【完結】先人紅葉は一般人である   作:兼六園

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よくここまで行ったなーというか、私自身熱しやすく冷めやすい飽き性なので、40話以上書くほどの熱量があるとは思わなかった。



エピローグ/乃木園子

 

 

 

 

英霊之碑。

 

 

歴代の勇者・巫女の名を連ねた石碑を置いた、冷たい墓。 そこに遺骨は無く、そこに思いやりは無い。

 

ただその人が居たのだと言う記録の為だけに、石碑はある。

 

 

そんな場所に、先人紅葉は訪れていた。 眼前にあるのは―――三ノ輪銀の名が刻まれた石碑。

 

 

「2年振りだな、銀。」

 

当然、返答はない。

 

 

「……お前からしたら、ほんのちょっとの出会いだったんだよなぁ。 俺からすれば忘れられない運命の出会いだったけどさ。」

 

石碑の高さに合わせて屈む紅葉の手には、特に何も握られていない。 ほぼ他人の自分から貰うよりは、美森辺りが花束でも手向ける方が銀も嬉しいだろうと、そう考えていた。

 

 

「ずーっと、お前の残滓(後ろ姿)を追いかけてた気がするよ。」

 

あの日あの瞬間の出会いで、紅葉は銀の中にある強烈な光に魅せられていた。 まるで命と言うロウソクを燃やして輝かせているかのような、(紅葉)を引き寄せる蠱惑的な心の光に。

 

 

―――――だが、銀は死んだ。

 

 

あの時の出会いを歌野と友奈は白昼夢として忘れていたが、本来はそれが正しいのだ。 しかし、過去の死人(自分)の魂を利用して現在(いま)を生きているせいで、紅葉はそれを忘れられなかった。

 

忘れなければならない事を想い続けていたのが、どれだけの負担かは計り知れない。

 

それでも紅葉は、受け入れて前を向くことを決意した。

 

 

「銀…………俺はお前が好きだったし、あの一瞬で一目惚れだった。 でも、それはここまでだ。」

 

穏やかな表情で、そっとワイシャツの胸ポケットに挟んである牡丹の髪留めに触れる。

 

「いつまでも死人を想ってるのは流石にキモいし、今を生きている美森達にも申し訳ないからな。 まあ、お前を好きでいるのは続けるけど……残滓を追いかけるのは今日で終わりにするよ。」

 

 

そう言って立ち上がる紅葉のその顔は、晴れ晴れとしている。 紅葉は死者の為に生きることはやめたのだった。

 

一つため息をついて、紅葉は続ける。

 

 

死者(過去)じゃなく、生者(未来)の為に生きる。 何事にも報いを……だったか? なあ? わぁ、かぁ、ばぁ~?」

「なんだ、気づいていたのか。」

 

振り返った紅葉の視界に、歴代勇者が描かれた絵の入ったショーケースに触れている若葉の姿が入った。

 

紅葉の額には歌野がキレてる時と同等かそれ以上の青筋が浮かんでいる。

 

 

「盗み聞きとは良い趣味してるねぇ! 道理でねぇ!?」

「はっはっは、いつも散々やりたい放題されてるからな。 これぐらい良いだろう?」

 

紅葉の一挙一動を見る若葉の顔はニヤついていた。 腐れ縁としての情けが無ければ、とっくに殴り飛ばされている事は当人が良く分かっている。

 

 

「焼き鳥にするぞゴラ」

「まったく……心が狭いとモテないぞ」

「元既婚者に言う台詞がそれかよ」

 

バタバタと走り回って逃げる若葉を捕まえて、コブラツイストの体勢に入る紅葉。 一度本気で締め上げてやろうかと考えていると、ふと若葉が焦った様子で言う。

 

 

「―――む、不味い!」

「あ? どうした?」

「私の姿をお前や結城以外に見られるわけにはいかん。」

「てめっ、逃げんじゃねえ…………くそ。」

 

カラスの姿にその身を戻した若葉は、バレルロールでその場から離脱した。 器用な奴だな……と言った紅葉の背後から、誰かの顔が覗いてきた。

 

 

 

「なにが器用なのかな~?」

「ヴァッ」

 

驚く紅葉の肩に、声の主の顎が乗る。

 

 

「ねーねーなにが器用なの~?」

「…………内緒。」

「ぶ~。」

 

ミルクティーのような薄い髪色をした天真爛漫な少女、乃木園子。 この娘は、西暦の勇者乃木若葉の、正真正銘の子孫である。

 

今の若葉がこんなところで見られるわけにはいかない人物ナンバーワンなのは確実だ。

 

「……そりゃ不味いわな。」

「ん~?」

「なんでもねーよ。」

 

髪型を崩す勢いでぐしゃぐしゃと撫で回す。 嫌ではないらしく、犬だったらさぞかし尻尾を振り回していたことだろう。 紅葉は園子に大型犬の姿を幻視する。

 

