が飛んで奥のバーテックスを対処する!』

 

 

『友奈』が地中を潜る―――後に魚座と名付けられるバーテックスを追い、千景は未来で畏怖の念を込めて『勇者キラー』と密かに呼ばれている3体のバーテックスに、9()()()分身して対応。

 

二人から引き離す為に1体に3人で向かい巨大な鎌を振って吹き飛ばし、若葉が翼をはためかせて高速で飛翔する。 若葉の通った軌道に火の粉が宇宙の星のように舞ったのは、皮肉かはたまた。

 

 

 

『地面に潜られたら何も出来ないよ…………そうだっ!』

 

文句を漏らしながら鬼の力をフルに使って接近する『友奈』は、一瞬考えてから地面を殴る。 畳をひっくり返すように地面の一部が根こそぎベロンとめくれ、魚座の体が露出した。

 

『捕まえた―――――ッ!!?』

 

衝撃と熱。 いつの間にか接近していた乙女座の爆撃をモロに食らい吹き飛んだ『友奈』を見ていた友奈の視界が、一度暗転した。

 

 

 

 

 

次に樹海が視界に入った時には、友奈の目の前で『友奈』が地に伏していた。 そんな『友奈』の思考が、唐突に流れ込む。

 

 

『神樹様……世界が……終わる……』

 

自分の無力さを噛み締めるように、額を地面に擦り付ける。

 

 

『私……なんで勇者なんてやってるんだろう。 勇者なんて痛いだけだよ、苦しいだけだよ、恐いだけだよ……』

 

それはちょうど、友奈が抱いていた感情で。

 

「貴女も―――恐かったんだね……」

 

 

初代勇者は決して強くはない。 カタログスペックだけで言えば、今の勇者の方が遥かに強い。

 

されど勇者であるからには、決定的にカタログスペックを凌駕する『力』が、確かに存在した。

 

ギリ、と歯が軋むほどに『噛み締める』と―――全身に力を込める。

 

 

『なんで―――? そんなの決まってる。』

 

それは精霊の力ではない。

 

 

『天の神なんかに、世界を壊させない為だよ。 皆を守りたいからだよ。 皆が―――大好きだからだよッ!!』

 

それは勇者システムではない。

 

 

『確かに人間には心が綺麗な人が居るし、汚い人だって居る。』

 

握り拳を作り、立ち上がり、跳躍する。

 

 

『でもそれ以上に誰かを思える人が居る!! 人と人が手をつなげば、無限に輪が広がるんだ!!』

 

 

『友奈』を『勇者』足らしめているのは―――『勇気』である。

 

天秤を模したバーテックスを()()()()()()()()()で粉々に粉砕し、乙女座を捉える。

 

 

『世界は壊させない! 人々は殺させない!! 大好きな皆を守るために、私は―――――■■友奈は勇者になったんだよ!!』

 

爆弾を左腕で防ぎ、接近した『友奈』の凄まじい速度の拳から放たれる右フックが、乙女座の体を()()()()

 

体を上下に分断された乙女座の間を跳んで、魚座に迫る。

 

 

『友奈』は『勇者』だから『勇気』が有るのではない。

 

『勇気』を持つからこそ、『友奈』は『勇者』なのだ。

 

 

魚座の尾のような部分を掴み、引き寄せ、弓のように引いた右の拳を叩き付ける。

 

 

 

『私は勇者ッ!!! 高嶋友奈だぁぁぁあああああアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!』

 

 

 

文字通りの鬼のような咆哮に、砲弾が着弾したようなとてつもない破壊音。

 

千景と若葉に任せろと啖呵を切った使命を、無事ではないが『友奈』は果たした。

 

 

魚座を打ち倒し力尽きた『友奈』は、神樹の傍に仰向けに倒れる。

 

手首や肘、肩が折れ、血に濡れて赤くなるなんて状態を通り越して、その両腕は真っ黒に染まっていた。

 

なんとか腕としての形を保てているだけで、その内部は骨も筋肉も神経も纏めてぐちゃぐちゃになっている。

 

 

後遺症が残るどころか切断を余儀無くさせる程の重体。 だが、『友奈』を病院に送る必要はない。

 

 

『神樹様……無事で良かった……』

 

 

不意に、『友奈』の体が足元から薄れて行く。

 

桜の花びらが舞い、酒呑童子が解除される。

 

血を吸ったように赤黒くなった右手の籠手を残して勇者服すら剥がされ、『友奈』は制服を着た姿に戻った。

 

 

『ありがとう……私に人としての姿を与えてくれて。 人間としての感情を、与えてくれて。』

 

まるで自分は人間ではないと言っているような言い分。

 

 

 

 

 

否。まるで、ではない。

 

 

 

 

 

高嶋友奈は、神樹の中の神の一柱だった。

 

形も無ければ意思も無い、『神樹の内の一つ』という概念しかなかった存在。 だからこそ、その心は無垢そのもので、神樹は勇者の一人としての形を与えられたのだ。

 

 

 

人類は守るに値するかの、裁定をするために。

 

 

 

 

 

『お陰で、私は人の心の醜さと、暖かさを知れた。 神樹様が懸念していた「守る価値があるか」の判断も、やっと出来ました。』

 

涙を滲ませ、その脳裏に6人の、勇者と巫女と……兄のように慕っていた男を思い描く。

 

 

『大丈夫。この世界は……人間たちは―――――充分に守る価値があります。』

 

 

『勇者の一人の高嶋友奈』から、『ただの一柱の神』に戻る感覚を覚えるが、『友奈』に恐怖は無かった。

 

 

『勝って帰る約束、守れなくてごめんね。 ヒナちゃん、若葉ちゃん、ぐんちゃん、タマちゃん、アンちゃん―――紅葉くん。』

 

首から下が、口元が、頭が、頬が、左目が消えて行き、最後に残った右目で神樹を見ながら、『高嶋友奈』はその心の中で言った。

 

 

 

 

 

『皆のこと、大好きだよ……っ!』

 

 

 

 

 

最初からそこに誰も居なかったかのように、『高嶋友奈』は完全に消滅する。

 

 

そして、ブレーカーを落としたように、呆然とする友奈の視界は黒に染まった。

 





※これはちゃんと結城友奈メインの話です。間違えてのわゆ編の話をコピペしちゃったとかそういうわけではありません。







拙者ぐんちゃんに皆の事を名前で呼ばせたい侍、義によって二次創作……致す!

尚、本作品の高嶋友奈の設定は公式に喧嘩売ってるレベルの独自設定ですのであしからず。文句は受け付けないが質問は受け付けます(天下無双)
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