エピローグシリーズ。 時系列は最終回以降、勇者の章未満。
短いです。
「見付けたぞオラァ!」
「うっげぇ……」
街の裏山に出来た小さいスペースで隠れるように―――――事実隠れて鍛練を行っていた夏凜は、自分を見つけた紅葉を見て少女のするべきではない顔をして表情を歪めていた。
「なんで毎回場所変えても見つけてくるのよあんたは……」
「なんで怒られるのが分かってて続けるんだよお前は……」
額に青筋を浮かべた紅葉に木刀を奪われ、手持ち無沙汰の夏凜はタオルで汗を拭う。
「スマホの電源切ってるのになんで分かるのよ、NARUKOの位置情報は使えないのに。」
「いや切るなよ危ないな。 あー……まあ、あれよ、持つべきものは
「……はあ?」
誤魔化すように言った紅葉は夏凜にバレないようにちらりと一本の木の枝を見る。 そこには蒼い身体のカラスが居て、呆れたように
木刀を2本纏めて片手で肩に担ぐと、紅葉はカラスと同じように呆れた顔で言う。
「お前が毎日毎日飽きずに脱け出すわリハビリそっちのけで自己流の鍛練してるわで、怒られるのお前じゃないんだからな。」
「あんな甘っちょろいリハビリなんてしてたら完治まで何ヵ月掛かると思ってんのよ。」
本来であれば、夏凜はまだ病院から出てはいけない筈なのだ。
全身からの流血、打撲、裂傷、骨折に――――右目の摘出。 勇者としての加護が回復力を上げていなければ、今頃全身にチューブを繋いで昏睡していても可笑しくなかった。
毎日脱け出されて監督不行き届きを指摘されては流石の紅葉もキレざるを得ない。 それはそ
「夏凜のストックしてる煮干し全部毎食の味噌汁の出汁にしてやるから覚悟しとけよ。」
「それだけはやめて」
「えぇ……」
本気の目で懇願してくる夏凜を、哀愁の漂う表情で見る紅葉。 そんなに嫌かと内心で呟く。 そんな夏凜の右目を覆う眼帯が視界に入った紅葉が、夏凜に聞いた。
「……そういや、片目だけでの鍛練はどうよ。」
「ん? ああ、まあまあね。 体が鈍ってるのを含めて全身ガタガタだけど一週間もあれば取り戻せそうだし。」
「流石完成型勇者だな。」
「当たり前でしょう?」
「呆れてるんだよ馬鹿。」
上記の通り、夏凜はまだ病院を出てはいけない。 そもそもレオ・バーテックスとの戦いが終わってからまだ二週間しか経っていないのだ。 その内の一週間は、治療に専念していた。
このままでは勇者の回復力を通り越してまた傷が開きかねない。 それ以前に、紅葉のように痛みに耐性が有るわけでもない現在の夏凜は確実に激痛を我慢している。
「帰るぞ。精密検査してもらったらまたベッドに逆戻りだからな。」
「うぇ、勘弁して欲しいわ。」
「次病院勝手に出たらベッドに縛り付けて良いって言ってあるからその辺の理解はしておくように。」
えー、と文句を漏らすも、持ち込んだ荷物を持たれては帰るしかない。 首にタオルを掛けて後ろを着いて行こうとした夏凜は―――そのまま紅葉の背中にもたれかかる。
顎を肩に置く形で脱力した夏凜の体重を一身に受けて、紅葉は一瞬呻く。 小柄とはいえ10キロの米袋が突然幾つも背中にのし掛かってきた、と考えれば仕方のないことだが。
「疲れた。」
「お馬鹿。」
軽い口調で言っているが、夏凜の口元は歪んでいた。だから言っただろと小声でぼやくと紅葉はため息を一つ、その後に自然な動きで夏凜を背負う。
「……最強の勇者だからって、俺たちはお前に何時でも強くあれなんて言わんぞ。」
「……それじゃ駄目なのよ。」
「はぁ?」
「私は……三ノ輪銀の端末を通してあの娘の人生を見た。 ぶっ倒れてた間の、走馬灯みたいな感じだったけどね。」
「―――ふぅん。」
夏凜から見て紅葉の顔は確認できない。 が、口調から思うことはあるのだと言うことはわかった。 夏凜は死ぬ前の銀と紅葉が不可思議な現象が原因で出会っているのも知っている。
―――紅葉の銀への淡い感情も知っているが、それは言わないことにした。
三ノ輪銀がどんな少女だったかも、どんな思いで戦っていたかも、夏凜は銀の視点で全てを見たのだ。
「あの娘は死にたくなかった。 でもそれ以上に、友達を守りたくて、皆で帰りたかった。 私にはあの娘の
紅葉は、本当に変わったなこいつ。と思った。 少なくとも出会った当時の夏凜に見せたら『誰だこいつは』と真顔で質問されそうなくらいに、夏凜は成長している。
「……そうかい。 お前も真面目っつーか、堅物と言うか。 いや律儀? 頑固?」
「おい。」
つらつらとボロクソに言われた夏凜は背負い直した動きで文句を言おうとした口を閉ざされ、ガクンと揺れて舌を噛みそうになった。
このまま首絞めてやろうかと考案していると、不意打ち気味に紅葉に言われる。
「―――あんまり無理しないでくれよ。」
「……。」
「時間は有限だが、休み休みで良いんだ。」
「…………。」
夏凜は答えない。 だが、首に回した腕に力を込める事で了承だと返した。 しかし焦ったような声で紅葉が突然言う。
「あ、やべっ、急がないとまた医者に叱られる。」
「ならしょうがないわ。 走って良いわよ。」
「…………傷開くぞ?」
「んな柔な体してないのよ、舐めないで。」
「……さいで。」
まあ、夏凜なら大丈夫でしょ。 そんな根拠もクソもない謎の理論で懸念を取り払い―――
「よーし。 んじゃ、先人号はっしーん。」
予備動作も無く走り出した。 声色に反して、アクセルを踏み込むように徐々に速度を上げて山道を駆け降りる。
数十分後、当然だが病院に戻った二人が纏めて仲良く医者に叱られたのは言うまでもない。
尚、案の定傷が開いて入院期間が伸びたのも当然だが、紅葉もまた風から受けた治りかけの傷が開いて病院に戻ると同時に痛みに悶えたのも別の話。 自業自得である。
◆
「そういえば最近見舞いに来る友奈の視線が妙に熱いんだけど心当たりない?」
「X-MENなんでしょ」
「いや『視線が熱い』って物理的にじゃないからね……?」
先人紅葉の章を終わらせたら一旦区切ってゆゆゆい番外の投稿・書き直しとか誕生日回投稿とか短編投稿とかする予定です。
勇者の章は不定期で書くつもりなのでご了承下さい。 あと心の準備しといてください。