「わーわーわー!」

「んで、お前は何しに来たんだよ。」

「……んーと、お墓参りだよ~?」

「銀のか。」

「正解~!」

 

くるんとスカートを翻し、銀の名前の刻まれた石碑の前に座る。

 

 

「やっほ~ミノさん、2年振り~。」

 

きっと銀の石碑が話せたら、『それさっきも聞いたよ』なんて言って笑っただろうか。

 

 

「ずっと待たせてて、ごめんね~。 今度はきっと、わっしーと一緒に来るからね~。」

 

そう言うと園子はアツモリソウ(あなたを忘れない)アフリカンマリーゴールド(逆境を乗り越えて生きる)ガーデニア(とても幸せです)クロッカス(青春の喜び)といった、多種多様の花を纏めた花束を置いた。

 

銀との思い出は忘れないが、それでも前を向いて生きる。 そんな決意表明だと紅葉は思う。 考えることが一緒なのは、愛ゆえになのだろう。

 

 

「園子は大赦を怨んだりしないのか?」

「……しないよ~、怒ってるけど、だって仕方がないんだもん。」

「ま、そうだな。」

 

 

大赦が勇者を犠牲にするのは、巫女を監禁して管理するのは、全ては世界を守るため。 そう。 仕方がないのだ。

 

だから風が大赦を潰そうとしたのも仕方がないし、美森が壁を破壊したのも仕方がないのだ。 誰も悪くない。 だが正しくなかった。

 

 

ただ、それだけ。

 

 

「所でさぁ、今の俺、実はそこそこ大赦の上の方に立てる立場の人間なんだよね。」

「そうなんだ~?」

 

「そうなんだよねぇ、乃木と上里のツートップも元々は俺の家も交えたスリートップの予定だったんだけど、上に立つ気が無かったから本気で拒否して退いただけなのよ。」

 

 

言葉の真意がわからない。 園子はそう思い、首を傾げる。

 

「どういう意味なの?」

「今の大赦は無駄が多すぎる。 俺たちの、誰が、いつ、どこで、勇者を乾電池みたいに使えなんて言ったよ。ふざけてんのか?」

「それは…………。」

 

言葉を句切る度に、声色が重く低くなる。 紅葉が本気で怒っていることが容易にわかった。

 

「……怒ってる?」

「わたくし、結構ぶちギレてます。 そんなわけで大赦にカチコミしようと思うんだけど一緒にやらない?」

「…………ん~~~?」

 

会話がドッジボール過ぎる。天然が入ってる園子は、自分の事を棚にあげて紅葉を見た。

 

 

「まず大赦にはこれ以上の勇者への情報秘匿をやめさせる。 元々、西暦以降の勇者ってのは選択制のつもりだったんだよ。 昔の大社は俺たちが居たから今より比較的まともだったんだけどな。」

 

紅葉は昔に思いを馳せた。 そして、今の大赦の不甲斐なさに苛立ちを隠せないでいる。

 

「もーみんって本当に西暦の人だったんだね。」

「お前は神樹から伝えられてたんだろ、あれが不必要な嘘つくわけないじゃん。」

「そうだけど~。」

 

うーん、と言い、園子は考える。

 

紅葉に着いていくか否か。

 

 

「……うん、着いてっていい?」

「おう。 よし、んじゃ行くかぁ。」

 

ショーケースに寄り掛かっていた紅葉は、園子の横を通って階段を上る。

 

なんか楽しそうだなぁ、なんて、園子は紅葉を見ながら思う。

 

 

「ん~~~……まあいっか~、楽しいのが一番だよね~。」

「あ、お前まだリハビリ中か? 失ったパーツ戻ったのついこの間だろ。」

「ふっふーん、乃木さん家の園子さんを舐めたらいかんぜよ~?」

「乃木家はどいつもこいつも化物か……」

 

 

呆れたように、紅葉はそう言った。

 





銀と紅葉はゆゆゆい時空でくっ付ける予定なんだけど、いつその話を書くかで悩んでる。 誕生日回じゃ暫く後になるし今は勇者の章と誕生日回で予定が塞がってるし。 まあ追々ですかねぇ。

あと夏凜の誕生日が迫っているのだ……つれぇわ……(クソ雑魚文章力)




原作では西暦以降の戦死者は銀が初めてなんだよね、確か。 だから銀と西暦勇者以外の石碑の人たちは天寿を全うした人で、あとは赤嶺と弥勒の家が止めた大規模テロで犠牲になったのかな?

……と思ってる。 でも何人かは勇者の使命から逃げようとして殺されたのを隠蔽されてそうだし、この作品時空の場合西暦の大社はともかく神世紀の大赦なら間違いなくやってる。
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